未確認ライオットのデモ審査用の曲も完成したことで、結束バンドもついにMV撮影に取り掛かることになった。
その為に今日はSTARRYに集まって企画会議をするはずだったのだが。
「っで、この私がわざわざ来てあげたのよ。泣いて感謝しなさい!」
どこからかMV撮影の話を聞きつけた大槻ヨヨコがSTARRYへと押しかけて来て、自分を
本当にどこから情報が漏れたのか、あるいは知らぬ間にストーカーされていた可能性も否定できないため、怖くてそのことを尋ねることができない。
突然押し入ってきたのは困るが、撮影の手伝いをしてくれるならば、それは大いに歓迎する。
「あっ、あの、今日はよろしくです。大槻さん」
「うっ、ええ、今日のMV撮影は任せないさい!ところで、王子……じゃなかった!?あんたの彼氏は来てないの?」
「?零士君ですか。零士君なら今日は部活の練習でいませんし、そもそも結束バンドのメンバーとかマネージャーじゃないんで、MV撮影に呼ぶのはどうかなって感じでして……」
「ふ~ん、あっそ……」
恋敵(完敗済み)であるひとりに頼られて引き攣った顔で胸を張るヨヨコだったが、キョロキョロと周りを見渡して零士の姿がないことを知ると、そっけない態度ながらも少し寂しそうな声色でガッカリしていた。何についてかは明言しないが、おいたわしやの一言が全員(ひとり以外)の喉元まで出かかった。
不憫な子とひとり以外のメンバー全員が可哀想な子を見る目でヨヨコを見つめながら、早速撮影の準備に取り掛かる。
「いい!先ずは音楽配信サイトに曲を申請すること!それと、スポチファイが無理でもバンドキャンプゥなら審査通りやすいから、それも登録しておいた方がいいわね」
「おお!参考になります!!」
大槻ヨヨコのアドバイスはバンド関係ならば的確で、さっそく言われた通りに虹夏はスマホで音楽配信サイトへの登録と、バンドキャンプゥへの登録を済ませる。
「登録完了しました!」
「そう、じゃあ次は撮影用の機材と人材だけれど……」
「あっ、それならお姉ちゃんがライブハウスで使ってるのを貸してくれました。それに、人材に関してもぼっちちゃんのファンの1号さんと2号さんが手伝いに!!!」
「どもー、1号です」
「2号です~」
虹夏の紹介に合わせて2人のファンが姿を現す。
2人共美大の映像学科生なので、撮影・編集技術も持ち合わせている。虹夏達からすれば大変心強い助っ人だ。
まあ、ヨヨコはひとりに彼氏だけでなくファンとの付き合いでも負けているのかと床に突っ伏してショックを受けていた。
「ぼっち……罪な女」
「ひとりちゃん、ヨヨコさんに優しくしてあげてね」
「リョウさん!?喜多ちゃん!?」
わざとらしくハンカチで目元を拭うリョウと床に突っ伏すヨヨコに哀れみの視線を向けている喜多ちゃんにひとりはただ困惑するしかなかった。
とにもかくにも、撮影機材や人員の準備は整い、MV撮影を開始することになる。
まずはMVのコンセプトをどうするかの企画会議を始める。
「それでどうすればいいですかね?」
「あのね、いつでも私がいるわけじゃないんだから、少しは自分たちで考えたりしてから頼ってきなさいよ!」
「うっ、そうですよね……」
つい聞けば何でも答えてくれると思い込んでいたから、ヨヨコの言い分に反省した虹夏は明らかに落ち込んでしまう。
ちょっと言い過ぎたかと慌てるヨヨコは、さり気なくヒントとして最近流行のMVの特徴をペラペラと語る。
「ヨヨコさんって怖そうな人だけど、案外親切な人ですよね」
「そのぶん余計にぼっちの彼氏に片思いしてる事実に胸が痛むけどね」
「あ~ははは……」
リョウの発言に喜多ちゃんは苦笑いするしかなかった。
一刻も早く新しい恋を見つけて欲しいが、ヨヨコの零士への想いは一途で真っ直ぐ過ぎてストーカー疑惑まで出ている為に、その希望が叶う日が来るのかと遠い目で天井を眺めて現実逃避してしまう。
「ん~、じゃあここはやっぱり王道にダンスとかがいいんじゃない?」
「でも私ダンスの振り付けとか得意じゃないですよ?」
「大丈夫、どのMVも一夜漬けしたようなキレのないものばっかだし」
「え~よくわかんないですけど、こんな感じですかね」
しれっと滅茶苦茶キレキレの動きでダンスを踊る喜多ちゃん。
とはいえ、素人がそんな動きをマネ出来るはずもなく、当然ながら却下となる。
「じゃあ、ぼっちちゃんは何かある?」
「あっ、うっ、フォ……フォークダンスとかなら零士君と一緒に踊ったりしてるのでなんとか……」
