ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース   作:リーグロード

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エルデンリングのDLCで時間を溶かされました。


絶望の足音

 12月24日のクリスマスイブ……その特別な日を楽しみにしているのはなにも恋人たちだけではない。もっと純粋な心を持った小さな子供がサンタの来訪を楽しみにする日でもある。

 

「お母さん、サンタさんはうちにも来てくれるかな?」

「もちろん、ふたりちゃんがいい子にしていれば、サンタさんはきっと来てくれるわ」

「わかった!じゃあ、まだ寝ているお姉ちゃんを起こしに行くね!行くよ、ジミヘン!」

「ワン!」

 

 元気に2階にいる姉を起こしに向かうふたりの後ろ姿を見て、母は優しく微笑んだ。

 

 テーブルの上に広げられたおもちゃのチラシを眺めながら、クレヨンで大きく丸をつけたおもちゃを隠している場所を思い浮かべ、ふたりがきっと喜ぶだろうなと考えていると、ふたりがジミヘンを連れて慌ただしく2階から戻ってきた。

 

「お母さ~ん!お姉ちゃんがなんか変なの!?」

「ワフゥ!」

「あらあら、今度はなに?悪魔憑き?それともドロドロ系かしら?アレ後片付けが大変なのよね~」

「えっとね、そうじゃないの。お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃないの!?」

 

 そんな要領の得ないふたりの言葉に困惑していると、2階から降りてくる足音が聞えてくる。

 

「ふ、ふたり、どうしたの突然大声出して逃げ出して?」

「あら?あらあら、まあまあ……!」

 

 ふたりが大慌てで戻ってくるのも無理はなかった。

 なんたって、普段のひとりじゃ着ることのない扇情的な大人な衣装を身に纏っていたのだから。

 今日という特別な日とその服装から、娘が女として勝負を仕掛けようとしていることは明白だった。

 ここは母親として精一杯の後押しをしてあげなければ!!

 

「なんだなんだ?みんな盛り上がってるな。どうしたんだ……って、ええぇぇぇ!!?」

「あっ、お父さん。ど、どうかなこれ?」

 

 騒ぎを聞きつけてやったきた父に、恥ずかしそうにひとりが自分の格好を見せると、その服装から察せられる状況のあまりのショックに父は膝から崩れ落ちる。

 

「そ……そんな、あのひとりがもうこんな……。あ、相手は!?まさかあの零士って男か!!まだだ!ひとりにそういうのはまだ早い!お父さんは認めんぞ!!たとえ嫌われようとも、ひとりは今日は一歩たりとも家の外には出させ──っ!?」

 

 パァン!!!と炸裂音がしたと思えば、途中まで何か騒いでいた父は膝からどころか顔面から床へ崩れ落ちた。

 

「あら、スカイフィッシュとでも激突したのかしら?」

「お母さん、それってUMAなんじゃ?」

 

 ほほほほ!!!とお母さんが高笑いして誤魔化そうとする。

 

「お父さんどうしたの?寝ちゃったの?」

「そうね、お父さんきっとお休みしたかったのよ。さあ、お布団に移動させましょうか」

 

 ズルズルとお父さんを引きずって布団の上に雑に寝転がすと、リビングに戻ってきたお母さんは私の肩を掴んできた。

 

「ひとりちゃん!ちょっとこっちに来なさい!」

「ふえぇ!?」

 

 無理矢理にお母さんがいつも使っている化粧台に連行されると、鏡の前に座らされてメイクを施される。

 

「ちょっ、お母さん!私この後ライブがあるんだよ!?」

「大丈夫よ。汗かいても崩れないメイクの仕方とか色々あるんだから。それに、大好きな彼氏さんには綺麗な姿を見せたいでしょ?」

「うっ、それは……そうだけど……」

 

 お母さんは手際よく私の化粧を終わらせると、最後にポンっと軽く肩を叩いてきた。

 

「はい、これで完成よ。うん!ひとりちゃん綺麗になったわ!」

 

