「ふぅ〜……」
部活終わりの汗ばんだ体を風呂場で洗い流してスッキリする。
首筋にツ~っと流れる水滴は鍛えた肉体をなぞりながら落ち、鍛え抜かれて凹凸のハッキリした腹筋の上に止まったそれは部屋の光を反射し、男ながらに怪しい色香を放つ一役を買っていた。これを世に出せば金を取れるであろう光景だ。
そんな魅惑的な光景を作り出している零士は机に置きっぱにしていたスマホに何件かのメッセージが届いているのを確認する。
差出人は自身の彼女である後藤ひとりからで、その内容は今回のライブの感想がつらつらと書き綴られていた。
お客さんの前で仲間との初の演奏が楽しかっただの、ダンボールの甲冑を着てライブに出てみじめだった等と、意味不明な内容もあったが、零士はひとりが楽しめたならそれでいいかと返信した。
内容はよかったじゃんと一言だけだが、秒でひとりから返信が返ってきた。
「これは……」
ひとりからの返信には『そ、それで、1つお願いごとが……』となにやら面白くも面倒くさそうな臭いのする一文がそこにはあった。
服を着替えて自分の部屋に戻ると同時にひとりに電話を掛けると、1コールで対応された。
さてはこいつ、俺からの返事がくるまでずっとスマホの前で待機しているつもりだったな。
「も、もしもし!」
「よお、ひとり。ライブ楽しんだみたいだな」
「う、うん。とっても楽しかったよ! それに、みんなとも仲良くなれたし!……でも、色んなお客さんの前で醜態を晒しちゃったし、帰りに虹夏ちゃんと喜多ちゃんの打ち上げの提案も断って逃げてきちゃったしで……」
最初のテンションはどこにやら、途中から新たに出来た黒歴史の暴露に変わってひとりは落ち込んでいく。
本当にこういうところは面倒くさいが、それと同時に俺からしたらこういうところが可愛いらしいと思ってしまう。
最初は好奇心からの付き合いだったのに、1年の交際期間を経て興味が恋へと変わった。
「あんまっかしチョロい男じゃねえと自分自身では思ってたんだがな……」
「えっ、ごめんなさい、なにか言った?さっきちょっと妹がきちゃって聞いてなかった」
おっと、思わず心の中の声が口に出ていたか。幸いにしてあっちで何やらトラブルが起きてひとりの耳には届いていないようだったが。
俺はなんでもないと返すと、少し間を置いてから少し真面目っぽい声色でひとりが本題を告げる。
「その、ね……。零士君ってバイトとか興味は……」
「ない。っていうか、してる暇がねえ」
「で……ですよね……」
俺のにべもない回答にひとりは電話越しでも分かるほどに落ち込んでいくのが分かる。
それにしても、こいつの口からバイトの単語を聞く日が来るとはな。大方、バンド活動資金の為にほぼ強制的に参加させられたってところか。
「っで、一応聞くけどどこのバイトに応募したんだ?」
「あっ、それは虹夏ちゃんのお姉さんが経営している今日のライブしたSTARRYっていう店で働くことに……」
「なんだ、面接がないならちょうどよかったじゃねえか。お前じゃ面接なんて到底受からないだろうしな」
「ううぅ……。事実なんだけど、そんなハッキリ言わなくても……」
その後もひとりの愚痴を茶化しながらくだらない雑談で時間を潰した。
流石に深夜になればひとりの母親が注意しに来た為に止められたが、本当にあっという間に時間が過ぎたものだ。
「それじゃ、バイトは一緒にできねぇがバンド共々応援してるぜ」
「うん、ありがとう。零士君もバスケの練習頑張ってね」
寝る前の最後の挨拶。互いにおやすみと口にして電話を切ってベッドに寝転がる。
部屋の照明が消えて真っ暗闇になった天井に幻視するのは半泣きでバイトに勤しむひとりの姿だった。
「やれやれ、マジで俺ゾッコンだな、おい……」
暗闇の中、顔を赤くしながら寝ようと必死に目をつむるが、直前までひとりと会話していたことで昂っていた気分が眠気を吹き飛ばして中々寝付けないでいた。
やがて、ベットの上でギシギシと奇妙な音が鳴り出すが、これを読んでいるのが男性ならば、彼がベットの上でナニをやっているのかは察しないでいただけるとありがたい。
side:後藤 ひとり
お母さんに注意されてしまい電話をやめて布団に潜る。
明日も学校の為に早く眠りにつこうとしたが、中々に寝付けないでいる。
その理由は単純に、零士君との電話でした会話が原因である。
あの時、つい咄嗟に妹が部屋に乱入してきたと言ったが、事実としては部屋の前でジミヘンと遊んでいたふたりに気を逸らした瞬間に、不意打ちで呟かれた一言に噓をついてしまった。
意図して出した言葉ないからこそ伝わるダイレクトな思いが私の心を揺さぶる。
「あれってそういうことだよね……」
む~~~!!!っと布団の中でもがき苦しむ魚のようにのたうち回る。
それってつまり、所謂少女漫画とかでいうツンデレみたいなアレなんだよね?
基本、零士君っていじったりはするけども。今までずっと愛の告白とかないままに付き合い続けてきたけど、アレって私のことが好きってことだよね!?
ずっと一緒にいたけれど、あんなに直球で好意を向けられたことは終ぞなかったけど、こういう不意打ちで来られると……。
「なああああぁぁぁ!!!!」
枕に顔を埋めながら足をバタバタさせる。
こんな状態で眠れるわけもなく、しばらく暴れてようやく疲れ果てて、いつの間にかそのまま寝てしまった。
次の日、目の周りに隈を作って喜多ちゃんに心配されたけれども、理由を言えずに苦笑いでやり過ごしたことは内緒です。
内容がただのイチャラブで薄いかな……。