「ぐっはぁぁ──ーッ!!?」
「うへぇっ!!?」
突然椅子をひっくり返して倒れ込むヨヨコの奇行に驚いてひとりが悲鳴染みた声を上げる。
勿論、事情を理解している他の皆はご愁傷様ですとばかりに倒れたヨヨコに黙禱を捧げる。
結果としてダンス案は却下となって他の案を考え始める。
「そういえば、ぼっちの家に犬がいたよね。それを使おう」
「あっ、はい……」
古今東西、人間は動物の可愛さの前に平伏してきた。犬猫の散歩や食事シーンでバズることはそう珍しくない。
更に言えば、動物と美少女の抱き合わせは老若男女問わず魅了する。
「つまり、ぼっちに萌え服を装備させて犬と絡ませれば万バズは狙える!演奏シーンは最初と最後にチョロっと流せばOK!」
「お、おまえ!?プライドってものがないのか!?」
「リョウ、流石にそれはないわ~」
リョウのあまりにも露骨な案に復活したヨヨコが激しく反発し、虹夏もその提案に呆れ果てている。
その案も却下となり、次にまだ何の案も出せていないひとりにギターヒーローとして活躍しているテクを教わる。
「そうですね。やっぱり、タグ付けは沢山した方がいいですね。あと、動画にコメントとか付けると反応がいいんですよ。これとか零士君との初めてのキスした日の事を書いた動画なんですけど……」
「ひでばぁっ!!!」
「お、大槻さん!?」
「うん、知ってた」
「もはやお約束ですね」
「もうやめたげて、ぼっちちゃん。大槻さんのライフはゼロよ!!」
「えっ?えっ?え~~っ!?」
本日2回目の無自覚惚気にヨヨコは吐血し、床に倒れて動かなくなってしまった。
しかも、ヨヨコのライフが尽きた理由がひとりにはいまいち理解できなかった為、混乱している。
虹夏とリョウも慣れたもので、喜多ちゃんに至ってはこの光景をお約束だと笑っている。
「うおぉぉ……!まだよ、まだ終わらんよ!!」
「あの、本当に大丈夫ですか、大槻さん?体調が悪いなら帰った方が……」
「いらない気遣いは無用よ、後藤!!さあ、MV撮影の企画会議を続けるわよ!!」
その後、何とか復活した大槻ヨヨコを筆頭にMV撮影の企画会議は進む。
「はいは~い!私いい㎹思いつきましたよ!」
「あ~、じゃあ、喜多ちゃんの案を聞こうか」
元気よく手を上げる喜多ちゃんに若干の嫌な予感を感じながらも、折角のアイデアを無下にするわけにもいかないので、とりあえずは喜多ちゃんの案を聞いてから、ダメそうなら却下すればいいだろう。
「まずですね、高校生カップルが浜辺デートで喧嘩するんですけど、私達のバンド演奏を観てなんやかんやで仲直りして、それで曲の終わりにキス!それを祝福する結束バンド!みたいなのどうですか!?」
「き、喜多ちゃん!?その……浜辺デートする高校生カップルって誰が用意するの?ってか、喜多ちゃんが想像しているカップルってぼっちちゃんと零士君でしょ?」
「あ~、……はい!!」
「はい、ダメぇ~~!!!」
虹夏が大きく手でバッテンを作って即座に却下する。
「あの、喜多ちゃん。その私もそういうの零士君としたくないっていうか、喧嘩なんてしたことないですし、人前でキスだなんて……!?」
「えっ、ひとりちゃん達って喧嘩したことないの!?」
「だって、基本的にいつも零士君は私の為によくしてくれますし。文句を言ったり不満になったことなんて1度もないです。それに、零士君も優しいから怒ったりなんてないですよ。あっ、でも私の為に怒ってくれたりはありますよ!!」
ぼっちーん☆!!!とばかしに幸せオーラ全開で語るひとりを見て、話を振った陽キャの喜多ちゃんもその眩しさに目を閉じる。
それは虹夏とリョウも同じで、降り注ぐ幸せオーラに圧倒されていた。
「ぐわぁー!ぼっちちゃんの幸せオーラが眩し過ぎる!!!」
「……リア充爆発しろ」
喜多ちゃんのせいでとんだ大火傷を喰らった2人は、眩しさに顔を背ける。
しかし、この2人でこの反応だ。一緒にいるヨヨコの方を見るのが少々怖いが、生存確認ぐらいはしなければならない。
3人が恐る恐るヨヨコの方へと顔を向けると、そこには大仏顔になって悟りを開いたヨヨコが静かに座っていた。
「色即是空──世は常に回り続けているのです。祈りはいつか叶うと信じる心なのだと私は知りました」
「大槻さんがついにぶっ壊れたぁぁぁ!!!?」
あまりの立て続けに起こるショックにヨヨコの精神は崩壊寸前まで追いやられていた。
それゆえの心の防衛本能によるものだが、傍から見れば精神崩壊と捉えられても仕方ないだろう。
