みんなてっきり頭が焼かれる話が好きだと思ってた。
ひとりの高校の文化祭が終わってそこそこの月日が経ち、普段は部活で忙しい俺なのだが、今日は練習が休みなのでどうしようか悩んでいたのだが、結束バンドがちょうどライブをするというらしいので、久しぶりにSTARRYに遊びに行くことにした。
放課後、久しぶりに下北沢へ行くと、なんか見たことある2人組を発見する。
「ん?お~、お前ら久しぶりだな」
「あん?っげ!あ……あんたは……!?」
「あの文化祭で会った!?」
文化祭で出くわした謎に世紀末ファッションしているヤンキーの2人組がいたので、とりあえず挨拶してみた。
「おう。久しぶりだな」
「お、お久しぶりです……」
「うす、お元気で……」
まるでヤクザの舎弟ばりに頭を下げる2人に対し、楽にしろとばかしに手を振っておく。
下手にあのままにしていればマジもんのヤクザだと周りの人達に誤解されそうだった。
まあ、とっくに手遅れだったのはここだけの秘密にしておこう。
「それにしても、お前らここら辺に住んでんのか?」
「いえ、その……、今日はこの近くで推しのバンドのライブがあるんで」
「そうなんすよ、まだ荒削りなんすげど、妙に心引くというか!?」
この時の俺はきっと間抜けた顔をしていただろう。
だって、この見た目で推しのバンドを見に来たってジョークだろ!?
いや、ある意味でこれがロックというものなのだろうか?
「あ〜、そりゃ邪魔したな」
「いえ、兄貴の方こそお気をつけて!」
「彼女さんにもバンド頑張るよう、よろしくです!」
なんでコイツらがひとりの事を……って、そういえば文化祭ライブの時に体育館にコイツらもいたな。目立つ恰好だからすぐに見つけられたし。
十中八九、アレでひとりがバンド組んでいるのを知ったんだろうな。
「おう、伝えとく」
その言葉を最後に、俺はもう二度とこの街であの世紀末ファッションな2人組を見ることはなかった……。
♦
「フンフ~ン♪」
バイト中ずっと鼻歌まじりに上機嫌で掃除するひとりの様子に、他のSTARRYで働くスタッフ一同は何があったか大体察した。
「今日のぼっちちゃん、ずっと変だけど」
「ひとりちゃんのテンションが高い時って大抵は……」
「あの彼氏が原因、つまり、今日のライブにぼっちの彼氏がやって来る」
リョウの推理はずばり的中しており、昨日の夜に部活が休みだと聞いたひとりが折角だからと、また結束バンドのライブを聴きにきて欲しいと頼み、見事にOKをもらった。
まあ、普段はオドオドして中々仕事が進まないひとりだが、上機嫌な状態のひとりは通常の2倍の速度でタスクをこなしていった。
それでようやく普通の人と同じレベルに達するので、店長や虹夏は、いつもこんな調子だったらいいのにと思っている。
そうして、ひとりが珍しくはりきって仕事をしていると、STARRYに騒がしいお客さんがやって来た。
「こんにちは~!ばんらぼってバンド批評サイトで記事書いてる者ですが、結束バンドさんに取材おねがいしたく~。あっ、あたし、ぽいずん♡やみ14歳で~す☆」
いきなりの変人登場に、先程まで騒がしかった店内が一瞬でお通夜の時みたく静寂に包まれた。
とはいえ、STARRYでは奇人変人は慣れたもの。PAさんが普通にスルーしてにこやかに業務対応で相手する。
来店の目的を尋ねると、結束バンドの取材だという。これには虹夏ちゃんと喜多ちゃんがとても喜んだ。
そして、ぽいずん♡やみのインタビューが始まった。最初はバンド全員に対する質問だったが、次第に質問の内容はひとり個人に焦点が当たるようになった。
その質問の内容もほとんどが文化祭でのダイブした意図や、受け止めた人は彼氏かどうかのものだった。
その露骨な態度に虹夏ちゃんや大人組はぽいずん♡やみの狙いを見抜く。
幸いなことに、ひとりは初対面の人を相手だから心を閉ざしている。
その間に、ひとりを救出せんと店長である星歌が不機嫌さを隠そうともせず、しつこく質問攻めするぽいずん♡やみを睨みつける。
