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風邪も治った月曜日の朝、昨日の零士君がお見舞いの土産として持ってきた残りのゼリーを朝食のデザートとして食していると、妹のふたりがニマニマしながら質問してきた。
「ね~え、お姉ちゃん。お風邪も治ったし、今日から学校だね。もしかして、昨日の彼氏さんと登校するの?」
「っぶ!あ、あ~、零士君はそのね、同じ学校じゃないから一緒には行けないんだよ」
思わず口に含んでいたゼリーを吹き出しかけたが、ギリギリのところで踏みとどまることに成功した。
危なかった、もう少しで姉の威厳が損なわれる姿をふたりに見せるところだった。
でも、ふたりは私の返答に納得いかなかったのか、ジト~っとした視線で訴えかけてくる。
「ひとりちゃん、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうわよ」
「あっ、そ……そうだね。じゃあ、お姉ちゃんは学校に行ってくるから、ふたりも幼稚園に行ってくるんだよ」
「え~、もっとお姉ちゃんの彼氏の話聞きたい~」
お母さんに促され、慌てて残りのゼリーを一気に口に放り込むと、ぐずるふたりの声を背にして私は学校に登校する。
3日ぶりの学校ではあるが、私は彼氏持ちでバンドを組んでライブハウスでバイトしている。
つまり、今の私は紛れもないリア充!ならば、きっと誰かが私に話しかけてくれるはず!!(他力本願)
学校に着き、クラスに顔を出すが結局誰からも声を掛けられずに席に着席する。
クラスメイトからの視線は感じるが、誰も話しかけてはこなかった。
やっぱり、こっちから話しかけなきゃダメなのかな?
「でさ~、ボーイミーツガールの新譜なんだけど」
「うわ~、マジじゃん!」
あっ、バンドの話だ。これなら、私でも話しに参加できる。
「あっ、あの……」
「えっ、後藤さん?」
「どうしたの?」
うっ、いざ話しかけようにも、なんて話を振りかければいいか?
いつもは会話なんて零士君から話題を出されて返事するだけだったから、自分からどう話かければいいか分からない。
「後藤さん……?」
いつまでも黙っている私を心配してくれるクラスメイトに申し訳なくなってくるが、それでもどうすればいいか分からずに固まっていると、廊下から突然声が聞こえてきた。
「おーい、後藤さん!」
「え、喜多ちゃん!?」
「後藤さんに用事!?」
あっ、やばい。このパターンは!?
昔、中学でもあった。零士君と付き合い始めたばかりの頃、こんな感じでクラスメイト達から疑問の目が向けらて、そこから色々とバレたりして大変な目に……!?
……は無かったっけ?なんか遠巻きに見られることが多かったけど、別にそんな騒ぐようなことは……ある!!
陰キャのぼっちにとって、他人の視線ほど凶器なものはない。
変に陰口を叩かれたり、あること無いことを噂されたり、変なことを吹聴されたりして、最終的に私の居場所はなくなったりなんて、想像するだけでお腹が痛くなってくる。
「あっ、あ~、ごめんなさい。喜多ちゃんに呼ばれたから私ちょっと行ってきます」
フラフラ~っとと廊下に出て、喜多ちゃんのもとに歩く。
「あっ、後藤さん。こっちこっち!」
喜多ちゃんは嬉しそうに手招きをしているが、私はもっと声を抑えて欲しいと心の中で抗議しながら、喜多ちゃんのもとへ急ぐ。
「あ、あの、喜多ちゃん……声……」
「あっ!ごめんね~。後藤さんを見かけたからつい嬉しくて」
これ以上周りから注目される前にどこか別の場所に移動してもらう。
私いきつけの人がいない空き教室に連れてきたが、こんな埃っぽい場所に誘い込んで良かったのだろうか?
もしかして怒ったりなんかは……してないようだ。
「病み上がりなのにごめんね!」
「いえ、別にそんな……、それで一体どうしたんですか?」
「うん、実はね、後藤さんにお願いしたいことがあって……」
お願いごと?私と違ってバリバリの本物リア充である喜多ちゃんが、こんな偽物リア充(マジ陰キャ)の私なんかにお願いなんて。
あっ、もしかしてバンドのことかな!!
