新年を迎えた最初の日、私の手元のスマホには2件の連絡があった。
1つは当然のことながら、彼氏の零士君からのデートの誘いだった。
もう1つは喜多ちゃんからの初詣の誘いだった。
大晦日なので年越しまで寝ないがために深夜まで起きていた為の深夜テンションからか、初めての友達からの遊びのお誘いメッセージについ条件反射でOKっと返してしまった。
ふと冷静に戻ったころには後の祭り、次の瞬間には絵文字付きのメッセージとスタンプが大量に送られて、とても今更無理ですとは言えない状態になってしまった。
渋々、泣きながら零士君に相談すると、呆れた溜め息を吐かれつつも、なら3人で初詣に行けばいいと提案してくれた。
本当なら2人きりの方がよかったはずなのに、それでも怒らずにこうして折衷案を出してくれる彼氏の優しさに今年初の惚れ直した。
一応、喜多ちゃんにも零士君が一緒に初詣で行くと返事すると、2人のデートに割って入るような形でごめんなさいと謝罪のメッセージが送られてきた。
うぅ……、2人共私には勿体ないくらいのいい人だよぉぉぉ……。
罪悪感と感謝を胸に秘めながら、私は喜多ちゃんに大丈夫だよと返信を送ると、ありがとうのスタンプと待ち合わせ場所と時間の書かれたメッセージが返された。
その場所と時間を零士君に送ると、了解のメッセージと共に一つ紋の色紋付き羽織袴を着た零士君の写真が送られてきた。
「お、お母さん!初詣に着ていく着物用意して!!」
急いで降りて母に頼んだら、笑顔で「OK!」と言い、タンスの奥からピンクの着物を取り出してくれて着せてくれた。
ちなみに、お父さんは夜は危ないからと一緒に行くと言ったが、お母さんがコブラツイストで即座に黙らせた。
髪をお団子にして、お母にさん着付けを手伝ってもらって鏡を見たら、そこに映っていたのは自分とは思えないほどの美少女だった。
「へ、変じゃないよね……?」
「えぇ!とっても似合ってるわよ!」
お母さんの太鼓判をもらい、私はルンルン気分で鏡の前で一回転してみせる。
その様子をジミヘンと一緒に見ていたふたりが「お姉ちゃん、すっごく可愛い」と褒めてくれて、実妹の褒め言葉の威力に私は腰砕けになった。
「ほらほら、折角可愛い衣装を着てるんだから、軽くメイクくらいしていったら?」
「じゃ、じゃあ、お願いできる……お母さん?」
「もっちろんよ!」
可愛い娘を綺麗にさせてあげることを嫌がる母がいるだろうか?否、いないと断言しよう!!
あまり凝った化粧はひとりちゃんの天然の可愛さを殺すことになり得るので、軽く肌を綺麗に見せる程度のナチュラルメイクで、軽くチークとリップだけ施した。
「どう?お母さん?」
「うん!可愛いわよ!」
簡単なメイクだったが、元々の素材がよかったのだろう。自分の娘ながら、かなりの美少女に仕上がった。
「行ってらっしゃーい!」
「じゃあ、行ってきまーす」
お母さんとふたりに手を振って玄関を飛び出して待ち合わせの場所に行く。いつもなら人通りの少ない深夜だが、初詣で賑わう人々がちらほらと見える。
その人々に続いて神社へ向かって進む。鳥居が遠くに見えると、スマートフォンを確認し、少し早く着きすぎたかと思うと、集合時間の30分前にも関わらず、既に2人が到着して待っていた。
「あ、喜多ちゃん。零士君、お待たせ」
「ひとりちゃん……。え?ひとりちゃんよね?」
「あっうっ……、えへへ……」
「うわー!元が可愛いとは知ってたけど、着物姿の格好もメイド服姿と違って華やかでキュートだわ♡」
カシャカシャと写真を撮って褒めちぎってくれる喜多ちゃん。
うぅ……、恥ずかしいぃ~!零士君の方は……?
