スタンド・バイ・ミーという映画がある。
少年たちが死体を探す物語だ。
行方不明になっていた少年の死体で偶然見聞きした兄の話を聞いて、少年たちは英雄になるためにその死体を見つける旅にでる。
彼らは誰もが家族や環境に囚われていた。
線路を歩く彼らは文字通り定められたレールを歩く人生を暗喩しており、冒険は大人になる旅路でもあった。
雨宮吾郎の家に向かうアクアの足取りは懐かしむような顔つきで、ゆっくりと一歩一歩を味わうようにしっかりと歩いている。
近くまではキックボードで移動できたが、途中から整備されていない道になり、歩きになった。
一台くらいしか走れないような山道は人通りがなくなったことで草が広がっており、とても歩きにくい。
誰も使わなくなった死んだ道を俺達は歩く。
「見慣れた景色のはずなのにな」
そんなアクアを不思議そうに見てしまっていたのかもしれない。
「でも何故か違うふうに見えるな……」
微笑むアクアに悪い感情は見えなかった。
ノスタルジーの一種になるのだろうか、前世を想うということは。
正直同じ転生者であっても前世に全く覚えがなく大して引っ張られるものもない……ないか? いや、結構引っ張られた気がするな。
でも、推しの子の知識のせいというか……。
……俺もまた前世には多分大いに影響を受けた人間だろう。
今の自分を思えば前世なんて無ければよかった、とは思えないが、原作のアクアはあんまり前世があってプラスだったとは言いづらいかもしれない。
でも、今のアクアは前世をちゃんと人生の過去として飲み込んでいっているように思えた。
「アクアになったからじゃない?」
「ああ、そうかな……そうかも。転生なんて起こるとは全く思ってなかったけど、不思議なもんだ……」
雨宮吾郎宅は医者が住んでいたとは思えない古い家だった。
まあ思えば祖母と暮らしていた家なのだ。
一軒家で立派ではあっただろうが、手入れが一切されないまま長い年月がたったそこは廃屋だった。
ある意味これもまた雨宮吾郎の死体といえるだろうか。
田舎特有の防犯意識か、アクアは今も変わらず手軽に隠されたままの鍵を拾うと鍵を開ける。
「うわっ……」
「そういえば窓は開けて出てたな」
放置されてもう15年近く経っているこの家は一切開けしめされずにいた。
淀んだ空気は居心地がいいとは言えない。
中途半端に開けられた窓からだろう。部屋中床には大量にホコリが積もっている。
靴を脱いで上がるとひどいことになるだろう。
ためらっていると来客用だろう古びたスリッパを差し出された。
靴箱に入っていたせいかそれなりの状態だ。
部屋に入るとアクアは勝手知ったる我が家ということで、バシバシ窓を開けて換気をしていく。
新鮮な空気が部屋に満ちていく。生き返ったかのようだ。
「だいぶすごい状況になってるな」
「ホントに」
「でもよかったのか? 死体を見つける前に家に寄りたいなんて言ったが……。なんで15年前の遺体の家に上がり込んでるんだ、って話にならないか?」
「それは、まあ、ね。でも、俺はすでに病院で何度か雨宮吾郎について聞き込みしている過去があるし、警察にも事情を聞きに行ったことがあるし、今回もその延長で訪れたって言えば説得力は十分だと思う」
「ああ、過去俺を探しに来てくれてたんだったか……」
目の前にいるアクアの前世の雨宮吾郎は姫川大輝と……というよりは神木輝とは異母兄弟関係にある。
その子供である俺とは叔父と甥の関係になる。
といっても、アクアも俺もその神木輝の子なので、現世では異母兄弟になるのだが。
全く持って複雑な関係である。
「実際目処はあるのか?」
「あるといえばある、ないといえばない」
「なんじゃそりゃ」
水も電気も通っていない家の中はやっぱり薄暗い。食卓だったであろう四人がけのテーブルに座り、ペットボトルのお茶を飲みながら一息。
スマホの明かりを素にカバンから地図を出す。
「事件当時、大学生くらいと中学生くらいの二人組がウロウロしていたのを目撃していた人がいる。大学生の方は菅野良介。アイのファンの一人暮らしの大学生。その後、ドームライブでアイを刺そうとナイフを持って近づいていて、善意の通報者がアイに襲いかかるところを止めて逮捕」
「あの日のあいつか……ナイフなんて持ってたのかよ……」
「アイは運がいいよね」
さすがアイだなと何も疑わずに頷くアクア。
さすがアクアだ。
「逮捕後も特にリョースケは雨宮吾郎のことは話してない」
「……まあ、俺を殺したのはもうひとりのほうだろうな。雨宮吾郎はあの日、不審者丸出しだったその大学生の菅野に話しかけたら逃げ出してな。追いかけたところ見失ったと思ったら突き落とされたんだ。本気で逃げてたし、回り込んだ可能性よりはもう一人がやったという方が納得がいく。警察に詰められて何も言ってないならそいつはそのまま逃げたんだろう」
「で、範囲を特定したくて。まず、突き落とされたのはどのくらい?」
「いや、追いかけてっただけだからな……」
「じゃあ、どこで話しかけられてどのくらい追いかけた……?」
「それなら……」
地図を見ながらリョースケに話しかけた地点から追いかけた方向にある道を走った速度で体感の時間走った場合の道をたどる。
「ここかな。多分、あんまり自信はないが」
「ここか……」
病院と雨宮吾郎の自宅の間にある点が死んだ位置だったようだ。
問題は雨宮吾郎の遺体が15年発見されなかったことだ。
病院からそう遠くない森で鍛えてない大学生が体力尽きずに走った程度の距離で、さらに言えば人が走れる程度に道の横の崖だ。
そして、原作で遺体が見つかったのは手入れのされなくなった古い祠の裏である。
明らかに一見では見つけられない場所に隠されたのだ。
道の横の崖にあればいつか発見されただろう。
地図にも載っている道なのだ。
だが、遺体は誰が移動させたのだろうか。いつ移動させたのだろうか。
一つはツクヨミ側が隠した……だ。
劇的な演出のためにルビーが大きくなるまで見つからないように隠していた。
森の奥でカラスが守ればあそこの近くに近づくことはない。
だが、問題は……
「この辺の近くになにか祠とか、遺体を隠せそうな場所ってある? 森に埋められてたら見つけられないけど、そういう場所に隠されてたなら可能性あるでしょ?」
「あ~……そうだな。え~、……と、そうだ、祖母に言われてたまにきれいにしていた祠ならこのへんにあるよ」
そう言われて指さされた場所は【雨宮吾郎の家の裏手の道を真っすぐ行って分かれ道を右、突き当りに獣道になっている先を登ってそれから真っすぐ行けばたどり着けそうな場所】だった。
となれば、おそらく原作と同じ祠なのだろう。
どの時点で俺に気づいて、どの時点で干渉をやめたのかはわからないが、今まで一切干渉がなかったことから、少なくても最近ではないはずだ。
となればルビーが見つける前に移動した、というタイミングではないことがわかる。
遺体はおそらく事件の後、大して時間が経っていないうちに移動されたのだ。
なぜ? そしてだれが?
死体はいつ誰が何故隠したのか。
原作では謎のままでしたが死体は誰が何故隠したのでしょうか。