ぼっちちゃんの彼氏はバスケ部エース   作:リーグロード

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今回は零士君は登場しません。零士君ファンの皆様すみません。


お願いごと

 下北沢でデートを終えて家に帰宅するなり、自分の部屋にこもって今日手に入れた2つの連絡先を見てニヤニヤとしながら床を右へ左へと転がり回る。

 

 中学の頃は誰かに話し掛けてもらうのを待っているばかりで、いざ話し掛けられても、その内容は主に零士君との恋バナばかりで、連絡先交換なんてする間もなく逃走を繰り返してばかりの日々だった。

 

 高校に入れば何かが変わると信じていたが、まさか初日でこうも変化するなんて本当に思ってもみなかった。

 けど、こうして変化することが出来たのは零士君のおかげだ。

 

 思えば、私の見栄でついた虚言から始まった恋人関係。最初はいつ別れ話を切り出されるのだろうかとか、もしかして何か悪いことの片棒を担がされるんじゃ!?なんて不安になったりもしたっけ。

 けど、零士君はいつも私に優しくしてくれて、すっごく頼りになって、たまに私の奇行に呆れながらもふとした瞬間に見せる笑顔とか……。

 

「ひゃあああぁぁぁ!!!何考えてるの私!!いや、そりゃ確かに零士君がカッコよくて素敵だとか思うし、その……えっとぉ……」

 

 自分でもよくわからない感情に支配された私は床の上でゴロンゴロンと転がりながら悶える。

 

「お姉ちゃんまた暴れてる」

「ひとりちゃん。上手く学校に馴染めなかったのかしら?」

「娘よ。強く生きろ……」

 

 襖の隙間からひとりの醜態を覗き見している家族はひとりに心配そうな視線を送っていた。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 朝目覚めたひとりの第一声は家から出たくないだった。

 昨日は確かに新たに2人の知り合いを作ることに成功した。

 しかし、知り合いは知り合い。気の合う友人という訳でもないし、同じ学校の人は赤髪の喜多ちゃんっていう女の子だけで、その子も私と同じクラスじゃない。

 

 もう初日ながらもグループの出来たクラスに紛れて授業に参加し、それが終わったらまだ見知らぬバンドメンバーと知らないライブハウスに行くという苦行が待ち構えていると思うと、今被っている布団がまるで鉛のように重く感じる。

 

 昨日は零士君の励ましがあり、謎のテンションも相まってなんでも出来る無敵感が存在したが、1度布団に入って一眠りすれば全てリセットされてしまった。

 

「ひとりちゃん。もうそろそろ起きないと遅刻しちゃうわよ!」

「は、は~い!」

 

 しかし、悲しいことに、いくらこの先に苦行が待ち構えていると分かっていても、学校という場所には行かねばならないというのが学生の辛いところである。

 

「いつか絶対にバンドで有名になって高校を中退してやる……」

 

 早くこの地獄のような環境から抜け出したい。その為にも、今日会うであろう山田さんと喜多さんともう1人、虹夏という人でバンドを盛り上げねばと考えると、放課後の出会う約束も気が軽くなる。

 

「それじゃ行ってきます……」

「行ってらっしゃい!」

 

 母から元気な挨拶を背に、憂鬱な気分のまま学校へ登校する。

 私の家は高校と遠く離れているから、朝早くから電車に乗らないと間に合わないので、ゆっくりと引きこもっている暇がない。

 前までなら、零士君が通学路で一緒に合流して学校へ行っていたから多少は問題なかったけど、こうして再びボッチで登校するとなると、段々と近づいてくる学校に恐怖心が湧いてくる。

 

(そういえば、昨日零士君と下北沢でデートしてたけど、同じ学校の喜多さんもいたし、もしかしたら、同じクラスの人もあの付近にいたかも!?もし、私と零士君のデートを見られていたら!!)

 

「あっ、後藤さん。昨日一緒にいた男の人って誰?もしかして彼氏?って、んな訳ないか」

「あの人カッコ良かったし、もし良かったら紹介してくれない?」

「もしフリーなら、私彼女に立候補しちゃったりして!」

 

(なんて中学の頃みたく、また恋バナ攻めなんてされたら……)

 

 あわわわ……と戦々恐々としながら、顔面のパーツが崩れていく。

 どうか誰もデートの場面を見てませんように!どうか誰もデートの場面を見てませんように!!

 

 そんな必死な祈りが天に通じたのか、教室に入っても誰からも声は掛けられず、そのまま授業が始まって昼休みに突入した。

 今までは零士君と一緒に食べてたからボッチ飯にはならなかったが、今現在じゃ友達は1人もおらず、早く教室以外の人目につかない静かに食べれる場所を探さなくてわ。

 

「あっ、いた!後藤さ~ん!!」

「ひっ!?あ、き……喜多さん」

 

 お弁当を食べる時間を確保する為に、急いで空き教室の場所を確認しようと席を立った瞬間、教室の扉の外から私を呼ぶ喜多さんの姿があった。

 

「良かった~。ちゃんと教室にいて」

「あ、あの、どうして喜多さんがここに?」

「実はその……、後藤さんに頼みたいことがあって」

「頼みたいこと……?」

 

 あのバリバリ陽キャな喜多さんがこんなザ・陰キャな私に頼みたいことなんて……っは!!

