「お待たせ! せんせ!」
「ん? もういいのか?」
病室の扉をぼおっと見続けているとそんなに長くはない時間が経つうちにドアが開いた。
涙のあとはなかった。中で整えてから出てきたようだった。
「いいよー! お母さんはもう少し一人で気持ちを抑えてから帰るって」
「ふーん。了解。ルビーちゃんはまだ時間ある?」
「あるある」
「じゃ、ケーキの美味しい店に行こうか」
「おー、さすがせんせ! 女の子の好きな店がよくわかってるね!」
「そういうんじゃないけどな」
いっぱい泣いたわけだし、本人のためにとはいえアイドルに無銭で仕事をしてもらったみたいなものだし、報酬はしっかり払わないといけない。
「でさ、せんせもしかしてわかってる?」
別々に入って合流した個室でひとときを楽しむ。
落ち着いた雰囲気で店内はかすかに香るコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
ルビーちゃんは出てきたショートケーキを一口パクリと口にすると目を輝かせる。
お店セレクトは成功したらしい。
そうして落ち着いた頃に出てきたのがこの一言だった。
「君がさりなちゃんだって?」
「おー、すごい! よくわかったね!」
「正直、めっちゃ調べたからね。さりなちゃんのことで負けるとしたらせんせいか──本人くらいさ」
まあ、実際は前世知識であるが、そうでないにしても生まれる前の特別でもなんでもない一人の女の子を誰よりも詳しく知っているのは普通におかしい。
何よりこちらが出していない情報や知らない情報をもっている時点でソースどこだよとなり、合ってるとなればその情報を得られるのはずっと向き合っていただろう雨宮吾郎医師か本人しかいないのだ。
前世知識がなければオカルトを受け入れなければいけないので、たどり着けなかった可能性は高いけども。
カンペ探偵ではあるが、妹には兄としてはカッコつけたくはある。
「さっすが! ……ま、そんなわけだからドラマはまかせてよ! 最高にリアルなさりなになるから!」
「そうだね、世界一上手にさりなちゃんになれるだろうから、期待してる」
本人がやるのだからこれ以上のはまり役はないだろう。
元から大して隠していたわけではないだろうが、隠さなくて良くなったおかげか、より深い話をお互いにいくつもした。
「そ、それでね。今日はありがとう。お母さんのこと、本当は愛されてないって、捨てられたって思ってた。でも、そうじゃないってわかったのはせんせの……ううん、大輝さんのおかげ」
「べつにせんせでもいいよ。なんかかわいいから」
「そう? ならいっか。これ、お礼だからね」
席をたったルビーはこちらに顔を近づけてくる。
帽子の中にまとめられた髪が広がりさりなちゃんからルビーに戻っている。
短い間だったが、唇の感触が伝わってきた。
頬にキスをされたようだ。
「じゃあね~!」
顔を真赤にしながらも元気に手をふる彼女に小さく手を振り返す。
元気に走っていく彼女を見送って思うことは一つだ。
「やばい、めっちゃ嬉しい」
しょうらいおにいちゃんとけっこんするー! みたいな。
兄妹からの純粋な好意になんだか胸がいっぱいになった。
本当はさりなちゃんモードにしたかったけど、難しかったというか、髪ありさりなちゃんはコマ数少ないからね、むずかしいですね!