「え、雨宮吾郎を……?」
舞台を終え、お互いにシャワーで汗を流し、肉をみんなで騒ぎながらたらふく腹に入れ、二次会だと飲みに行く年上の役者たちを背に、場所を変えて話をしたいというアクアについていけば切り出されたのは雨宮吾郎のことだった。
「ああ、雨宮吾郎は祖母を亡くし天涯孤独の身だった」
「たしかに。行方不明の届けを出せるのは職場か親族で、病院は……その、最後に雨宮吾郎の付き合っていた相手もあって、届けは出さなかった」
「……ひでえ」
アクアは当時の彼女について考えているようだが、付き合いは多くも、ゴロー先生側があまり相手に執着をしていなかったせいで関係は割合すぐ切れては優良物件故にすぐ相手が見つかって……と繰り返していたらしい。
患者思いでいい先生だが、女関係に関しては信頼ならないらしい。
なんか携帯の起動画面が幼女だし、という評価があった。これはひどい。
「姫川大輝として届けは?」
「そもそも、雨宮吾郎の時点で認知されていないから……流石にね」
血の繋がりはあっても、戸籍上のつながりはない以上、病院からしても警察からしても他人である。
しかし、アクアが『雨宮吾郎の遺体を見つけたい』と言い出すとは思わなかった。
「遺体か……軽く探したときは見つからなくて……」
「探してはくれたのか?」
「ま、自宅を訪ねるついでにね。ボロになった家があっただけで当然だけど誰かが来たって感じはなかった」
「まあ、そりゃ……なあ」
雨宮吾郎殺害はただの事故。
アクアからの認識ではそうだ。
アイを狙ったであろう怪しいファンを見つけて追っかけたら、突き飛ばされて滑って崖から転げ落ちて転落死……なのだから。
自分がそもそも狙われていたとは露とも思うまい。
だからか、ゴロー先生本人からしても反応が軽い。
まあ、原作でもそうだった。推しのアイドルと過ごせる日常に犯人に感謝したほどだから憎しみもそうないのだろう。
それに、すでにアイはアイドルを引退するまでこうして五体満足で過ごしているのだから、危険はあのときだけのものでたまたまやばいファンに狙われて、雨宮吾郎にビビってそれ以上何もしなかった認識なのだ。
すべて終わっていると思っているのだろう。
実際もう全部終わっている。
だから、なんというか、遺体を発見すること自体は問題はない、問題はないのだが。
……正直、あまり行きたくない気持ちはある。
宮崎でアクアとルビーはツクヨミと出会い、カラスに誘導されて遺体を見つけるからだ。
カラスがいないと見つけることはできないとは言わないが、実際に病院から伸びる道を歩きながら調べたが、遺体はなかった。
原作と同じく崖の下から何処かに移動されているのは確実である。
だが、アクアはジモティである。
子供の体で見て歩いた程度の創作とは違い、ある程度体力のついた学生の今で彼と一緒ならもしかしたら。
ただ、やはり
(ツクヨミには会いたくない……)
正直彼女の狙いは全くよくわからない。
原作でもそうだが、いまいち立ち位置が不明なのだ。
雨宮吾郎と天童寺さりなを煽るだけ煽っていた上に悪手だどうだと語ったり。
転生に関与した神の使いではあるようだが、神の目を楽しませる劇的な人生ほど人の幸福に繋がらないものはない。
触らぬ神に祟りなしは至言である。
とはいえ、彼女は今まで自分に干渉していない。
そしてドラマティックだっただろう復讐劇はすでに終わっている。
アイは殺されておらず、舞台に干渉する神の役は必要になる場所がない。
トータルで言えば、うん。義弟に手を貸さない理由はなかった。
「次の舞台で、宮崎近くに行くだろ? そこで、一緒に探してくれないか」
だとしたら、弟の願いは叶えてやりたい。
「ああ、叔父の遺体だしね。見つけてちゃんと眠らせてあげないと。いや、今生きてるから眠るもなにもないか」
「まあ、そうだな。なんて言えばいいんだ? まったくわけがわからないよ」
それに、思えば弟と一緒に宮崎旅行というのは中々乙なものでは?
思えば若く死んだ両親のこともあり、こうやって家族と遠くに旅行というのは……うん、ワクワクするな!
「そうと決まれば、観光スポットを調べないと!」
「いや、道中ほとんど山で遺体探しだぞ……?」
「そんな……」
不思議とアクアのときは弟っぽく、吾郎先生らしい態度を取るときは兄のように振る舞うアクアは二度美味しいと言えるのではないだろうか。
ともかく、二人の宮崎編が始まる……!!