俺の名前は星野
香ばしい名前だが、名付けた親のアイすら結局はアクアと呼んでおり気持ちとしてはアクアが本名だ。
双子として生まれて生まれる前からアイドルであるB小町のアイの
母親として毎日接していてもその気持は全く変わらない。
相変わらずアイは若々しくかわいいくて美人で最高の推しである。
推しが俺を認識して微笑んでくれる日々はアイニウムに満ちており人生の満足度を100%以上に爆上げさせてしまう。
アイドルの公表されていない子供ということで懸念はあったが、今はアイドルも引退済みでマルチタレントの子供ということで心理的に窮屈な制限が小さくなってきたこともあり、普通に学校に通い普通に子供をしている。新しい人生は順調である。
妹も転生者でアイのファンのため、俺達兄妹はアイの出演するドラマや映画・番組なんかは必ず見ていた。
今見ている医療ドラマもその一つだ。
ちょい役ではあるらしいが、アイドルとして出演しているらしくライブシーンもあるよとアイは語っていたので期待は大である。
アイの躍進はそりゃ嬉しいがやはりアイドルとしてのアイも見れるなら何度でもみたいのは本音だからだ。
第一話は……いきなりライブシーンだ!? 舞台の上にいるのは……当然、アイだ!!
予算のためかB小町の他のメンバーはおらず、知らないただのバックダンサーに差し替わっている。
だが、アイドル衣装を身にまとい、歌っている彼女は確かにアイ!!
アイドルのアイだ!!!
ああ、満たされる……!
推しの輝く姿は健康にいい。がんも治る。
医療業界も認めている。
『あ、アイーーーー!! FUーー!』
感涙の涙に顔をぐちゃぐちゃにしながらサイリウムを振ってヲタ芸をする男が画面に現れる。
きたねえ面をだすな! アイを映せ! アイを!!
しかし、どうやら彼こそが主役の医者らしい。
なんだコイツ。
医者のくせにアイを推しているのか。見る目はあると褒めてやろう。
だが、周りの迷惑を考えずにいきなりヲタ芸をしだすとかファン失格だな。こいつ。
キャラ付けなのだろうが、推すなら正しく推してほしい。
視聴者が真似たらどうしてくれるんだこのカス!
……なんだか妙に気になる男だ。つい罵倒の言葉が浮かぶ。
誰かに似ているような気がしないでもない。知り合いに似た医者でもいただろうか。
思い出せない。
こんな存在感のある男を忘れるはずがないので気のせいか。
ライブのシーンから病院に舞台が移る。
そこにいたのは白衣の上にハッピを着たオタ丸出しの医者だった。
「司郎研修医、推しは家でだけでお願いします」
「美しいものを見ると健康にいいんですよ! 医者としての見解です! 特にB小町のアイはおすすめです!」
お、駄目オタのくせにいいこと言うじゃないか。
推せ、もっと推せ、お前ら全員推しになれ。視聴者も全員今すぐアイのファンになれ。
というかさっきはぐちゃぐちゃ過ぎて気づかなかったが、こいつ無駄にイケメンだな。
あの顔が思い浮かんで落差に逆に笑える感じあるが。
「はあ、患者さんも仲良く付き合ってくれて嬉しいと評判はいいから文句はいいませんけど、研修医の身で勝手に医者の見解を述べないでください」
「はい」
「患者の病室でサボるのも駄目です」
「はい」
働け。
なに患者の病室でサボっているんだ。
いるんだよなー、こういうサボるのが上手なやつ。
俺みたいにちゃんとやってほしいところである。
研修医なんて迷惑かけて学ばさせてもらう立場なんだから努力を惜しんではいけない立場だ。サボりなんてもっての外である。
「でも、患者のことを見て回るのも仕事のうちでは!?」
「言い訳しない! 第一そういうのは医者になってから言いなさい。いえ、なってからも駄目ですけど」
「え、えーと! 見回り行ってきます!」
俺もよく看護師さんにどやされたな。ちょっとだけシンパシーを感じなくもない。
ちょっとだけだけど。
こいつに比べると俺はだいぶ真面目な医者だったなあ。
さりなちゃんと出会ったのもそういえば研修生のときか。懐かしいなあ。
トボトボしながら病院を歩く……相当叱られたのが堪えたようだ。
と思ったら途中からスキップしながら歩き始めた。
こいつ全くこりてないぞ。
駄目医者め、働け!!
