「…………」
「もう、いつまで膨れてるのねね」
先日の尾丸ポルカ率いるサーカス団のイリュージョンショーにて起きた事故と、その際に観客の命を救ったラミィとぼたんの活躍が街中に広まるのにそこまで時間は要さなかった。
ラミィとぼたんは一躍有名人となり、当日イリュージョンショーを見に来ていた観客は元より、街の警備団からも感謝状をもらっていた。
「……あの日一番怖い思いをしたのはねねだと思いまーす」
「わかってるって。ラミィ達ばっか目立ってごめんてば」
あの場にいても自分には何もできなかったのは分かっているのだが、3人組なのに自分以外の2人ばかり街の人から感謝されてチヤホヤされているのが気に食わないのだろう。
「ししろんからも何とか言ってあげてよ。ていうか、さっきから何食べてるの?」
「さっきあの日助けた人からお礼って言ってもらったチュロス」
「…………」
「あー! またねねが膨れちゃったじゃん! それ確かこの街でねねが一番好きって言ってたお菓子じゃん!」
「むぐむぐ」
「ねねに見せ付けるように食べるのやめなー!」
頬を膨らますねねに対して追い撃ちをかけるようにチュロスを口に含むマイペース極まりないぼたん。
しかし、1本食べ終えたところでラミィのツッコミに満足がいったのか、後ろ手に隠していたもう2本のチュロスをねねとラミィに渡す。
「ちゃんと2人の分も貰ってるって」
ぼたんからチュロスを受け取り少し機嫌を直したねねはチュロスを口に含みながら、そういえばと切り出す。
「尾丸さん、どこ行っちゃったんだろうね」
「翌日から完全に姿を眩ませたもんね。ラミィ的には色々と聞きたいことがあったんだけど」
「それはねねも同じだよ。色々と問い詰めたいことがあるもん」
「おやおや、それは怖い。もしかして今姿を現すのは愚作だったかな?」
「「「…………」」」
ベンチに横並びで座っていた3人の横に当然のように一緒に座っている尾丸ポルカ。
「お、おおおお尾丸さん!? あの日以降どこかに行ったんじゃなかったんですか!?」
びっくりしたー! と突然現れたポルカに目を見開く3人。
神出鬼没なポルカに対し、ねねは先程まで話していた内容を本人に尋ねる。
「いやー、あの後警備団から追われちゃってさー。一時この街から撤退したんだけど、今は街の注目がそちらのお2人さんに移ってるようだから私だけこっそり戻ってきたんだ」
「尾丸さんだけ?」
「そ。うちのスタッフは街の外で待機中。私は街に戻ってとある子達をスカウトしに来ました」
「「「…………スカウト?」」」
「うん!」
3人のオウム返しに良い笑顔で返事をするポルカ。
「「「はぁ、それは、頑張ってください」」」
何か危険を察知したのか図ったかのように声を揃えて同時に立ち上がる3人だが、それを上回るスピードで3人の背後に回りまあまあと肩を押さえて無理矢理座らせるポルカ。
「何を隠そう。私がスカウトしようとしているのは君達なんだよ! どう!? 一緒に人々に笑顔を届けようじゃないか!!」
「恐怖の間違いでは?」
「うーん、ねねちゃん。辛辣だねー」
辛辣も何も実際に恐怖体験をさせられたねねからしてみれば堪ったもんじゃない。
「まあまあ! 最後は確かに失敗に終わっちゃったけど、途中までは皆楽しんでくれてたでしょ!?」
「「「…………」」」
「………ね!」
「人にものを頼むときは」
「それ相応の態度というものが」
「あるのでは?」
「ごめんなさいでした……」
× × ×
ラミィとぼたんがこの街で少々有名になってしまったおかげでどこにいても目立ってしまう4人は、ねね達が滞在中に借りている宿に移動していた。
「そもそもいきなりスカウトってどういうことですか?」
部屋に入って開口一番。ラミィがポルカに尋ねる。
