推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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071 お兄ちゃんそういうのってキモいよ

 

 最近、妹の様子がおかしい。

 

 B小町になって夢を叶えたルビーはさすがはアイの娘である。

 ファーストライブで大成功を収めてからはまさに破竹の勢いである。

 早くもテレビからもスポットライトが当たりだし、CMにもグループで出た。

 音楽系の番組以外にも呼ばれるシーンも出てきて大躍進と言えるだろう。

 

 役者としても監督手伝いとしても下積みをやっている俺としてはちょっと追い越された感がないでもないが、なんにせよ妹の夢が叶って嬉しいことだ。

 

 問題はなかった。

 アイからの一言がなければ。

 

「ルビーはすごいなー! 私結構足踏みしちゃった気持ちあるんだけどバーンといってるよね」

「ドームライブしたアイドルが言ってる」

「まあね! でもルビーは私以上になるよ。うん。いい恋もしてるみたいだしさあ。私の娘だから変なのにひっかかったりしないかなーって思ってたからね」

「え? 濃い? 鯉、恋!? ルビーが? え? だれに?」

「アクアは知ってそうかなって思ってたんだけど相談されてないんだ?」

 

 ぐさりと槍がアクアの心に刺さった。

 なにせルビーはアクアの双子。さらに言えば男だ。

 男心の相談ならいつだってしてもらっていいのに。

 

「ところでアイ、失敗したっていう男についてだけど……」

「おーっと、次の仕事に出発する時間だー!」

「ったく。行ってらっしゃい」

 

 これである。

 アクアは前世産婦人科医なので、さすがのアイでも一人で出産できないのはわかっている。

 男がいて、……推しのアイドルに男がいたことを認めようとすると胸が苦しくなるし吐きそうになるが、男がいて、恋仲になって子供を生んでいるわけである。

 いつものらりくらりと相手については避けられているが、やっぱり自慢できる相手ではないらしい。

 

「同じ学校の男じゃないな」

 

 ルビーはクラスの中心人物である。アイドルになったことでさらに人気が出ている。

 

 恋愛禁止だとわかりつつもラブレターが靴箱にいくつも入っている。

 ルビーが恋した相手を前にして全く態度に現れないなんてことができるはずがない。そしてそんな態度を見せれば学校で噂にならないはずがなかった。

 まあ、そもそもルビーに好意があると分かれば誰だってルビーが告白する前に告白してしまうだろう。

 

 彼氏ができた様子は流石にない。できていれば仕事外の外出自体が相当増加するはずだし家族がわからないはずがない。

 

「じゃあ、芸能界くらいか」

 

 友達やクラスメイトを除けば結論はそうなる。

 だが、そうなると逆にコネのないアクアには歯が立たなくなる。

 

 監督に相談してみる手はあるが、あの監督がプライベートの行動を把握しているかといえば……期待薄だ。

 かといって社長にお宅のアイドル恋してるっぽいですよと相談するのはアイのことを考えると誰が相手であろうが、引き離す一択になるだろうし。

 

 いや、俺にはもう一つルビーについて頼りになるツテがあるのを思い出した。

 

 **

 

「うっわ、アクア兄さんのシュークリームめっちゃおいしいんやけど」

「あ、アクアさん、お菓子なんて作るんですね」

「まあな。ほら、できたてだ。コーヒーも入れたぞ」

「至れり尽くせりやん!」

 

 相手は新B小町だ。

 特に精神的に転びやすい吉住 未実(よしずみ みみ)の面倒を見てくれている寿みなみならルビーからも相談をされているかも知れない。

 

「で、ルビーの恋の相手に心当たりないか?」

 

 と聞き出した瞬間この場の空気が冷めたのを感じる。

 二人は半分ほど食べたシュークリームとアクアを交互に眺めてくる。

 

「シュークリーム食べてからいいはりましたね」

「これ賄賂だった!」

「べ、べべべ、べつにそういうわけじゃない。ただの世間話の1つや2つ、お茶飲みながらするだろ?」

 

 全身で言い訳をおこない宥めすかすと話す気にようやくなってくれたらしい。

 

「んまー、アクア兄さんなら悪いことはせえへんとおもいますけど。どーもファーストライブに来てくれてはったみたいやね」

「ライブに」

「多分年上」

「流石にどんな人かはわかりませんけど、見てた方向的にいい席だから、少なくても大学生くらいには年離れてるんやないかなー」

 

 好みの話と合わせるとだいたいそんな感じやしと返ってくる。

 だれだ。一体相手は誰だ。

 

 ていうか、年上のファンと一目惚れしたのか!? ファーストライブで? 

 握手かなんかのときに惚れたってこと? 

 くそお、もっと近くで見ておけばよかった! 

 

「ていうか、姫川大輝なんじゃないですか? 話題作かアイさんが出てくるドラマしか見ないルビーがそのくらいから他のドラマでも姫川大輝の感想よくいうようになりましたし?」

「言ってもうた」

 

 みなみはヒントは出しても名前は言う気がなかったらしい。

 逆に未実はまったくきにせずただの茶飲み話のノリで話した。

 助かるが、口が軽そうで危ないかも知れない。

 コンプライアンスについての勉強会や講義をするようにミヤコさんに言っておくべきだろうか。

 

「姫川大輝か」

 

 確かにアイの出るドラマやテレビ番組は一緒に見ているが、女子中学生の会話のためにもとルビーは色々ドラマ見ているし、全部に付き合っているわけでもないので、そこに偏りがあるなんて知らなかった。

 

 思い起こせば確かに。スマホでルビーのアカウントを調べると姫川大輝のアカウントはもちろん、ファンクラブや関係ドラマのアカウントのフォローが増えている。

 他のドラマ出演者についてはそういう事が起こっていないので、確かに彼だけであるのがわかる。

 

