推しの子の異母兄   作:もこもこ@

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093 自分が転生した意味

 

 自分が生まれてきたことの意味を考えたことはあるだろうか。

 

 そう言ってしまうとアクアもそういう時期か……と言われるかもしれない。

 確かに年は14歳。そういう時期ではある。

 ただ、生まれてからの期間ではなく、生きた長さを問うなら俺はもう結構ないい年である。

 今更中二病にだなんてなるはずがない。

 

 まあ? ある時寝ようとしているときにいきなり『世界に俺は一人っきりだ』とか? 『アイが突然殺されたらどうしよう』とか? 『自分が病気で死んでしまったら周りはどんな顔をするんだろうか』みたいな理由のわからない妄想が勝手に頭に浮かんでは悶えたりする時期はあったし、好みでもないおばさんの揺れる胸に自然と目線が向きそうになったり、なんにもエロくもない状況で突然息子が勇気百倍! といいだしたりと、思春期の体の暴走は意思(医師)ではなんともできない領域ではあった。

 まあ、医者のつける薬もない時期だった。だった!! 

 

 とはいえ、他の14歳の諸君には悪いが、俺にはしっかりとその悩みを抱くだけの根拠がある。

 

 そう、転生である。

 

 雨宮吾郎という一人の田舎の産婦人科医だった俺は患者である大人気アイドルのストーカーに刺されて転生してしまったのだ。

 ここに何らかの意味を感じてしまうのは仕方がないだろう。

 なに? 誰もが自分を特別だと思って思い悩んでしまう? それが中二病だって? 

 たしかに、前世持ちも時々テレビでネタにはなっていたし、今になって思えばそのうちの何人かはもしかしたらほんとにほんとだったのかもしれない。

 だが、俺にはルビーがいた。

 

 双子の妹もまた転生者だったのだ。

 

 それだけなら『偶然だねー♪』と片付けられてしまうかもしれない。

 だが、ルビーはさりなちゃんだった。

 俺の仲良くしていた患者で、アイを俺に布教した元凶で。

 来世は芸能人の子どもに生まれたいなんて言っていて。

 そんな彼女が、俺が最後に担当した患者であるアイの子どもとして俺と一緒に生まれてきた。

 

 たしかに、アイだって一人の人間でしかない。芸能人の子どもに生まれる確率は宝くじより当たりやすいかもしれない。

 でも、彼女はアイと同じ年だった。

 

【死んでから2年も経っていた】

 

【俺は死んですぐ生まれ変わったのに】

 

 魂は子どもにいつ宿るのだろうか。

 刑法で胎児が人になるのは生まれた瞬間だ。胎児は人ではなく、故に殺しても殺人罪にならない。

 人になったのは生まれる瞬間で、だからその瞬間に死んだ俺が宿るのはもしかしたらおかしいことではないかもしれない。

 でも、じゃあ、さりなちゃんは? 

 とっくになくなり、供養も済ませた彼女は? 彼女が宿ったのはいつだ? 

 なぜそのタイミングで宿ったのはルビーだけだった? 

 

 そう考えれば何者かに特別扱いされているのはさりなちゃんで、さりなちゃんに特別に思われているからアイの子どもに生まれ、さりなちゃんに特別に思われているから俺はアクアに生まれたのではないだろうか。

 

 アイ譲りのアイドルの才能と、健康な体は、何者かからのさりなちゃんへの贈り物なのではないだろうか。

 

 勝手な話だが、ルビーが姫川大輝に恋をして、俺は兄として愛される立場になって、どこか使命のような運命と言ってもいい紐か縄のようなものから自由になったような気持ちがあった。

 

 ルビーはすでに人気が出始めている。

 きっとこのまま大人気になり、アイのような、あるいはアイを超えるアイドルになる。

 

 じゃあ、自分は? (……)

 

 ルビーの未来に安心を抱いて初めて自分を考えるようになった。

 医者にはなれるだろう。産婦人科医になることも、外科医になることも。

 若いうちからも鍛えてきたこの体は雨宮吾郎比ではないスペックを持っている。

 外科医としても名医にはなれると思っている。

 

 ただ、神の手と言われる世界最高の医師は……どうだろうか。

 この体の目はとてもいい。何でも簡単に覚えられ、観察眼も鋭く、全体を俯瞰して見ることができ、球技も玉が止まっているように見える。

 だが、脳外科医は顕微鏡を見ながら恐ろしく小さい8-0の糸(髪より細い約0.04mm)で血管を縫い合わせる。

 

 むり……かは分からないが自信はなかった。

 ルビーを追う形で芸能界に入り、この体はなんて芸能に向いている体なんだと感心したくらいだ。

 ナノの世界ではなく、もっと広い舞台を支配するための目だった。

 

 思いは医者にあったが、才能は芸能界にあった。

 そのくせ、アイやルビー、大輝や有馬かなのようにわかりやすく天才でもない。

 監督の意図を読める役者といえば聞こえがいいが、他人の意図に理解を示せる程度に普通ということだ。

 天才とは点数をつけられない領域のことだから、100点を取れるのは凡人の採点できる世界ということだ。

 

 俺はどっちに進むも後悔しそうな中で、もがきながらも、結局彼、彼女たちの世界の光に憧れて、アイに背中を押されて【両方】選ぶことにした。

 

 未来をゆくと決めたからこそ、決着をつけるぞと、姫川大輝に俺の秘密を明かしたんだ。

 

「俺は転生している。前世の記憶があるんだ」

「うん」

「……あるんだ」

「そうだね」

 

 内緒の話がしたいと呼び出して、秘密を明かしたのにこれだ。

 かといって彼の顔はおちゃらけているわけでもなく、嘘だと思っているわけでもない。

 

「俺の前世は雨宮吾郎だった」

「だよね」

「だよね!?」

 

 ルビーがもう伝えていたのだろうか。

 

「いや、さりなちゃんのこと知ってるんだから、初めてであったとき……カナちゃんと共演してたあの映画の年齢の段階でルビーちゃんより賢かったアクアが転生者じゃないはずないし」

「でも、雨宮吾郎なのは知らなかっただろ!?」

「でもねえ、ルビーちゃんとの吾郎先生トークで、ある時期から新ネタが交ざるようになったし。流してたけど、それっておかしいでしょ?」

 

 そうですね、死者の情報が追加される訳ありませんね。

 さりなちゃんに正体を明かしたあと、当然さりなちゃんが死んだあとの医者としての俺の活動や、さりなちゃんが世話になった看護婦たちのその後の話なんかはちょいちょいしている。

 ある時期から突然前にはしなかった自分の死後の話が交ざれば、……そりゃ、そうなるな。

 おい、ルビー!! 自慢げだったが全然お漏らししてるぞ!! 

 

 こいつ名探偵かよ! いや、ルビーが分かりやすいだけか……。

 

「……まあ、いいや、甥っ子。そんなわけだから俺の死体を探すのを手伝ってくれ」

「もちろん、吾郎オジサン」

「……オジサン呼びはやめてくれ。妙に年を取った気持ちになる」

「そう?」

 

 そうだ。

 

 




あれ、前話見たけど、アクア、正体ばらしてなくない? そんな事実をコメントで知ったからこの話が生えたとかそんなそんな……いつも皆様感想ありがとうございます!
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