人生は薔薇色である! いや、スポットライト色かもしれない!!
アイドルって思ったよりめちゃくちゃ体を使うし、疲れるが、最高である。
特に仲間と一緒に頑張るというのがなんと言っても楽しい。
年齢に見合わない魅惑のぽよぽよボールを2つもったみなみちゃんに変幻自在のコスプレの達人、中身は小動物みたいでかわいい未実ちゃん!!
そして輝く笑顔のルビーことわ・た・し!!
誰かに見てもらえるのは幸せだ。
誰かの記憶に残るのは幸せだ。
誰かに笑顔になってもらえるのは嬉しい。
誰かを幸せにできるのは幸せだ。
誰かの支えになれるなんて最高に幸せだ
アイドルは全部全部できるんだ。
医療ドラマの『推しのカルテ』に出演したときはドラマという大きな舞台であることもあり、ファンレターをたくさんもらった。
その思いは1文字1文字同感で、その子はまるで過去の私だった。
だからこそ、私がアイからもらったように、希望を伝えたかった。
無理言ってその子には私のキーホルダーとサインを送りつけてしまったし、そのお礼の手紙とそのお礼のお礼の手紙の……と手紙とやり取りを続けている。
何度も何度も手紙を交換しあって『ルビーさんは何でも気持ちをわかってくれて不思議! きっと運命なんだ』なんて言われてしまって。
間の手術があって、それはもう、心配になった。
手術の日もソワソワしたし、予定時間からは祈ることが増えた。
家族だって不思議そうにしていたけど、止められなかった。
ああ、神様。今の生活は最高に幸せですけど、あの子の手術は成功させてください。
手術は成功しましたとご家族からメールで連絡がもらえたときは自分が治ったように嬉しかった。
その後の手紙には今度ライブに行きますといってくれていて、握手会に私に似た……ううん、ドラマの私と同じニット帽を被ったその子と握手ができてとてもとても嬉しかった。
ああ、私はいつかのアイみたいにアイドルになれているんだ。
自然に涙が溢れてしまって、嬉し涙だったんだけど、何も知らないママとお兄ちゃんには狼狽えられて、わけがわからない二人に抱きしめられたりお菓子を進められたり接待されたっけ。
なんだか普段の様子と違うけど、妙に嬉しかった。
今回PVを取ることになった。
このPVと新曲でバリバリ人気になっていくわよ! とミヤコさんも社長も張り切っているし、私もやる気が燃えている。
悩みがないわけじゃない。正直まあある。
恋敵が中々手強いところとか、アイドルだから好きな人との時間を秘密にしなきゃいけないとか。
でも、絶対いつか掴み取って見せる。
絶対負けるもんか。
私は、前世の分も、幸せになるんだ!!
その日、ホテルのテレビのローカルチャンネルで産婦人科医が白骨死体で見つかったというニュースを見るまでは光り輝いていたのだ。
あんまりに驚いてお兄ちゃんに連絡すれば【ああ、俺が雨宮吾郎の遺体を見つけた】とメールを貰った。
──私は勘違いしていた。
幸せはいつだって永遠ではないということを忘れていた。
不意にすべてが崩れてしまうことも世界にはたくさんあるんだって。
忘れちゃってたな……。
**
死体は予想以上に簡単に見つけることができた。
田舎の草木の生い茂った山道はシティーボーイには相当に歩きづらかったが、お互いにそれなり以上に鍛えている同士である。
目的地自体はしっかりと決まっていたため、迷いなく歩き続けた。
病院からはさほど遠くなく、吾郎宅からすればそこそこの距離。
でもどちらにせよ、悩む時間があるほどに長い距離でもなく、対して遺体を見つけてどう反応しようかなんてことを決め終える前に到着してしまった。
祠を見つけ、アニメのとおりだと思い出していれば、アクアが祠の朽ちそうな側面をノックする。
