冬も過ぎ去り、桜が咲く春の季節。道行く人々は笑顔と期待に溢れ、新たなる新学期に夢を馳せる。……者ばかりではなかった。
「新学期……クラス替え……。今後の1年を左右する重要な日。だけど、元々学校じゃ喜多ちゃん以外に対して付き合いのいい人なんていないし、う……失うものなんて何も無い!」
「お姉ちゃ〜ん、トイレ変わって~!」
「毎年の光景だな」
「ひとりちゃんも彼氏が出来て変わったと思ったけど、まだまだ全然ね」
毎年恒例となっているひとりの現実逃避による行動に呆れかえる家族。
とはいえ、最近は年を重ねるごとにトイレに引きこもる時間が短くなっている。
去年は30分は籠っていたのが、今年は20分で出てきた。きっとこれも彼氏との付き合いでひとりが若干ではあるとはいえ人として成長したのだろう。
そして、なによりも成長したのは服のセンスだろう。コミュ症の癖に無理に人に話しかけてもらおうと奇抜なファッション(本人からしたら大マジメ)な服装で登校するひとりだが、中学時代から零士と何度もデートを繰り返した結果、服を選ぶセンスは悪いままだが、出掛ける際にはお母さんのセンスで外に出る習慣が出来た為、周囲の人からかなりヤバイ変人のレッテルを貼られることはなくなった。
まあ、それでも普段からピンクジャージという自身のアイデンティティを崩さないのはどうかと思うが。
とにかく、今日はクラス替えという特別な日ながらも、ひとりは普段と同様にピンクジャージに背中にギターを背負って登校した。
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こんにちわ!私の名前は大山猫々!!今日から憧れの高校生になりました。
中学ではスポーツが趣味でバスケをやってましたが、高校では運動から音楽の道へと移行しました!
なんでこの秀華高校に入学したのかといえば、家が近かったというのもありますが、去年の文化祭にこの高校へ見学目的で遊びにいった子が、文化祭ライブで物凄い演奏をしているバンドがあったと言うので、そっちに興味を惹かれて入学を決意したっす!!!
しかも、なんでもそのバンドのギターの人には物凄いインパクトのあるイケメンの彼氏がいるそうで、私もバンドを組めばもしかしたら人生初の彼氏をゲットできるかもとできるかもと期待に胸を膨らませながら登校したっす!
「あっ、猫々ちゃん!おっはよー!」
「おはよー!」
今話しかけてきた子は同じ中学の友達で、私と同じ軽音楽部に興味を持ってるらしく、放課後の部活巡りを一緒にしようと約束していると、視界にギターを背負ったピンクジャージの人が見えた。
「ねえ、猫々ちゃん。あれ、あのギターを背負っている人って、もしかして皆が噂していた文化祭のライブで注目を集めたという人じゃない?」
「そうだろうね。制服も他の人とは違ってジャージ来ているってことは、きっと孤高のロッカーってやつなんだよ……」
ヒソヒソと前を歩く他の人とは雰囲気が違うギターを背負っている先輩を見ながらどんな人なのかを予想していると、突然その人はこちらに振り向いた。
「ふへぇっ……」
「「ふえあっ!?」」
こっちを向いてなんていうかこう……、ニチャッっていう音が聞こえそうな笑顔を向けられて思わず変な声が出てしまった。
それを聞いた先輩は急にビクッ!としたと思えば、逃げるように校舎へとダッシュして消えていった。
「な、なんだったんだろう……?」
「さあ?」
突然の先輩の奇行に度肝を抜かれながら、この学校の軽音楽部に入部しようとしていた気持ちが少し揺らいでいる。
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や…やってしまった。登校中に後ろから新入生っぽい子が私の事をヒソヒソ話しているのが聞こえてきたから、気軽に声をかけやすいように笑顔で対応したのに、逆に怖がらせて警戒させてしまった。
そもそも陰キャな私が零士君や真奈ちゃん、真李ちゃんのように素敵な笑顔を見せられるわけがないじゃない。
「はぁ……、まあ、相手は新入生だし、今後の学校生活で顔を合わせることもないだろうから、気にしなきゃ問題ないよね……」
朝から陰鬱な気分になりながら、今日から自分が通うことになる教室の扉を開いて中へ入る。
「あ!ひとりちゃんおはよう」
「あっ、おはようございます。きっ、喜多ちゃんも同じクラスだったんですね」
「うん、そうみたい。よかった~!去年は別々のクラスだったけど、今年は同じクラスになれて」
お互いにホッとした表情で挨拶を交わして私は自分の席へと座る。
新しいクラスに不安を抱いてたけれど、同じクラスにそれも前の席に喜多ちゃんがいてくれるなら今年の学校生活は安泰でき──
「あっ、喜多ちゃん!今年も一緒のクラスとか、ラッキー!!」
「おはよう、喜多~。また同じクラスとか腐れ縁じゃん」
あっ、ダメだ。目には見えなくとも、陰キャには分かる陽キャの結界が喜多ちゃんの席に張り巡らされている。
こんな調子じゃ、ひょっとしたら去年よりも辛い学校生活になるかも……。
最悪、迂闊に近寄れば……死!?