 鏡に写った自分を見て驚いた。

 そこにはお世辞抜きにした美少女が写っていた。まるで別人のように変化した自分の姿に驚いていると、倒れたお父さんに付きっきりだったふたりがやって来て、メイクした私を見て驚き固まる。

 

「お姉ちゃん?」

「そ……そうだよ。どうかな、ふたり?」

「すごい!お姉ちゃんキレイ!!まるでアニメに出てくるふじこちゃんみたい!!」

 

 ふたりが目をキラキラさせて、尊敬の眼差しを私に向けてきた。

 その純粋無垢な視線がちょっぴり恥ずかしいけど嬉しい。私は照れて顔を赤くしていると、お母さんが何か思いついたようで手をポンと叩く。

 

「そうだわ!せっかくお化粧もして大人っぽい服も着てるのに、いつもの髪型じゃ勿体ないでしょ。だから、今のひとりちゃんに似合う髪型にセットしてあげるわ」

「う、うん。じゃあお願いしよう……かな?」

 

 お母さんはヘアブラシを取り出して、丁寧に濡れタオルで髪を濡らしていく。

 

「ふ~ん♪ふふ~ん♪」

 

 ご機嫌なお母さんが鼻歌を奏でながら、私の髪を丁寧にブラッシングしはじめる。

 普段はストレートにしているけど、お母さんがこの服装には大人っぽいポニーテルにした方が似合うって言うから、その通りにセットして貰った。

 

「はい、出来たわひとりちゃん!うん!我ながら完璧ね!」

「これが、私……?」

 

 鏡で自分の顔を見た私は再び驚いてしまう。

 そこに写った自分は先程よりも大人っぽさが増しており、特徴的なピンクの髪が無ければ自分だと気付かないレベルの変わりようだ。

 

 そんなひとりの現在の姿はというと、長かった髪をパレットで纏めてオシャレにツインテールにして、軽いファンデと口紅を施し、服装は胸元と背中が開いた肌色に近いピンク色のセーターを着ている。

 

 これはお世辞抜きにしても男を魅了してしまうような、素晴らしい美少女へと変貌していた。

 

「ひとりちゃん、その格好じゃ彼氏さん以外も引っ掛けちゃうでしょ。それに外も寒いだろうし、これ貸してあげるから上から着ていきなさい」

 

 そう言いながら、茶色のコートを私にかけてくれた。どこかのアイドルがお忍びとかで着るような、そんな雰囲気のコート。肌ざわりも良くて、きっと高価なものに違いない。そんなことを考えながら、恐る恐る袖を通した。

 それでも、顔だけで充分に男をひきよせられそうなので、更に帽子も被って変装は完璧だ。

 

「おぉ~!お姉ちゃん、すっごくドラマとかで出てきそうな人になってる!」

「そ、そうかな~?えへへ……」

 

 分かりやすくデレデレと妹の褒め言葉にクネクネと体をよじらせてしまっているせいで、折角の隠れ美人の雰囲気が台無しとなっている。

 お陰で先程までキラキラと尊敬の眼差しで見つめていたふたりも、一気にキラキラが無くなって興味が失せた眼に変わった。

 

「それじゃ、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 

 お母さんとふたりの声に押されて、ギターを背負って玄関から飛び出した。

 新宿へと向かう道すがら、なんだかいつも以上に周囲の視線を感じる。

 いつもの思い過ごしじゃない、実際に道行く人からのチラチラとした視線が視界に入る。

 変なものを見るジロジロとした視線ではない、好意もしくは興味を持った視線。

 

「見られてる……。でも!」

 

 ひとりは周囲の視線に恐怖あるいは緊張して動かなくなりそうな足を無理矢理に動かして新宿FOLTへと急ぐ。

 遅刻してバンドメンバーに迷惑を掛ける訳にはいかない。それになにより、こうして勇気を出して零士君を魅了させる服とメイクを施したのに、ここで立ち止まって見せないままで終わりたくないという一心がひとりの足を動かしている。

 

