黒川あかねにカナちゃんとの野外行為を目撃されちゃった事件のあと、結局あかね本人を取り込む形で口封じすることになってしまい、『今後は外でするのはやめようね』ということになった。
まあ、そのおかげかカナちゃんとあかねの仲は割と深まった? ようである。
何されても『かまってくれて嬉しい!』というような態度はまさに犬で、尻尾が全開で振られている様子にカナちゃん自身だんだんほだされているようで、一緒に稽古を受けるシーンも増えてきた。
ただ、不思議なことに舞台の上では逆にバチバチとぶつかり合うシーンが増えている。
役柄では今までは逆に仲が良かったのに不思議だ。
大輝が陽東高校の芸能科に入学した頃、業界内でちょっとしたニュースが流れた。
『新生B小町JIFで誕生する!?』
正体が不明な形で宣伝は始まったが、わかる人間にはわかるだろう。
そう、ルビーだ。
そういえば彼女は12歳になっている。
アイがアイドルを始めた年だ。
アイのディープなファンのルビーなら自分もアイドルになるべき年齢だと行動を起こしてもおかしくはないかもしれない。
なにせ今はアイも生きているし、斎藤社長も社長のままだ。
副社長は原作と同じかは定かではないがWEB方面に手を伸ばしていて結果を出している。
その方面の経験はアイドル分野にも生かされているようで事務所が大きくなっている。
ただ、相変わらず事務所自体はアイドルメインだ。
新生B小町のWEBサイトを見つけて見ると、ちょうどメンバーの姿が正式に発表されていた。
メンバーはルビーをセンターに寿みなみ、
寿みなみはたしかルビーと同級生のグラビアアイドルだったか。
たしかに12歳の段階ですでに結構大きい。
吉住未実は……なんだったか。どこかで見た気がするが、思い出せない。
二人と比べても低身長で猫のフードを被っている風変わりのアイドル衣装だった。
名前で検索をかけると彼女主導でメンバーの配信を投稿している。
どうやらユーチューブに強いらしい。
MEM枠、いや、カナちゃん枠かもしれない。
心配していたが、皆顔がいい。
それだけで売れるものではないだろうが、なんというかアイドルグループっぽい。
それ以上に驚いたことがある。
「ルビー歌上手いじゃん」
他二人もだが、特にだ。
動きのキレも一人レベルが高い。
アイが死ななかったことで彼女がルビーを直接教えたのだろう。
原作ではアクアもミヤコさんもアイが死んだことでルビーをアイドルにすることに難色を示していたので、アイドルになるための障害は障害のまま放置されていた。
そのため、本人の好きなダンスだけの練習をしており、苦手な歌はそのまんまだった。
だが、アイからすれば『アイドル? 応援するよ、さあ練習しよう!』となるだろうから当然と言えるだろうか。
あのアイに何年も教えられ育てられたのであればこのレベルになるのも仕方がない。
しかし、元より可能性はなかったと言えるが、カナちゃんとMEMはB小町でアイドルをやることはなさそうだ。
「ま、妹だし応援しなきゃな」
新生B小町のファーストライブになるチケットを購入した。
ふっ、コレで俺も古参のファンか。
**
「変装も完璧だ! さっ、今日はライブを楽しむとするか」
変装メガネもかけている。少年探偵もメガネをかければバレない。メガネとは完璧な変装道具である。
ただ、鏡を見るとちょっとオタ医者シローっぽい……というかシローと思われないように少し外したせいで、雨宮吾郎っぽくなってしまったかもしれない。
「実写の際はゴロー先生役の仕事貰えそうだな」
まあ、推しの子の実写なんてこの世界では現実なのだから行われるはずがないのだが。
しかし。
ゴロースタイルになってわかったことがある。
この姿だと自分じゃない気持ちになるのでオタ活をしてもあまり恥ずかしくない。
両手にルビーちゃんの色の赤色ライトを装着して俺は出陣した。
**
「L・O・V・E! ルビーちゃん!! 愛してるー! FOOOO!! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ! ウリャ! オイ!」
新生一発目ということでどちらかといえばアイ人気・旧B小町人気できているお客の中で、俺はおのれのソウルを全力で打ち出した。
まだ新生B小町のファンがいない中、俺こそがルビーちゃんファンファーストNOである。
欲望を開放しろ!
