感想で読みにくくはないという評価について凄く嬉しかったです。
これからも応援コメントよろしくお願いします。
ひとりがバンドを組み、俺も高校で1年生ながらにレギュラー入りを果たした。
傍から見れば万事上手くいっているように見えるが、実際に上手くいっているのは俺だけで、ひとりの方は未だにバンドメンバーと上手く息を合わせて演奏出来ないでいるらしい。
他にも、素人ギターボーカルを育てる大任も任されているようだし、その重圧もあってか、ここ数日のひとりからのLINEは読んでる者が鬱になりそうなぐらいに陰鬱な内容だ。
一応はメンタルケアとして通話で愛を囁いて元気づけてはいるが、その度にフリーズしたのかと勘違いするぐらいノイズ音に似た声で悲鳴を上げられる。(その後は毎回小さい声で『私も……』なんて返事を返してくれるが)
そんな日々を送っていると、ついにひとりが初のバンド演奏を行うとLINEで報告が入った。
残念ながら、ひとりの初演奏の日は平日の放課後らしいので、俺は部活がある為にそれを見に行くことが出来ないのが残念だ。
ひとりの奴がどんなに慌てて下手くそに演奏するのかは楽しみではあったのだが、それはまた別の機会に取っておくことにしておこう。
side:後藤 ひとり
「そ……そんな……」
この世の絶望を知ったような酷い顔で、手に持つスマホをガクガクと震わせながらLINEで送られてきた内容に戦慄しているひとり。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
その後ろから画面を覗き見ようとした妹のふたりが現れた。
「ふ……ふたり!?一体いつの間に!!」
「お姉ちゃんが上でぎにゃぁぁぁ!!!って叫んでたから来たの!それで、一体どうしたの?」
「あっ、うるさくでごめんね」
どうやら、下の階からでもひとりの叫び声が聞こえたらしい。
そして、その叫びが心配になりふたりが様子を見に来たということだ。
「えっとね、今度お姉ちゃんがライブするのは知ってるでしょ。それでね、お姉ちゃんの彼氏をライブに誘ったんだけども、部活があるからいけないって返事がきて」
「え~、噓だぁ~。お姉ちゃんって友達もいないのに、彼氏がいるわけないじゃん」
「ふたり、お姉ちゃん確かにお友達はいないけれども、彼氏はちゃんといるんだからね!!」
「は……はい……」
姉のあまりにも恐ろしい顔と声で言ってくるものだから、妹のふたりも怯えながらひとりの言葉を認めていた。
「でも、お姉ちゃんに彼氏がいたなんて意外だな~。ねえ、お姉ちゃんの彼氏ってどんな人なの?写真ある?」
「あっ、そのね、私も彼氏の零士君も写真を撮るのが好きって訳じゃないから、写真はないんだ……」
「な~んだ、お姉ちゃんの彼氏って人の写真ないんだ……」
がっかりといった目線を送られて心に矢を打ち込まれたようにぐふっ!とダメージを受けたような声を上げて胸を押さえる。
「でも、お休みの日とかは2人でデートとかしてるんでしょ?」
「う……うん、まあね。私なんかが零士君みたいなかっこいい人と付き合えるだなんて思っていなかったから幸せだよ」
ニヘラとだらしないながらも幸せそうな笑みで微笑む姉を見ていると、ふたりもなんだかよく分からないけど幸せな気持ちになる。
「いつかふたりにも零士君のこと、ちゃんと紹介するね……」
「……、その時まで関係続いてるの?」
「ヴっ!!」
幼児からの純粋な疑問、それがひとりの姉としてのミジンコ並みのプライドとありえそうな最悪の未来に陸に打ち上げられた魚のような動きをみせる。
「ひとりちゃんにふたりちゃん。ご飯が出来たから下りてらっしゃい」
「は~い!」
「あれ?ひとりちゃんはどうしたの?」
「お姉ちゃんは部屋でなんかお魚さんになってる」
「あら、またなの~。仕方ないわね」
母親も慣れたもので、2階で蠢いているひとりをどうにかなだめて下の階へと降りてきた。
そのまま、家族全員で食事をとるがひとりはまだ引きずってるのか、死んだような目をしながら食事を取っていた。
「どうしたんだ、ひとり?なんだか元気がないようだけど?」
「あのね~、お姉ちゃんの彼氏が今度のライブに来れないみたい」
「っぶ!ふ、ふたり!?」
とんだ爆弾発言にひとりが吹いた。
自分に彼氏がいることをまだ両親に報告していないのに、妹から言われてしまったのだ。
「はっはっは、一体誰からそんなデタラメを聞いたんだ、ふたり?」
「お父さん!?」
自分の娘に彼氏ができるわけがないと最初から決めつけて笑い飛ばす父に思わず悲鳴に近しい声を飛ばす。
「あ~、だからここ最近、休日になるとひとりちゃんおしゃれして出掛けることがあったのね」
「えっ!?」
娘が時たまおしゃれして外出することにようやく合点がいったとばかしに納得する母に父が本当なのか!?と驚いた声を上げる。
「ひ……ひとり……。まさか、本当に彼氏が出来たのか?お友達じゃなくて?」
「……うん、零士君って人と付き合ってる」
カチャンと手に持っていた箸を落として取り乱す父。
まあ、いきなり娘に彼氏が出来たって聞いたらそうなるのかな?