 きっと、中学の頃のままのひとりだったら、この勇気は家の中か外に出た瞬間に終わっていただろう。

 しかし、付き合って何回もデートをしてきた経験と、夏祭りでのキスがひとりを大人にさせたのだ。

 今のひとりの精神はちゃんと立派なレディであり、好きな人に自分の成長した姿を見せたいという、恋する乙女に成長していた。

 

「つ……着いた……」

 

 途中、何度か男の人に声を掛けられそうになったが、ごめんなさい!からの高速ダッシュで逃げてなんとか無事に新宿FOLTまでやって来れた。

 来るまでの道中でロインにて他のメンバーの3人がもう既に中にいることは知っているので、自分が最後の1人であることから、深呼吸をしてFOLTのドアを開く。

 

「ふぅ……よし!こ、こんにちは」

 

 覚悟を決めて中に入ると、ライブハウスの中にいた人達の視線が一斉にこっちに集中する。

 そのことに「ひぅっ!」と情けない悲鳴を上げるが、逃げることなく中へと入っていく。

 未だジロジロとスタッフさんに怪しい者を見るような視線で見つめられるが、背中に背負っているギターを見て出演者だとは認識されているようで止められることはなかった。

 そのまま奥の控え室まで進むと、リハーサルの準備をしている虹夏ちゃん達の3人を見つけた。

 

「あっ、みなさん、こんにちは」

「???もしかして、ぼっちちゃん?」

 

 虹夏ちゃんが割と本気で困惑した声でそう聞いてくるので、どうしたのかと疑問に思うひとりだが、すぐに今の自分の格好を思い出して、帽子を取って顔を晒した。

 素顔が露わになったひとりの顔を見て、いつもとは違うメイクを施していると気づいたリョウと喜多はビビッとくるものを感じ、虹夏は口を大きく開けて呆けていた。

 

「どうしたのその恰好は?いつものクソダサいジャージじゃないからビックリしちゃった!!」

「クソダサッ!?」

 

 虹夏ちゃんからの突然の天然暴言に驚いていると、リョウさんも喜多ちゃんもなんだかソワソワしている。

 どうしたんだろうと首をかしげると、意を決したような表情で喜多ちゃんが私の手を握ってきた。

 

「ひとりちゃん、ついに進むのね、大人の階段を……」

「……はい」

 

 喜多ちゃんの言葉に、私は小さく頷いた。

 

「え?え?どうしちゃったの2人共?」

「虹夏、私達はあっちへ行ってようか……」

 

 何もわかっていない虹夏の肩を掴んで、色々と察したリョウは邪魔にならないようにひとりと喜多から距離を取る。何も知らない虹夏は混乱するばかりであった。

 

「ちょっと、リハーサルの準備をほったらかしにしておいて、随分と余裕みたいじゃない?」

「あっ、大槻さん!」

 

 控え室に現れた大槻ヨヨコの姿を見て、ひとりは若干表情を固まらせながらも、先日の服選びのお礼を言うために駆け寄る。

 

「こ……この間はありがとうございます!」

「べ……べつに、そんな大したことしてないわよ」

 

 ふん!とぶっきらぼうに顔を背けるが、耳は真っ赤に染っていた。

 本当にツンデレキャラが服を着て歩いているような人だ。

 

「え?ぼっちちゃん、大槻さんと何かあったの?」

「はい!先日服を買いに1人で行った時に、偶々出会ってその流れで今日の服を選んでもらったんです!」

「ぼっちちゃんが!1人だけで買い物に!?」

「驚くところそこですか!?」

 

 引きこもりのコミュ障なひとりが1人で買い物に行ったと聞いた虹夏は驚きで目を見開き、そのちょっとズレた反応に喜多がツッコミを入れる。

 

「それじゃ、ぼっちが着てるそのコートって大槻さんが選んだの?」

「あっ、いえ、これはお母さんが着ていきなさいって貸してくれたもので、大槻さんが選んでくれたのは下に着ているこっちの方です」

 

 リョウさんの疑問に答えるようにコートを脱いで、その下に着ている大胆な穴あきセーターを見せる。

すると、それを見た3人がフリーズしたように動きを止めて絶句してする。

 