しかし、普通の人なら蛇に睨まれたカエルのように怯えるところだが、ぽいずん♡やみは星歌の視線をものともせず、ぶりっ子キャラを崩さずに「ふぇ……」と可愛らしく振る舞い、その様子に耐性のない星歌は背筋を震わせて、やむなく取材の許可を下した。
後ろで虹夏ちゃんが「お姉ちゃんの役立たず!!」と叫んでいる。
結局、追い返すことができず、取材の許可まで与えてしまい、手の打ちようがなくなったその時、STARRYの扉が再び開かれた。
「おい~っす、来てやったぞ、ひとり」
「あ!零士君!!」
現れた零士を見るや否や、ひとりは心を閉ざした作画崩壊した表情から一変し、別人のようなきららのヒロイン顔になって、ぽいずん♡やみから逃げて零士に向かって走り出した。
「ん?なんか取り込み中だったか……?」
「えっと、その……、結束バンドの取材目的で来た……」
「どうも、ぽいずん♡やみ14歳です!!いや~、動画で見た時も思いましたけど、結構な美形ですね~☆」
取材対象をひとりから零士へと切り替えたぽいずん♡やみは、猫撫で声で零士へと肩を寄せるように詰め寄る。
「ふ~ん、あんがとさん」
「うっわ、言われ慣れてる感が凄いある!」
実際、中学生の頃から怖そうな顔をしているが美形の零士にとって、女子からのアプローチは珍しいことではなく、特に気に留めずにいた。
「あ~もう!みんな、そろそろライブの準備をしなきゃ!」
確かに、開店時間が迫っていた。虹夏ちゃんが急いでライブの準備を始めたら、結束バンドのメンバーもスタジオに入っていった。
残されたぽいずん♡やみと零士は、ライブが始まるまでの時間を過ごすために会話を始めた。
「あ~……、取材の邪魔しちまったか?」
「いえいえ、こんな美形のお兄さんと話せるだけで嬉しいので☆ところで、ギターの人との関係って……?」
「まあ、彼女だよ。中学からの付き合いのな」
「えっ、マジ……?」
零士がさらりと言葉を発すると、ぽいずん♡やみは驚愕の表情で言葉を失った。
動画で初めて見た時は交際していると思っていたが、実際に会ったギターの彼女は典型的な陰キャで、イケメンの彼とどうやって交際しているのか理解できないほどだった。
されど、彼の表情や言葉からは噓を感じられなかった。
もしや体が目的か!?と目を見開いていると、零士はぽいずん♡やみの考えを見抜いたように、苦笑して口を開いた。
「勘違いしているみたいだけどよ、俺がアイツと付き合ってるのって、普通に俺が惚れてるだけだからな」
「え?噓……。本当に清い交際関係なの……!?」
ぽいずん♡やみの頭の中には、不健全で肉体関係ありきの爛れた青春をイメージしていただけに、この事実はとても衝撃的だった。
ついでに、「マジか……あんなイケメンと付き合える陰キャがこの世にいるなんて……。いや、これはこれで恋愛系でネタになるかも!?」とひとりに対して失礼な事を思っている。
そうして、衝撃の事実に驚き戸惑っていると、いつの間にか結束バンドが舞台に上がり、MCを始めていた。
零士は虹夏ちゃんがMCしているのを腕を組んで見守っているが、隣で聞いているぽいずん♡やみは退屈そうな顔でMCを聞いていた。
それは結束バンドの演奏が始まってからもそうで、そのことにぽいずん♡やみの事情に気がついていない零士は怪訝そうな顔をするが、そんなことよりもひとりの演奏に注目する。
やはり、衆目の中での演奏は緊張が勝って実力が一切出せていない。
だからだろう、隣で聴いている彼女は欠伸こそしていないが、退屈さを隠しきれていない。
だが、途中でなにかに気付いた様子で、驚愕した表情に変わる。
やがて、結束バンドの演奏も終わり、舞台を降りた結束バンドにファンの人らが詰め寄ってくる。
リョウにファンが群がるが、ひとりにも数人のファンが集まっていく。
人見知りなひとりもだいぶ慣れてきたお陰でか、ファンの人とも目は合わないが、会話くらいは出来るようになった。
「ホント成長したよな、ひとりの奴も……。さて、問題は……」
