「今日は何をしようかなー」
それはまあ、言ってしまえは出来心。イタズラ心と言ってもいいかもしれない。
変装して街を出ていたアイの眼の前をヒカルくんの息子である大輝くんが通ったのだ。
そうして聞こえたのがこの「今日は何をしようかなー」である。つまり彼はいま暇なのだ。
元々、彼に興味はあった。
愛していたかは結局確信の持てないままだった相手ではあったが、子供を生んだ相手であるヒカルの子供であるし、女としての対抗心みたいなものを抱いた姫川愛梨の子供でもある。
アイから彼に向ける気持ちは正直複雑で良くわからない。
言葉にしようとすると詰まってしまって何だと言いづらい。
本人自体なんか変わっていて小さな子供だったときにあった時も普通にかわいいとか、そういった評価を下しにくい相手であった。
大きくなってしまえばどことは言えないが彼に似ているところを感じて彼の子供であることはよくわかった。
やっぱりそういうことだよね。姫川愛梨の執着を考えればそういうことなんだろうと自然に思う。
問題は妊娠の事実を隠すために行った地方で出会ったゴロー先生にとても似ているってところだろうか。
(あれれー、ゴロー先生にめっちゃ似てるぞ?)
いい先生だった。
アイドルのアイだけじゃなくて、一人の星野アイを見てくれた。
応援してくれた相手だった。
社長だって彼ほど純粋には応援してくれなかった。
嘘のない真っ直ぐな瞳はとても気持ちがよかった。
(彼はカミキくんの子供。間違いない。でも、あれれれれ?)
ヒカルくんももしかしたら先生みたいに育っていた可能性もあったのかなあ?
少年だったヒカルくん。芸能界の闇に喰われていたヒカルくん。
一生大人になった姿を見れないヒカルくん。一体30歳に……お母さんが私を捨てた年と同じ年になった時、一体どんな大人になっていたかな。
なんかよくわかんない。
アイの優れた『さておき』能力が複雑でよくわからん関係なら関係ないしないようなものかとふわっと悩みを解決させた。
まあいいや。
タイミングとしては偶然だったが、いい機会である。
元々、アイは最近大輝のことを探っていた。
なにせ娘が彼のことを恋い焦がれるような目で見ているのである。
びっくりしてこっそり二度見して、思った。
やべえ、男の趣味が血だ。
当時の自分にとっては彼しかいないと思える相手ではあったが、一般的に恋仲になって幸せになれる男ではなかった。
社長だって、アイに惚れ込んではいたが、ヒカルくんという男つきのアイだったらアイドルの夢を応援し続けてくれたかは怪しい。
子供を育ててわかったこともある。
お金・甲斐性大事である。とても大事である。
気持ちだけじゃうまく行かないこともお金があればなんとでもなることって多いのだ。
だからアイはこっそり大輝を調べた。
歳の割には恋人多いな? と思ったが、中卒のアイには一般的な恋人の数など判断できなかった。
クラスには数人彼女が十人いるとかって噂を聞いたことはあったような気がしないでもないし、芸能界基準だと逆に人数なんて話にならなくなる。
むしろ付け入る空きがあるだけ娘にはいいか?と高評価すらしたあたりアイの常識は常識ではなかった。
お金に関しては売れまくっている今を考えれば問題ない。
姫川大輝 年収 で調べてみたらファンが仕事を並べていくらくらいだろうと試算していた。
ほ、ほう……。
うん。アイはひとりうなづく。君なら娘を預けてもいいぞ。
『お前なんかに大事な娘をやらん!』 というのも言ってみたいセリフランキングにはあったが娘のほうが大事だ。
このセリフの出番は封印としておこう。
そうなれば後は人柄だ!
アイは彼の恋人や過去恋人だった人にこっそり話を聞きに行った。
パートナーを大切にできないやつは芸能界に多い。
というか、パートナーになってもいない男女関係はとても多い。
可愛い娘にはせめて合格点以上の男がいい。
ここでアイは衝撃を受けた。
誰も彼もが大輝への愛を語ったのである。
付き合っている彼女が言うならまあわからなくもない。
なのに、別れたはずの女も同じなのだからびっくりだった。
ここでアイは改めて彼に興味をもった。
アクアがこれを見ていればルビーの好きな相手だぞ……? と突っ込んでくれていたかもしれないが、そもそも義兄妹であることを彼ピとしてのマイナス評価にして反対しなかった時点で彼女の評価基準はやばい。
父も兄弟もいなかったアイにはぶっちゃけ血がつながっていることがなにか結ばれるにあたってイケナイ理由になる?とさえ思っていた。
そもそもカミキヒカルの時点で年下の上にほぼ小学生で相手のいた略奪と言ってもいい関係でもあった。
しれっと本カノの立ち位置に立って愛梨を跳ね除けた経緯の持ち主である。
家庭像にも父親というものがないせいで、自分だけじゃないといけないという考え自体がそもそもなかった。
そんな穴ボコの空いたアイの恋愛観に重ねて、アイの『愛されたい』という想いを受けた願いもまた、悪く働いた。
アイは娘の相手としてどうかと見定める相手に普通に興味をいだいていたのだ。
**
さてどうするか。
視点は大輝をつけている今に戻る。
大輝くんをよく観察するとどうやら彼はナンパをするつもりのようだ。
道行く女性たちを観察する目に大輝の今日の予定を見た。
アイは自分の見た目に自信はあったが、ナンパよけも兼ねてラフな格好である。
元B小町の人気アイドルの名は伊達ではない。
普通に歩いているとサインはねだられるし、男女関係なく声かけられてしまうのだ。
となれば釣りをするしかない。
アイは彼の横を通り過ぎながらハンカチを落とした。
ポロリとな♪
「おねーさんおねーさん」
ふふーんと笑う。
ま、当然だよね? 娘が彼を好いたことを考えればカミキくんがアイを大好きだったように、彼もアイの見た目も大好きかもしれないのだ。
変装していたって自分は元アイドル。
今だってそのボディは衰えなしだ。
「……なに?」
「ハンカチ! これ落としたでしょ?」
かかった。
後は釣り上げるだけである。いやあ、男って単純!
「ありがと。ね、君いま暇? 私暇なんだよね。よかったら遊ばない?」
釣り上げ合う男と女。
お互いの気持が一致していれば話は早かった。
Rでは主人公視点で……?