「っ、OK!分かった。だから、すぐにコートで隠すか別の服に着替えよう!!」

「???わかりました」

 

 何故か急に慌てたリョウさんの言う通りに、結束バンドのTシャツに着替えることにする。

 

 そのままロッカールームへと消えたぼっちを見送り、リョウはふぅ〜っとため息を吐く。

 

「まさかぼっちがあんな服を着て来るなんて……」

 

 さっきのは本当に驚いた。ぼっちのスタイルが良いのは知ってたけど、まさかあんなHな服を堂々とこんな場所で見せてくるとは。

 ぼっちは虹夏とはちょっと違う意味で天然が入っているし、今のも普通のお披露目のつもりだったのだろう。

 けど、もし今の場に店長がいれば死んでいた可能性があるぞ。後ろで虹夏もちょっとショックでフリーズしてるし、郁代は自分の胸に手を当てて何か怖い。

 こうなった原因は全てあの服のせいだ。さすがにこれには一言ぐらい言っておかなくてはと、ヨヨコさんに文句の1つでも言ってやろうと振り返る。

 

「あの、今の服は流石に……」

「どうよ!あれが私が選んであげた服よ!あれさえ着てれば男なんてイチコロよ!!」

 

 あっ、この人もやっぱちゃんと常識外れだわ。センスがぼっちとは違う意味でヤバいことになってる。

 だけど、確かにさっきのぼっちはインパクトの塊だったし、写真集として売りに出せば……。

 

「間違いなく売れる!」

「やめんか!?」

 

 目を¥にして声高らかに売れると宣言すると、虹夏に頭を叩かれた。

 どうやらボケに反応して正気に戻ったようだ。郁代の方は……、まだ少し時間をおいた方が良さそうだ。

 

「あの、お待たせしました!」

 

 結束バンドTシャツに着替え終えたひとりがや戻って来ると、虹夏が恐る恐るとさっきの服に関して質問していた。

 

「ねえ、ぼっちちゃん。今の服ってその……」

「えっと、れ……零士君にいつもよりも可愛く見られたくて……」

「そ……それって……」

 

 それを聞いた瞬間、今日がぼっちちゃんにとってライブの日以外にも別の意味を含む日であることを確信した虹夏は床に崩れ落ちる。

 女としての完全敗北、そして友達として祝福の言葉を送る。

 

「おめでとう、ぼっちちゃん。でもそっか……、ぼっちちゃんが大人にねぇ……」

「あ……、えっと、どうもです?」

 

 どこか遠いところを見るような目でそう呟く虹夏に、ひとりは首を傾げる。

 

「そういえば喜多ちゃんは……?」

「あっちで死んだ魚みたいな目して黄昏てるよ」

 

 リョウさんが指差した方向には、自分の胸に手を当てて死んだような目をしている喜多ちゃんがいた。

 声をかけようかと迷ったが、リョウさんが無言で首を横に振り、声を掛けるのを止めた。

 

「だぁ~!!あなたたち、本番まで時間がないわよ!!早くリハーサルの準備をしなさい!!」

 

 いつまでもぐだぐだしている結束バンドに対し、ついにキレた大槻ヨヨコに怒鳴られ、慌てて各自が楽器の準備を始めた。

 リハーサルが始まると緊張するかと思いきや、先程までのぐだぐだが逆に良い影響を与えたのか、リハーサルでは普段の演奏よりも良いものができた。

 

 そして、出演バンド全てがリハーサルを終え、本番を待つだけとなった。

 それまで楽屋でリハーサルの問題点や改善点を話し合う時間となる。

 

「さっきのリハ通りの演奏出来れば本番でも問題ないからね」

「「はい、わかりました」」

 

 虹夏の言葉にひとりと喜多が元気よく返事をする。

 それでも、2人の顔には僅かに緊張の色が見えた。

 

「SIDEROSとSICK HACKの凄かったわね……」

「あっ、そうですね……」

 