そんな自分の彼女の成長を微笑ましく見守るように、壁際でファンと会話するひとりを眺めている零士。
されど、その注意は雰囲気の変わったぽいずん♡やみに向けられていた。
「あの、貴女、ギターヒーローさんですよね!」
やはり、熱心なギターヒーローのファンだったかと零士はいつでも動ける準備をする。
熱心なファンだからいいファンとは限らない。下手をすれば自分勝手な思い込みで暴走するファンだっていることを零士は知っている。
だからいつでも動けるようにしているが、下手に自分が動くよりも成り行きに任せた方がいい気がするので、今は動かずにジッと待機している。
というよりも、ぶっちゃけるとそっちのほうが面白くなりそうな予感がしたから動かないだけである。
「なんの話?」
「まさか、あなた達知らないの!?」
突然のぽいずん♡やみからの指摘に、喜多が首をかしげる。
そのことに本日何度目かの驚愕の後に、高らかにギターヒーローの正体を明かした。
「このギターヒーローさんはねぇ!!超凄腕高校生ギタリストでッ!!それでいて男女問わず学校中の人気者でラインの友達数人は1000人越え彼氏はバスケ部エースでスパダリの超リア充女子なのッ!!」
「最後の部分以外は知らない人ですね」
「えっ、即答!?ってか、最後は合ってるの!?……って、ああ、彼か」
一息に捲くし立てるギターヒーローの虚言設定の暴露に喜多ちゃんが即答で否定する(最後以外)
「そっそうですよ!その人とこのド陰キャ少女が彼氏が存在する以外に同一人物に見えますか!?」
「がふっ!?」
更に、喜多の否定に追い撃ちを掛けるように虹夏も否定を入れるが、少々その追い撃ちが強過ぎて言葉の棘どころか槍になってひとりを貫く。
ぽいずん♡やみもその虹夏の言葉に怪訝な顔つきでひとりをよ~く観察する。
結果、どのような思考過程でそうなったのかは不明だが、ひとりをギターヒーローと確信している。
そして、ギターヒーローをこれでもかと称賛したため、ひとりは明らかに照れくさそうにして、すぐに正体がバレてしまった。
ギターヒーローの正体をまだ知らないリョウと喜多ちゃんは、依然として首を傾げている。
「ちょっと」本当に知らないの?これを見て!!」
そんな2人に、ぽいずん♡やみは自分のスマートフォンでギターヒーローの動画を見せた。
動画の中の服装と部屋の様子から、2人は確かにその人物がひとりであると納得した。
「それにしても、最近のコメントでの彼氏推しはすごいですね」
「これ、文化祭の後にアップした動画だよね?「彼氏に手作りオムライスをご馳走しました」っていうコメントのやつ。あれは本当に甘すぎて、コーヒーが必要だった。けど、アレを手作りと言っていいのか?」
2人とも、ひとりがギターヒーローであることよりも、コメントでの彼氏への言及に興味を持っている。
「ちょっと!彼氏関連ばっかじゃなくて、少しは彼女がギターヒーローだったって事に驚きなさいよ!?」
「ぼっちが上手いことは何となく分かってたし、本人が言わないのならどうでもいいかって思ってた。なにより……」
「いや、私も薄々は気がついてましたし、それに……」
「「
逆ギレするぽいずん♡やみに対して、2人の反応はあっさりしたもので、ひとりがギターヒーローであることよりも、コメントに書かれている零士関連の方ばかり見ている。
リョウも喜多ちゃんも零士との交際を知っているので、そっちの方が興味深いのだ。
ひとりの見栄と虚言と実話の入り混じった恋愛コメントにキャッキャッとはしゃぐ2人に、ぽいずん♡やみは思ってた反応と違ってムキになって怒り出す。
「もぉー!!もっと驚きなさいよぉ!!そりゃ、
「あひぃ~~!!」
リョウと喜多ちゃんの素っ気ない反応に、ついに暴走スイッチが入ったぽいずん♡やみは爆弾発言を投下する。
無論、そんな風に考えていないひとりにとって爆弾発言はクリティカルヒット。ムンクの叫びのような顔になって情けない叫び声を上げる。
