ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース   作:リーグロード

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下北沢でのデート

 もし中学の頃に零士と出会わなければ、後藤ひとりは下北沢というハイソサエティな町をこの時期に出歩くことはなかっただろう。

 

 そんな些細なきっかけが運命ともいえる出逢いを早くもたらす事になる。

 

 

 

 ♦

 

 

 ひとりと放課後デートとして近場である下北沢を選んだが、肝心のデート相手である彼女のひとりがこの下北沢という場所の空気に耐えられず、さっきから俺の後ろに隠れて歩いている。

 そんな奇行に通り過ぎる通行人がジロジロと見てくるが、その視線が更にひとりをビビらせている。

 

「相変わらず、人の視線に弱いよな、お前」

「れ……零士君が強すぎるだけです!」

「そりゃ、人の視線が無理で動けませんじゃバスケで試合なんかできねえからな」

 

 ごもっともと言えてしまう理由に、ひとりは自分じゃ一生バスケなんて出来ないだろうなと心の中で呟く。

 そんなひとりを背に、デートと呼べるか怪しい状況の中、ふと路上で俺達と同い年くらいか1つ年上ぐらいの女性がベースを演奏している。

 

 周りに集まっている人だかりもそこそこ存在し、演奏を聴く限り学生にしては上手い部類に入る実力の持ち主なのだろう。

 だがまあ、俺にとっちゃ後ろでガタガタと震えながら、目の前で路上演奏をしている女に羨望めいた視線を送っているひとりの腕の方が上だと思うがな。

 ただし、人見知りでコミュ障なこいつじゃ人前であんな演奏は無理だろうなとも確信しているが。

 

 このまま演奏を聞いていくかとひとりに訊ねると、数秒迷いながらも、ガガガッッ……とロボットみたいな動きで首を縦に振る。

 

 この人混みの中に居続けるなんて普段のひとりなら絶対に嫌がるだろうが、俺がいるという安心感と自分と近しい年頃の女が緊張もせずに人前で演奏できる姿への憧れがあるのか、俺の背に隠れながらも羨ましいや凄いといった感情の目で彼女を見ている。

 そうして暫くの間、俺とひとりは彼女の音楽を聴き続けた。

 

「ふぅ~、以上で演奏を終わります。ご清聴ありがとうございました」

 

 彼女が頭を下げると、周りで演奏を聞いていた観客がパチパチと拍手を送っている。

 それに対して彼女も無表情ながらも、満足そうに鼻息を荒げていた。

 

 何人かは見物料として小銭や札を近くに置いてあったケースの中に放り込んでいく。

 それを見た彼女は拍手を送られたとき以上に目を輝かせていた。

 

「演奏も終わったし、デートの続きでも「キャ──ー!今日も最高にカッコ良かったです、先輩♡♡」なんだ?」

 

 周りの声を掻き消す程にデカイ声で喋る女に視線を向ける。

 見れば赤髪のいかにも陽キャといった雰囲気を持つ女が、先程まで演奏していた青髪の女に近づいてキャーキャー!!と騒いでいる。

 

 ああいった手合いの女とひとりとの相性は最悪に近い。下手に近づいてひとりが原型崩壊するショックを受けたら面倒だと判断して急いでその場を離れる判断を取った。

 

「あっ、ちょっと待って、そこの2人」

「あぁん?」

「ひっ!?」

 

 俺がひとりの手を握ってこの場を離れようと背を向けて去ろうとした瞬間、青髪の女が声を掛けてきた。

 正直、面倒くさいし無視してもいいのだが、気が弱くお人好しのこいつはそんな事はできない性格なので仕方なく振り返ると、青髪の女は何か考え事をしている様子だった。

 そして、パッと顔を明るくさせて、ひとりに向かって指を差した。

 

「それ、ギターでしょ?もしかして弾けるの?」

「は……はい……」

 

 咄嗟の事で、ひとりはつい条件反射で答えてしまう。

 それを聞いた青髪の女は数秒考え込む姿勢を見せ、やがて顔を上げてひとりと手の届く距離まで近づいてきた。

 

「うん、決めた。君、私と一緒にバンド組まない?」

「……はい???」

 

 突然の言葉に唖然とするひとりを置いて、青髪の女はそのまま話を進めていく。

 

「私は山田リョウ、見ての通りベース担当だよ。それで君は?」

「え、ごう、ひっ、でひゅ!ぎひゃーしまひゅ(後藤ひとりです。ギターをしてます)」

「「???」」

 

 急な自己紹介に焦ったひとりの翻訳不可能な意味不明言語に青髪の山田とその後輩である赤髪が首を傾げる。

 これは流石にフォローが必要だなと判断して、俺は今も自分のやらかしであわあわと慌てて取り乱しているひとりを落ち着かせようと頭を撫でて下がらせる。

 

「あ~、今のは多分、後藤ひとりです。ギターをしてます。って言いたかったと思うぞ。なぁ?」

「────っ!!」

 

