結束バンドとしての本格的な初のライブ。自分達で作ったオリジナル曲だけでなく、バンドを象徴とするTシャツも欲しいということで、Tシャツのデザインを考えるため、後藤ひとりの家に集まって会議するという流れになった。
家に横断幕を飾り、歓迎の準備はバッチリ!……のはず。
家族にはバンドの友達が来るからと伝えると、パーティーの準備だと言って買い物に行ってしまった。
家にいるのは私と妹のふたりと犬のジミヘンだけ、出迎えられるのは私だけ。
緊張した面持ちで玄関前でスタンバイしていると、家のチャイムが鳴り虹夏ちゃんの声が玄関ドア越しに聞こえてきた。
「ぼっちちゃーん、来たよ~」
「あっ、いま開けます……」
ガチャリと玄関の鍵を開けると、虹夏ちゃんと喜多ちゃんの姿が見えたタイミングで、手に持ったクラッカーを鳴らす。
「いっ、いえぇぇぇい! ウェウェルカム~!」
「「…………」」
テンションに任せての歓迎はあまりウケがよくなかったみたく、2人からの白けた反応を見て、冷水を被せられたみたく冷静になった。
「……ぼっちちゃん、楽しそうだね」
「なんだか嬉しいですね。後藤さんも今日を楽しみにしてくれてて」
喜多ちゃんの精一杯のフォローに心苦しくなりながらも、家に招き入れる。
部屋へと案内すると、その内装にまたしても2人は絶句する。
「あっ、飲み物持ってきますね……」
「ありがとう」
そう言って部屋を出るひとりを見送り、2人が部屋を見渡してみる。
「それにしても、凄い飾り付けだね~」
「でもギターとかエフェクター何もありませんねぇ」
部屋中に飾り付けられた垂れ幕や横断幕、風船やナイトプールをイメージした壁紙などを横目に、部屋を観察する。
「私、後藤さんの部屋ってもう少しロックな感じか、彼氏さんとの記念品みたいなものが置かれてるのかな~って想像してたんですけれど、案外普通ですね」
「あ~、そうだね。けど、私ぼっちちゃんの彼氏さんって見たことないから未だにぼっちちゃんに彼氏がいるってイメージ出来ないな~」
喜多ちゃんの言葉に返事を返しながら、脳内でひとりの彼氏を想像するがイマイチピンと来ないでいる。
部屋に飾られている飾り付けを無視して部屋中を見回しても、何処にも常識外れなロックの類はなかった。
盛り塩やお札などは無く、よく見れば机の上や壁紙の一部にアー写が飾られており、そのことに虹夏と喜多は思わず、ふふふ……と微笑みを浮かべる。
ぼっちちゃんが自分達のことをちゃんと大事にしてくれていることを知れて嬉しいのだ。
「それね、いつもお姉ちゃんがよく眺めて笑ってるんだよ」
「わん!」
「「わひゃっ!?」」
突然背後から話しかけられてビックリした2人が振り向くと、そこにはひとりを小さくしたような女の子と可愛らしいワンちゃんがいた。
「あっ、皆さん……。お茶……」
「それでね、お姉ちゃんの彼氏くん。風邪で倒れてるお姉ちゃんとラブラブだったんだよ」
「うっひゃ~~~!?」
「後藤さんの彼氏さんもやりますね!」
飲み物を用意して部屋に戻ると、そこには虹夏ちゃんと喜多ちゃんが妹のふたりとジミヘンが戯れている姿があった。
私が部屋に入ったことに気が付いていないのか、私と零士君の話題で盛り上がっている。
恥ずかしさのあまり顔が熱くなり、手にしたお茶が溢れそうになる。
「ちょっ、ふたり!なんでここにいるの!?下で待ってなさいって言ったよね?」
「え~、だってお絵かきもう飽きちゃったもん!」
「わん!」
だとしても、勝手に人の彼氏とのエピソードを話すのはやめて欲しい。
現に、虹夏ちゃんや喜多ちゃんのこちらを見る目がニヤニヤというか、温かみのある生暖かいものに変わっている。
「ほ……ほら、ふたり。ジミヘンを連れて下に行こうね。今からお姉ちゃん、バンドのTシャツデザインを考えるっていう大事なお話をしないといけないから!冷蔵庫のアイス食べていいから」
「っ!もうしょうがないな~」
「わん!」
私は恥ずかしさに耐えかね、持ってきたお茶を置いて今日の本題に話を移す。
喜多ちゃんはえ~っと不満そうに声を上げるが、虹夏ちゃんは渋々といった顔で本日の議題であるデザイン案を考えることに了承する。
