やあ、みんな!僕の名前はギタ男!!後藤ひとりのイマジナリーフレンド、……だった者さ。
幼稚園から小学校、そして中学2年生になるまではずっと僕がひとりちゃんの友達だったんだ。
それを、あの鬼龍院零士とかいうあん畜生が現れてから、ひとりちゃんはずっと零士のことばかり考えて、最近じゃ僕のことなんて忘れ去ってしまっているんだ!!
こうなったら、僕の命を燃やしてあの零士の野郎を「だぁ~~~!!!ちっくしょぉぉぉ!!!」うわぁ~~~!!
鬼龍院零士への怒りを燃やすギタ男は酒を飲んだ店長の叫び声によって店の外へ吹き飛ばされる。
「鬼龍院零士……許さねぇ……」ギタ男は恨みつらみを残したまま、夜の街へと消えていくのであった。
結束バンドのライブ成功を祝う打ち上げの筈が、店に着くなりやさぐれ四天王の「ビール大ジョッキで!!」の一言によって愚痴の言い合い大会と化してしまった。
「んぐんぐ、ぷはぁ~~、最近の学生はけしから~ん!」
「そもそも、女はオラオラ系が好きなんだろって考えが気に食わないんですよ!なんですか、ご褒美ついでのマーキングって!!う、羨ましくなんか……グスッ」
「うえぇぇ~ん!私だって……私だってあんな彼氏が欲しかったよぉ~~~!!」
頼んだビールジョッキが届いた瞬間、乾杯の合図もなくそれぞれがジョッキを手にして一気飲みからの、この醜態を晒すまで僅か2秒ほど。
どこぞの暗殺者さんも「恐ろしく速い飲酒、俺でなきゃ見逃しちゃうね」と褒めてくれそうな光景である。
そんな光景を少し離れた席で虹夏ちゃんがため息まじりに見ていた。
「はぁ~、まったくお姉ちゃん達は……。ごめんね、みんな。折角の私達の打ち上げなのに」
「いえいえ、私は大丈夫ですよ。ただ……」
「うん。あれどうしよっか?」
ちらりと横を見れば真っ白に燃え尽きていながらも、頬と首筋だけ妙に赤いという状態の後藤ひとりが壁にもたれて倒れている。
「う~ん、そっとしておくべきだろうけど、折角の結束バンドのライブ成功の立役者だし、ちょっと起こそうか」
虹夏ちゃんが「ぼっちちゃん、起きて~」と肩をゆすれば、ひとりはのっそりとした動きながら、大人しく席へと着く。
未成年ゆえにお酒ではないが、ソフトドリンクをそれぞれ片手に持ち、虹夏ちゃんの乾杯の音頭と共に結束バンドの初ライブ成功を祝しての打ち上げが始まる。
「ぼっちちゃん、今日はお疲れ!大活躍だったね!」
「は……はい……ありがとうございます……」
「後藤さん、あのギターソロ凄かったですね!」
「あ……、調子こいてイキってすみません」
「ええぇ……!?そんな、責め立てたつもりはないですよ!」
みんなは知らない。あのギターソロはひとりが零士に対しての嫉妬や独占欲といった感情で弾いたもので、それを褒められている今の状況に、ひとりは恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいいっぱいであった。
「とりあえず、何か頼みましょうか。私はアボカドのクリームチーズにしますけど、皆さんどうしますか?」
喜多ちゃんがこちらにメニュー表を渡してくるが、いきなりあんな陽属性バリバリな料理名を出された後では、なかなか頼むのも難しい。
「私は……その……、じゃあ、このマルゲリータで……」
「わっ、私は、マチュピチュ遺跡のミシシッピ川グランドキャニオンサンディエゴ盛り合わせで……」
「どこ!?どこに書いてあるの!?」
存在しないメニュー名に虹夏ちゃんが困惑させてしまったので、後で普通に「フライドポテトで……」とちゃんと訂正を入れる。
「私は酒盗で」
「お前何歳だよ……」
年齢に似合わないリョウさんの注文に虹夏ちゃんがツッコミを入れながら、打ち上げはやさぐれ大人組を放って楽しく盛り上がっていく。
居酒屋の独特の雰囲気に楽しんで料理に舌鼓を打ち、将来お酒も飲めるようになればもっと楽しくなるのかなと想像しながらジュースを飲んでいると、後ろのカウンターに座っていたサラリーマンらしき人らの会話が耳に届く。
「最近嫁が突然服の趣味が変わって、スマホも急にロックかけ始めるし、絶対に浮気してるよ」
「まあ、絶対浮気だな……」
そんな大人の闇な話を聞いていたひとりはちびちびとジュースを飲みながら、「大人って大変なんだな……」と完全に他人事としてその話を聞いていた。
そして想像する。もしバンドが高校デビュー出来なかったとしても、零士君がお嫁さんとして養って貰えるだろうし、そうなったらお母さんみたいに家事炊事洗濯をこなしながら、子供の面倒とかを色々見て……。
「にへへへ〜〜〜」
ひとりは妄想を膨らませ、次第にだらしなく口元をにやけさせた。
「あっ、またぼっちが変顔してる」