「いやね。あの時の2人の氷の魔法と銃捌きが今でも脳裏に焼き付いて離れないんだよ。あれを芸として客前で見せれば人気が出ること間違いなしだと思うんだ!」
どうやら、先日の事故の際に見せたラミィの魔法とぼたんのライフルの精度に心奪われ、是非とも我がサーカス団へ入ってもらいたいと思ったらしい。
「あのー、ちなみにねねは?」
「客席に混ざってもらって観客参加型のイリュージョンの際に選ばれる役を!」
「絶対に嫌なんですけど!?」
この人はこの期に及んでまたあの恐怖体験をさせようとしているらしい。
ねねは要注意人物としてポルカへの警戒心を一段階上げた。
「いや、そもそも私達はこの街に物資調達で寄っただけで、そろそろまた旅に戻る予定なんよね。悪いけど一緒に何かをするのも難しいし、そのサーカス団? に入るのなんて以ての外なんよ」
「うん? 3人は旅人なの? ちょうどよかった。私達も色んなところを旅しながら立ち寄った街でショーを見せるサーカス団なんだ。何だか相性も良さそうだね!」
ぼたんの断りの台詞には触れず、旅をしているというところだけピックアップするポルカ。
「旅人といえば旅人だけど……一応次の目的地は決まってるし、手伝いとか無理ですよ」
「えーそうなんだー。ちなみに目的地ってどこどこ?」
ラミィの断りの台詞には触れず、目的地というところだけをピックアップするポルカ。
「……一応、ラミィの故郷のエルフの里、だけど」
「えー! 奇遇だね! 私達もちょうど次そっちの方面に移動しようかって話してたところなんだー!」
(((めんどくせぇこいつ!)))
自分に都合の悪い部分はすべてスルーし、否が応でもついて来ようとするポルカに3人は心の中で頭を抱える。
「と、とにかく無理なものは無理! 諦めてください!」
ねねが両手をバッテンにしてはっきりと拒絶をする。
流石にこれ以上押しても無理そうだと悟ったのか、ポルカも残念そうな苦笑いを浮かべ参った両手を挙げる。
「分かった分かった。強引過ぎたみたいだ、ごめんよ。今日のところはこの辺で引き上げるとするよ」
「今日じゃなくて、今後一切諦めてください」
「……ねねちゃん、中々辛辣が抜けないね」
ねねの中では百鬼あやめの次に要注意人物となったため、多少辛辣になってしまうのは仕方がないだろう。
「分かったよ。君達のことは諦めることにするよ。でも、さっき言った通り私達は移動式サーカス団なんだ。またどこかで会うことがあったらまたお客さんとして楽しんでいってもらえると嬉しいな。次は失敗しないようにするからさ」
本当に残念そうな表情を見せるポルカにほんの少しだけ罪悪感が芽生えるねねだが、ねね達にもねねの記憶を取り戻すという目的がある以上、できるだけ早くそのきっかけ探しをしないといけない。
それに、理由は不明だが百鬼あやめに命を狙われているねねの近くにいるということは、それだけ危険に巻き込まれる可能性があるということだ。できればあの場にいなかった者を巻き込むのは避けたい。
(そもそも、記憶もなくてラミィみたいに特別な力があるわけでもないねねが何で命を狙われてるのかがわかんないんだよなー。まあ、それを知るために1日でも早く記憶を取り戻さないといけないんだけど)
迷惑掛けたね。と改めて謝罪をしながら部屋を出ようとするポルカを見送りながら以前のあやめとのいざこざを思い出していると、ポルカがジッとねねの顔を見つめていることに気が付いた。
「……え、どうしました?」
「いや、もし良かったらなんだけど、最後にあれのトリックだけ教えてくれない?」
「はい? トリック?」
何の話? と首を傾げるねねに、ポルカはまたまたーとねねに向き直る。
「だってあの脱出イリュージョンの時、魔法が発動できなくなる手錠を掛けていたにもかかわらず、ねねちゃん魔法使ってたじゃん」
「「「……え?」」」
再び示し合わせたかのように、3人の声が重なった。