「それじゃ!Tシャツのデザインを決めよう!これに皆書いて」
そう言って虹夏ちゃんが用意したのは、油性ペンと紙だった。
「ぼっちちゃんの恋バナは聞きたいけど、今はそれよりもバンドのTシャツデザインのが大事!ということで、何か思いついたらどんどん言っていってね!」
そう言ってペンを配ると、2人も紙を手に取り各々考え始める。
一番最初にデザインを考えたのは喜多ちゃん。
「できました~!努力友情勝利をコンセプトにしました!」
「いや、それバンド関係なくなってない!?」
バンドのTシャツというよりも体育祭でクラスが着るようなTシャツのデザインが書かれたスケッチを発表。
流石にそれを採用する気は虹夏にはなく、色々とデザインについてツッコミを入れている。
「え~、いいじゃないですか。一致団結って感じがしてよくないですか?ねえ、後藤さん?」
当然と言えば当然な虹夏の反応に、多数決に持っていこうとひとりに声を掛けるが……。
「く、クラス一致団結……」
「ぼっちちゃん、体育祭に相当なトラウマが!?」
思い出すのは中学3年の最後の体育祭。私と零士君との交際が普通にクラス中に広がっており、体育祭の種目の1つである二人三脚で出場したら面白いんじゃないかという提案で、半ば強制的に私と零士君のペアで決定してしまう。
けれど、私と零士君じゃ身長差があるからまともに走るのも難しくて、結局最後には私がリタイアして別の身長が近しい子に変わってもらった。
その時のクラス中からのあの憐れむような目が今でもトラウマで……、けど、二人三脚の練習中に引っ付くのは恥ずかしかったけど、結構嬉しかったのは事実で……。
「なんか、急に震えて悲惨な顔になったかとおもえば、今度はちょっとにやけてませんか?」
「ぼっちちゃんもぼっちちゃんで乙女ってことだよ。鈍いね、喜多ちゃんも……」
悲しんでいるのか、それとも喜んでいるのか判断しづらい表情でいるひとりを観察していると、部屋の扉が開いて、妹のふたりちゃんが両親を連れてきた。
そして流されるままに、デザインの打ち合わせをいったん中止して、お昼をごちそうになることになった。
「そうして、誰の邪魔にならないように隅っこで座ってもみんな見てくるし、せめて1つくらいは参加しなきゃってなっても、私の運動神経じゃビリになっちゃうから迷惑は結局かけるわけで……、はっ!!」
いつまでも体育祭の件でブツブツと独り言を漏らしながら、顔を青ざめたり頬を赤らめたりするひとりの目の前に熱々のから揚げが置かれる。
顔を見上げれば母が優しい笑みでキッチンへ戻っていった。
そして、机の上に飲み物やピザや揚げ物などのパーティーセットが置かれていく。
「友達が来るって聞いて、お母さんはりきっちゃったわ。最近のひとりちゃんって、友達も出来て、かっこいい彼氏君も家に来て、高校生になってここまで成長するなんて思いもしなかったわ……」
よよよ……、と泣き出しそうになる母親に、ひとりは慌てて友達の前でそんなこと喋らないでと言いたげに「お母さん!?」と普段では考えられない声を上げる。
だが、母の言葉を止めるには少々遅く、彼氏が家にやって来たという発言を聞いて、現役JKの喜多ちゃんが恋バナの匂いを嗅ぎつけて目を輝かす。
「あっ、それって後藤さんが風邪をひいてお見舞いにきたって話ですよね!?」
「ええそうよ、それにこの前もひとりちゃんがチケットノルマが達成できないって外へ出掛けて帰ってきたと思えば、零士君と花火デートすることになったって嬉しそうに言ってくるから、私も慌てて奥から着物を引っ張り出したりしてね~」
「ちょっ、お母さん!!」
「なに、花火デートだと!?お父さんそんな話は聞いてないぞ!!?」
一度うやむやにした話を蒸し返す喜多ちゃんに、聞かれてもいない花火デートの話までベラベラ喋る母の言葉に飛び火して父までこの話しに参加しだしてきた。
結局、その後はご飯を食べ終えるまで恋バナばかりさせられたが、ほとんど私の反応を楽しまれて終わった気がする。
ちなみに、花火デートの話題の時、ひとりは顔を赤くして俯くばかりであったが……。
こうして、後藤家の歓迎パーティーを終えて、ひとりの部屋に戻って結束バンドのTシャツデザインの作成会議を再開する。