 どうやら、SIDEROSとSICK HACKのリハーサルに圧倒されたようで、2人共足を引っ張ってしまうのではないかと気が落ち込んでいるみたいだ。

 それでも、馬鹿な真似を考えるほどには落ち込んではいないようで、その点に関しては少しだけ安心した。

 

「まっ、私達も負けてられないね!それに、お客さんは廣井さんのファンだしさ、私達を温かく迎えてくれるよ!」

「でも、廣井さんのファンだから余計に怖くありません?」

「あっはっは、喜多ちゃんも言うね!」

「笑ってなんかいれねえぜ。……今日の客は荒れてるからな」

「えっ、なんで!?そんなに歓迎されてない?」

 

 リョウの不吉な言葉に虹夏が不安になる。

 そんなにも自分達は歓迎されていないのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 

「わざわざクリスマスイブにロックを聞きに来るなんて奴は私ら(ぼっちを除く)と同じで恋人のいないヒマ人に違いない」

「いや、偏見が過ぎるから!?ちゃんとカップルとかくるでしょう!ぼっちちゃんの彼氏さんみたいに!!」

「いや、伊地知先輩それは流石に特殊な例だと思います」

 

 リョウの偏見に満ちた意見に虹夏が反論するが、喜多は冷静にそう返す。

 実際のところ、クリスマスでもカップルでデートとしてライブに来る人間もいるだろう。

 

「そういう人達の為にも、私達がサンタになって幸せを届けてあげようよ!」

「「私達の音楽がカップルを盛り上げるBGMに……!?」」

「そう卑屈なこと言わないの!ってか、ぼっちちゃんは祝福される側の子でしょ!?なんでリョウと一緒になって卑屈なってんのさ!?」

「あっ、すみません。何故かノリに乗っておかないとって思いまして」

 

 確かに虹夏の言う通り、ぼっちは零士と付き合っているのだから、別に卑屈になる必要はないのだが、ひとりの生来の陰キャ気質がそんな言動を生み出しているのだ。

 

「そもそも、ぼっちちゃんは彼氏さん抜きにしても、家で楽しそうにクリスマスしてそうじゃん」

「あっ、家族とのパーティーとかは楽しいんですけど、その日のお昼のデートじゃ私浮いちゃって、零士君と私じゃ月とスッポンですし……」

「そんなことないよ!ぼっちちゃんは充分に可愛いよ!!」

「そう言ってくれてありがとうございます。でも大丈夫です。今日は大槻さんに選んでもらった服と、お母さんに施してもらったメイクがあるので、心配はしてません!」

 

 その笑みからは噓はなく、本当に心から大丈夫だと思っていることが伝わってくる。

 それにホッとした虹夏は胸をなでおろして、思わず犬みたく可愛い笑顔のぼっちの頭を撫でる。

 

「あの、虹夏ちゃん?」

「いいからいいから、今はこうした気分なの。あっ、リョウも撫でてあげよっか?」

「私は遠慮しとく……」

 

 そんなやりとりをしていると、同じ楽屋にいたSIDEROSのメンバーが話しかけてきた。

 

「どうも~、挨拶しに来ました。SIDEROSの長谷川あくびです」

「私は本城楓子です」

「内田幽々です」

 

 大槻ヨヨコのバンドメンバーだと若干警戒していた結束バンドらだったが、話してみれば普通に喋れる気のいい人達だった。

 噂ではSIDEROSはメンバーの入れ替えが激しい殺伐としたバンドかと思っていたイメージが払拭され、それを虹夏が思わずポロッと口に出す。

 

「あ~、それは……」

「結束バンド!リハーサルではまあまあの演奏だったけれど、本番はこうはいかないわよ!ゲストだからってSIDEROSと同じ土俵に立ったと思わないことね。言っとくけど、私のトゥイッターフォロワー数は1万人だから」

「急に会話に割り込んでまったく別の話しだした!?」

 

 鋭い眼つきで急に会話に入ってきたかと思えば、何故かライブとはまったく関係のない話でマウントを取り出してくるヨヨコに本気で困惑する虹夏。

 だが、この程度のマウントで結束バンドが動揺することはない。むしろ、その逆とでもいっておくべきか。

 結束バンドの広報大臣たる喜多ちゃんのイソスタはその1万を超える1万5千人!!