虹夏が慌てて気付け薬として炭酸を口に突っ込むと、ヨヨコは咳き込みながら意識を取り戻した。
「あれ、今私どうなって……?うっ、何故か頭痛が……!?」
「あ~、思い出さない方が幸せでいいと思いますよ」
正気に戻ったヨヨコに虹夏が気遣ってそう言って有耶無耶にする。
しかし、ここまでMV撮影の企画会議は何一つ進んでおらず、会議は踊る、されど進まず状態だった。
その現状についに業を煮やした1号さんと2号さんが全員を外へと放り捨てる。
「もうこれ以上は無駄と判断しました。なので、これからは私が全部決めて撮るので言う通りにしてください」
「えっ、1号さん?」
「バンドマンは大人しく楽器いじっとけばいいんですよ」
「「「「あっ、はい……」」」」
1号さんの言われるままに、そのまま楽器と衣装を持って近くの公園に移動する。
後は野となれ山となれ、好き勝手に公園で遊んでくれと言われたが、そういう投げやりな提案はどうすればいいか困惑するのでやめてほしい。
まあ、喜多ちゃんはすんなりと受け入れてあっさりと適応してみせたが。その顔に手を当てて小顔効果を狙うポーズを自然といっていいのならばだが……。
「あの~、ひとりちゃんもこっちに来ない?そんな木陰に隠れてちゃカメラで撮れないんだけど」
「あっ、いや、昔から公園に来たら日陰でこうしてるので……」
「ごめん!やっぱりもうちょっとカメラ意識してくれない!!」
しかし、カメラを意識すれば、それはそれで緊張して自然さが失われた映えない画になってしまう。
とはいえ、元の素材が良いのを知っているぶん勿体ないと感じずにはいられない。
「喜多ちゃん、ぼっちちゃんが公園に来たら緊張しなくなる方法とかある?」
「そうですね~、あっ!だったらいいものがありますよ!!」
そう言って喜多ちゃんはスマホを取り出してササッと操作すると、ある画像をひとりに見せる。
「じゃーん!この前の初詣の時の零士君の袴姿です!!」
その画像は初詣での零士を撮ったもので、着物姿ということもあって普段よりも大人びた印象が強く、顔の印象も合わさってヤクザっぽく、どこかの組の若頭と言われても疑わないレベルだった。
だが、ビジュアルだけで見れば雑誌モデルに選ばれても可笑しくないレベルの美青年だ。
当然、一度生で見ているとはいえ、彼女であるひとりがそれを見てリアクションを取らない筈もなく。
「~~~~っっっ!!!」
「きゃ~~~~!これよ!これっ!!やっぱり、ひとりちゃんは零士君を組み合わせてこそよね!!」
めんくいな喜多ちゃんの目線から見て、今のひとりの顔は可憐な恋する乙女そのものだった。
普段の猫背をやめてピンと背筋を伸ばし、キラキラと食い入るように見つめる瞳と、いつも俯いてブサイクになっている顔も少し上がって麗しいと評価できるレベルで、いつもの残念なひとりからは想像できない程の変貌っぷりを見せていた。
「いい!!いいでわよ!!最高だわ!!今のひとりちゃんはアイドルになれるくらい可愛いよぉぉぉ♡♡」
「えへへ……そうですかね……」
その顔が緩むと破壊力も抜群だった。喜多ちゃんは大興奮でスマホで撮影する。ちなみに、2号さんも一緒になってカメラで連写する。
そんな喜多ちゃんにヨヨコがコッソリと近づいて、誰にも聞こえないように、耳元で囁く。
「ねえ、さっきのあの画像なんだけど、私に送ってくんない?」
「……大槻さん。流石にそれはダメだと……」
「それはそうだけど!よし、分かった。5000円だすわ!!」
「余計にダメですよ!!そのお金はしまってください!!!」
なんとかして暴走しそうなヨヨコを落ち着かせ、出してしまったお金を財布に戻させた。
「ってか、大槻さん。先程まで姿が見えませんでしたけど、何処にいたんですか?」
「何処って、公園に来たらブランコに乗って時間潰すのが普通なんじゃないの?」
「あっ……、そうですね……」
ヨヨコのボッチ発言に喜多ちゃんは、感情を殺して返事をした。
その後、色々あったものの、撮影は順調に進み、㎹の撮影は無事完了した。
そして、完成したMVをネットにアップすると、すぐに話題になり、再生回数は3万回を突破した。
その時、コメントの中に「ピンク髪のかわいい子は誰?」という質問がいくつかあり、トゥイッターでは「謎の美少女新人が現れた!?」と話題になるのだった。
高評価と感想をお願いします。
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