「ほぉ~……」
あぅ……、羽織袴を着た零士君がジッと見てくる。
うぅ~……、そんなに見つめられると恥ずかしいぃ……。
でも、袴姿の零士君の姿もカッコいいなぁ……。
「ほぁ~……」
「ちょっと!2人だけの世界に入られると私がぼっちになるんですけどぉぉぉ!!!」
ちょっぴり涙目になった喜多ちゃんの叫び声で現実に戻された2人は一言謝罪して3人で初詣に行く。
やはり近所のさほど有名ではない神社といえど、初詣ともなれば参拝者は多い。
普段着慣れない着物を着ていることもあってか、ひとりは人混みの中で既にヘロヘロだった。
そんなひとりを見兼ねて零士が手を差し出すと、ひとりは照れた笑みを浮かべながら恋人繋ぎで手を取り、離れないようにしっかりと握る。
「あ~、喜多ちゃんじゃん!!」
「ホントだ~!喜多ちゃ~ん!」
「あら、みんな来てたんだ~!」
偶然にも、初詣に来ていた喜多ちゃんの同じクラスの子達がこちらに気がつき、なし崩し的に一緒に初詣を回ることになった。
「え〜、喜多ちゃん、後藤さんのデートの邪魔しちゃったわけ?」
「そりゃないわ〜」
「うぅ、だってぇ……、伊地知先輩とリョウ先輩からは断られちゃったんだもん!そうしたらついひとりちゃんに連絡送っちゃってぇぇ……」
「あわ、あわわわ……!?」
喜多ちゃんが友達にからかわれているのを見て、どうしたらいいかオロオロと途方に暮れていると、零士くんが「落ち着け」と言って、痛くないように軽くチョップをしてきた。
冷静に考えてみれば、あれはただの友達同士のじゃれ合いだった。慌てる必要はなかったんだ。
まあ、長年の友達がいないぼっちだったから、つい過剰反応しちゃったのかもしれないけど……。
参拝が終わった私達は適当な屋台で食べ物を買って腹を満たした後、流れでカラオケに行くハメになった。
零士くんはあまり乗り気じゃなかったけど、喜多ちゃんがノリノリで行くと言ったから仕方なくって感じだ。
「だ、大丈夫?零士君、あんまり乗り気じゃなさそうだったけど?」
「まあ、人前で歌うのが恥ずかしいとかじゃねえけどよ、知らねえ奴らの前で歌うのが面倒くせぇだけだ」
そうなんだ……。でも、それじゃなんでカラオケの誘いについて来てくれたんだろ?
「あ゛ぁん?そんなの、お前が誘われて内心で嬉しそうにしてたからだろ。俺が断ったら絶対お前、遠慮するからな」
ぶっきらぼうに言う零士くんの言葉に、私は顔が熱くなるのを感じた。
うぅ……、そんなに私ってわかりやすいのかなぁ……? そんな会話をしていると、いつの間にか喜多ちゃん達が受付を済ませた後だった。
大人数が入れる程に広い部屋に入るのは初めてな私は物珍しそうに室内を見渡す。
部屋の中央には大きなテーブルと、そこに備え付けられたモニターやマイクがある。
そのテーブルには既にドリンクバーで取ってきた飲み物が人数分置いてあり、みんな思い思いに寛いでいた。
私は当然ソファーの端っこに邪魔にならないように座るが、その横に零士君が座って私の肩を抱き寄せてきた。
いつも、デートの際は横に座ったりするとこういう形になるから私達はあまり気にならなくなっていたが、今日は他の皆がいる状況。
当然のことながら、その視線は全て私達の方に向いていた。
「ねえ、文化祭の噂で聞いてたんだけど、彼氏さんっていつも後藤さんとこんな感じでラブラブなの?」
気になった1人がそう聞くと、零士君はん~?と返答を少し迷わす。
「まあ、そうだな。あと、俺とひとりは付き合ってるが、今の俺は彼氏じゃねえ。この間、結婚の申し出をOKしてもらったからな、今はひとりの婚約者だ」
「おっぴゃぁ!?」
堂々と宣言する零士君の言葉に私は思わず奇声をあげてしまう。
それを聞くと、周りの空気がガラリと変わるのを感じた。恋愛ごとに色めきたっていた空気が一瞬にして爆発寸前の爆弾を前にしたかのような雰囲気に早変わりした。
そんな空気を面白おかしそうにニヤついた顔で眺める零士君に何してるんですか!?と袖を引っ張って抗議する。
「ひ、ひとりちゃん。今の話って本当なの……!?」
喜多ちゃんが引き攣った表情で私に聞いてくる。
他の人達もカラオケに来たのに曲も入れずにこっちの話に注目している。
「あにょ、それは、そにょ……はい……」
しどろもどろになりながらも、私は肯定する。すると、喜多ちゃんはまるでエンダー!!!とショック!!!の入り混じったような悲鳴をあげてその場にへたり込んだ。
周りの人達もなんだかお祭り騒ぎで隣の人とハイタッチする人もいた。
その日のカラオケはほぼ全曲ラブソングだったのは言うまでもない。
感想が欲しいぃぃ……!!!
もっといいね!とかの高評価で俺の承認欲求モンスターを討伐してくれぇぇぇ!!!