その日、人生で何番目かってくらいに気合を入れてそこに立っていた。
カナちゃんと同じ型の色違いのキャリーバッグ片手に立っていた。
伊達メガネをかけ、帽子を深々と被り待ち合わせの場所に行けばそこにいるのはアクア……
【……だけではなかった】
「あ、やっほー!」
「よろしくー」
「うっ、イケメン怖い……」
ルビーがいた。というかB小町がいた。
それどころか苺プロの副社長のミヤコさんがいた。
「アクア?」
「すまん。宮崎に行くとバレた。B小町もくるみたいだし一緒にってなった」
「ええ……なぜB小町が……?」
「説明しよう!!」
ぴょんと車の陰から現れたのは角付の女性だった。
見覚えのある金髪を風に揺らしながら笑顔で名乗りを上げる。
「可愛い女の子だとおもいましたか? かわいいMEMっちょでした!」
じゃーん☆と手を広げて可愛いポーズ、という感じだが、俺には効果ない。むしろ今の心情のせいかむっとしてしまった。
じっと見つめるとつっとMEMの頬を汗が流れる。
「りゆう。はよ」
「ぴえん! 反応が冷たい! ……いや~、
「なかったんだけど?」
「ないわけでもなかったねー!」
「おい!」
「まだ女相手のほうが嬉しいワクワク具合だったからさー。カナちゃんもピリピリしてたしー」
こいつもカナちゃんとつながってるのか……。
わざわざ教えているわけでもないのだが、俺と関係の深い女性とカナちゃんはいつの間にか仲良くなっており、いろんなものが筒抜けである。
しかし、ここのところ旅行なんて一緒に行ってないじゃん! と言われるが、ユーチューバーなMEMは顔が売れているし、MEMは変装もあんまり好きじゃないし、変に暇になるとエゴサに携帯ばかりいじるし、配信したくなってきたと言い出し、旅行が配信ネタになるし、純粋に旅行として完結した覚えがないのである。
彼女ほどのんびり旅行に向いてない人間はいない。
仕事と私生活の区切りがやや曖昧なのでいつの間にか仕事になっているのだ。
そうなると彼女と一緒にネタ作りをしている助手ポジとして話のネタになる話題作りやスポットを中心に回るようになるし、数を意識して回るせいでじっくり楽しむ時間がないことが多い。
例えば美術館を回るとなればMEMは話題作やネタになる作品には時間をかけるが、そうでない作品はすっと通り過ぎていく。
俺は見るなら解説文くらいは見てから数分考えながら見たい派閥である。
面白いことをたくさん経験できるという意味ではプラスで忙しないというのがマイナスなのである。
ただでさえメインイベントの【遺体探し】がある以上どれだけ観光ができるか怪しいのだから、貴重な時間は確保したいところだ。
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ルビーたちのPV撮影の触りを見届け、MEMもB小町とコラボ企画を動かすと一緒に色々撮影するらしく、彼女たちをその場に残し、俺達は観光、という名目でその場を離れることにする。
「免許がないからこういうのがあると助かるなー」
原作でもアクアとあかねが乗っていたが、キックボードは便利だ。
利用者のマナーが問題になったりもしているようだが、観光地を手軽に移動するには最適な手段だろう。
自分たちのように車のない旅行者にとっては救いの一手である。
「便利になったもんだよ。最初は俺の家か?」
「それもそうだが、まずは高千穂神社かな」
「観光かよ」
「いや、流石に森探索だけじゃ、お前なにしに来たのって話になるだろ? 高千穂神社見てあとは何個か観光地をWEBで見ておいて話題作りだけはしよう」
「モテるだけにアリバイ作りが得意だな……」
「グサっ」
いや、別に俺は彼女たちに言い訳してないし、浮気じゃなくてみんな本気だし……。
とはいえ、芸能人として行動がバレないようにごまかすくらいはしている。
だからこういうのもお手の物というだけなのだ。
ホントだ。信じてほしい、アクア。
必死の懇願は通じたのか通じなかったのか。
高千穂神社観光も穏やかにすぎ……
「奇遇だね」
カラスを連れた幼女に話しかけられるというアクシデントが発生した。
疫病神「きちゃった★」