 俺のフォローに無言でコクコク!と首を縦に振って肯定するひとり。

 そんな2人のやりとりの様子を見て保護者かな?と山田と赤髪の女の子はちょっと微笑ましい目で見ていた。

 しかし、俺の顔を直視した瞬間、ビシッと固まったが。

 

 まあ、俺の面の悪さは自覚があるし、普段もひとりがくっついてなければ人攫いか怪しい店のスカウトに間違われたりもするからな。

 

「それで、急にひとりをバンドを誘うってことは人手不足なのか?」

「うん、今のところメンバーは私とこのギターボーカルの喜多。あと、ここには居ないけど、ドラムの虹夏の3人だけのバンド。人数的にも、実力的にも後もう1人くらい欲しかった」

 

 淡々と語っているが、その目からは切迫した必死さが感じ取れた。

 俺としてはその提案はひとりにとって渡りに船だとは思うが、肝心の本人が乗り気でなければ俺から断ってやろうと思って後ろに隠れるひとりにどうするか聞いてみる。

 

「えっと、その……、私なんかがバンドのメンバーに入って大丈夫かなって?こんな陰キャが入ったらなんかしたらバンドの雰囲気とか最悪になるかもだし、バンドの皆さんの脚を引っ張ったりしたら迷惑だし……」

「やめろ、辛気臭い。お前の腕で足引っ張るなら、こいつの演奏じゃ参加資格すらねえぞ!」

「んなっ!?」

「そんな、先輩の演奏を悪く言わないでください!!」

 

 うだうだと言い訳を並べるひとりに喝を入れるつもりで、俺が思ったことをそのまま言うと、地味にショックを受けた山田と後輩である喜多が我慢できずに怒り出した。

 そりゃ、いきなりよく知らないただの一般人に馬鹿にされたらキレたりもするだろうな。

 

「ああ、悪い悪い。この馬鹿がうるせえこと言いやがるから、ついいらねえこと口にしてしまった」

「あうっあうっ……」

 

 半眼で面倒臭そうに顔を歪ませた零士が未だに後ろに隠れているひとりの頭を乱暴に撫でまわして謝罪する。

 その顔はどう考えても謝っている者の顔ではないが、一般の女子高校生が悪人面の零士に文句を言えただけ勇気があるといえよう。

 それに、当の言われた本人である山田もショックを受けたが、あまり気にした様子を見せてはいない。

 

「さて、ひとり。うだうだとくだらねえ言い訳はいいんだよ。答えはイエスかノーかのどっちかだ。お前もいつかバンドしたかったんだろ?今が絶好のチャンスだぞ。どうするんだ?」

「それは……」

 

 うぅ……、分かっている。こんな私が誰かをバンドに誘うことなんて出来ないことは。そんな私がこうしてバンドメンバーへの誘いを受けている。

 でも、もし私がメンバーになって失敗したりだとか、迷惑を掛けて失望なんてされたりしたらと嫌な未来ばかり想像して勇気が出ない。

 そんないつまでも返事が出来ない私を見かねて零士君が優しく頬を両手で包んで私の目をジッと見つめてくる。

 

「大体テメェが何考えてるのかは予想がつく。んで、俺が言えることはただ1つ。お前が考えてるほど最悪な未来なんて早々に起こりはしねえよ。現に、俺らもこの1年間はなんも問題なかったろ?」

「あっ……!」

「だから、やるかやらないかの判断は未来じゃなく、現在(いま)を考えて決めろ!」

 

 やっぱり、零士君はいつも私に厳しいことを言ってくるけど、すっごく優しい。

 その上で、私も決断しなくちゃ!零士君が支えてくれてるんだもの、彼女として勇気を見せなくちゃ!!

 

「あ、あの!!わ、私なんかでよかったら……その……、バンドメンバーに入れてください!!!」

 

 ガクガクと震えながら零士の後ろから出てきたひとりの精一杯の返答に、山田は無表情ながらにコッソリとガッツし、後輩である喜多もワッ!と喜んでその場で飛び跳ねている。

 

「ん、なら残りのメンバーの虹夏にも紹介したいし、もし時間があるなら一緒にライブハウスSTARRYについてきて欲しい」

「そうですね!きっと虹夏先輩も喜びますよ!!」

「えっ、ちょっ……!?」

 

 善は急げと言わんばかりにひとりの手を引っ張って連れて行こうとする山田。それに同意する喜多。そして困惑するひとり。

 そんな雑な流れで連れて行かれそうになるひとりの肩を俺が抱き寄せて阻止する。

 

「盛り上がってるとこ悪いが、今は俺とひとりでデート中だ。メンバーとの顔合わせは後日にしてくれや」

「れ……零士君!?」

「えっ、ご兄弟とか親戚の関係とかじゃなく!?」

「ビックリ。まさか本当に付き合ってただなんて……」

 

