いやあああああああ!?
その幼女を見ての叫び声である。
見た目はちんまく可愛らしいロリロリボディ。
この神社の関係者の立ち位置なのか、巫女衣装だ。幼い少女のその姿は家の仕事を手伝っているような感じに見えて、中身を知らなければかわいらしさに頬を緩ませたかもしれない。
だが、その正体は物語の中でひたすら意味深なことを話していく【とりあえず伏線引いておくガール】である。
そして大半マイナス方向にイベントが進んでいくため、アクアや読者からは疫病神と名高いのだ。
数匹のカラスが彼女を囲む。うわあ、本物だ。
正直なところ、すべての元凶であり、推しの子という物語の悪役であるカミキヒカルが排除された段階でもはや物語を回すGMとしての役割は彼女にもうないと言っていいはずである。
作中で彼女がしたことといえば、カラスを操り雨宮吾郎の遺体を見つけさせたことと、ルビーに雨宮吾郎の死と犯人の存在を突きつけ、カミキヒカルを巡る復讐劇に招いたことだ。
15年見つからなかった遺体を主人公たちが見つけられる理由、周りから危険なことを遮断されていて何も知らないルビーを復讐劇に上げるための理由として存在していた。
いずれも登場人物にはできない、誰よりも真実を知っている神しかできない役割で、推しの子という転生者がいる舞台だから許された方法だった。
しかし、現在はもうすでに
復讐の相手も死んでしまっているとなれば、神の役目などもうない。
彼女は一歩こちらに近づいてくる。彼女を囲むカラスたちはそのままだった。
一匹だけこちらを見定めるようにジロジロ見てくるが、それ以外は普通のカラスに見える。
「そんなに構えなくていいよ。君がこの神社に来なければ会うこともなかっただろうし」
正直神が相手なら【この神社に来ると知っていたからここに生まれた】が成り立つ以上、全くなんの足しにもならない。
第一、神社を観光中、アクアがお土産を買ってくると行列に並びだした瞬間に声をかけてくるあたりでもうほんと狙ってきている。
「やれやれ信頼ないなあ……まあ、神様に振り回されたくないというのもわかるけどね」
「お前が言うな」
「今日の私はただの親切なアドバイザー。雨宮吾郎の遺体だけど、雨宮吾郎の家の裏手の道を真っすぐ行って分かれ道を右、突き当りに獣道になっている先を登ってそれから真っすぐ行けばたどり着けるよ」
「どこだよ」
わかるか、というと携帯を持ち出されて、地図のURLが送られてくる。
しまった、連絡先を交換してしまった。
連絡先には
何だ貴様、不老の薬を飲んだ富豪でも家族にいるのか。
「やれやれ、本当に扱いが悪いね。心情的には君たちの味方なんだよ?」
かがんだ彼女の足元にヒョコリとカラスが現れ、ツクヨミはカラスの体を優しく撫でる。
「この子は良く働いてくれるし、その分くらいは親切にしてあげてもいいんじゃないかなってね」
「一体カラスがなんの関係があるんだよ……」
「ん? ああ、……そういう?*1 さあね。前世でカラスでも助けたんじゃない?」
「蜘蛛の糸かよ」
復讐心で人を殺しているので、天国には行けそうにはないのは違いないが。
そう思うとカラスにも親切にするべきだろうか。
……カラスに特別親切にした覚えは浮かばなかった。
まあ、カンダダも蜘蛛を助けた自覚なんてなかっただろうし、そんなものかもしれない。
「それに、うちの神様はもう君たちの物語からは降りてるからね」
「そうなのか?」
「君が生まれたのに気づいた時点でね。美しい悲恋が見たかったクライアントはがっかりさ。でも君という楔はどうやっても取り除けない位置に打たれていた。クライアントは今は別の物語に夢中でね。ようはもう"チャンネルを変えちゃった"のさ」
美しい悲恋とやらがどう言う物なのかは想像するしかない。
なにせ俺は十五年の嘘がどういう最後になったのかを知らないのだから。
カミキヒカルが星野アイの思いを知ったとて、すれ違いの悲劇担っても悲恋とは言わないだろう。
であれば物語のヒーローだったらアクアの死で終わる予定だったのだろうか。
カミキヒカルは改心しなかった?
もしくは改心したが、その前に仕込んでいた仕込みで死ぬのか?
なんにせよ、物語ならともかく、現実では喜劇を演じたい。
俺の選択は間違いでなかったと神に肯定されたとでも思おう。
「関与する気がないならいいさ」
「関与はしているけどね」
つっと巫女衣装をめくった先にでてきたのはいつかのサッカー系のドラマででた俺の役のグッズ、切れるまでつけると恋の願いが叶う!?がキャッチフレーズのミサンガだ! キャラ名が別色で表現されているので識別が簡単である。
「ファンなの!?」
「ファンだよ」
くっそ、こいつ、くそっ!
ホントか嘘かもわからないし、単純に今日のために用意しただけかもしれないが、ファンと言われては体が勝手に態度を柔らかくしてしまう。
別にファンじゃなくても悪くは扱っていないが、相手が疫病神であっても、ファンならとサービス精神が湧いてきてしまう。
「サイン書いてよ。あ、宛先は"かわいいツクヨミちゃんへ"でお願いね」
いったい巫女衣装のどこに隠されていたのか、色紙を差し出されては仕方がない。
ポケットからペンを出すと月詠ちゃんへと……
「かわいいが抜けてるね。大好きな、でもいいよ?」
くっ! ファンの女の子を手荒には扱えないっ!
いや、見た目は本当に小さい女の子だしな……。
強い敗北感とこれ以上関与がないという安堵を感じているとアクアが何人分なのかわからない量のお土産を持ちながらこっちに戻って来た。
視線を一瞬外した隙にいつの間にか彼女はいなくなっていた。
もう関わることがないことを祈るしかない。
だれに?
……ツクヨミにだろうか。
そいつに祈っても……
・人間としての体があるようだ。実際干渉してきたのは高校生になってからで見た目からして子どもなので、小さい頃には生まれていなかったと思われる。
・かんとくは子どもアクアに子役するなら事務所に所属しろといっている。
手続きがちゃんとできた=人の身体で社会的地位がちゃんとあるっぽい。
・前世カラスの動物神というのはホントなのだろうか……その割にはアクアに助力する気がない。
・上司(神様)からの命令以外では干渉を禁じられているのかもしれない
・一人で宮崎から東京まであの年齢で旅して来たのだろうか。鬼太郎式カラスタクシーだろうか。
上記プラス話の内容からこの物語ではカラスちゃんはツクヨミにならずお手伝いのカラスAをやっているようだ。
時々東京に遠征しては推活としてアクアとルビーを見に行ってるとかいないとか?