「ヤベえな……。こんな時に限って電車の遅延かよ」
少々気合を入れて
だがまあ、時間には余裕を持って出掛けたおかげで遅延してもギリギリライブの時間には間に合う範囲ではある。
「ちっ、間に合うつっても、ライブ前にひとりに会いに行きたかったんだがな」
どうせ緊張してるだろうから、変なトラウマにならないようにフォローやアドバイスの1つでも送ってやりたかったのにとぼやいていると、道の先に見知った人物が集団となって歩いていた。
「よぉ、こんなとこでも会うなんてな!」
「うぉっ、れ……零士さん!?」
最近下北沢では見かけていなかったモヒカン野郎とコピペしたような似た見た目の集団が、この俺が近づいて来たことにビビっていた。
「零士さん、今日はどうして新宿に?」
「ああ、今日は新宿FOLTでひとりがライブするんでな。今から観に行くところだ」
「へぇ〜、そうだったんですね。んじゃ、今日の新宿FOLTでのクリスマスライブじゃ、結束バンドが出演するんすか!」
こんな見た目でも生粋の音楽好きのこいつらは新宿FOLTに結束バンドが来ると知ってテンションを上げる。
折角だから、こいつらにも一緒に来るかと誘うと、二つ返事でついてきた。
見た目こそ乱暴者のようではあるが、根は良い奴らだから迷惑にはならないだろう。
新宿FOLTに着くと、もう開場の時間になっており、あと10分もすればライブ開始の時間になる。
「あっ、お前ら先に行っててくれ、ちょっと俺はコンビニで金を下ろしてくるからよ」
「了解っす!おし、オメェら!くれぐれも店内で騒いで迷惑掛けねえようにな!!」
「「「「オッスオッス!!」」」」
モヒカン軍団にそう言い、コンビニに入る。
今日は男として大きな一歩を踏み出す日であると同時に、将来に関わる大きなイベントの日でもある。
金を下ろして来るというのは建前で、本当は学生の性行為では必需品ともいえるゴムを買う為にコンビニへ寄ったのだ。
とりあえず、どれがいいのか分からないが、適当に数が多いのを手に取って購入する。
時間を見ればライブ開始の時刻までもうあと僅かだ。
急いで新宿FOLTまでダッシュして急ぎ、受付でチケットを購入して中へと入る。
♦
ぼっちさんの彼氏(どれかは分からないが)と思わしきモヒカン野郎に突撃仕掛けようとするヨヨコ。
そんな彼女をSIDEROSのメンバーが止めるのに必死になっていると、ライブハウスの入り口の扉が開いて人が入ってくる。
「お~、ライブには間に合ったか」
「「「「うっす、まだ後藤様とご友人ら結束バンドの出番はきておりません!!」」」」
突然の来訪者に、SIDEROSのメンバーは一瞬動きを止めてしまう。
その一方で、モヒカン軍団は来訪者を見てすぐに頭を下げて道を作ると、その人物は、まるで当然のようにモヒカン軍団の間を歩いていく。
「ちょっと行ってくる!」
「あっ、ちょっ、ヨヨコ先輩!?」
皆が入ってきた人物とモヒカン軍団の対応に呆気に取られていた隙に、ヨヨコが飛び出していった。
慌ててあくび達が追いかけようとするが、すでに遅かった。ヨヨコはその人物の前に立つと、いつもとは違う、いや初めて聞くくらいの女の子らしい声で話し掛ける。
「こ、この前ぶりね!元気にしてたみたいじゃない?」
「ん?ああ……、お前この前の……」
「きっ、奇遇ね!今日はどんなバンドの曲を聴きにきたのかしら?まあ、今日はあたし達SIDEROSが本気で演奏するから、精々度肝抜かれないように覚悟しなさいよ!?」
「SIDEROSってことは、やっぱり、お前が……」
いつもと違うヨヨコの異様な行動にSIDEROSのメンバーは、訳が分からず唖然としていた。
ヨヨコのそんな姿なんて初めて見たあくびはそういえばと、以前ヨヨコが結束バンドのライブを観に行ったことが判明し、そのことを興味本位で根掘り葉掘りと聞き出した際、ライブ後に王子に出会って助けてもらったなんて夢女みたいなことを言ってたので、その部分だけは適当に聞き流していたけど。
(まさか、ヨヨコ先輩が言ってた王子ってのが、あの人……?確かに、顔は怖そうではあるけど、よく見れば結構なイケメンだし、王子ってのも納得はできる)
そこまで考えたところで、ステージに上がった結束バンドがMCが始まる。
ライブが始まり結束バンドの演奏する曲が流れ始めると、入り口付近で固まっていたモヒカン軍団が盛り上がっていく。
「ほら、ヨヨコ先輩。私らも楽屋に戻ってライブ準備しなきゃ!」
「あっ、ちょっと……!?」
暗闇に紛れて徐々に王子って人との距離を詰め寄ろうとするヨヨコ先輩を引っ張って楽屋へ戻る。
最初は不貞腐れていたが、バンドマンとしては一応は常識人な彼女はすぐに気を持ち直し、念入りにライブ前に自分の機材のチェックを行っていた。
そんなヨヨコ先輩に当てられて、自分達も機材のチェックを始める。
そして、結束バンドの出番が終わり、自分達の出番が回ってきた。
ステージに上がる際に、結束バンドとすれ違ったので手短に「モヒカンを悪く言うつもりじゃないですけど、アレはやめといたほうがいいですよ」とだけ伝えると、何故か結束バンドの皆さんは怪訝そうに首をかしげたのはどうしてだろうか?
