「だってあの脱出イリュージョンの時、魔法が発動できなくなる手錠を掛けていたにもかかわらず、ねねちゃん魔法使ってたじゃん」
退出前によく分からないことを言い出したポルカに首を傾げる3人。
「ま、魔法? ねねは魔法なんて使えないって……そうだよねラミィ」
「そのはずだよ。ねねからは魔力が感じられないし、魔法は使えないはず」
もしかしたらまだ3人のことを諦め切れず適当なことを言って気を引こうとしているのかもと警戒したが、どうも冗談で言っているようには感じられなかった。
「まーたまた。あの手錠の性能は間違いないよ。何て言ったって、ポルカの相棒であるレックスの爪先に着けただけで炎が吐けなくなったんだから!」
「いや、手錠云々じゃなくて、そもそもねねが魔法を使えないんだって。ていうか、あなたの言ってる魔法っていつ使ったって言うんですか? ラミィ達もあの場にいましたけど、ねねが魔法を使ったなんて思わなかったですよ」
「んえ? 何言ってるの? そもそもあの事故はねねちゃんの魔法にびっくりしてポルカがレックスの鎖を引っ張っちゃったから起きた事故で──、あっ! いや、別にねねちゃんを責めてるわけじゃないよ! やっぱり何も説明せずに進めちゃったポルカが悪いし」
「「「…………?」」」
「……?」
イマイチ会話が噛み合わない4人は揃って首を傾げる。
箱に閉じ込められてパニックに陥っていたねねは元より、客席でショーに集中していたラミィとぼたんもねねが魔法を使ったようには一切見えなかった。恐らくそれは他の客も同じだろう。
しかし、一番近くでトリックを作動させるためのスイッチをタイミング良く押すためにあの場にいた誰よりも集中していたポルカが、間違いなくねねは魔法を使ったと断言した。
この食い違いを解くには一から話を聞いた方がよさそうだ。
それに、何故かは分からないが、ラミィ達はポルカの言っていることがねねの記憶を取り戻す切っ掛けになるような、直感的にそんな気がした。
「ちょっと尾丸さん。もう一度中に入ってください。色々ちゃんと聞かせてください」
ねねの言葉と他の2人の真剣な表情にポルカも頭の上にハテナを浮かべながらも少し息を飲んで再び部屋に戻る。
「何でこんなに食い違いが起こってるの? 2人だって見えたでしょ?」
「だから何がですか?」
「うちのレックスが炎を吐く寸前、ねねちゃんが入っていた箱からめちゃくちゃ眩しい光が漏れてたじゃん」
「「……!」」
ポルカの言葉にラミィとぼたんは何かに気付いたような表情になる。
「え、いや待って。あの光ってそういう演出だったんじゃないの?」
「私もそうだと思ってた」
「いやいや、箱から光が出る演出ってどんな演出よ。あのシチュエーションならむしろ質素な箱が成す統べなく跡形もなく消し炭になったのに、中に入ってたねねちゃんは無事だったっていう演出の方がいいに決まってるでしょ。あの箱にあんな発光する仕掛けはないよ」
「え、え、じゃあ本当に……?」
「だからずっとそう言ってるじゃん。あの手錠はもしねねちゃんが魔法を使えて、何かしらの干渉があって万が一にもあの箱の仕掛けに不具合が生じないように掛けさせてもらったんだよ。ポルカからしてみたら、そんな状態のねねちゃんが入った箱からあんな光が漏れ出して来たら、何かしら不具合があったと思うじゃん。それでレックスに緊急停止を伝えようとしたんだけど、どう見ても間に合いそうになかったから無理矢理炎の向きを変えさせたってわけ」
ポルカが説明を終えると、3人の視線はねねに向けられる。
しかし──、
「……いや、全く自覚も記憶もないというか……あの時は超テンパってたし、皆が見たっていう光もねねは記憶にないんだけど」
「てことは無意識にあの光を出したんだ。ちなみにあの後使用した手錠を調べたけどちゃんと正常に作動したんだよね。だから、あの光は魔法の無効化を跳ね退ける力ってことになる。ポルカ的にはそんなことが本当にできるのか気になったんだけど……その様子だと皆もポルカと同じ情報量しかなさそうだね」
やれやれとお手上げポーズを取るポルカを尻目に、ぼたんはラミィとねねに向き直る。
「ラミちゃん、どう思う?」
「……ねねに魔力がないのは間違いない。これは絶対。本当にあの光をねねちゃんが発したというなら、それは魔法ではなくてまた別の力ってことになる。ラミィはそんな力聞いたことないけど……ねねちゃんに心当たりは──」
ぶんぶんと首を横に振るねね。
「だよね。無意識ってことになるともう一度それをやって見せるっていうのも難しいだろうし……いや、でもこれは一歩前進なんじゃない? ラミィの里に行くまでにも何か分かるかもしれないし、ねねちゃんの記憶に繋がるかも」
「記憶?」
「あ、あー……」
記憶という言葉に反応したポルカにしまったという表情をするラミィにねねは全然いいよと軽く微笑む。
「実はねねって今記憶喪失になってて、この2人と出会うまでの記憶が全くないんだ。それで2人はねねの記憶を取り戻すのを手伝ってくれてるってわけ」
「そうだったんだ、大変なんだね……つまりポルカはその目的のちょっとした手助けをしたということかな?」
キラキラと瞳を輝かせるポルカ。
そんなポルカに余計なことを言ってしまったかと、うっと言葉を詰まらせる。
「嘘嘘。そんな恩に着せるようなことはしないよ。てか、恩でいったらポルカの方があるしね。むしろポルカ達に手伝えそうなことが無くて申し訳ない」
「いやいやいや、尾丸さんに謝られるのは昨日のことだけですから!」
「チクチク来るねーねねちゃん。ま、聞きたいことも……まぁ聞けなかったけど聞けたからポルカはもう行くよ。無理な勧誘をして悪かったね。またどこかのショーで会えることを楽しみにしてるよ」
「あ、宿の前までお送りしますよ」
今度こそおいとましますと立ち上がるポルカと一緒に部屋を出る。
ねね達もあと数日後にはこの街を発つ予定だが、この街の警備団に追われているポルカ達もその頃にはこの街から離れていることだろう。よっぽどのことがない限りは、もう会うことはないかもしれない。
そんなことを思いながら宿の外に出ると、先日ねねを天幕の外まで避難誘導してくれたポルカのサーカス団の座員が息を切らして立っていた。
「あ、座長! こんなところにいた!!」
「ん? 何でこんなところにいるの? 客引きで皆この街の人に顔が割れてるんだから街の外で待っててって言ったのに」
「それどころじゃないんです! レックスが! レックスが謎の連中に連れ去られてしまいました!!」
青ざめた表情の座員が告げると、ポルカはねね達の制止の声も聞かず駆け出した。