「本当だ。それにこの感じの顔は……」
「間違いなく、彼氏さん関連の妄想をしている時の顔ですね!」
にやけすぎて段々と顔の輪郭が変形しだしてくると、手慣れた様子でリョウさんと喜多ちゃんが顔の修復作業に入る。
その騒ぎを聞きつけてか、先程まで酒を飲んで愚痴を吐いていたきくりと眞妃が酔った状態でひとりの左右に陣取る。
「ところで、ぼっちちゃ~ん。あの零士って怖そうな子と実際にどこまで関係進んでんの?」
「き、きくりお姉さん!?」
「そうよ!あんな少女漫画みたいな真似していて、何もありませんなんてありえないわよね!」
「それは……その……」
「あっ!私も後藤さんのそういう話聞きたいです!!」
「実は私もちょっと気になる」
「ふえぇぇ……!?」
酔っ払いのウザ絡みに翻弄されるひとりに、追い打ちをかけるように恋バナ大好きな喜多ちゃんとリョウさんも参戦してくる。
「さぁ!後藤さん、白状して下さい!」
「ほらほら~、さっさと喋っちゃいなよ~」
「あうぅ……」
まるで尋問される犯人のような状況のなか、ポツポツとこれまでの零士との出会いや恋人としてのあれこれを漏らしていく。
「それで、花火大会の会場から抜け出して、人気のない場所で零士君から、その……チューしました」
「「グハッ!!!」」
「キャー!ステキ!!」
「やるな、ぼっち!」
大人組の2人はキラキラなラブコメに心的損傷を受け吐血し、喜多ちゃんは目を輝かせながら漫画のような展開に声を上げ、リョウさんは思ったよりも進んだ関係だと知って、素直に感心した。
「私が学生の頃なんて、恋愛のれの字もない退屈な学生生活だったのに……」
「私なんて、3年間片思いして4年目に親友に大学デビューでNTRですよ」
どうやら受けたダメージは深刻らしく、それを癒す為に追加のビールジョッキを片手に陰鬱な空気でチビチビとアルコールを摂取する。
あと眞妃よ、お前の場合はNTRではなくBSSである。
「あれ?虹夏ちゃんは?」
超激甘な惚気話によって酔っ払い2人を無自覚撃破して自由になったひとりは、いつの間にかいなくなっている虹夏を探す。
店内を見渡してみても、カウンターで闇を抱えて酒を飲んでいるサラリーマンやテーブルに突っ伏して泣いている店長さんを慰めているPAさん、忙しそうに仕事をしている店員さんしか見当たらなかった。
もしかしてと思い外へ出てみると、そこには夜空を眺めている虹夏ちゃんがいた。
「あっ、虹夏ちゃん……、こんなところでどうしたんですか?」
「ぼっちちゃん!ちょっと涼んでたんだ」
確かにもう夏も終わりかけとなり、夜になれば風も心地よい冷たさを感じられる。
なので、私も虹夏の横に並び、一緒に星空を見上げる。
街の灯りで星々の輝きは薄れてしまっているが、それでも無数の星がキラキラと輝いているのが分かった。
「ねえ、今日の演奏を見て気づいたんだけど、ぼっちちゃんがギターヒーローだよね?」
「えっうっあの……、ちがちが」
突然の虹夏ちゃんからの指摘に、私は慌てて否定しようとするが、口も体も思ったように動かせず、タコのような動きで壊れたラジカセか!?とツッコミを入れられてしまうような醜態を晒してしまう。
だが、そんなひとりの奇行をそこそこ長い間一緒に過ごしてきた虹夏は軽く流す。
「あのキレのあるストロークを聴いたら分かったよ。今更だけどギターも一緒だし」
ここまで言い当てられたらごまかすのは無理だと観念してポツポツと自身がギターヒーローであることを自白する。
やがて、自身の思いの丈を全て言い終えた後、チラリと虹夏ちゃんの方を向いてこんな自分が尊敬していたであろうギターヒーローでショックじゃなかったを聞いてみる。
「ううん、逆にぼっちちゃんでよかったよ」
「えっ?」
その後に語られるのは虹夏ちゃんの幼い頃の過去話で、母親が亡くなり家には姉である店長さんしかいなかったこと。
その店長さんに連れられてライブハウスへよく通っていたこと。
それがきっかけとなって店長さんを超える人気のバンドになってSTARRYをもっと有名にする夢を持つことになったこと。
そんな虹夏ちゃんの語る過去に私はただ、頷くことしか出来なかった。
「でもバンドを始めてみたら私の夢って無謀なんじゃないかって思う時もあって……、今日だってみんな自信なくしちゃったし……」
さっきまでと違う落ち込んだ表情にフォローを入れるべきかと口を開こうとしたその時、それを遮るように虹夏ちゃんが言葉を発する。
「でもそんな状況をいつも壊してくれたのがぼっちちゃんだったよね。今日のぼっちちゃん、私には本当にヒーローに見えたよ」
そう屈託のない笑顔で言われ、いつもの零士君にぶっきらぼうに褒められた時とは違う幸福感とでも呼べるような気持ちが心の底から湧いてくるように感じた。