 かくなる上はルビーと話すしかない。

 次の仕事とそれに合わせた訓練から帰ってきたルビーの家に迎え入れると早速話題を振ってみる。

 

「……もしかして好きな人ができたのか?」

「は? いきなりなに?」

「い、いや、なんかそんな感じがしたからさ」

「ふーん。お兄ちゃんの勘違いじゃない?」

 

 やれやれそんなことかと荷物を放り投げ、ドスンとソファーに腰を下ろしてテレビをつけるルビー。

 怪しい様子は見えないような態度だった。

 

 だが、とても怪しい。

 

 話題を振って一瞬肩がピクリと揺れたのも、アイドルの仕事を自慢してこないことも、遮るようにつけられたテレビ番組も。

 ルビーが見る番組ではないのにチャンネルを変えずにいるのも、変えたら話が続くかも知れないからだと思うと納得がいく。

 

 まじか。恋してるのか。

 

「なあ、相手はだれなんだよ」

「は? 今勘違いってことになったじゃん」

「なってない。してる相手がいるのはわかっている。姫川大輝だろ」

「違うって言ってるじゃん!」

 

 嘘とホントが混じっているような違うという言葉に俺は確信した。

 まだ本人に自覚がないのかも知れない。

 だが自覚がないだけで本物なのは違いない。

 そういう何かが見えた気がする。

 

「けど、相手は芸能人だぞ。アイドルのお前がその、付き合おうってなったらそれこそスキャンダルだ。注目度も大きい。そうそう隠せるような相手じゃない」

「なんで話を進めてるの?」

「証拠が必要か? お前のアカウントでもあいつをフォローしてるし、あいつ以外には特に増えてないだろ。お前の周りにも聞いてみたけど、俺は確信してるぞ。お前、姫川大輝に恋してるだろ」

 

 今までの不快です、めんどくさいですという隠す表情から一転してカッと恥ずかしさが湧き上がったようで真っ赤に頬が染まる。

 

「きもっ!」

「い、いや、俺はお前のことを心配して……」

「だからって妹の恋の相手を知りたいってコソコソ探したりする!? そういうののがいっちゃんキモいんだからねっ!」

 

 があん……俺は心がパシャンと砕け落ちる音を聞いた。

 ひ、ひどすぎるだろ。アイドルやってる妹の恋事情を心配したってだけなのに。

 

「い、いや、お前はアイドルなんだからな、だからその、恋愛は……」

「うるさい! してないって言ったじゃん!! お兄ちゃんなんてだいっきらい!!」

 

 ルビーは床のバッグを拾い上げると俺に投げつけてきた。

 そこそこ色々入っているカバンは重く、なかなかの衝撃を受ける。

 

「ぐえっ」

「ば──ーかっ!」

 

 そう言ってドシドシ歩いて部屋に戻っていってしまう。

 強く閉じられるドアの音が響いた。

 

 俺はといえばバッグから飛び出たルビーのトレーニングウェアや汗ばんだ着替えにまみれている。あいつの訓練量の証だが非常に汗臭い。

 

「アクアなにやってるの? 見た目が非常に犯罪的よ?」

 

 いつの間にかリビングにやってきたミヤコさんがスマホを片手にたっていた。

 容赦なくカシャッと写真が撮られる。

 おいなに撮ってるんだその写真絶対誰にも見せるなよ。

 

 アイの子どもであることを隠している関係で、ミヤコさんや社長とは二世帯住宅のような形で一緒に暮らしている。

 

 あくまで俺とルビーは社長の子供ということになっているからだ。

 アイとは間接的な姉弟であり、親に遠慮する形で三人で住んでいる、という感じになっている。

 事務所ともつながってるので結構な広さではあるが、こういう油断できないところもある。

 

「いや、その、ルビーを怒らせてしまって」

「ふうん。珍しいわね。でもどうせあなたが無神経に突っついたとかでしょ? ちゃんと謝っておくのよ」

「ぐっ、まあ、そうするよ」

 

 ルビー側の気持ちはまあわかったと言ってもいいだろう。

 それに相手は人気イケメン俳優だ。

 アイドルがそうそうつながりを持てる相手ではない。

 

 片思いならアイドルがしていても問題ない。

 むしろ届かない相手への恋なら無害と言ってもいいかもしれない。

 

「……俺ももう少し芸能活動ちゃんとやるべきか……」

 

 とはいえ、本当に本気なら応援してやりたい気持ちもある。

 流石にアイドルを卒業してからやれよと言うことになるだろうが……。

 それに4つも年齢に差がある。高校生からすれば中学生なんて子どもすぎる女の子なんて相手にもしないだろう。ファンの一人を超えたりはしないはずだ。

 いや、どうだろう。役者は緩いやつ多いって聞くからな。

 

 でも、数年はまあ何も起こるまい。

 それにまあ、変に反対し続けたり、放っておいてアイみたいになられても困るしな……。

 

 となればあいつがいつか妹を預けるにたる人物か見極めねば。

 アイドルではなく同性の役者ならもっと簡単に近づけるはずだ。

 社長に中学生になったしもっと仕事したいと言ってみるか。

 

 そうしてアクアは芸能界に本気で活動することを誓い……その優れた容姿を元にジュニアのイケメンモデルとしての仕事を増やしつつ役者としても活躍をするようになった。

 

 が……。

 

 ある日、オタ医者シローの撮影現場に行ったルビーが目を輝かせたうえでうっとりした表情で帰ってきてアクアはものすごく複雑な気持ちになることになる。

 




ルビーみたいな子にきもって言われたら耐えられなさそう。
原作完結か……アニメと…意外にドラマも楽しみかもしれません。




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