一番いい席でヲタ芸を披露する。
ルビーちゃん!! 世界一愛してるZEー!!
全力のオタ芸はステージからも見えていたようで彼女はこちらを驚くように見るとそっと笑ってから一番星のような輝く瞳で歌い始めた。
やったー! いま絶対俺のこと見てくれた!! 絶対俺だ俺!
周りも同じことを言っているが絶対俺だね。間違いないよ。
しかし、さすがはアイドルが題材の世界である。
アイドルを推すってめちゃくちゃ気持ちがいい。
アイを応援はしていたが、あくまで推してはいなかったのでこれがこの世界での初推しと言えるだろうか。
これはハマってしまうのも仕方がないなー。
グッズを買い込みたいが、カナちゃんにバレると腹を蹴られそうだ。
ごまかせる程度に欲望はセーブしないといけないだろう。
ツレー。
彼女持ち、妻持ちのアイドルファンってどうやってこの気持ちを受け止めているんだろうか。
今度、机に隠しスペース作ってそこに格納するようにしよう。
なんにせよ、ルビーのデビューは最高の形で終わり──
それが、新生B小町のルビー伝説の始まりだった。
**
「いやー、やるじゃねーか。まさか本番で上がるタイプだったとはな」
「えへへ。私もびっくりしちゃった」
「B小町の名前を継いでいる以上、評価もアイに引っ張られるだろうからプラスも大きいけどマイナスも大きかったからな。今のお前なら昔のB小町じゃなくて今のB小町を見てくれるさ」
ステージをやりきった高揚感のまま、一緒に付き添ってくれた斎藤社長に笑い返す。
あそこでの自分は本当に何かが取り憑いたみたいに万能感があった。
なんでもできる、なんでもなれる。
誰よりも輝ける。
私の中で思いが溢れに溢れて止まらなかった。
スポットライトとたくさんのお客さんのせいなのかな。不思議。
いや、それより……
「せんせが見てくれてたからかな」
「ん? なんだって?」
「ううん? なんでもなーい」
舞台からはセンセの姿が見えた。
すごいなあ、アイドルとして有名になって行方不明になったセンセに見つけてもらおうとしたのに、誰よりも早く見つけてくれるんだもん。
せんせ、私も愛してるよ。
せんせ、私アイドルになったよ。
愛を知った一番星と同じ領域に最初のライブでルビーは到達しつつあった。
大変なのは振り回されることになる周りである。
「いや~、これはアイドルではルビーに勝てへんなー」
「い、いいんじゃない? 斎藤社長がちゃんとグラビアとユーチューバーってそれぞれの動線用意してくれるって言ってたし。そ、それより、たくさんの人が私を見てて……めっちゃヤムー! お家帰りたい!」
「これから販促やよー。ファン作らななんやから、いっぱい握手せんとな」
「知らない人と握手したくないー」
「困ったなー」
未実を慰めていたみなみは輝くルビーを見る。
世代の女の子なら誰もが憧れるアイに似た輝きをもつルビー。
顔合わせをした時は可愛らしい普通の女の子で友達には良くてもアイドルとしてはどうなのかと思ったことがないでもなかった。
今ではその印象は粉々だ。
この子こそアイドルになるために生まれてきたんだろう。
新生としては全く問題のないスタートを切れたようにも思えるが、
「……しかし、あれ、恋してる目っちゅーんやろか? スキャンダルには気をつけんとなあ……ミヤコさんに相談しよ」
アイドルとしての輝きに匹敵するほどに女の子として輝いているルビーを見てみなみはため息をついた。
短い付き合いだが多分社長は相談相手にならない。
ルビー本人に確認しに走って『ヒ・ミ・ツ♡』の一言でごまかされる姿が頭に浮かぶ。
結構困ったアイドルメイトになりそうだ。
「でもアイドルめっちゃ楽しそうやな」
みなみもまたアイドルに憧れる女の子なのだ。
ルビーせんせ(?)が初ライブに見に来てくれていて覚醒するの巻。
そいつ本人じゃないんですよ……