ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース   作:リーグロード

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青春ギターリストは結婚の夢を見ない

 梅雨も明けて既に季節は夏本番!!いつの間にか過ぎていた7月の思い出は結束バンドでの練習と偶にある零士君とのデートしかない。

 いや、こう思い返してみれば充分あるかもしれない。

 

 そうして、7月の最後には店長さんのオーディションを乗り越え、結束バンドは記念すべき2回目のライブを迎えることとなったのだが!!

 

「ノ……ノルマ5枚!?父!!母!!妹!!犬!!そして零士君!!全部売れる!?」

 

 最初、ノルマ5枚と聞いた時は絶望したけど、こうして冷静に考えてみれば売り切れない数ではないのだ。

 

「ふへへへ……、わ、私にかかればノルマ5枚なんて余裕余裕!!」

 

 課せられたノルマ5枚をどうにかできると判断したひとりのテンションは青天井となっており、調子に乗って大口を叩くそんなひとりに冷や水を浴びせる言葉が家族から返ってくる。

 

「僕と母さんはともかく、ふたりとジミヘンは無理じゃないかな?」

「ふえっ!?」

 

 つまり、達成できるノルマは父、母、そして零士君の3枚のみ!!?

 最初はお母さんの友達を誘ってくれると言ってくれたが、辛うじてあるミジンコ程度のプライドがそれを拒否した。

 

「LINEじゃみんな順調に売れているみたいだし……。零士君もチケットは買ってくれるけど、練習で間に合うかどうか分からないって……」

 

 練習……練習かぁ……。私の高校でも夏休みの運動部の練習って結構長いらしいし、零士君の通っている高校は強豪校らしいから、練習時間はきっと長いんだろうな。

 

 けど、こっちも残りノルマ2枚。これを売り捌かないと結束バンドのみんなに合わせる顔がない!!

 

「というわけで、宣伝フライヤー作ってビラ配りでチケットを売ろうと外に出ただけなのに……」

「うへへへ……、お酒おいしぃ~~~」

 

 何故か行き倒れの酔っ払いの女性に絡まれました。

 デジャブかな?この間知り合った眞妃お姉さんと同じ倒れ方をしていたせいで、思わず声を掛けてしまったけれども、普通に酔っ払いの二日酔いだった。

 

「えへへへ、そっかぁ~。ひとりちゃんはバンドのギターなんだね」

「あっ、はい。そうです。それで……、きくりお姉さんはベーシストなんですよね?」

「そうなの!このマイベース……あれ?確かここに……?あはは、居酒屋に忘れてきちゃった!!」

「ええ……」

 

 慌てて居酒屋へ戻れば、ベースはちゃんと預けられており、そのベース『スーパーウルトラ酒吞童子EX』がお姉さんの手元に返ってきた。

 けど大切なベースを亡くしかけたのに、またお酒のパックを片手に飲んでいる。

 

「あっ、あの、もうお酒はやめておいた方が……。またベース無くしちゃうかもですし……」

「う~ん、そうなんだけどもね。でも、お酒飲んでたら将来の不安とか全部忘れられるしさ~……、つい飲まずにはいられないんだよね。これを私は幸せスパイラルって呼んでるよ」

 

(悲しい幸せだ……)

 

「ひとりちゃんも大人になったら絶対にお酒にハマるって……」

「そ、そうですかね……?」

 

 ふと、大人になってお酒に溺れる自分を想像する。

 

 電気もつけずに薄暗い部屋の中、ストゼロの空き缶が散乱する真ん中に敷かれた布団に埋まってスマホをいじりながら、涙ぐむ自分。

 

「ははは……、最近お母さんハロワ行けなんて言わなくなったな。このままじゃダメなのは分かってるけど、もう人生頑張れないよ……」

 

 そして思い出す高校生の頃の青春の時代。結束バンドとして活動したり彼氏とデートしたりと楽しかった日々。

 

「高校の頃はみんなと一緒にバンドしたり、彼氏の零士君と一緒にデートしたり、ううう……、あの頃の私って今と違ってリア充でキラキラしてて、なんでこんな風になっちゃったんだろう……?」

 

 目から流れ落ちる涙の分の水分補給としてまだ開けていないストゼロを手に取って、そのままラッパ飲みしてゴクゴクと喉を鳴らす。

 

「う~~~~……。辛いよぉ~……。みんなぁ……」

 

 そうやって酒に溺れる私だったが、次第に意識が朦朧としてきた時だ───

 

 バン!!

