ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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イリュージョンショー

 

『Ladies and Gentlemen!!』

 

 暗転の中、大天幕内で声が響いた。

 それを合図に客席は静寂に包まれる。

 

 満員御礼とはいかずともそれなりに埋まった客席を確認するように僅かな間が空き、そしてバンッと舞台上にスポットライトが当たる。

 

 舞台の中央では黒一色で染め上げた燕尾服に背の高いシルクハットを被った少女、尾丸ポルカがシルクハットのツバを軽く握りながら不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

『本日は我がイリュージョンショーに足をお運びいただき、誠にありがとうございます。これより、皆様を不思議な世界へとご招待いたします』

 

「…………!」

 

 一瞬目が合ったような気がしたねねだが、これだけ客がいるのだからたまたまだろう。

 

 被っていたシルクハットを取り、大きな獣耳を顕にしたポルカは勢いそのままシルクハットを上空に投げると、両手を広げて大天幕の隅から隅まで通る声でショーの開幕を告げた。

 

 

『It's showtime!!!』

 

 

 ポルカの宣言に反応するように上空に投げられたシルクハットがカラフルな紙吹雪を撒き散らしながら破裂する。

 

 客席の全員がそのシルクハットに目線を奪われている数瞬のうちに、舞台上にいたポルカの姿が先程までの燕尾服からカラフルな道化師の姿へと変身を遂げていた。

 

「ええっ!? いつの間に!?」

 

 目を見張る早着替えについつい声を上げてしまうねね。

 ねね程ではないにせよ、初めて見るイリュージョンにラミィとぼたんも興奮を隠しきれない様子だ。

 

 そこからは先程までの燕尾服を身にまとったポルカとは打って変わって道化師ポルカによる様々な面白おかしく、そして摩訶不思議な大道芸が矢継ぎ早に行われていった。

 

 そして、一刻半が経った頃だろうか。

 一度舞台裏に下がったポルカが再び燕尾服にシルクハット姿で登場する。後ろには数名のアシスタントがちょうど人1人が立って入れるくらいの箱を舞台上に用意していた。

 

「次は何かな? 次は何かな!?」

 

「ちょっとねね、もう少し落ち着きな! それでししろん、次は何だと思う!?」

 

「2人ともお願いだからもう少し静かにしてくんない。次はあの箱を使うんだよ多分……!」

 

 周りから「うるさいなぁこの3人組……」と思われながらもこれまでの大道芸に興奮を抑えきれない3人は舞台上の人サイズの箱を見てテンションを上げる。

 

 用意が完了すると舞台上のポルカが客席に向けて両手を広げ大天幕全体に通る声で語りかける。

 

『これからお見せするのは本日最後の大イリュージョン! このイリュージョンにはお客様の中から1名程お手伝いしていただきたいのですが、どなたか立候補される方はいらっしゃいませんか?』

 

 観客参加型のイリュージョンなのか、アシスタントではなく観客から手伝いを募るポルカ。

 舞台上から客席というのは思った以上に良く見えるもので、実はこの前の大道芸中からポルカは自分が招待した彼女たち3人をちゃんと見つけていた。

 

「はーいはーい! ねね! ねねが手伝いたい!」

 

 周りの目も気にせず元気良く挙手するねね。

 そんな反応についつい笑みが零れてしまったポルカは他の客を一度見渡してから、ねねに向けて手を指し出す。

 

『それではそこの元気の良いお嬢さん。舞台に上がってきていただけるかな?』

 

「はーい!」

 

 指名されてご機嫌なねねはニコニコで舞台上に向かう。

 

「いやー、今日は来てくれてありがとね」

 

「いえいえ、楽しませてもらってますよ!」

 

 舞台に上がったねねは一度客席に向かってお辞儀をすると改めてポルカに向き直る。

 舞台は上がってみると思ったよりも広く、客席側の床は丸みを帯びた楕円形になっており、より奥行きが広く使える形となっている。

 舞台上には箱を持ち込んだアシスタントの姿は既になく、ポルカとねねの2人のみ。そして中央やや奥には人が1人入れる程度のサイズの箱。客席からでは分かりにくかったが金属製ではあるもののかなり薄く弱々しい箱だ。

 

 しかし、ねねの視線は舞台中央の箱にはなく、上手側の舞台袖に向けられていた。

 垂れ幕で客席からは死角となっている部分。そこにはどこからどう見ても鉄製の檻が置かれている。ただ、舞台上へのスポットライト以外明かりが落とされているため檻の奥、つまり巨大な檻の中に何がいるのかが全く見えない。