まあ、それを気にしているのはひとりだけで、他のみんなは別に気にした様子はなかった。
結局、埒が明かないと判断したぽいずん♡やみはムンクになっているひとりに詰め寄って声を掛ける。
「ところで、ギターヒーローさん。さっきのライブはいつもよりかなり調子が悪くなかったですか?」
「あっ、わっ、私人見知りで……バンドだとうまく合わせられなくて、動画は家でひとりで弾いてるので……」
「なるほど、天才にだって欠点はありますよね! むしろ逆にプラス要素ですよ!」
マイナスな点もプラスに見える程、ギターヒーローを神聖視しているぽいずん♡やみは、その後も他の結束バンドファンに如何にギターヒーローという存在が凄いのかを熱弁し、興奮のあまり自分のツテを使って編集長と掛け合ってみるとも口にする。
そのことにテンションが上がって頬が緩むひとり、喜多ちゃん、虹夏ちゃん。
3人は結束バンドのメジャーデビューが夢物語じゃなくなって、現実味を帯びてきたことに喜んでいる。
しかし、そんな有頂天な3人に冷や水を浴びせるかのように、ぽいずん♡やみは焦ったような顔で首をかしげながら結束バンドではなく、ギターヒーローであるひとり個人のみを紹介するつもりだと言う。
「っていうか、ガチじゃないですよね?」
「えっ……」
「さっきの演奏のレベルもそうですけど、結束バンドって聞いたこともなかったですし、それってつまり宣伝とかに力を入れてないってことだもんね」
「っ……!!」
淡々と語られる事実に何も言い返せない虹夏。
それを好機とみたか、ひとりの意見を聞かずに勝手に段取りを進めようとするぽいずん♡やみだったが、そこで待ったの手を入れる者が現れる。
「はい、そこまで」
「あっ、ちょっと!?」
流石にこれ以上は黙って見ておくのは駄目だと判断した零士は、ぽいずん♡やみがその知り合いだという編集長に連絡しようとしていたスマホを取り上げた。
「っく!か、返しなさい!返してよぉ!!」
ぽいずん♡やみは奪われたスマホを取り戻そうと頑張るも、身長差のため、ピョンピョンと跳ねるだけで全く届かず、結局スマホを取り戻すことができなかった。
「っく、この!!あんた、ギターヒーロー様の彼氏なのよね。だったら分かるでしょ!あの人はこんなとこで燻っていい存在じゃない!!それこそ、もっと高いレベルの舞台で輝く人なのよ!!」
「まあ、お前の言い分は否定出来ない部分は確かにある。……けどな、間違ってるよ、お前」
「はぁ?何が間違ってるって言うのよ。あんたってバスケは出来るだけだろうけど、音楽の事に関してじゃ私の方がよっぽど知ってるのよ!!」
確かに、音楽関連に関してはぽいずん♡やみは零士よりもよっぽど詳しいだろうし、言っていることも全てひとりを思っての親切心とファンとしての願望から来るものだろう。
だが、いかに悪気がなくての発言ではないとしても、彼氏としてはこれ以上の狼藉は見逃せない。
「だろうな、俺の音楽知識なんざ流行りの曲や有名な曲を聴いてる程度だ。だがな、これだけはお前よりも知ってることはあるんだぜ」
「な……なによ……!?」
零士の迫力に圧倒されたのか、ぽいずん♡やみは息を吞んで一歩後退る。
しかし、音楽ライターとしての意地なのか、なんとか気丈な態度で零士に向き直り、キッと睨み付けた。
零士はそんな視線を意に介ことなく、近くにいたひとりを抱き寄せる。
「ふぇっ!?れ……零士君!?」
「俺がこいつの彼氏だから知ってること。それはな、こいつは絶対に結束バンドから離れたりしないってことだな」
「はぁ?……なによそれ。仲良しこよしのバンドでデビューしたいです!ってこと!?そんなの上手くいきっこないじゃない!!」
どんな答えが返ってくるのかと思えば、漫画やドラマでありふれたような仲良しこよしバンドでのデビューを目論んでいると聞かされ、ぽいずん♡やみは怒りながら否定した。
これまでに数多くのバンドを見てきて、記事にしてきたが、そのほとんどが現実に直面して解散に至っていた。
