ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース   作:リーグロード

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長らくお待たせして申し訳ございません。
積みゲーを消化しつつ、録画していたアニメを見てたら遅くなりました。


鬼龍院姉妹登場

 未確認ライオットの審査用のデモテープが完成し、投函を済ませた次の週のこと、新曲のアピールと結束バンドの認知度を少しでも上げる策として路上ライブをやることにしたのだが……。

 

「む、むむむ無理です絶対!ひひひ、人前で演奏なんか私にはミッションインポッシブルなんです!?」

「何言ってるのぼっちちゃん!いつもライブハウスで演奏してるじゃん!今回はそれを外でやるだけだよ」

 

 ライブ予定地に集合し、人を呼んで早速の路上ライブを始めようとしたのだが、いつの間にか消えているぼっちを探すために一時中断し、皆で探すこと10分。

 なんと虹夏の持ってきたキャリーバックに隠れていた。いや、ビックリ人間か!と虹夏がツッコミを入れていたが、今回はいつにもまして人見知りが酷い状態だった。

 

「んも~、最近はようやく人前での演奏にも慣れてきたと思ったのに。やっぱり、ぼっちちゃんに外での路上ライブはまだ早かったのかな?」

「いや、多分原因はそれだけじゃない気がする」

 

 リョウが未だにキャリーバックに隠れて閉じこもるひとりに近付いていく。

 そして、野生動物を相手にするかのように、怖がるひとりに目線を少し下にズラして優しく語りかける。

 

「ぼっちが今日のライブを嫌がる理由ってさ、もしかして零士が来ないのが原因?」

「っ!?」

 

 ビクッ!と肩を大きく跳ねさせ、図星だったことを自白するひとり。

 そして、ゆっくりと口を開いて何があったか説明する。

 

「き、今日は……零士君、バスケの試合みたいで、い……いつもみたいに部活を休んで応援には来れないって……」

 

 どうやら、今回の一件はぼっちの弱すぎる心が原因ではなく、零士が来ない不安の方が大きいようだ。

 そりゃ、考えてみればいつも不安な最初は彼氏である零士が傍で見守ってくれていた。それがこんな引きこもりにとってアウェイな場所でその心の支えともいえる彼氏が来れないとなれば拒否反応を起こすのも無理ないことかもしれない。

 でも、それは少し寂しい。

 

「ねえ、ぼっち。零士が来られないのは確かに不安だろうけど、少しは私たちを信じてほしい。だって、私たちは同じバンドの仲間だからさ?」

「リョウさん……」

 

 立ち上がり、差し伸べられた手にゆっくりと手を伸ばす。恐る恐るだが、ひとりはキャリーバッグから出てリョウの手を握った。

 リョウはその手を引いてひとりを立たせる。

 ひとりは不安そうな顔をしながらも、目にはわずかな希望が宿っていた。

 

 パチパチパチパチ!!!

 

「えっ、へっ、あれ?」

 

 気がつけば周囲で事態を見守っていた見物人達が一斉に拍手を送っていた。

 そりゃ、あれだけ人目のつくところで騒いでいたら注目されるのは当たり前。そんでもって、ひとりの庇護欲を誘うペットみに当てられて思わず感動的な動物物語でも見た気分になって拍手を送ったのだろう。

 

「伊地知先輩、今ので人がいい感じに集まってきましたね。ひとりちゃんもリョウ先輩のおかげで元立ち直ったみたいですし、今のうちにライブの準備を進めましょう!」

「ああ、そうだね。立ち直ったみたいだけど、急に拍手されて固まってしまっているね。本当に大丈夫かな?」」

「…………」

 

 未だに拍手を送られてフリーズするひとりを置いてけぼりにして、3人はせっせことライブの準備に取り掛かる。

 物販用のグッズを並べていき、お金大好きな山田が投げ銭用の箱を設置する。

 すると、さっきの茶番を演劇だとでも思ったのか、複数の人がいいもの見れたと言って小銭をチャリーンと入れてくれた。

 

「やはりぼっちは金のなる原石」

「やめんか!あ~、私達はバンドマンであって、演劇の者じゃありませんので!」

 

 自分達が学生の演劇の役者だと思われており、お金を入れてくれる何人かが次のコントも期待しているねと声を掛けてくれる。

 正直、応援されることは悪い気分ではないのだが、その内容がさっきの茶番というのはいただけない。

 なので、その認識を私達結束バンドの演奏でひっくり返してやろうと意気込みを入れる。

 