あれ?けどギターの練習は付き合ってるし、歌の方は私じゃ力になれないし?
本当に何なんだろう?
「えっとね、実は後藤さんに聞きたいことがあるの。その、デートするのにいい場所って何処かな?」
「へっ?」
デ……デートにいい場所?む……無理無理!!私なんかがそんなリア充中のリア充が行くような場所を教えるなんて!?
「わ……私なんかがそんなリア充が行くような場所なんて教えられません!!」
「え~、そんな~……」
ガッカリとした風に肩を落とす喜多ちゃんに申し訳なさを感じるが、こんな自分なんかがそんな東大レベルの難問の解を教えられる訳がない。
っていうか、どうして喜多ちゃんが急にデートの場所を聞いてくるのだろうか。
いや、そんなの答えは1つしかないじゃないか。
「えっ、喜多ちゃん。もしかして彼氏が出来たんですか?」
「ん?彼氏?いや、そんなのいないけど」
「あれ?」
あっけからんと答える喜多ちゃんに、私は頭にクエスチョンマークを浮かべる。
えっ?じゃあ、なんでデートの場所なんて聞いてきたんだろう。
「そのね、実は昨日リョウ先輩がお金がなくて困っていたからご飯なんかを貢いでたんだけど、そのお礼として今度デートしてくれることになったの!」
「え~~……」
一体何がどうなってそんな事になったのだろうか。この3日間、私がいない間に何かがあったのは何となく分かるけど。
それにリョウさんがお金がなくて困っていたっていうくだりも気になるけど……。
ともかく、喜多ちゃんは今度リョウさんとデートすることになったようだ。
そして、そのデートで失敗しないように私にアドバイスを貰おうとしてきたみたいだ。
「あの、本当にごめんなさい。私もデートとかは何度かしたりはしてるんですが、そういうのは全部零士君が考えてくれたものだから、私じゃ役に立てなくて……」
ごめんなさい!と頭を下げると喜多ちゃんは慌てた様子でそれを止めてきた。
「あっ、じゃあ、今まで後藤さんがあの零士君って人とどんな所にデートしに行ったか教えてくれない?」
「ふぇっ!?」
「それを参考にすれば私もリョウ先輩とのデートも上手くいく気がするの!!」
確かにその理屈は分かりますが、喜多ちゃんに今までの私と零士君のデートの話をするってことはつまり、シラフで私に惚気話をしろってことですか!?
「うぅ~、その……それだけはご勘弁を……」
「うぇっ!?無理なら別にいいから、そのお金しまって後藤さん!?」
私は財布から千円札を取り出して、土下座で許しを乞う。情け無いとは分かっているが、それでも無理なものは無理だ。
そんなこんなで喜多さんとのお話は終わり、私は教室に戻って来た。
クラス中から何やら視線が飛んでくるが、誰もこちらには近づいては来なかった。
正直、ありがたくはあるのだが、この微妙な空気の中で注目され続けるのはぼっちにはキツイ。
そのまま、緊張したクラスの雰囲気に耐えながら、放課後まで生き抜いた。
ようやく授業から開放された生徒が皆各々帰り支度をするなか、誰にも絡まれないようにといの一番にひとりは教室を飛び出して帰ってしまう。
「うっ、ようやく学校が終わった……」
重労働を終えた囚人のような顔をしながらフラフラと千鳥足でライブハウスに向かって歩いていると、ぐにゅっと何かを踏む。
「うん?うぇへっ!?」
「うぐっ、うぇぇん……!!」
柔らかい物を踏んだと思って下を向くとそこには涙を流して倒れている女性がいた。
赤髪のツインテールの可愛らしい人で、見た目からして大学生だと思われる。
本来ならばそんな得体の知れない人物と出会えば、即座に逃げ出すところなのだが、ひとりは女性の姿を見て思わず固まってしまった。
こんな何も敷いていないアスファルトの路上で濁流のように泣いている女性を踏んだという事実が、ひとりに罪悪感を植え付けてしまい逃げられないでいたのだ。
「あ……あの、大丈夫ですか?」
思わず倒れている女性に声を掛けて、彼女を介抱しようか悩みながら助け起こそうとしたが、彼女はなおもエグエグと涙声で会話すら出来ない状態でどうすればいいか分からず、ひとまず近くのベンチに移動させる。