 それを聞いた瞬間、手のひら返しでバンドマンは技術で勝負と言い出した。

 

「まあ、あんな感じでコミュニケーション能力カスなんで、それが原因になって辞めちゃう子が多いですよ」

「なるほど……」

 

 かなり納得できる理由だった。結束バンドもベクトルは違うが、似たような子であるぼっちちゃんがいるから、そういった人に関しては酷く共感できる。

 同じ苦労を背負った者同士だからこそ、分かり合えるものもあるもので、早々に虹夏とあくびは友人のような関係になった。

 

「にしても、さっきチラッッと聞いたんですけど。あのギターの人……、ぼっちさんでしたか?あの人の今日着てきた服ってヨヨコさんが選んだなんて話ですけど、ぶっちゃけ大丈夫でした?あの人、音楽と勉強以外は結構ポンコツなところありますんで、変な服とか選んで無理矢理に買わされたりとかは……?」

「あ~、大丈夫だと思いますよ。本人もなんだかんだで気に入って購入したみたいですし……」

「そうですか、それでどんな服だったんですか?ヨヨコ先輩の事だから奇抜なファッションの塊みたいな服を選ぶと思ってたんですけども……」

「え~っと、それは……。まあ、大胆さはあったかな?」

 

 その大胆さについてあくびに説明しろと言われたら、虹夏も少し困るところだ。

 だって、あれをどう表現すればいいのか、虹夏は無難な言い方が思いつかなかった。

 何なら、リョウと喜多ちゃんの2人も顔を逸らしてしまっている。

 その3人の反応を見て、さすがにあくびも気になったようで、虹夏から聞き出そうとする。

 

「あの、マジで大丈夫なんすか?本当、変な服選んでません?」

「変ではないよ。変では……」

 

 結局、そのまま隠し通そうとすると妙な誤解を招きそうなので、正直に話すことにした。

 正直に話した結果、あくびは普通に驚いた。

 

「マジっすか!?ヨヨコ先輩が他人の服を選んだってのもビックリですけど、あのギターの人に彼氏さんがいたんすね」

 

 前半部分は普通に驚いてはいるようだが、後半部分はそう驚いてはいないようだ。

 まあ、初対面で今の状態のぼっちちゃんを見れば彼氏がいてもそう不思議に感じることもないだろう。

 

「っで、その人の写真とかはないんですか?」

「う~ん、2人共写真とかは撮らないタイプの人だし……。あっ、でもこの後のライブに顔出す予定なんでその時に顔を見れる筈ですよ!」

「ふ~ん、ギターさんの彼氏さんって彼女の趣味にも寛容ないい人なんですね」

「えっ、あっはい。そ……そうなんですよね……。零士君は優しくてかっこいいんです!」

 

 普通に褒められて嬉しそうにデレデレしながら、しれっと彼氏自慢をするひとりのスマホに着信が入る。

 誰からかと確認すると、そこには図ったようなタイミングで零士からメッセージが届いていた。

 

「あっ、零士君からです」

「おっ、愛しの彼氏君から愛のメッセージ?」

「いえ、そうじゃなくて、なんか電車が遅延したみたいで、OPENの時間には間に合わないみたいで……。あっ、でもライブの時間までには到着できそうだそうです!」

「そっ、ならよかったじゃない。ふふふ、あんたの彼氏がどんな奴か、私が見定めてやるわ!」

 

 タチの悪い姑のような事を言い出すヨヨコだが、その言葉の真の意味としては、ひとりが変な男に騙されていないかの確認だ。

 ちなみに、このことはあくび翻訳によってちゃんと虹夏とひとりに伝えられています。

 