それを訪ねる時間があるわけもなく、急いでステージへ上がって自らの配置につく。
結果、ライブは大成功といっても過言ではない出来で終了し、ライブ後の打ち上げには結束バンドのホームであるSTARRYへお邪魔することになった。
♦
「メリ~クリスマ~ス!!」
進行役の伊地知虹夏の音頭に合わせて、皆が持っているグラスで乾杯する。
この打ち上げには、虹夏とPAさんや店長だけでなく、メンバーである後藤ひとり、山田リョウ、喜多郁代の他にSIDEROSのメンバーも参加している。
「ねえ、あんた彼氏のことだけれど……」
「零士君のことですか?」
「「「「…………っ!?」」」」
打ち上げも始まり、各々が好きな席に着いて盛り上がっている最中、ヨヨコが早速とばかしに隣に座るひとりに彼氏の事を聞き出す。
それに反応したのはひとりだけでなく、SIDEROSの他のメンバーも会話を切って2人の会話に耳を傾ける。
「そういえば、さっきモヒカンがどうのって言ってましたけど?」
「そうよ!別に人の彼氏をとやかく言うつもりはないけれど、アレを彼氏にするのはやめときなさい。ダサい以前にヤバいから!!」
「???零士君はかっこいいですよ?」
ひとりは、零士がダサいなんてありえないと即答する。
その返しに、ヨヨコは噓でしょ?と破顔する。
その時、ヨヨコ以外のメンバーは二人の会話を見て、何かがうまく噛み合っていないと感じた。
自分達は何かを誤解しているのではないかと思い始めた。
そして、その真実を確かめるかのように、STARRYの入り口の扉が開いた。
「うっす、遅れっちまった!」
颯爽と入り口から入ってきたのは、打ち上げ&クリスマスパーティに参加すべく遅れてやってきた零士であった。
ちょっと前までモヒカン達とライブ後の感想会で盛り上がりすぎてしまった為に、こうして遅れての登場となってしまったのだ。
「あっ、零士君!」
ガタッと椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がったひとりは、テテテ……!と音が聞こえてきそうな走り方で零士に駆け寄っていく。
それを見てSIDEROSのメンバーは心の中でやっぱりかと頭痛を堪えるかのように額に手を当ててヨヨコの方を見る。
「……ほへぇ?」
状況がまだ飲み込めていないのか、ひとりと零士を交互に見ながらマヌケな面で首を傾げるヨヨコ。
そんな彼女をよそに、ひとりは零士の前に立ち、満面の笑みを浮かべて言う。
「メ、メリークリスマス!!」
「おう、メリークリスマス!」
2人がそんなやり取りをしている最中、STARRYにいた誰もがジュースからコーヒーへ変更する。
「ってか、なんで室内なのにコート着てるんだ?」
「えっと、リョウさんが目の毒になりそうだから着ておけって」
最初は「はぁ?」となったが、コートの隙間からチラリと見えた衣装にドキッとしながら納得した。
「お、おい、ひとり?そのコートの下の服って……」
「えへへ……、ちょっと気合い入れてオシャレしてみまして……」
ツンツンと気恥ずかしそうに指を突っつきながら、上目遣いで照れるひとりに、零士はだらしなく鼻の下を伸ばしそうになる。
まあ、流石にそれはカッコつかないからと慌てて自分を律して冷静なフリを取り繕う。
「あ~、確かにその服装は俺以外の奴にゃ目の毒になりそうだからな」
「そうですか?お店にはもっと派手な服がまだあったんですけど」
この場合の派手さは言うまでもなく色物枠として置かれていた売れ残り品のことであり、ヨヨコがあの場に居なければひとりがそれを手に取って購入していた可能性は大である。
本当に零士はヨヨコに礼を言った方がいいのだが、多分言ったらヨヨコは精神的に死ぬだろうから止めておいた方がいいだろう。
クリスマスパーティーは零士の参加で再び盛り上がりを見せたが、ヨヨコのいるテーブルでは静かに料理が食べ進められていた。普段は周囲に流されることなく自分のペースを保つリョウも、隣で無表情にポテトを食べるヨヨコの姿に気まずさを覚えていた。