確かに成功を収めたバンドも存在することは知っている。しかし、それらは結束バンドとは違い、本気のガチだった。
彼ら彼女らは常に向上心を持ち、自分たちの音楽を広めるために様々な方法を試していた。
だからこそ、結束バンドの中途半端さが際立って見えた。頑張っているのは見て取れる。こうして常連がいるのだから、固定のファンも少なからずいるのだろう。けれど、それだけだ。
だから、そんな中途半端なレベルでメジャーデビューなんて出来ないと断言出来た。
「だろうな。けどそれは、さっきまでのこいつらだ。流石にここまで言われっぱなしで動かねえ程、こいつらの音楽に対する熱は弱くねえよ」
そうだろ?と言いたげに零士は虹夏達を見た。
それに対する答えは、もちろん全員の力強い頷きだ。
「確かに、今までの私達はやみさんから見てガチじゃなかったかもしれません。でも!私達だってこのバンドに大事な想いを託してるんです。だから、次のライブではガチじゃないなんて言わせません。だよね、みんな!!」
「はい!私だって、ここまで言われたら黙ってられません!!」
「まあ、言われてばかりも気分が悪いからね」
虹夏も、喜多ちゃんも、リョウも意気込みを見せる。
そんなみんなを見て、ひとりは震えながらも一歩前に踏み出し、何かを決意した顔でぽいずん♡やみに向き直る。
「あ……あの、あなたが私のファンなのは、う……嬉しい……です。で、でも、私はこのバンドを……、結束バンドを最高のバンドにしたいんです。ギターヒーローとしてじゃなく、結束バンドのギタリストとして!」
「……そうですか。分かりました。なら、次の結束バンドのライブを楽しみに待ってますよ」
ひとりの言葉に、ぽいずん♡やみは納得いってなさそうな顔をしても引かざるを得なかった。
「結局、私らの出る幕はなかったな」
「ですね。ひとりちゃんの彼氏さんにいいところ全部搔っ攫われましたね」
後方で事の成り行きを見守っていた大人組は無事穏便に終わったことに肩透かしを食らっていた。
それでも、彼女ら結束バンドが成長をみせたのは喜ぶべきことだろう。
「あっ、そうだ。あんた!いい加減に私のスマホ返しなさいよ!!」
「おぉ~、すっかり忘れてたな。……なあ、ひとり」
「へっ?な、なに、れいじっ……!?」
取り上げていたスマホの存在を忘れていた零士は普通に返そうとして、そこでふと
その声に反応したひとりは突然頬に手を当てられてビックリして固まる。
そして、その状態から零士の顔が近付いてきて唇同士が触れ合う寸前に……。
カシャッ!
スマホのシャッター音が鳴る。
「ふぇっ?」
「うしっ、よく撮れてるな」
何が起きたのか理解が追い付いていないひとりをそのままに、零士は写真の出来を確認して満足する。
どうやら、ぽいずん♡やみのスマホを勝手に使って今の一瞬を撮影したようだ。
撮影した写真を削除することなく、そのままぽいずん♡やみに返した。
「え?何……?」
ぽいずん♡やみ本人は、先ほどの出来事の流れをまだ理解できずに手渡されるままにスマホを受け取る。
「あ、あの、なんでこんなことを……!?」
「ん?いや、だってこいつがここに来た本来の目的って取材だったろ。だからネタを提供してやったんだよ」
いきなりの事に困惑するひとりに、零士はイタズラが成功した子供のような笑みで返す。
「それにさ、さっきもアイツが言ってたろ、俺の存在が
「あっ……あぅぅ!!??」
顔を真っ赤にするひとりをからかうように耳元で囁きながら、周りを置いてきぼりにして2人だけの空間を作る。
もしここで言い訳をさせてもらえるなら、零士としてもそろそろ我慢の限界だったのだ。
せっかくの貴重な部活の休みを利用して彼女であるひとりに会いに来たというのに、よく分からない人物によってライブ後の2人きりになれる時間を後回しにされて、正直モヤモヤしていたのだ。
そのモヤモヤを解消すべく、零士はここぞとばかりにひとりをからかいだす。
