実のところのこのイベントが発生するまでは秒読み段階だったと言えるだろう。
ここのところ俺はルビーちゃんと一緒にいる時間がものすごく多かった。
共演している間もそうだが、無事【推しのカルテ】が完結し、完結お祝いのパーティーをしたあともちょいちょいデートをしている。
その頻度と言えば一番の相手である有馬かなへの時間以上のものだと言えばどのくらいかわかるだろうか。
別に彼女は自分を優先してくれるのであれば他に女がいてもちょっと苛つきつつも受け入れてくれる彼女であった。
だが、俺の中でルビーは彼女ではなく妹である。
それも可愛い妹だ。
昔の彼女はあれだったが、今の好意100%の彼女は可愛くてしょうがない。
それはもう、満面の笑顔でアイドルスマイル以上の笑顔が俺を毎秒襲いかかってくるのだ。
妹を最推ししない理由があるだろうか。いやない。
「ちょっとあんたね! 泥棒猫は!!」
しかしその態度にブチ切れ、カナちゃんがアタックしてきたのである。
「か、カナちゃん!?」
「ん~~?」
話題作の映画を一緒に見た帰りのことである。
喫茶店でゆっくり話でもしようかと歩いているところに彼女が飛び出てきたのである。
がるると唸っており敵意満々である。
複数彼女がいても全くこんなことはなかったのに。一体なんでだろうか……?
――カナちゃんより優先してしまったからですね!
「あ、重曹を舐める天才子役!」
「十秒で泣ける天才子役! ってかもう子役じゃないわよ!」
「でも胸ないままじゃん」
「はーーーー!? ありますけど!? 揉める程度にはありますけど!?」
カナちゃんとルビーは1歳差であるが、身長はルビーに負けているし、腕に抱きつかれている感じ、胸もやや負けしている。
おそらく原作よりは育っている気がするが。
「もー、大くんってほんとせんせみたく女たらしだね―」
「はあっ!? 大くん!??」
更にカナちゃんはブチ切れてしまったが、大輝のあだ名なんてテルくんか大くんかヒカルくんしかないのだからかぶりは許してほしい。
「ちょいちょい、カナちゃんちょっと待ってこっち来て」
強引に腕を引っ張り裏路地に連れ込む。
「なによ!! ぶん殴って痴漢ブザー鳴らして豚箱に送りつけるわよ!?」
「いや、それは勘弁してほしいけど。あれ妹」
「浮気じゃなくて妹でしたーて? あんた妹なんていないでしょうが!! ぶっ殺すわよ!?」
「いやホントだって。母親の違う異母妹。ほら、覚えてない? アクアの双子の妹」
「はあ? はー? うーん、……星野アクア?」
「そうそう」
「……そう言えば妙に強引にあいつらに会いに行ったわね」
納得してくれそうである。
かくなる上はDNA検査をする必要があるところだったが、カナちゃんはこちらをじっと見つめて半分納得したようだった。
「向うは知らないから仲良くなんてできなくてもしょうがないって思ってたけどドラマで一緒に共演できたし色々あって仲良くなれてさ」
「ヤッてないでしょうね」
「は?」
「ヤッてないでしょうねって言ってんの」
「やってません」
「ならいいけど。程々にしないと刺されるわよ」
妹に刺されるわけないじゃないか。
何言ってるのだろうかカナちゃんは。
「帰る」
「あ、ハイ」
ぎろりとこちらを睨むと行ってしまった。
「はー。せんせみたいに女心弄んでるとせんせみたいに行方不明になっちゃうよ? そしたら私泣いちゃうからね」
「気をつけます」
帰ったらカナちゃんの家に行こう。いやもしかしたら家で待っているかも知れない。
連絡をしておこう。
だいぶ怒っていたので帰ってからはハードなミッションになるかも知れない。
ただまあ、愛する人にそっぽを向かれないためには必要なことだ。
ちゃんと話を聞いてひとまず飲み込んでくれるだけの優しさにそのまま甘えてはいけないだろう。
とはいえ眼の前の愛する妹を悲しませるのもいけない。
「まあ、彼女には後で謝っておくよ」
「いいの?」
「今遊びに来てるのはルビーちゃんだからね」
「悪い人だなあ……」
その日はルビーちゃんとしっかりデートを楽しみ……夜はカナちゃんを相手にだいぶハードなネゴシエーションとなった。
あまり知られたくないカミキヒカルのことをカナちゃんに知られることになってしまったが、すでに故人である。
ふーんとか苦労したのねとかそんなものだ。
本当に小さい頃に死んだ両親の他に実は親がいたと聞いてもそいつも死んでますと言われれば反応のしようもないか。
生きているうえで娘にさほど関心のない父親とどっちがいいかと言われても困ってしまうしね。
何にせよ妹なら手を出すんじゃないわよ!と再度釘を刺されたが、妹に手を出すように見えるのだろうか。
そりゃ可愛いアイドルで最推しであるが、妹とわかっている相手に自分から手なんて出すわけがないだろうに。
ねえ?