「…………」
「…………(空気が重い)」
その一方で、ひとりと零士が座るテーブルは、まるでピンク色の空気をまき散らしているかのようなラブラブな雰囲気で、見ているこちらが突っ込みたくなるほどだった。
「んで~、まさかひとりがコートの下にそんな扇情的な服を着てくるほど、今日を楽しみにしてくれてたなんてな……」
「も、もう!私だって怒るんですよ!こんなところで恥ずかしい話しはなしです!!」
「了解。…………そういうのは2人きりの時にだろ」
耳元に近づいて囁くようにそう言った零士は、あざとくひとりだけに分かるようにウィンクを飛ばす。
当然、そんなことをされればひとりのキャパは容易くオーバーし、顔を赤面させて口を無意味にパクパクさせる。
「は~い、今は結束バンドとSIDEROSの打ち上げ会&お姉ちゃんのお誕生日の会だからね」
「恋人いない人達の前でイチャつく彼氏さんからはひとりちゃんを遠ざけちゃいましょうね~」
「ああ……」
ついに我慢の限界が来た虹夏と喜多の手によってひとりが別のテーブルへと連行されていってしまった。
手持無沙汰になった零士はテーブルの上のポテトを1つ摘まんで口に放り込む。
そこへ、ヨヨコを除いたSIDEROSのメンバーが零士のテーブルに着く。
「あの~、ご一緒してもいいですか?」
「あぁん?まあいいけどよ。お前らってSIDEROSのメンバーか?」
「はいっす。私があくびで、こっちが楓子と幽久です」
「「どうもで~す!!」」
「おう、よろしく。俺は鬼龍院零士、普通に分かると思うが、ひとりの彼氏やってる」
肩肘を突きながら自己紹介する零士は端的に言って絵になっており、その風貌と雰囲気から彼女がいなかったらワンチャンを狙って接近していただろう。
そんな零士に、あくびは意を決して彼に声をかける。どうしても聞きたいことがあったからだ。
「あの、零士さんって、ぼっちさんとはいつ頃からお付き合いを?」
「あ~、中学2年の頃だな。もう2年ぐらいの付き合いになる」
「そっすか~……。(こりゃ勝ち目が無さそうっす、ヨヨコ先輩)」
付き合った期間も、2年の歳月の仲ならお試しとかの線はなし。さっきのやり取りから見るに2年でのマンネリ化もないときた。
どう考えてもヨヨコが付け入る隙が見当たらず、向こうのテーブルで今もなお放心状態でポテトを口に運ぶヨヨコの姿を見て、メンバー全員が「お労わしやヨヨコ先輩」と合掌する。
その直後、酔っ払いの廣井と付き添いとして眞妃が一緒にやって来た。
「やっぱここにいら~~~!あたしずっと眞妃ちゃんと一緒にまってらにょに~~~!」
「もう、泣かないでください。すみません、ご迷惑をお掛けします」
泣きながら呂律の回っていない舌でSTARRYに入ってきた廣井についに来たかと店長が舌打ちするが、一緒にいる眞妃に免じてパーティーに参加することを許可する。
そこで時間もいい具合に経っていたので、店長の誕生日プレゼントのお渡しタイムに突入する。
それぞれが持ってきたプレゼントを渡す。喜多は今時のJKが欲しがりそうなリップを、山田は手持ちの金がないので外の雪で作った雪だるまを送る。廣井はプレゼントではなくゴミを押し付けてきたので、しばらくSTARRYの出禁を言い渡された。
残るはひとりと零士だが、その前に眞妃お姉さんがプレゼントを持って前に出る。
「ふふふ、私もプレゼントを持って来たのよ。とくとご覧なさい!!」
「おぉ~~!!こ、これは……!?」
テーブルの上に置かれたプレゼントは、かなりの大きさを誇る箱であった。
そして、その箱を一番最初に開けた店長が中身を確認して驚きの声を上げる。
「こ、これは!よく分かんないけど、TVで見た有名店の紅茶じゃないか!?」
そう、眞妃お姉さんが持ってきたプレゼントとは有名店の紅茶であった。