 

 部屋の襖を乱暴に開けて、怒りの形相をした零士君がそこには立っていた。

 

「れ……れ……零士君!?なんでここに!?」

「なんでここにって、お義母さんからメールでお前が部屋から出てこないから困ってるって連絡あったんだよ!」

 

 ズイッとスマホ画面を私の前に突き出す。そこにはお母さんから送られただろう今の私の現状を書き綴ったメッセージが映し出されていた。

 

「そもそもだな、今日が何の日か忘れてるだろ」

「今日?えっと……、何かありましたっけ?」

「やっぱり忘れてたな。お前、今日は俺らの結婚式場の見学だろうが!」

「けっ……、結婚式場の見学ぅっ!?」

「そうだよ。二十歳になったら執り行う予定だったろ。それをお前、呑気に部屋で酒に溺れて……」

 

 零士君が呆れつつも、私を立ち上がらせるとそのまま半ば強引に部屋から連れ出し始めた。

 

 連れ出された先には、テレビのドラマなんかで目にする結婚式の会場が広がっていた。

 煌びやかな様式が特徴的な式場は、まるで別世界へと誘うかのように私には感じられた。

 

「わぁ~~……凄い……」

 

 さっきまで酒に溺れていた私が言うような感想ではないかもしれないけども、思わずそんな声が漏れてしまう程だ。

 それを聞き逃さなかった零士君は呆れながら頭をなでなでしてくれた。

 

「お前、子供みたいな感想だな」

「だ、だって……」

「でもな、そういうお前も凄く似合ってるぞ」

「へぇっ……?」

 

 そう言われて自分の服装を見直してみれば、いつの間に着せ替えられていたのか、純白のウェディングドレスに身を包まれていた。

 

「ふぇっ、な……なんで!?いつの間に!!?」

「ほら、そろそろ式が始まるから行くぞ」

「えっ!?えっ!?!?」

 

 混乱しながらも零士君に手を引かれて結婚式場の中へ入ってみれば、そこには参列者が大勢集まっており、バージンロードが目の前に広がった。

 

「ぼっちちゃん!結婚おめでとう!!」

「ぼっち、結婚おめ!」

「後藤さん。結婚おめでとうございます!!ウェディングドレス姿とっても似合ってますよ!!」

 

 結束バンドのメンバーが拍手しながら、バージンロードを歩くひとりに祝福の言葉を贈る。

 他にも家族やSTARRYの店長さんやPAさん。眞妃お姉さんや酔っ払いのきくりお姉さんが泣きながら祝福してくれる。

 

「え?ふえっ!?」

 

 未だに状況が飲み込めないひとりを余所に式は進行する。そして神父さんが誓いの言葉を促す。

 

「新郎零士、あなたはひとりを妻とし、健やかなる時も 病める時も喜びの時も 悲しみの時も富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「ああ、誓うぜ」

 

 力強く、そして自信に満ちた表情で零士君が応える。

 私はその堂々とした姿に見惚れてしまい、気づけば思わずポロリと涙を流していた。

 それを目にした牧師さんが優しく微笑み、次の言葉を述べる。

 

「新婦ひとり、あなたは零士を夫とし、健やかなる時も、病める時も喜びの時も、悲しみの時も富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「あっ、ひ、ひゃい!?ち……誓いまひゅ!!」

 

 思わず噛んでしまったが、式は滞りなく進行する。

 そして、皆の祝福を受けるなか、結婚指輪の交換が行われる。

 

 私は零士君から指輪を受け取り、左薬指へはめた。

 そして私も同様に零士君に指輪をはめると、そのまま神父さんが誓いのキスを促した。

 

「ひとり……」

「零士君……」

 

 そのまま2人の影は皆の見ている前で重なり合う。

 これから続くであろう私達の結婚生活の始まりを祝福する拍手と言葉が飛び交うなか、どちらからともなく私達は互いに笑いあって今の幸せを嚙み締める。

 

 

 と、ここまでの全ては後藤ひとりの妄想である。

 

「そして将来、女の子と男の子を産んで、老後も家族で幸せに暮らして。ディヘヘヘェ……」

 

 現実ではこの様に、体育座りで頭の中の妄想を時たま口に出して悦に浸っていた。

 

(この子、急に落ち込んで叫び出したかと思えば、今度はニヤけてキス顔したり、子供がどうとか言い出して突然笑い出すし、結構やばい子だな……)

 

 いくらお酒を飲んでメンタル無敵なきくりでも、隣でほぼ無言のまま百面相されればドン引きするもので、ひとりから少し距離をとりつつ、こんな場所で何をしていたかを聞いてみる。

 

 ひとりがここで何をしていたか説明されたきくりは過去の自分の境遇と重ね合わせて号泣し、この道の先輩としてチケットノルマ達成の手伝いの為に即席で路上ライブをすることを提案してきた。

 

 




ぼっちちゃんを幸せにしてやりてぇ……。
その為には書き続けねえといけねからさ、感想と評価を忘れんじゃねえぞ……
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