「ん?どうしたの、ひとりちゃん?」
「いえ、お構いなく……」
ひっそりと心の中で
そんな私を見て喜多ちゃんは首を傾げているけれど、私はこの結界を解除する気は更々ない。というか、それをしたら自分は胞子になって死ぬ未来が見える。
……と、思っていたら、そんな私の考えに水を差すように教室の扉が勢いよく開かれた。
「はい、みんな席に座って。これから自己紹介始めていくぞ~!」
気づけば時計の針は始業の時間を指しており、先生が教室に入ってきたことにより、立ち話していた生徒は全員自分の席へと着席していく。
そして始まる自己紹介タイム。きょ……去年はなんて言ってたっけ!?
いやいや、去年と一緒はマズイ!もう記憶に残っていないけれど、盛大にやらかした……もしくは、何もできずに終わったかのどちらかだろう。
ここは心機一転して、笑いで場を盛り上げつつ、ユニークキャラとして売っていければ!!
(いけるっ!!)
(何故かしら、急に悪寒が……)
頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していると、ついに自己紹介の順番が前の席の喜多ちゃんに回ってきた。
「喜多郁代です!喜多ちゃんって呼んでください♪趣味はイソスタなので映える場所に行くときは誘ってね!もちろん、皆知ってると思うけど、結束バンドってバンドでボーカルしてます!動画サイトでMVあげてる皆見てね!そして拡散すること!」
す、すごい!これがコミュ力強者の実力!!?一瞬で教室全員の関心を引き付けつつ、結束バンドの広告までやってのけるだなんて!!
「ちなみに、後ろの後藤さんがリードギターです!すっごく上手だから一度は生で観ないと損よ~」
さ、更に私へのバトンパスまで!グッと親指を立てて、やりきった感をアピールをする喜多ちゃんの後ろ姿が頼もしすぎる……!
つ…次は私の番だ!ここで勢いよく切り込んでぇ!!
ガタン!
「あっ……」
立ち上がる際に勢いをつけすぎたせいで椅子が後ろの席にぶつかってしまう。
「ご、ご、ごめんなさい……!!!?」
「あ~、気にしなくていいって。別に机にぶつかっただけだし、私は全然平気だからさ」
やっ、やってしまった。折角、喜多ちゃんが作ってくれた雰囲気をぶち壊しにしてしまった。
えっと、次なんて言うんだっけ?さっきので考えていたの全部消えちゃった。あっ、そうだ思いついた内容はメモ書きしてたんだ!
メ…メモ!メモは……!?あ、あんなところに……!?
自己紹介の内容を纏めたメモ用紙は立ち上がった勢いで机の上から吹き飛んで喜多ちゃんの机の下に落ちてしまったみたいだ。
だ……ダメだ。この状況で喜多ちゃんの席の下に落ちたメモを取りになんて行けない。
こ……こうなったら、やぶれかぶれでやるしかない!?
「えっ、あっ……」
「後藤さんの事知りた~い」
自己紹介が失敗してしまった私へ喜多ちゃんがフォローに入ってくれる。
こ、ここは流れを崩さずに喜多ちゃんの合いの手に乗らなければ!!
