……舞台で踊るように舞う有馬カナに魅入っていることに気づいた。
「……すごいな」
役者としてここにいるはずなのに、アイドルに魅入るただの
光り輝く太陽を直接見て目が焼かれるように、俺の目も焼かれかねなかった。
「これだから天才は……」
初めてあった幼児とすら言えない幼い有馬かな。
カントクに言われて出演したその現場で俺は「ありのまま」であることを求められた。
有馬かな本人には負けたと思われたようだったが、俺の本当の年齢を考えればあの演技は幼児ではない俺だからできた何もしていない演技で、彼女のは幼い少女のはずなのに作品にあった"演技"をしていた。
本当の天才の才能を肌で感じさせられたのだ。
母親である星野アイの才能は疑うまでもないもので、さらに言えば妹のルビーもまた、アイの才能を継いでいると感じていた。
歌こそあれなところがあったが、そのダンスと演技力。
心を奪うアイドルの資質はきっと彼女にも劣らないものだった。
だから俺はカントクの言う『100点の役者』になろうとしたのだ。
俺は前世医者で、言葉にできない患者の気持ちを汲み取ることも、それを形にすることもお手のものだったから。
むしろ同じ年の園児たちよりよっぽど大人の方が何をしたいのかの意図がはっきりわかった。
カントクのところで作品を作る側の作業を手伝うことで色々と見えるものが増えても来た。
「天才かはわからないけど……」
「ん?」
「アクアくんも普通じゃないと思うよ」
「……ああ」
天才はみんな普通と違って欠けている。
アイを見てよく分かる。
姫川大輝さんも多分そうで、赤ちゃんから芸能界にいる有馬カナもきっと普通ではない。
……俺だって普通じゃきっとない。普通のつもりではあるけど、常識を知って入るつもりだけど、普通は前世なんて持ってないのだから。
アイが、ルビーが、有馬カナが、姫川大樹さんが、楽しそうに演技を行っているのを見ていて、最近思うことがある。
俺も、いいだろうか?
ルビーは子どもを全身で楽しんでいた。園児に交ざって滑り台を滑るどころか独占してぶーぶー言われるくらいの楽しみっぷりだった。
俺はどこか大人のつもりがあった。
子どもたちの席を奪ったような気持ちがあった。
ズルしている意識があった。
でも、有馬カナと共演して、こんなにも熱にあぶられれば思うところがある。
俺も、役者の一人として、演技を楽しんでもいいだろうか。
100点を超えて、彼奴等と競い合ってもいいだろうか。
努力をして、勝ち取ってもいいだろうか。
どこかしっかり切り替えられていないままの雨宮吾郎から、星野アクアとして、生きてもいいだろうか。
生きたい。
アイのように、ルビーのように、有馬カナのように姫川大輝のように。
全身で俺を表現してみたい。
……こんなにも、俺の中に燃えるような気持ちがあるなんて。
幸い、今回の現場の監督とはそれなりに仲が良い。
それにあらかじめきっちり決めて作るというより、役者のアドリブをむしろ好みやらせるような人でもある。
生の感情を欲しがっている人でもあった。
じゃあ、いいよな。
ああ、もしかしたら初めてかも知れない。
自分の感情を役に込める。監督の求めるコマじゃなくて、一人の役者として舞台に立つ。
緊張する、喉が乾く。
でも
ああ、俺も一人の演者だった。
あふれる感情は意のままにはならなかった。
普段NGを出さないくせに今回は結構止められることがあった。
監督から多くの注文をもらった。
いつもどおりにはいかなかった。でも、監督の目は……熱かった。
俺を見ていた。
**
打ち上げは焼き肉だった。店いっぱいの油の匂いが腹を刺激する。
ああ、めちゃくちゃ腹いっぱいになりてえ。
転生して嬉しいのはこの若い体のいくら食べても胃もたれしない体だ。
肉はうまい。油はうまい。今の俺に欠けているものだ。
今日はいくらでも食えそうだ。
運ばれてくる大量の肉に釘付けになっていると、声が聞こえてくる。
「今日のあんた良かったわね」
「ん?」
不意に投げつけられた言葉に俺は有馬カナの方を向く。
彼女は聞こえたならいいと言わんばかりに別の役者と話し合っていた。
もしかしたら聞き間違ったのかと思わないでもない言葉だったが、トングを握りこちらをニヤニヤ見てくる黒川あかねの存在が幻聴ではないことを示していた。
「ああ、ありがとな」
聞いているか聞いてないのかわからないが感謝を返す。
認められたことが嬉しかった。
星野アクアとして役者として全力で生きてもいいんだって。
雨宮吾郎を捨てるわけじゃない。
でも、星野アクアとして俺は生きていく。
人生二度目。推しの子に生まれるなんて宝くじに当たるより幸運なことだ。
だったら、楽しまないと、損だよな。
アイのため、ルビーのためから……