「ほら、ひとりちゃんもいつまでもフリーズしてないでよ!ライブ始めるよ!」

「は、はい!」

 

 虹夏の呼びかけにやっと我に返り、慌ててギターを構えるひとり。

 そんなひとりを微笑ましく見つつ、リョウと喜多もそれぞれの楽器を構えて準備万端だ。

 

「それじゃ、私達結束バンドの演奏を聞いて演劇系の集まりじゃないってことを証明していきたいと思いますので、是非とも最後まで聞いていただけたなら嬉しいです」

 

 虹夏のMCを終えて、リョウと喜多もそれに頷いて返す。

 そして、ひとりがピックを弦に弾きたてて、そのギターテクを存分に発揮する。

 

 ジャジャジャジャーン♪

 

 慣れない路上ライブという状況であるにも関わらず、結束バンドの演奏は周囲の人を釘付けにするレベルの音楽を披露してみせた。

 これには演劇系の集まりだと思って近づいてきた周りの見物人達も度肝を抜かれる思いだった。

 特に、女子中高生らしき年齢の子に刺さったのか、曲に合わせて小刻みに体を揺らしてリズムに乗ってくれながら、この曲好きだと感想を送ってくれる。

 

 かなりの数の人が結束バンドの演奏に惹かれており、ほとんどの人がその場から去るようなことはなかった。

 

「良かったわね、ひとりちゃん。ライブ大成功だよ!」

「うぇへ……そ、そうですね」

「ん、これで次のライブにも弾みがつく」

「うんうん、これなら未確認ライオットへの宣伝も成功したようなもんだね!」

 

 せっかくなら、もっと多くの人に聞いてもらいたい。そんな思いが結束バンドの面々の中で強くなるのは当然のことだ。

 虹夏が集客の面でも成功したと喜んでいる中、聞き覚えのあるへべれけ声が聞こえてきた。

 

「うえぇぇぇ~い……みんなぁ、いい演奏だったよぉ~~~」

「えっ、廣井さんが、なんでここに!?っていうか、観ててくれてたんですか?」

「うん、もっちろん!いや~、先輩が君らがここで路上ライブやるっていうから探しに来たんだけど、なんか演劇やっているっぽいから場所間違えちゃったかな?って不安になったけど、君らの演奏が聞こえてきてね。ってか、なんで演劇なんてやってたの君ら?」

「こっちにも色々とあるんです!っていうか、折角来たんだったらなんか買っていってください」

「いぃ~よぉ~!それじゃこのピンクの結束バンドでも……あれ、お金ねえやwww」

「マジで冷やかしに来ただけじゃないですか!?」

 

 ポッケを裏返して埃しか出ない廣井に、流石の虹夏もキレかける。

 

「ごめんね~。あっ、そうだ!今からご飯でも食べに行こうよ!」

「お金がないんじゃないですか?」

「そこはほら、そこの投げ銭箱から少しだけ~ね♪」

「だけ~っじゃないんですけど!これ以上迷惑掛けるなら、今後一切ウチの風呂使わせてあげませんからね!」

「あ~ん!そんな殺生な~!!」

 

 泣きつく廣井さんを引き剝がしながら、撤収の作業に入っていると、リョウが回収しようとしていた投げ銭箱に一万円と千円が投げ入れられる。

 

「い、一万円!それに千円も!ありがとうございます!!」

「別に大したことじゃないわよ。いい演奏だったから、それに見合った対価ってものよ。まあ、姉さんは音楽とか疎いから千円なんでしょうけれども」

「うっせえな、私は部活で忙しいし、お前みたいにバイトなんてしてねえから金がねえんだよ!」

 

 リョウが投げ入れられた金額に目を$にしてお礼を言うと、投げ銭をした美人のお姉さんは謙虚に応えつつも、もう一人のそっくりでボーイッシュなお姉さんに対して辛辣な言葉を投げかけていた。

 それに対し、怒りを示す様子を見せるものの、そのやり取りは単なるじゃれ合いに過ぎないことが雰囲気から伺えた。

 