「マリヤちゃん、来たよ」
「シローセンセ!」
そこにいたのは久しぶりに見る"10秒で泣ける天才子役"の有馬かなだった。
最近は舞台で活躍していると聞いていたがまた映像系に戻ってきてたのか。
どことなく女の子らしくなっており、もう子役って感じじゃないなと思った。
うーん、相変わらず演技のレベルが高い。めちゃくちゃ自然なのに存在感がある。
さすが天才だ。
最初の出演作で彼女は俺に負けたと言っていたが、こっちは演じていないし、転生しての自然の持ち味だった。
向こうは本物の子供で、なのにとても不気味に演じきっていた。
年齢という経験で発揮される力ではなくこれこそ才能なのだと俺は役者としての才能の差を感じさせられたんだ。
以降は出演はちょい役だけでどちらかと言えば演出や監督なんかの手伝いをやっている。
そのことを後悔はしていないが、やはり差をさらにつけられた感があるな。
やはり彼女もまたアイと同じ側のもっている人間か。
……しかし、まじでルビーより賢そうだなあ……。
彼女の演じる力の高さのせいか、医者の頭が勝手に病室や彼女の動作、態度から症状を測ってしまう。
職業病だな……。
いくつか脳内に候補が上がるが、どうやら彼女は脳腫瘍で倒れて運び込まれたらしい。
学校の部活中に倒れて運び込まれたらしい。
症状もあってなんだかさりなちゃんを思い出させる。
彼女は退形成性星細胞腫だったからな。
原発性脳腫瘍はがんのようなステージ分類はないが、悪性度という基準があって退形成性星細胞腫悪性度が3だ。
5年後生存率が4割くらいの重い状態である。
元気よく駆け寄ってくるがふらつきやしびれなんかも感じているようだ。
さりなちゃんもそうだった。……重いのかもしれない。
脳の腫瘍で放射線治療か切除で治療するが、放射線を照射した部位は皮膚の炎症を起こし、脱毛することがある。
彼女が季節感とあわないニット帽で頭すべてを隠しているのもそういうことだろう。
さりなちゃんもかわいい帽子を常に被っていた。
うまく治療ができていてあとは退院を待つだけ、ということならいいんだが。
「マリヤちゃんこれライブのお土産!」
「わっ、これほしいって言ったやつだ! 個数限定の! ありがとうセンセ!」
「なに、推しに出会えたのもマリヤちゃんのおかげだからね」
「5歳の頃からファンだからね!」
おー、アイ復帰後割とすぐにファンになった設定なのかな? いやドラマなんだし現実と重ねる必要はないか?
しかしグッズは多分そのくらいの時期のものだ。
しかし、むむ、見る目のある子だ。
演じてる有馬かなはアイをバカにしてたし見る目ないけどな。
うーん、なんだかだんだんさりなちゃんに重ねてきてしまったなァ……。
腫瘍は色々と治療法があるとは言え、研修医で最初のヒロイン? というのもよろしくない。
これ、医者として頑張る理由付けのシーンだよな。
彼女を支えることができて医者になりたいという気持ちを強める話ならいいんだが……。
だとしたら彼は外科医になるのかな。
俺もそうしたかった。
さりなちゃんを治せるような医者になりたかった。
見てるだけの励ますだけの何もできない俺じゃなくて。
でも祖母からの期待を裏切ることができなかった。
だから母親と同じ産婦人科医になったんだ。
さりなちゃんにある思い分、自らが選んだ道にも思うところが残っている。
いや……(思い出せ吾郎。お前が産婦人科医になったから、アイのことを助けることができたんだって)
そうだ、俺は推しを助けることができたんだ。
外科医になれなかったことを悔やむまい。
あのヘボ研修医はこの思いを受け取ってくれるだろうか。
センセーは自分のことだと思っていない様子。