「れ……れ……零士君っていうのか、一体どんな子なのか会ってみたいな」
「お父さん、声震えちゃってますよ」
動揺する父に対して優しく指摘する母。
どうやら、母の方は前々から勘づいていた為か、比較的に冷静であった。
そこからの会話はお母さんの冷やかしやお父さんからの質問攻めで、もう大変なものであった。
食事が終わりお風呂にも入り、あとは寝るだけとなった時、ひとりは自室のベッドに顔を埋めていた。
(零士君が来ない……)
家族との談笑で多少は気持ちが落ち着いたが、ひとりの心の拠り所とも呼べる零士が来ないということが再び彼女の心を陰鬱にさせていた。
ブーッブーッ スマホが振動して着信を知らせる。
(零士君!?)
着信相手も確認せずに電話をとるひとりに、通話相手の言葉が耳に入る。
しかし、その相手は思っていたような人物ではなく……。
「も、もしもし!」
「あ、後藤さん。今時間大丈夫かしら?」
き、喜多ちゃん!?どうしてこんな時間に?って、は……早く返事しなくちゃ!!
「えっ、あっ、だ……大丈夫です!!」
「そう、なら良かったわ!」
電話越しでも分かるぐらいにウキウキした声。
どうしてこんな時間に?と喜多に問いかけたかったが、それをする前に彼女の口が開いた。
「あのね、明日にはついに私達の初ライブじゃない。今回はまだ私がギターを全然演奏出来ないからボーカルだけの出演だけど、それでも音程やリズムを外したらだとか、お客さんの前で緊張して歌えなかったらどうしようとか、変に心配になっちゃって……」
「あっ、その気持ちよく分かります!私も明日のバンド緊張しちゃって、つい零士君に来てくださいってお願いして……部活があるから今回は無理って断られました」
だばーっと涙が溢れて涙声ながらに断られるまでの一部始終を語る。
そんなひとりの状況を聞いて喜多は不謹慎ながらに、自分と同じ心境であることに親近感を覚えると同時に安心する。
「あのね、後藤さん。実を言うとあたし、不安だったんだ。明日のライブじゃ来るお客さんって先輩らの学校の人達じゃない。知らない人達の前で歌うのってすっごく怖い。リョウ先輩や虹夏先輩は勿論だけど、後藤さんも彼氏さんが見に来るから仲間はずれは私だけかもって思ってた……」
「えっと、その……」
「ああ、ごめんね。急に答えずらいこと言っちゃったりして。でもね、後藤さんと私が一緒の仲間だって知れて嬉しかった。明日のライブで一人ぼっちじゃないって分かっただけでずっと気分が楽になったわ!」
一人ぼっち……その言葉はひとりにとって幼い頃からの付き合いだった。
幼稚園、小学校と学校生活を送っていく中で友達といえる存在が出来ず、中学では零士君という彼氏が出来てぼっちからは脱却することが出来た。
しかし、それでも明日のライブじゃ自分をぼっちから脱却させてくれた人が来ないということにずっと不安になっていた。
でも、
(そっか……喜多ちゃんも同じなんだ)
「喜多ちゃん、明日のライブ絶対に成功させましょう!」
「うん、そうね後藤さん!それじゃ、また明日学校でね!」
もう不安はない。例え明日のライブに零士君が来なくても同じ心境の仲間がいる。
それが後藤ひとりを落ち着かせ、明日のライブに向けての活力となり、ひとりはぐっすりと明日に向けて眠りに入る。
「ややややっぱり私には出来ません~……」
次回、ひとりちゃん死す!デュエルスタンバイ!!!