「あれ、真奈ちゃんに真李ちゃん?どうしてここに?」

「あ〜、お義姉ちゃ〜ん♪」

「おい、真李!すみません、義姉さん」

「あっ、いや、だ……大丈夫だから……」

 

 ひとりが2人に気づいて声を掛けると、甘えた声で真李がひとりに抱きつきにかかった。

 それを見た真奈は止めようとしたが、嬉しそうにぎゅっと抱きつく真李を優しく抱きしめる一方で、「大丈夫ですよ」と優しい顔で手を振るひとりを見て、静かに見守ることにした。

 

「え、今、あの人たち、ひとりちゃんをお姉ちゃんって呼んだ?」

「確かにそう呼びましたね。妹はふたりちゃんだけだと思っていたんです?」

「む〜、時たまぼっちの交友関係が知りたくなる時がある」

「そうですよね、ひとりちゃんって彼氏もいますし、実は私以上にリア充の可能性がって……あっ!」

 

 突然現れた謎の美人2組とぼっちとのやり取りを遠巻きに見守っていると、酒カスの廣井が無神経に割り込んでいく様子を目撃した。

 

「ねえねえ、君たちってぼっちちゃんのなんなの?お姉ちゃんって呼んでたみたいだけど」

「あなた、誰?」

「義姉さんの知り合いか?」

「あっ、この人は廣井さんって人でして、えっと、色々お世話になったり、したりしてる人です」

「いや、それどっちっすか?」

 

 お世話になっているのか、しているのかはっきりしないが、とりあえず見知らぬ他人ではないようなので、真奈は自己紹介をしておく。

 

「私は鬼龍院 真奈。っで、こっちは双子の妹の真李。まあ、義姉さんとの関係は名字で大体察することが出来るだろけど、ひとり義姉さんの彼氏が私らの兄貴っす」

「よろしく~!」

「えへへ、よろしくね~!」

 

 真李が廣井に人懐っこい笑顔で握手を求めると、廣井もヘラヘラした笑顔でそれに応じる。

 

「ねえ、ひとつ私からも質問してもいいかしら?」

「うん?な~に~、私で答えられるもんなら全然いいよ~」

「お義姉ちゃんのことをぼっちって呼んでたみたいだけど、あれってあだ名なのかしら?どう聞いても嫌がらせの類にしか聞こえなかったんだけれども?」

「えっと……、それは……」

 

 握手している手に力が入り、真李の瞳から薄っすらとハイライトが消えていく。それは真奈も同じで、いい加減な答えは許さないと言外に雰囲気でビシバシと伝えてくる。

 それを真っ正面から受けている廣井は背中に冷や汗をかきながら、油の切れたブリキ人形のような動きで虹夏達の方を向く。

 

「あっちの子らが名付け親でして、私はその……ねっ?」

「ちょっと!?なにこっちに振ってきてるんですか!ってか、リョウがつけたんだからなんとか言いなよ!」

「………………記憶にございません」

「下手な政治家の言い訳か!?」

 

 怖くなって廣井みたくブリキ人形めいた動きで顔をそらしながらとぼけるリョウに、虹夏がツッコミを入れる。

 そんな2人に真奈が近寄って、その整った顔で睨むように見つめながら質問をする。

 

「ところで、あんたらって義姉さんのバンド仲間だよね。どういう意味であんなあだ名をつけたんだ?」

「ゆ、ユニークかなと……」

「デリカシーのない奴なんです、リョウは!!」

「ふ~ん……」

「「ひぅっ!」」

 

 真奈が詰め寄ると、リョウは動揺して目をキョロキョロとさせる。

 そんなリョウの様子を見て虹夏がフォローを入れるが、真奈の鋭い視線はリョウから逸らさず、冷淡な声と目線だけで彼女達の心臓を凍らせる。

 

「あっ、あの、待って!真奈ちゃん、真李ちゃん!!」

 

 怖くなってちょっぴり泣き出してしまいそうなリョウと虹夏を助けるべく、今まで固まって事態を見守っていたひとりが動き出す。

 

「こ、これは別にイジメとかではなくて!リョウさんなりの親愛の表現というか、いつもの結束バンドのノリというやつなんで!」

「そ、そうそう!!」

 

 ひとりの擁護に便乗して後ろでリョウが首をブンブン縦に振っている。

 それを見て真奈の目にもようやく光が戻る。

 