「じゃあ、零士君が来るのって私達のライブ直前くらいにやって来るって訳?」

「そうみたいですね……」

「ふ~ん、じゃあこの子の彼氏がどんな奴なのかはライブが終わるまで分からないってわけね」

「そんなことないですよ、零士君って個性的だし、ライブハウスに入ってくれば1発で分かるよ!」

「どんな奴なのよ。別の意味でも気になってきたじゃない」

 

 詳しく説明しようとスタッフさんから本番開始前の知らせを受ける。

 まだもう少し雑談を楽しんでいたかったが、流石にライブの時間に間に合わなくなるのはマズイので、ここで会話を切って急いで楽屋を出ていった。

 

「あっ、ぼっちちゃんの彼氏くん。結構怖い顔してるし、不良っぽい感じの人が居たらその人ですよ!!」

「あの、でもちゃんと優しいので、誤解しないでください!」

 

 それだけ言い残して虹夏とひとりはステージに上がっていく。

 これまでの話の流れから、てっきり彼氏はオタク系か親切な委員長タイプの顔のイメージだったSIDEROSの面々は怖い顔した不良っぽい人という虹夏の言葉から、どんな奴がくるのかと少し身構える。

 

 そうして、結束バンドが出て行って、楽屋に残されたSIDEROSのメンバー全員が興味本位で楽屋を出てライブハウスの入り口に注目する。

 ひとりの言うことが正しければ、本番開始前の直前にやって来るそうだが、果たしてどんな奴がやって来るのかと皆が戦々恐々、あるいは興味津々といった感じで扉が開かれるのを待っている。

 

 そんな彼女らの期待に応えるように、さほど時間が経つことなく入り口の扉が開かれる。

 

「きた!」

「ちょっと、見えない!?」

「落ち着きなさい!ほら、入ってきた」

「どれどれ?」

 

 皆が身を乗り出してどんな奴か確認しようと入り口に視線を向ける。

 そして、とうとう入ってきた人物を見た瞬間……。皆が絶句して目を見開く。

 

「お前ら、後藤様のライブで決して騒ぎなんか起こすんじゃねえぞ!」

「「「イエッサー!!」」」

「俺ら、後藤様のライブ聴くの初めてで緊張するっす!」

「へへへ……、後藤様の早弾きは思わずファンになっちまうくらいの鬼テクでマジ卍バリクソ感動すんぜ!」

 

 店に入ってきたのは不良どころか世紀末を生き抜いてきたと言われても納得できる風貌のモヒカン軍団がゾロゾロと入ってきた。

 

「「「「予想の斜め上どころか、真上なヤバい人らがキタァ──!!?」」」」

 

 虹夏ちゃんの言う通りならば、あの中の誰かがぼっちさんの彼氏ということになる。

 確かに分かりやすいけれども、同じ見た目をした人が集団で来るとは予想外の展開が過ぎる。

 いや、見た目で判断するのは間違っているのだろうけど、流石にアレはない。

 彼らはファッションの問題を超えて、反社会的勢力の一員と見なされてもおかしくない。

 

 あくびは恐る恐るといった様子でヨヨコを見てみると、そこには焦燥感と何かしらの決意を固めたような顔をしていた女戦士(アマゾネス)がいた。

 その瞬間、あくびは『あっ、これマズイパターンだ!?』と内心で察して、面倒な事になったと頭を抱えた。

 

 というか、もう今すぐにでも飛び出そうとするヨヨコを何が何でも止めなくてはならないと、あくびの危険センサーが反応している。

 

「ちょっ、離しなさいよ!」

「いやいや、アレはマズイですよ!ただのバンドマンが相手していいって人間じゃないですって!?」

「そうです!アレは警察とか自警団とかそういう方面の人に任せる集団ですって!!」

 

 あくびだけでなく、他のメンバーも突撃しようするヨヨコを引き止める。

 それでも、正義感の強いヨヨコは他のメンバーの制止を振り切ってモヒカン軍団の方へ行こうとする。

 その時、ライブハウスの扉が再び開き、ヨヨコの暴走を止められる新たな人物が入ってきた。

 

 




お昼に次話を投稿します。

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