「あっ、さっきのキス未満が不満なら、この後、誰もいないところで続きでもするか?」
「あぴゃっ!!?」
「「ぐふぁっ!!」」
ついに限界を迎えたひとりは爆発し、2人のイチャイチャを見ていたぽいずん♡やみと星歌は吐血した。
周りで見ていたファンの1号さんと2号さんは目の前で行われるラブコメにキャー!キャー!とはしゃいでいるが、結束バンドのみんなは爆発したひとりの修復。PAさんはと吐血して倒れた2人の介抱に追われるのでそれどころじゃなかった。
「変な顔してるだろ。ウソみたいだろ。
「流石にそれは不謹慎すぎますよ!」
「あ~もう!あの2人のイチャイチャを見て、いちいち吐血して気絶しないでください、店長!!」
「ちょっと、零士君!別にぼっちちゃんとイチャイチャするなとは言わないけど、時と場所は考えてやってよね!!」
「へいへい、どうもすみませんでした」
それから数分後、気絶から目覚めた3人は元凶である零士を見ると、まだ虹夏から説教を食らっていた。
見るからに説教を聞き流していた零士は、気絶から回復した3人を見て説教中にも関わらず声を掛ける。
「おっ、目が覚めたか?」
「あ……あんた!ギターヒーローさんにあんな狼藉を働いていい度胸ね!!」
「っは!恋人同士の微笑ましいコミュニケーションだろ。それにこの先の未来じゃもっと凄い事をする予定だしな」
「「「ごはぁっ!!!」」」
ぽいずん♡やみの抗議に対し、零士は鼻で笑い、さらに挑発するかのように爆弾発言を放つ。
その言葉を聞き、ぽいずん♡やみ、星歌、そしてひとりが再び吐血する。気絶こそはしなかったが、連続したダメージでフラフラとしている。
「こらぁ~!説教中にまた同じことを繰り返して~~!!」
可愛く怒る虹夏だが、零士は相も変わらずその声を聞き流している。
その後、店を閉める為に店内にいた者は全員外へと追い出された。
外はもうすっかり陽が沈み、夜の帳が下りていた。
「それじゃ、今日はもう帰るわ。でもね、もし次のライブでもあんた達のガチが見られなきゃ、今度こそギターヒーローさんを引き抜いちゃうんだからね!!」
「っ!勿論です。次のライブじゃ、私達結束バンドがガチじゃないなんて言わせませんから!!」
ぽいずん♡やみの言葉に嚙みつく虹夏。そのことに周りに見えない程度に小さく苦笑して今度は零士を指さす。
「あっ、言っとくけど、あの写真を記事になんかしないかんね!ギターヒーローさんの彼氏だからって調子乗んなよスパダリ風の鬼畜男ぉぉぉ!!!」
そんな捨て台詞を言い残して、ぽいずん♡やみは帰っていった。
「ちぇ、せっかく撮ったってのによ。んじゃ、気分転換にデートでもするか、ひとり?」
「はっ、いや、それは……えっと……ふひぃっ」
「あー、こっちはもう解散するから、ラブラブな二人はご自由にどうぞ~」
チラチラとこちらを見て不審者に見えるひとりを見て、誘いには乗りたそうだけど、みんながいる前で恥ずかしくて答えられないのを見抜いた虹夏は、さりげなく助け舟を出した。
「あんがとさん。そんじゃ、行くとすっか」
「あっ、はい……。み、みなさん、お疲れ様でした」
「じゃーね、ぼっちちゃん。くれぐれも送り狼になる零士君には気を付けてね」
「するかバーカ!」
サブタイトル最初は『人の心とかないんか?』にしようと思ってたけど、後々でこの話をもう一度見直す時に分かりにくいなと思って今回のサブタイトルにしました。
IFで登場させる幼馴染の設定
・黒髪で普段は無口だけどひとりが絡むと若干辛口になる。ヒロアカのかっちゃんの口調をだいぶマイルドにしたキャラ。
・音楽に興味はないけど、ひとりの応援はしてあげている。
・ひとりに惚れているけど、自分の恋心に無自覚。ただし、零士に取られてようやく自覚する。
・結束バンドのマネージャーみたいな立ち位置にいるけど、どうあっても友達になれても恋人にはなれない。
あと、アンケートは6月の末まで実施しますが、現状反対派の意見の方が多いです。
感想とかでもIFが見たいと言ってくれれば幸いです。