「まあ、義姉さんがイジメられてないって言うなら、ウチらとしても何も言うことはないけど」

「まったく、お姉ちゃんは顔とか雰囲気とか兄さんに似て怖いんだから、あんまりお義姉ちゃんの友達を威嚇してイジメちゃダメよ!」

「お前も結構似たようなこと、あの人にしてただろうが!」

 

 掌返しが上手い妹にキレながも、じゃれあいの範疇内に収まるくらいの怒りに落ち着く。

 既に姉妹からは結束バンドに対する敵意は消え、穏やかな空気が流れる。

 

「あ~、すまねえな。変な誤解しちまったみたいで」

「姉さんがごめんね~。自己紹介はもうあっちのお姉さんにしたから必要はないかな?」

「えっと、真李さんですよね?私は伊地知虹夏で、結束バンドのリーダーをしてます」

 

 改めて自己紹介をし、握手を交わす。

 ようやく、これでお互いの自己紹介を終えることが出来た。

 虹夏が廣井も合わせてバンドメンバーを一通り紹介して、それが済んだところでひとりが真奈に話しかけていた。

 

「あ、あの、どうしてこんなところに2人が?」

「ん?ああ、別に大した理由じゃないさ。真李の奴が読モの取材があるっていうんで、この駅を利用したら義姉さんがライブしてんのが見えただけっす」

「そうそう。で、お義姉ちゃんのバンドがどんなのか気になるし、ちょっと見ていこうか~ってね」

 

 2人の回答になるほどとひとりは頷く。

 そこで気になったことを恐る恐る聞いてみる。

 

「そ、それで、2人から見て今のライブって、その……、どうでした?」

 

 自信なさげに、それでも評価を欲しがるひとりの質問を彼女達は訝しむこともなく、笑顔で応える。

 

「良かったと思うわ!流石はお義姉ちゃんのバンドって感じかしら」

「私も、普段は音楽とか聞くことはないけど、耳に残る音って感じがして悪くないと思った……」

「そ、そうなんだ。よかった……」

 

 概ね好評の意見が聞けて緊張した面持ちからほっこりした顔で安堵するひとり。

 そんなひとりに、2人は互いに目配せした後で少し悪戯っぽい顔をして笑いかける。

 

「っで、アレが兄さんを堕とした義姉さんのギターテクってやつ?」

「お、堕としたって……」

「確かに、聞き惚れるってああいうのを言うのね。私も男だったらお義姉ちゃんに惚れちゃったかも」

 

 からかうようにウィンクする真李に、えっ!?とドギマギした声で驚くひとり。

 そんな彼女らを見て、結束バンドのメンバーが後方でニヤニヤしながら3人のやり取りを楽しんでいる。

 

「ひとりちゃん、彼氏さんだけじゃなくて、他のご家族さんとも仲が良さそうですね」

「いや~、ぼっちちゃんがこの中で一番のリア充とはね~。まあ、前から知ってたことなんだけれども。はぁ……、私も結婚するなら相手の家族とああいう感じの付き合いがしたいよ」

「なら、ウチの嫁にくる。両親は虹夏なら大歓迎!」

「いや、リョウの嫁とか家事全般丸投げされる未来しか見えないんだけど……」

「あ~、なら私がリョウ先輩のお嫁さんに立候補しま~す!!」

 

 リョウの冗談に虹夏が呆れ、そこに喜多も加わって漫才みたいなやりとりをし始める。

 まさに輝かしい華の女子高生とも言うべき光景が広がっていた。

 そんな中で、廣井だけは取り残されたようにその場で酒瓶に口をつける。

 

「うぅぅ……、青春のキラキラがお姉さんには眩しすぎるよ」

 

 そう言って酒瓶の底に残った酒を一気に煽る。

 そんな廣井の寂しげな様子を見て、ひとりは真李達に断りを入れてから廣井の元に向かう。

 

「あ、あの、お姉さん。今日は来てくれてありがとうございました」

「あ~ん!ぼっちちゃ~ん!!私に優しいのはぼっちちゃんだけだよぉぉ!!!」

「うへぇ!?お、お姉さん!?」

 

 若者の輪に入れず、寂しく一人で酒を飲んでいたところを優しく声をかけてきたひとりに廣井は縋りつくように抱きつくと、ひとりが困惑した声を上げる。

 されどもこういった廣井のリアクションは初めてではないので、こういった時の対処法は心得ていた。

 ひとりは廣井に抱き着かれたまま、背中をトントンとあやすように優しく叩く。

 