 

「あのー、尾丸さん。あそこの……」

 

『さあ皆さん! いよいよこのショーもクライマックス! ここに勇気ある1人の少女が立ち上がりました!』

 

 ねねの声を遮るようにポルカは客席をここぞとばかりに盛り上げにかける。

 そしてポルカの声に合わせて舞台上のスポットライトがねねと中央奥の箱に当たる。

 

『お嬢さん、お名前を聞いてもよろしいですか?』

 

「あ、桃鈴ねねです」

 

『ねねさん、素晴らしい名前だ。貴女の勇気に、私の相棒もきっと応えてくれることでしょう』

 

「相棒?」

 

 ねねの疑問に笑みを返すポルカはどこからともなく手錠を取り出し、目にも止まらぬ早業でねねの両手を体の後ろで手錠にかけてしまった。

 

「え、えっ……」

 

 何が起こったのか理解が追いつかないねねはそのままポルカに背中を押されながら例の箱の中へ詰め込まれてしまう。

 

「え、あれ? ちょ、何これ?」

 

 後ろ手に手錠を掛けられたまま箱に閉じ込められ、さらにそのまま箱はいかにも頑丈そうなチェーンでぐるぐる巻きにされてしまう。ちょうど目の高さに開いた隙間から外を見ると、ポルカの不敵な笑みが見えた。

 

『それでは、ご覧いただきましょう。わたくし尾丸ポルカの最大イリュージョン。大脱出イリュージョンを!!』

 

 脱出? 客席とねねからはてなが浮かぶ。

 しかしそんな周りの様子には取り合わず、ポルカは甲高い指笛を鳴らす。

 

 すると、異変に一番初めに気づいたのは、一番近くにいたねねだった。

 先程の違和感を感じた上手袖。そこから明らかに異様な気配を感じた。

 

 次に、ぼたんを初めとする五感に優れた獣人。

 

 そして、次第にその違和感に気がつく者が増えていき。

 会場にいる全員がそれを感じ取ったタイミングで、それは咆哮を上げた

 

 

「……──ガアアアアアアアアアアァァァァァァ!」

 

 

「……っ!?」

 

 ビリビリと空気を震撼させる咆哮。

 間違いない。上手袖に置いてあった鉄製の檻の中から、その咆哮は聞こえた。

 

 視界を正面以外塞がれていて焦るねねを他所に、客席から悲鳴が上がる。

 

『皆さんご安心を、彼は私の相棒。いきなり暴れ出す心配はございません』

 

 先程も使っていた相棒という言葉。しかし姿は見えないものの、明らかに人の形をしたものではないという確信だけは持てる。

 

 ソレが一歩ずつ近付く度に舞台上、いや天幕内が揺れ、やがてねねの僅かな視界が真っ暗になる。よく目を凝らすと、外が暗くなったわけではなく、大きな鱗が唯一の視界である箱の隙間を遮ってしまっているのだ。

 

『これからこの子にこちらのねねさんが入った箱を燃やし尽くしてもらいます。そして見事手錠をしたねねさんが焼かれずに脱出できたら大きな拍手をください!』

 

 ──うん? 燃やす? 今燃やすって言った?

 

「あのー、尾丸さん? ねね何も聞いてないんですけど? 脱出方法とか聞いてないんですけど!?」

 

 ねねの抗議には一切取り合わず、ポルカはソレの背中を押すようにして移動させる。箱から移動させたことでねねの視界にもソレの全貌が現れた。

 

(……っ!? ど、ドラゴン!? あれドラゴンちゃいますの!? 燃やすってそういうこと!?)

 

 この世界では龍種は大きく分 けて地龍と翼龍の2種類に分けられる。その違いは単純明快で翼を持つか持たないかの差だ。

 

 では、そもそも龍、ドラゴンとも呼ばれるそれらはどこで判断してそう呼ばれているのか。

 こちらも至極単純で、通称”火を噴く蜥蜴”と命名した人間の何とも皮肉の入った呼ばれ方をしているが、実際その通りで、火を吐くか吐かないか。それだけでドラゴンかどうかは判断される。

 

 つまり手のひらサイズのドラゴンも入れば、象のような大きさの蜥蜴もこの世界にはいるということだ。

 

 そして今回ポルカは、ねねの入っている箱を燃やし尽くすを明言した。

 

 つまり、今目の前にいる地龍は紛れもなく龍種であるということだ。

 

 箱の中で脱出方法を知らされていないねねの冷や汗がしとどに溢れ出していた。

 

 

 

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