 

「あ、あの!零士君は浮気するような人じゃないですし、そういうお願いごとは!!」

「えっ?ち、違う!違うよ!!そんな不純なお願い事をしに来た訳じゃないよ!!」

「えっ、違うんですか?」

 

 よ……良かったぁ~。もし喜多さんみたいな可愛い子が本気で零士君を寝取りにきたらどうしようかと。

 あっ、でも、零士君って私の事好きだし、いくら喜多さんが本気でアプローチしにきてもちゃんと断ってくれる筈だよね。よね?

 

「ねえ、どうしたの?」

「浮気とか言ってたし、もしかしてあの子ってそういう?」

「さあ?だとしたら修羅場ってやつなのかな?」

「でも違うって言ってたし、勘違いじゃない?」

 

 あっ、ヤバイ!?周りで聞いていたクラスメイトが変な誤解を招こうとしている。

 このままじゃ、中学の頃と同じになっちゃう。それに、これじゃ何よりも喜多さんに迷惑が掛かっちゃう!!急いでみんなの誤解を解かなくちゃ!!!

 

「い、今のは私の勘違いで!!喜多さんは誠実で清らかで、天使みたく明るいバリバリの陽キャな人で!!それからえっと……」

「後藤さん、ストップ!!なんか余計勘違いされそうだから、ちょっと向こうで話そうか!!」

 

 暴走するひとりの手を引っ張って、誰もいない空き教室へと逃げ込む。

 既に噂が独り歩きしてそうだが、後でちゃんと誤解を解けば問題はないだろう。

 

 今はそんなことよりも、この錯乱状態にある後藤さんを正気に戻さないと。

 なんか体のパーツが変な風に曲がっちゃってる感じがするし、顔なんてぐちゃぐちゃに崩壊しかかっているし!?

 

「とりあえず、体のパーツをこうしてこう!顔の方はなんかこういい感じに!!」

 

 ひとりの顔や体に手を当てながら、正しい形に直していく。

 

「ふぅ~、こんな感じかな?」

「あっ、すみません。ご迷惑をお掛けして……」

 

 若干、元の形とは違う感じに完成したが、さっきの崩壊したような状態よりはマシだろう。

 それよりも、まずは私が来た理由を説明せねばなるまい。

 

「あのね、後藤さん。実は折り入って相談があるんだけど」

「相談ですか……?」

 

 あの喜多さんが私なんかに本当に何の相談なんだろう?零士君の事でもないとしたら本当に心当たりがない。

 

「実はそのね……正直に言うと私、本当はギターが弾けないの!!」

「……えっ?ええ!?」

「そりゃ驚くよね。バンド組んでるのに、ギターが弾けないなんて。だからお願い!後藤さんギター出来るんでしょ?だったら、私がギターを弾けるように手伝って欲しいの!!」

 

 バツが悪そうにしながら、必死にお願いしてくる喜多さんを見て、きっと噓ではなく本当の事なんだろうなと確信する。

 

「で、でも、なんでいきなり私にその事を?」

「ほら、昨日路上で演奏していた先輩がいるでしょ。私、あの人に憧れてつい楽器弾けますって噓ついてバンドに入ったの」

 

 昨日の……ああ、山田さんのことか!確かに、あの人クールビューティーっぽくって女の人にも人気が出そうな雰囲気してるし。

 だから、あんなに人が集まっていたんだろうな。

 

「で、でも、私なんかに教えを受けるよりも、山田さんに教えてもらった方が……」

「それじゃ、ダメなの!私、先輩にはカッコつけて即戦力になりますとか口にしちゃったし!!」

 

 あっ、これ私も覚えがある。つい自分を良く見せるために噓で塗り固めて結局雁字搦めになって動けなくなっちゃうやつ。

 私の場合はバスケ部エースとネット上で噓をついたことだ。まあ、そのおかげで零士君と恋人同士になれたんだけども。

 

「えへへぇぇ~~~」

「きゅ、急にどうしたの?後藤さん」

「ぴゃっ!な、なんでもありません!!」

 

 妄想の世界から強制的に戻される。

 と、とにかく!今は喜多さんのギターとして、せめて必要最低限は弾けるように教えなくちゃならないということ。

 

 しかし、仮にも私みたいな陰キャが陽キャのトップに立っていそうな喜多さんに教えるだなんて。

 こんな事を他の人に知られでもしたら……。いや、考えるな!!