しばらくして、ようやく落ち着いたのか女性は目元を拭きながら呼吸を整えると、恥ずかしそうにひとりにお礼を言ってくる。
「み、みっともないところを見せたわね。礼は言っておくわ。あ……ありがとう……」
「あっ、いえ、その、こちらこそ踏んずけてしまって、すみません!!」
テンプレ通りのツンデレな態度の女性に、ひとりも慌てて踏んでしまった事を謝罪する。
そもそも、どうしてあんな所で泣いていたのか訊ねると、再び女性は涙目になってエグエグと泣き始めてしまう。
結局、ひとりは女性の涙がおさまるまで介抱するしか無かったのであった。
「うぅ……ひっぐ……、ようやく落ち着いたわ」
「それは良かったです……」
少しの時間を置いて女性は再び落ち着きを取り戻したようだが、未だに涙目で鼻をすすっている。
「こんなこと、会ったばかりのアンタに相談するのもおかしな話なのだけれど、ちょっと話を聞いてくれないかしら」
「えっ……あっ、はい……」
正直、道端で泣いていた初対面の女性の事情なんてあまり聞きたいものではないが、逃げようとしてもいつの間にか手首をガッチリと掴まれていたし、あんな所で泣いていた理由も全く気にならないという訳でもないので、観念して女性の話を聞くことにしたが、その選択をひとりはさっそく後悔することになる。
「あのね、私実は好きな人がいるの、その人は顔はワイルドって感じで、スポーツ万能のイケメンなの!!」
「は、はぁ……」
なんとなく零士君に似ているなぁ~っと思いながら聞いていると、女性はその男性を好きになった経緯から失恋までの流れを話しているうちに、だんだんとヒートアップしてゆき、最後には絶叫に近い声量で語り出した。
「けど、その好きな人は私の親友と付き合っちゃたのよ!」
「そ……そうなんですか」
キ、キツイ!道端で泣いている時点で相当に重い話であることは予想出来ていたけれども、まさかの失恋話……それも相手が小学生時代からの親友とくっついてしまったという内容に私はすぐにでもこの場から逃げ出したくなってしまう。
けれど手首は未だに掴まれたままで動くことが出来ない。
「ぐすっ……私だって親友が好きだし、出来ることなら祝ってあげたいわよ!でも、でも!なんでその相手が私の好きな人なのよぉぉぉ!!!」
ついにはひとりの胸元に抱きついて号泣する女性に、ひとりは困惑することしか出来ない。
本当ならここで気の利いた台詞の1つでも吐いて元気づける場面なのだが、コミュ症であるひとりには難易度がいささか高すぎる。
結局、ひとりは女性がスッキリするまで胸を貸し与えるだけなのであった。
「ううっ……ぐすっ……、あ~スッキリした。色々ごめんなさいね。そういえば自己紹介してなかったかしら、私の名前は柏木眞妃!よろしくね」
「あっ、私の名前は後藤ひとりです。よろしくお願いします……」
ようやく泣き止んだ眞妃さんはひとりから胸元から離れて自己紹介をしてくる。
ひとりはようやくこの重苦しい雰囲気から解放されるとほっと胸を撫で下ろす。
「ねえ、今度このお礼をちゃんとしたいから、あんたの連絡先を教えてくれない?」
「い、いえ、別にそんな!?私なんてただお話を聞いてただけですし!」
「それでも、迷惑を掛けたのには違いないんだからさ、私にお礼くらいさせなさいよ!」
「で、でも、なんか悪いですし……」
その後、眞妃さんの強引とも言える圧に屈したひとりは連絡先を教えることとなった。
それが後に、この柏木眞妃との長い付き合いになるとも知らずに……。
この作品では風邪の回の後は喜多ちゃんが初登場することになっているのだが、既に登場してしまっているから、どうしたものかと悩んで時間が掛かりました。
一応、面白くなるように自分なりに考えて学校での喜多ちゃんとの絡みを書いてみたものの、短いしそこまで面白いかと言われればう~ん?ってなってしまう出来だったので、執筆が止まっていましたが、とある漫画を読んであっ!オリジナルキャラを入れてみたらいいじゃん!となって執筆が再開しました。
これからはもっと早い投稿を目指すので、よろしくお願いいたします。