「後藤ひとりです……。な、名前をもじってぼっちってあだ名で呼ばれてますが、別にイジメられてるわけじゃなくて、ただの愛称なので気にしないでください」
明るくて話そうとしたのに、思ったよりも暗い声が出てしまった為に教室の空気が死んでしまった。
ど、どうしよう!?こうなったら、なにか明るい話題で場を盛り返さなければ!!
「さ、最近あったこと面白いことは彼氏の零士君の家にお邪魔して、零士君の妹さんたちからお義姉ちゃんって気に入られたことです」
「何カミングアウトしてんの!?」
「「「おおぉぉ……!!」」」
勢いで何も考えずに適当に最近嬉しかったことを口走ってしまったけれど、なんか変なとこで自爆した気がする!?
喜多ちゃんも目を見開いてビックリしているし、周りの皆は黄色い声をあげている。
けど、さっきの死んだような空気がなくなっていたし、皆も続きを聞きたそうにしている。こ、これは掴みは成功したってことなのかな?
だったら、同じような話題を出せば私の自己紹介も喜多ちゃんみたく成功するのでは!?
「あ、あの、零士君は音楽はやってないけれど、スポーツはしていてカッコイイ人なんです。それに、私は陰キャで全然人とは会話出来ませんが、零士君はそんな私とは正反対の明るい人で、いつも私の事を大事にしてくれますし、しょ……将来のことも真剣に考えてくれたり「はい、ストップ!ひとりちゃん落ち着いて!!」──??」
急に立ち上がって私の口を物理的に塞ぐ喜多ちゃんに困惑していると、そこでようやく周りの人の反応に気が付いた。
さっきまで黄色い声を上げていた人達は顔を赤くしてプルプル震え、それ以外の人は落ち込んだり、軽くブツブツと呪詛みたいなのを唱えている人が少数ながらいた。
「い……いきなりどうしたんですか?喜多ちゃん?」
「もう!ひとりちゃんは本当にもう!!たまに暴走する癖をなんとかして!?」
暴走ってどういうことだろう?あっ、でも確かにさっきは勢いに任せて色々と恥ずかしいことを口走ったような……。
あれ?よくよく思い返してみれば、私の自己紹介の筈が、ただの彼氏自慢する痛い子なのでは……!?
も、も、も、もしかしてやらかした感じなのではないか?これは……!?
「アッ、ガガガガ──」
「こ、これでひとりちゃんの自己紹介は終わり!ささっ、席に座って!!」
自分のやらかしに気づいて壊れたロボットみたくバグった私をフォローしてくれた喜多ちゃん。
それから気がつけば放課後にキングクリムゾンしており、もう自己紹介の時間は終わっていた。
「はっ!こ、ここは……?」
「あっ、気が付いた。……ごとりちゃん」
「えっ、あっ、はい……?」
喜多ちゃんに、何故か壁を感じる呼び名で心配される。
いや、理由は明白か……。私の自己紹介のせいで、喜多ちゃんに迷惑をかけてしまったんだ。
これは、もう切腹して詫びるしか……。
そう考え始めた時、後ろの席から声を掛けられる。
「こらこら、気持ち悪い呼び方して後藤がドン引きしてぞ、喜多」
「うっ、だ……だってぇ~……」
「いえ、その、大丈夫です。全然引いてませんので!!えっと……」
確か、この人は……。ダメだ、自分の自己紹介後の記憶がないから名前が分からない。
けれど、確か朝に喜多ちゃんに挨拶してたから多分友達とかそういう関係の人。
「あ~、なんか自己紹介後から様子おかしかったし、私の名前聞いてないか~。喜多、紹介よろしく!」
「えぇ、私!?まあ、いいか。ひとりちゃん、紹介するわね!この子は佐々木次子、あだ名はさっつーで中学から一緒なの!」
「ども~」
「あっ、あの!先程は椅子をぶつけてしまい申し訳ありませでした!!」
「別に気にしてないから大丈夫だって~。それよりも、後藤の彼氏ってあの文化祭で見たあの男の人であってるよね?」
「えっと、多分佐々木さんが想像している人であってると思います」
「ふ~ん、いい彼氏じゃん」
あっ、この人、絶対にいい人だ……。
(今年のクラスはいい思い出がいっぱい作れるかも……)
内容は全部サブタイでバラしちゃったけど、楽しめました?
これからネタバレのサブタイはいらないって方は教えてね♪