 昨日も零士君が早々悪い未来なんか起こらないって言ってたし、今の喜多さんは過去の私なんだ!噓をついて後戻りできない可哀想な私!!今ここで助けてあげないと取り返しのつかないことになる。

 

「わ、分かりました。どれだけ力になれるか分らないですけど、精一杯努力させてもらいます」

「本当!ありがとう、後藤さん!!」

「ぐわぁ~~!!!」

 

 キターン!なんて擬音が聞こえてきそうな程、明るい笑顔を向けられて、ひとりはあまりの眩しさに目を焼かれてしまう。

 それどころか、日光を浴びた吸血鬼のようにさら~っと灰になって散っていく。

 

「わ~、戻ってきて!後藤さ~ん!!」

 

 その後、昼休みを終えるチャイムの音が響き、ギターの練習は放課後からスタートするという流れになった。

 授業も終わり、私は喜多さんと件のライブハウスに向かう為、一緒に下北沢へとへと赴いていた。

 昨日、零士君と一緒に来た道だけど、()に喜多さんがいるのが新鮮で新鮮な光景に見える。

 

「あの、後藤さん?なんで私の背中に隠れているの?」

「えっ、だって、こんな慣れないおしゃれな街を表立って歩くのは恥ずかしくて……」

「こっちの方が恥ずかしいでしょ!!」

 

 そんなひと悶着を経て、私たちはライブハウスSTARRYに辿り着いた。

 ここに到着する前に喜多さんのギター知識を少し語ってもらったが、喜多さんのわからないという次元が私の想像の上をいっていた……。

 とりあえず、今日はギターの調子が悪いとだけ言っておいて、こっそりスマホなんかでチューニングするフリをしながら勉強してもらうという案に落ち着いた。

 

「あっ、2人共来た」

 

 喜多さんの影に隠れてライブハウスに入ると、既に山田さんが待っていた。

 

「お待たせしました、先輩!!」

「お、お待たせしてすみません。山田さん」

「別に待ってないからいい。それとひとり。私のことは山田じゃなくてリョウって呼んでもらって構わない」

「あっ、はい。リョウさん」

 

 リョウさんとは私と似たような雰囲気を感じてなんか普通に下の名前で呼べてしまった。

 もしかして、私と同じ同類なんじゃ!?いや待て、リョウさんは昨日、路上ライブをしてたし、インドアだけど人前とかに緊張せずに前に出れる孤高タイプの人なんだきっと!!

 あ……危ない、危ない。もし私と同じタイプの人だと思って接してしまってたら、リョウさんから不快罪で処罰されるところだった。

 

「ふぅ~、危うく打ち首にならずにすんだ」

「なにしようとしてたの、後藤さん!?」

 

 1人で勝手に暴走しかけたひとりの独り言に喜多ちゃんがツッコミをいれると、奥から金髪の女の子が姿を現した。

 

「おっ、なんか盛り上がってるね~。なんの話してるの?」

「へっ、あっ……」

「あっ、紹介するね。この子が昨日言っていた虹夏。んで、こっちが私が誘った新しいギターの後藤ひとり」

「おお~、君が新しいギターの子なんだね。私は虹夏、ドラムを担当しているんだ。よろしくね!」

「がぁっ!」

 

 キターン!程の威力はないにしても、カースト最下位に属するひとりからしたら致死量一歩手前の明るさに右ストレートを受けたような衝撃を喰らう。

 

「ご、後藤ひとりです。こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」

 

 息も絶え絶えで自己紹介する様子に、虹夏は山田に近づいてこっそりと「あの子大丈夫なの?」と聞いていた。

 

「知らない。昨日ギターケース背負ってたし、歳も近そうだったから誘ってみただけ……」

 

 そんな何とも適当な答えに頭痛がしたような気がした虹夏が頭を抱える。

 でも人数不足には違いないし、経験者であるならこっちとしても大歓迎だ。

 

「いよし!それじゃあさ、ひとりちゃんの実力の確認がてら、みんなで練習してみよう!!」

「いいね。私もひとりのギターの実力が気になってたし……」

 

 リョウがやる気に満ちた目でひとりを見る。

 その視線に気が付いたひとりは、脳裏できっと昨日の零士君の発言を地味に気にしている!?と察した。

 

「あっ、すみません。私、今日ギターの調子が悪くて、整備とかチューニングしてるので、今日の練習は3人でお願いします」

 

 若干棒読みになってる言い訳で喜多さんが練習から外れようとする。

 その言い訳を信じてリョウさんも虹夏さんも練習の準備を始め、私もギターを手にとって渡された楽譜を読んで頭に入れる。

 

「それじゃあ、私はギターのチューニングを……」

「……あれ?」

 

 隅の方によってケースから喜多さんが楽器を取り出すが、心配して見ていた私の目に映ったのはギターではなく……。

 

「あ、あの……、喜多さん」

「もぉ~、喜多さんなんて他人行儀じゃなくて、喜多ちゃんって呼んでよ!それで、どうしたの?」

「その、喜多ちゃんのギター……なんですが……」

「私のギターがどうかしたの?」

 

 言いづらそうに口をもごつかせる私の背後からリョウさんがにゅっと現れる。

 

「ん?郁代のそれ、ギターじゃなくてベースなんじゃ?」

「リョ、リョウさん!?いつの間に!!」

「へっ、ベース?って、そんな訳ないじゃないですか。ほら、ちゃんと弦が6本ありますよ」

「いや、弦が6本のベースとかもあるし、それ多弦ベースってやつだよ……」

 

 あっ、終わった。そう確信出来る空気がいまこの場に流れている。

 

 

 




喜多ちゃん終了の合図
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