 やっぱり、そういう風に見られていたか。まあ、恋人らしい甘い雰囲気なんて俺とひとりには無縁に近いものだし、仕方ないと言えば仕方がないのだが。

 山田の方はふ~んと興味無さげな反応をしてるが、喜多の奴は目を輝かせて興味津々といった面持ちでひとりに目を向けていた。

 

「とりあえず、ひとり。連絡先だけ交換してやれ。そしたら、また後日会えるだろ?それに、喜多の制服からして同じ高校の人間だろ。いざとなったらそのSTARRYに案内してもらえばいい」

「そんじゃ、これが私のLINEのQRコード。登録お願いね」

 

 そう言ってひとりにスマホの画面を見せる山田。ひとりもそれを見て自分のスマホを取り出して操作をする。

 同じく喜多もQRコードを表示して連絡先を交換する。

 

 これで長年ぼっちだったひとりに今日だけで2人も新しい連絡相手を捕まえた。

 また明日になればもう1人増えるだろうし、帰って部屋で横になりながらニヤニヤと笑っている姿が今からでも目に浮かぶ。

 

「そっちの……えっと、零士だっけ?は連絡先交換しとく?」

「ああ、そうだな。こいつが連絡出来ない状況だったり、なんかあった時ように念の為にしとくか」

 

 ついでの流れで俺も山田と喜多の連絡先を交換する。

 それを終えると、また明日と2人と別れてひとりと手を繋いでデートの続きに戻る。

 

 その際に、後ろからヒュ~ヒュ~♪と茶化すような声が聞こえたが、そんな程度の低いちょっかいにムキになる程俺もガキじゃねえし、ひとりに至っては知り合ったばかりの2人の目の前で手を繋がれたことへの緊張で耳にしてすらいないのだろう。

 

 そうしてデートに戻った俺らは目的もなく下北沢をぶらりと散歩して周り、適当な店で軽く飯を食べたり、音楽関係の店に冷やかし半分で入ったり、お揃いのアクセサリーを購入して着けてみたりと、およそ平凡なカップルらしいデートになったといえよう。

 

「いや~、遊んだ遊んだ。そんで、ひとり。明日からあの子らとバンド組むことになったけど、俺がいなくても平気か?」

「えっ、明日も来てくんないの!?」

「いや、俺一応スポーツ推薦で高校に入学してるし、普段の練習には参加しねえと不味いだろ」

「あっ、そっか……」

 

 無意識に明日も一緒について来てくれると思っていたひとりは絶望したように暗い表情で落ち込んだ。

 

 まあ、明日は今日会ったばかりの人と、知らないメンバーとの顔合わせに加えて、知らないライブハウスに行くのだ。人並み以上に人見知りなひとりが萎縮するのも無理ないことだろう。

 

「お前が嫌なら俺は行かなくていいと思ってる。けど、お前が決めたことだ。だから、最後までやり通せ」

 

 な?と優しく背中を叩いて励ましてくれる。やっぱり、零士君はこんな私にも優しくて好き♡

 っじゃなくて!?そうだ!私も零士君の期待に負けないように頑張らないと!!

 

「よ、よ~し!あ……明日は私、頑張ってみます!!」

「おお、その調子だ。頑張れよ、ひとり」

 

 い、今の私なら出来る!!例え、残りのメンバーがイケイケの陽キャでパリピなダンスを決める愉快な人でも、一緒になってノリでダンスを踊れるし、新しいライブハウスも、すぐに馴染んででライブが出来る!!

 そう、私は登録者数10万人越えのギターヒーローで、武道館をも埋めた女……!!!

 

 元気が出てきた私を見て一安心したのか、もうすっかり遅い時間にもなったからと零士君が私を駅まで送ってくれた。

 

「それじゃ、後の帰り道には気を付けて帰れよ」

「う……うん。ありがとね、零士君」

 

 駅で零士君と別れ、ガタンゴトンと揺れる電車の中で、今日あったことを振り返る。

 高校生活初日、彼氏との放課後デートでバンドを組むことになった。これってもはや私、勝ち組の一員というやつでは!?

 

 頼れるカッコイイ彼氏がいて、夢だったバンドデビューも果たした。

 まだまだ陰キャであることは抜け出せていないかもだけど、傍から見れば私って立派なリア充というのをしているのではないだろうか!?

 

「うへっ、うへへへぇ……」

「ママ~、あの人急に笑ってどうしたんだろ?」

「しっ、見ちゃいけません。きっと学校で辛い目にあったのよ」

 

 遠巻きに同じ車両に乗っている親子が、可哀想な子を見る目でひとりを見ていることにも気付かず、自分の降りる駅に着くまでずっと笑っていたひとりであった。

 




原作よりも早い山田と喜多ちゃんとの出会い。
逆に虹夏との出会いが後回しになるという結果に。

次回は結束バンド結成編
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