先日テレビでたまたま見かけたときの価格を覚えていたため、その驚きはもっともで、この大きさの箱に詰められている量を計算すれば、軽く数十万円はするだろう品物を本当にもらっていいのかと確認したのだった。
「いいですよ、これ家にまだいくつか備蓄してるので」
「お前ん家って金持ちかよ……」
次はひとりと零士の番となり、2人共同でプレゼントを用意していた。
「あの、これを……」
「俺ら2人からのプレゼントなんで、喜んでくれよな」
贈られたプレゼントは、愛らしいデフォルメされた伊地知姉妹の人形だった。
これは以前にひとりから店長は部屋にぬいぐるみを置いていると聞いた零士が思いついたもので、今回のプレゼントの内容を零士が考え、人形の作成はひとりがお金を出して制作してもらったのだ。
「こんないい物、本当にありがとな……」
店長は人形を両手に持って感激し、涙ぐんでいた。
こうして、結束バンド&SIDEROS合同クリスマスパーティーは盛り上がりを見せながら幕を閉じた。
「そんじゃ、俺とひとりはこっちだから、解散解散!!」
「えっと、その!す……すみません!!それじゃ、また明日!」
ひとりの肩を抱き寄せながら、いつもとは違う帰り道をゆく2人を見送る面々はほぼ同じ事を心の中で思っていた。
「「「「「これ、見せつけられてね?」」」」」と……。
それは当然、ヨヨコも見ている訳で……。
「へぇ~、私が選んだ服で私の王子と一緒に夜の街へ行っちゃうんだ~。……なによそれ、これじゃ私、とんだピエロじゃない……」
先程までの虚無顔のまま、両の目から涙がツ~っと落ちていき、その悲壮感たるや、この世全ての絶望を味わったかのようだ。
それを見ていた眞妃お姉さんが、ヨヨコの肩にポンと手を置いて優しく声を掛ける。
「その気持ちよく分かるわ。私もストーカーをしている片思いの男の子に誕生日プレゼントを渡したら別の女と夜の街へ消えて行ったもの……」
「「「「あっ……」」」」
「眞妃……お姉ちゃん……」
何かを悟った目で遠くを見つめる眞妃お姉さんと、それに感化されて涙ぐんだヨヨコは互いに強く抱き合った。
そして、眞妃お姉さんの胸の中でヨヨコは大声で泣いた。
「わ……わたじ、わるぐないも゛ん゛!!なのに、どうして!!どうしてこんな目に遭わなきゃいけないのお゛ぉぉぉ!!!」
「そうね、ヨヨコちゃんは悪くないわ。ただね、世の中こういったことはどうしても起きちゃうものなの。だから、今はお姉ちゃんに甘えてなさい」
よしよしと泣いてしまったヨヨコを優しく慰める眞妃お姉さん。
それを後ろで見守っていた結束バンドのメンバーたちは、非常に申し訳なさそうに一部始終を見守るしかなかった。
「こ…心が、罪悪感で押し潰されそうなんだけど!」
「あの2人と関わっていくうちにヨヨコさんも眞妃お姉さんみたくなってくんじゃね?」
「ありえそうですけど、あまりそう言う風に言わないほうが!?ってか、SIDEROSの方々は大丈夫ですか?リーダーがあんな風になっちゃってますけど?」
「いや、だいぶしんどいですね」
「あ~、下手にストーカー紛いな事しなきゃいいんですけども……」
ヨヨコの泣いている姿に罪悪感を感じる虹夏と、それを見て第二の眞妃お姉さんになるのではないかと危惧するリョウ。
一方、喜多はSIDEROSのメンバーのことを心配し、あくびと幽久は苦笑いしながらそれに答えるしかなかった。
ちなみに、店長は零士がひとりを抱いて去って行こうとした瞬間にぶっ倒れており、もう既に店内に搬送されてPAさんと廣井の2人によって介抱されている。
まあ、結論を言えば今回のクリスマスパーティーは大成功で終わることが出来たが、その代償としてヨヨコと店長の心に深い傷を残すことになってしまったのだった……。
ヨヨコちゃんの心理描写をもっと詳しく書きたかったけど、文才がない俺じゃこれくらいしか書けなかった。
はぁ、溜め息しかでねえ……。
R18haまた今度出すんで、出来たらそっちも読んで感想ください。