「ノックしたって誰も返事しないぞ」
「そりゃな。でも、"入ってたら"いきなり開けたら失礼だろ?」
「入っててもそりゃ雨宮吾郎だよ」
ここまではアクアも正直候補の一つとしか思っていない。
ここを最初に探し始めるポイントとしか思っておらず、まさか、といったところだ。
だからこそ軽口を叩いているところだが、こここそが当たりである。
まあ、自分の手入れしていた因縁の場所に自分の遺体が放置されることになるとは夢にも思うまい。
アクアより早く祠の奥を覗き込み、明かりを照らす。
「いたぞ、雨宮吾郎だ」
「は?」
アクアもまた、急いで覗き込む。
そこには白骨化した一人の男性がいた。
己の正体を残すためのように白衣だけはボロボロになりながらも形を残している。
白骨化した遺体に最後何を思ったのか手に握ってたであろう携帯。
そこにはアクアの前世があった。
急に体温が下がるのを感じる。
死の空気で居心地が悪い。まあ、死体が近くにあって居心地がいいはずがないか。
「アクア……」
「あ、いや、はは、こうやって見ると、ちょっと運動不足だったかな……骨密度が……いや、何言ってるんだ。俺は。違う、そうじゃない……ああ、こういうときって頭が一杯になってドラマみたいにいいセリフ出てこないな……」
「そんなのいいよ……」
アクアはぼうっと雨宮吾郎の遺体を見ていた。
そのきれいな水色の瞳で何を想うのか。
大きなショックを受けるかもしれないが、俺は悪いことではないと思っている。
だれだって、遺体と自分を同一視することはできないだろう。
自分の遺体だと知っていても、雨宮吾郎は死んでいて、自分は星野アクア……愛久愛海であると実感できるはずだ。
崩れた遺体のそばに一つのアイドルグッズが落ちている。
ああ、あれか。
"アイ無限恒久永遠推し!!! "キーホルダー。
物語の『キー』になるアイテムだ。
さりなちゃんから雨宮吾郎がもらった形見といえるもので、原作でもこれでアクアとルビーがお互いの正体を確信した。
そんな雨宮吾郎にとって大事なアイテムにアクアは手を伸ばして……手に取ることなく手を閉じた。
「いいの? 通報前なら言い訳効くけど」
「いや……いい。あれは、雨宮吾郎とさりなちゃんの大切なものだ。俺が受け取るより、雨宮吾郎といっしょにあるほうがいい気がする」
「そっか。まあ、いいならいいか……。通報しようと思うけど、アクアもつきあってもらえる?」
「ああ」
「まあ、15年近く前の遺体だし、年齢的にも発見者の俺等が何を言われることはないだろうけど、足跡だの色々残ってるだろうし、顔出さないのはあれだからな」
携帯を開き、昔雨宮吾郎のことを相談した刑事に連絡をする。
話が分かる刑事だから、発見者として"姫川大輝"の名前は出さないでくれるだろう。
その後はまあ、アクアと二人で少々刑事に話を聞かれた程度で、大体は向こうがやってくれた。
なにせ前々から行方不明になった会ったことのない親類についてここらを訪ねているという実績があるので、今回も散歩ついでにぶらりと回っていて祠を見つけて覗き込んだら見つけてしまったともっともらしい理由がついている。
一時間程度で俺達は解放されたが、迎えに来てくれた保護者枠のミヤコさんからも色々話を聞かれた上に、今日はうろちょろするなと言われて宿に缶詰になることになってしまった。
アクアはルビーのPV撮影を見に行きたがっていたが、まあ、仕方がない。
俺達は何度も風呂に入っては駄弁ったり、卓球をやったり、また風呂に入ったり、マッサージチェアに座って笑ったり、いつのものかわからない対戦ゲームをしたりして過ごしていた。
観光地を巡れないのは残念だが、これはこれで良い時間だと想う。
悩むルビーを他所に観光を楽しんでいる太い兄弟たち