「えっと、その、よ……よ~し、よ~し」

「ちょっ!?ぼっちちゃん、私もういい大人だよ!こんなこと道端で……される……のは……」

 

 最初は興奮して抵抗していたが、次第に心地よさに負けていき、眠そうな声でひとりに抗議を続けるが……。

 やがて廣井の声は聞こえなくなった。

 変わりにスヤスヤと気持ちよさそうな寝息が聞こえ始め、ひとりの腕の中で幸せそうな顔で眠りにつく廣井の姿があった。

 

「おぉぉ!恐ろしく早い寝落ち!私じゃなきゃ見逃しちゃうね!!」

「なんでリョウはそんなテンション高いの?」

 

 ひとりの廣井をあやす手練に感心するリョウと、それにツッコミを入れる虹夏。

 

「それにしても、ひとりちゃんがこんなにあやすのが上手いなんて意外ね?」

「あっ、よくふたりがギターの練習中に乱入して来て、そのまま2人で遊んでると途中で寝ちゃったりするので、その時にこうやってよくあやすんです。そうすると、ふたりもすぐに寝るんですよ」

「へ~、そうなんだ!でも、確かにひとりちゃんの声ってなんか落ち着くから眠くなっちゃうのもわかる気がする!」

「あぅ……、そっ、そうですか?」

 

 喜多ちゃんがひとりを褒める言葉に、ひとりは照れて頬をかく。

 

「あ~、ところで義姉さん。その腕の中で寝ちゃってる姉さんのことはどうするんっすか?」

「あっ、え~っと、ああいう時のお姉さんは酔ってるから寝落ちしやすいから、ひとまず寝かしつけて、後は頼れる大人に丸投げしろって零士君が……」

 

 後ろから来た真奈に指摘されて我に返ったひとりがこの後の対処法を説明する。

 

「な~るほど、ぼっちちゃんが急にあんなことするから珍しいな~って思ってたけど、彼氏君の入れ知恵ってわけだね」

「でもさ、頼れる大人のアテってあるの?」

 

 虹夏は廣井とひとりのやり取りに納得して頷くが、リョウは肝心の頼れる大人のアテが気になって尋ねた。

 

「うっ、それは……。みんなは誰かアテは……?」

「私がパッと思いつくのはお姉ちゃんだけど、今はライブハウスの営業で忙しいだろうし……。なにより、廣井さんをここに呼んだ元凶はお姉ちゃんだし」

「ウチも両親は呼べばすぐ来るだろうけど、廣井さんと面識ないから頼むのはちょっと……」

「私も誰か頼れる大人って言われて思いつくのは……」

「ごめんね~、お義姉ちゃん。私らもアテはないかな~」

「すんません、ウチの両親はこういうのちょっとばかしアテにならないんで」

「そ、そうですか……」

 

 残念ながら頼れる大人のアテも予定もないらしく、どうしたものかと頭を悩ませるひとり。

 そんな折に腕の中で寝ている廣井のポケットからスマホの着信音が聞こえてきた。

 

「っ!!」

 

 その瞬間、天から蜘蛛の糸が垂れてきたのを見た亡者のように、虹夏が凄まじい速さで廣井のポケットからスマホを抜き取り、着信が切れるよりも早く電話をかけた。

 

「もしも「おいこら廣井!!!今何処ほっつき歩いてんだ!!!」し~……」

 

 電話に出ると同時に相手の方から物凄い怒号が飛んできて、虹夏は心が折れて言葉が尻すぼみになる。

 というか、もう既に目から薄っすらと涙が浮かんでいる。

 どうしようといった感じの目で助けを求める虹夏に、この中で一番の漢気を持つ真奈が少し乱暴気味に虹夏からスマホをひったくって、電話の相手との会話を再開する。

 

「あ~、もしもし?お姉さんの関係者さんですか?」

「え?はぁっ!?あの……どちら様で?」

 

 電話越しから困惑の声が聞こえてくる。

 そんな困惑している相手に対して、真奈はにこやかな口調で優しく今に至るまでの状況を説明する。

 

「あの、本当にウチの廣井がご迷惑をお掛けしました。それで、最初に電話に出た子に代わってもらえますか?」

「はい、分かりました。いけますか?」

「あっ、うん、大丈夫」

 