「あっ、私のデザインも見てください……」
そして、ここで満を持してひとりが考えたデザインを発表する。
虹夏もひとりの考えたデザインに期待し、出来上がったスケッチブックに描かれたデザインを見ると「うっ」と声を詰まらせる。
「こ……これは……」
「すごく……、個性的ですね……」
そこには、赤の生地に中学生男子が好みそうな英語のロゴと大量のファスナーや鎖が付いた……中二感あふれるTシャツのデザイン案が描かれていた。
更に、極めつけにスケッチブックを1枚めくり、裏側のデザインとしてピンクのハートでI♡結束バンドという、青春コンプレックスを抱えていると自称するひとりらしからぬデザインだった。
「えっと、この際だから大量のファスナーと鎖は置いておくとして、2枚目のこのハートマークのこれは?」
「あっ、それは、結束バンドの仲の良さを表現しようと、私なりに考えてデザインしました!」
「ん~~、それは素直に嬉しいんだけど……」
テヘヘへとばかしに採用される気満々な笑顔を浮かべるひとりだが、2人の感性からいって、このTシャツのデザインはダサいと感じている。
だけど、それを正直にひとりに伝えられるほど、2人は人の心がないわけではない。
(ねえ、これなんて言って断ろうか?)
(わ、私は無理ですよ!あんな様子の後藤さんにダサいなんて言えません)
「えへへ、いや~、わ……私が本気を出せばバンドTシャツぐらい、ちょちょいのちょいですよ!」
自身の力作に称賛の言葉を期待し、不気味な笑顔を浮かべるひとりは、こそこそと会話する2人の方に気づいていない。
どうにかして、あのクソダサTシャツを没にしようと悩んでいると、ふと虹夏がある疑問を覚えた。
「っていうか、なんでハートマークなわけ?星マークならウチのSTARRY関連とかで分からないでもないけど、普段のぼっちちゃんならハートマークなんて絶対にしないでしょ?」
「うへぇ!?そ……それは、その……」
「あっ、もしかして、彼氏さんの影響かしら!!」
「あびゃっ!!?」
急に図星を突かれたひとりは、動揺のあまり顔を真っ赤にする。(顔面ピカソ)
そんな分かりやすいひとりの態度に、喜多ちゃんも虹夏もニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。
「んもう、ぼっちちゃんラブコメ多すぎ!どんだけ彼氏君とイチャラブしてるの!?」
「キャ──!!後藤さんの恋愛マスター!!」
「いいいえいえいえいえ!!!わ……私なんかが恋愛マスターだなんて。恋愛が上手いのは全部零士君で、私なんて花火大会の時も零士君に……っは!」
「おっと、これは恋愛マスターの自白が聞けるパターンですね!」
口を滑らせてしまったひとりに喜多ちゃんがツッコミを入れ、虹夏も目を輝かせて続きを促す。
「え!?なになに?ぼっちちゃん、もしかして花火大会デートした日に何か進展でもあったの!?」
「いや、あの……その……」
恥ずかしい。あんなことを誰かに……ましてや、と……友達に自分から言うなんて。
でも、ホントは聞いて欲しい気持ちも……ちょっとはある。
私の彼氏はとても強引で、ロマンチストで、王子様みたいで、そして……私にとっても優しいんだって。
でも、それを口にするのは恥ずかしいのは勿論のこと、私だけが知ってる零士君を
だから……、
「な……内緒です……!!」
私は精一杯の強がりで、虹夏ちゃんと喜多ちゃんにそう言った。
数日後、STARRYにて結束バンドのTシャツの発表となる。
「え~、そんなわけでTシャツはいい案が出なかったので、私の案になりました」
無難に黒の生地で結束バンドのロゴとマークが描かれたTシャツに決定した。
メンバー全員が着用することで見た目的には結束感が出ているように感じる。
明後日にはついにライブ当日、これまでの練習の成果を発揮すれば問題はない。
しかし、そんな記念となる日とは裏腹に空は暗雲が立ち込めており、今にも雨が降りだしそうである。
ひとりと独り占めを掛けたぼっちちゃん側からの愛の告白です。
前回のキスは全然反応が返ってこないし、恋のABCばかりだったから、次回はもっと盛り上げるアオハルを描いていきたいと燃えています!!!