そして問われる。私がこのバンドで何をしたいのか、どんな夢を抱えているのかを。
だから私はこう答える。
「わっ私は……、ギタリストとして、皆の大切な結束バンドを最高のバンドにすることです」
迷いなくそう告げる私の思いを聞いて、虹夏ちゃんは少し驚いたような顔をしたと思えば、すぐに優しい微笑みへと変わる。
「そっか、いや~嬉しいな。まさかぼっちちゃんがこんなにも結束バンドを大切に思っていてくれてたなんて」
「え、えへへへ~~~」
そう言葉にされると恥ずかしいもので、思わずにやけた顔で照れ隠しに頭を軽く掻く。
「それにしても、そっかそっか~、ぼっちちゃんがギターヒーローってことは、あのプロフィールに書かれてあったバスケ部エースの彼氏がいますって内容のアレって、さっき会ったあの人のことだよね」
「はっはひゅ!」
思わず口から心臓が飛び出そうになったけれども、ギリギリ喉のところで止めることができた。
「いや、あの、それはちょっと……ちが……」
「ん?あれ、違ったの?も……もしかして、2股ってやつ!?だ、駄目だよ、ぼっちちゃん!!そういう色恋沙汰で問題を起こしてバンド活動停止とかあるんだから!?」
「ご、誤解です!!?」
正確には、最初にプロフィールに書いた時は彼氏なんて存在せず、ただの見栄で書いた結果、それが巡り巡って零士君の目に止まってしまっただけなのですが……。
しかし、今虹夏ちゃんにそれを説明しようとすると、先ほどの生々しいラブエピソードも話さなければならず、それはまだ気恥ずかしいので黙秘することにしようとしたが、今も怪訝な目で刺すように見てくる虹夏ちゃんの視線に耐えられずに、あの頃の零士君との出会いやら付き合うきっかけやらを話す。
「えっ、なにそれ。あの王子様ムーブも少女漫画っぽいとか思ってたけれども、出会い方も完璧に少女漫画のそれじゃん!!」
「もう勘弁してください……」
店の中でも外でも自身の恋バナを話すという羞恥プレイに、ひとりは爆発寸前だった。
「あ~、ごめんね!そんなつもりはなかったんだけど、ちょっと内容が面白すぎてさ」
「うう……」
ここまでの恥辱にひとりは涙目である。
流石にこれ以上はひとりが羞恥心で色々と面倒なことになるなと確信して話を切り上げる。
「けどさ、私は確信したんだ!ぼっちちゃんがいたら夢を叶えられるって!」
キラキラと、まるでサンタクロースを見つけた子供のように眩しい笑顔で虹夏ちゃんは言う。
「だから、これからも沢山見せてね。ぼっちちゃんのロック……ぼっちざろっくを!」
「あっはい」
夏の夜空の下、夢を語る少女らの喜々と決意のこもった声が響いていた。
「あっれ〜?どこ行ってたの2人共?」
居酒屋へ戻ってみると、完全にデキあがっているきくりお姉さん、その隣で酔いつぶれて倒れている眞妃お姉さんを介抱する喜多ちゃんとその膝の上で眠り込んでいるリョウさんがいた。
奥の方では酒を飲んでは泣いて愚痴を吐く店長さんと、それに付き合って同じく愚痴を吐くPAさんの姿も見える。
そして、席に戻ると虹夏ちゃんと私に酔ったきくりお姉さんが抱き着こうと近寄ってくる。
「うっ、お酒くさい」
「き、きくりお姉さん。は、離れて……」
「え~!2人共ひどい~~~」
きくりお姉さんの口から臭うお酒の香りに思わず鼻を摘まんでしまう。
そんな私達の対応にショックを受けたのか、涙を流すきくりお姉さんだが、いっこうに離れようとはしなかった。
「そんな風にお姉さんを蔑ろにしちゃうなら~、私もあの彼氏君みたいに首筋にちゅ~♡しちゃうぞ~!!」
そう言ってきくりお姉さんは抱き着いている私の背中に手を回して、本当に首筋にキスしようと顔を近づけてきた。
それに驚いた私は反射的に自分の首筋を守るように腕で覆い隠す。
「こ、ここは駄目です!だって、ここは零士君だけの……」
それ以上の言葉はいらなかった。顔を朱に染め上げ、うるんだ瞳で拒絶するひとりの姿を見て、流石に酔いが過ぎたきくりもひとりから離れて一言だけ。
「……なんか、ひとりちゃん。すっごくエッチだわ」
「はへぇっ!?」
きくりからの言葉に理解できないとばかしに変な声を上げるひとり。
その後、反省しろとばかしに虹夏ちゃんが酔っているきくりお姉さんを本気の説教。そこに店長さんも加わって絞め技も入り、お店側から退店していただくようにお願いされて、本日の結束バンドのライブ成功の打ち上げは幕を閉じたのであった。
前回の投稿後にアンケートでタイトル名の変更するかどうかの投票をした結果、それよりも本編を進めろという声が多かったので、そういったものよりも面白い小説を書こうと心機一転して頑張ります!