 真奈から電話を受け取ると、電話の先で物凄く謝罪してくる女性の声が聞こえてきた。

 3割が廣井さんのことで、残りの7割が間違えて怒鳴り散らしてしまったことへの謝罪だった。

 虹夏は廣井さんの関係者ってもれなく全員苦労人だなと心の中で思いながら、現在地を説明すると、急ぎで迎えに行くとのことで電話を切れた。

 

「というわけで、廣井さんと同じバンドメンバーが迎えに来るらしいので、これで安心だね」

「ぷっ!中学生に助けてもらった高校生が威張ってる」

「ん~?なにか言ったかなリョウ?」

 

 顔に影を落とした虹夏が煽ってくるリョウに顔を近づける。

 

「っていうか、仕方ないじゃん!相手の人メッチャ怒って怖かったんだもん!!そんで真奈さんが男前過ぎるのが悪い!!」

「……///」

「あれ、お姉ちゃん照れてる?」

「うっさい……」

 

 からかってくる真李に軽くチョップを入れて黙らせる。

 なにはともあれ、問題は解決したようなので、真奈達もこの辺で別れることにした。

 

「あ~、それじゃ義姉さんたち、私らっていうか、真李は読モの仕事があるんで、ここらで失礼します」

「じゃあね~、お義姉ちゃん。それと結束バンドの皆さんも、ご機嫌よう」

 

 そう言って駅のホームへと消えてゆき、2人の姿は見えなくなった。

 

「いや~、あの零士君の妹ってだけはあるって感じの2人だったね」

「ですね。っていうか、あの真李ちゃんって子、読モやってるって聞いた瞬間に思い出したんですけど、この前買った本の表紙にあの子が載ってたんですよ。最初は気のせいかなって思ったんですけど、やっぱり間違いじゃかったみたいです」

「読モをやってるってことは、あの真李って子はお金をガッポガッポ持ってるってこと。なら、今度お金に困ったらちょっとばかし融通を……」

「やめときなさい!そんなことすると、あの怖い真奈ちゃんが取り立てに来るよ」

「うっ、それは……」

 

 ありえそうな未来にブルリと体を震わせ、渋々といった顔で諦めるリョウ。

 というか、見た目は成人しているように見えるが、中身はまだ中学生である年下にお金を貸してもらうのはいかがなものか。

 

 しばらくして、駅前に車が一台停まり、以前新宿FOLTで見かけた志麻さんが急いで降りてきた。

 志麻さんはひとり達にすぐ気づくと、彼女達のところまで走り、ひとりの腕の中で幸せそうに眠りこける廣井の姿を視界に入れた瞬間、阿修羅のような形相で廣井に駆け寄り、ひとりに一言謝罪を入れてから回収していった。

 

「この度はウチの廣井が本当にご迷惑をお掛けしました。また後日、STARRYにお詫びの菓子折りを持っていきますんで」

「いえ、そんな!お気持ちだけで結構です」

 

 怒涛の勢いに少し引きながらも、虹夏はそう返した。

 そんなやり取りを終えて、志麻は廣井を車に詰め込み、そそくさと車を発進させてすぐに遠くなっていった。

 

「え~っと、それじゃ!今回の結束バンド初の路上ライブを終わりたいと思います!」

 

 虹夏がそう宣言すると、ひとり達も拍手をして結束バンドの初ライブの終了を祝った。

 こうして、路上ライブは大盛況?で終わりを告げたのだった。

 

「あっ、ずっとお姉さんを抱っこしていたので、体が痺れて動かない……」

「ひとりちゃんがいる限り、車は必須かもですね」

 

 地面に倒れて麻痺しているひとりの体をほぐしながら、喜多ちゃんが今後の課題である車の購入を考えさせる一言を呟く。

 こうして結束バンドは初の路上ライブを終えたのだった。

 

 ちなみに、廣井はあの後すぐに助手席で目を覚ましたのだが、運転中の志摩からしこたま説教をされたのは言うまでもない。

 

 




皆さんはナツキ・スバルの人生上映会って知ってます?
今度、いせかるメンバーにスバルの人生上映会を見させる小説を作ろうかなって考えてます。
もしかしたら、今後はそっちの小説作りに力を入れるかもしれません。
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