「おい、お前ら! 何があった? 大丈夫か!?」
街の外でポルカのサーカス団が野営しているという場所まで移動した一行。流石に目の前で事件が起きたと聞いてそのまま別れることもできず、ねね達も一番に走り出したポルカの後を追ってここまでやってきた。
「ざ、座長……すみません、いきなり現れた5人組にレックスが……」
野営地の前で木にもたれ掛かるように座り込んでいた男の座員を起こす。
野営地には10人の座員がおり、ポルカとポルカを呼びに来た女性座員を含めて彼女のサーカス団は12人で活動しているようだ。
「レックスってあの時の地龍ですよね? あんな強そうなドラゴンをたった5人で連れ去れるものなんですか? 軽く一暴れするだけで追い返せそうですけど」
「いや、実はレックスはこの前の事故の時にラミィちゃんの魔法による急激な気温変化で擬似的な冬眠に入っちゃってたんだ」
「うえぇ、もしかしてラミィのせいですか!?」
「いやいや、本当に簡易的なもので、あと2、3日すれば通常運転に戻ると思うよ」
先日の事故で起きた火事と崩落を氷魔法一発で止めるという力業で皆を救ったラミィだったが、その際の急激な温度低下によって、低気温に弱い地龍であるレックスが上手く行動できない状態だったらしい。
「その5人組ってのは、どんな奴らだったん?」
「全員女の5人組でした。俺は謎の薬品を嗅がされて眠らされてしまって……中には峰打ちですが切られて怪我をしている奴もいます」
不幸中の幸いなのか、死者は出ていないようだが、座員の中には怪我をしている者もいるようだ。ポルカを呼びに来た女性座員はたまたま襲撃時に野営地から離れており、戻ったときには既にレックスが連れ去られた後だったらしい。
「尾丸さん、レックスを連れ去るような連中に心当たりとかあるんですか?」
ねねの問いにポルカはうーんと悩む様子を見せる。
「……ありすぎてわからん」
「ありすぎる!? どういうことですか?」
「レックスはポルカ達のサーカス団結成時からいるんよ。当然ショーに出るのもこの前のが初めてってわけじゃないし、むしろうちのイリュージョンショーの一番の見せ場はレックスのイリュージョンまである。だから今まで色んな所で色んな人に、人の言うことを従順に聞く地龍を見せて来たのさ」
「つまり、人の言うことを聞く珍しいドラゴンを盗もうとする輩はいくらでもいると」
「そういうことだよ獅白くん」
あまり焦っている様子を見せないポルカに拍子抜けしてしまう3人。女性座員に知らされて血相を変えて飛び出した人と同じ人とは思えないくらい今は落ち着いていた。
「あの、何でそんなに落ち着いているんですか? レックスって尾丸さんの相棒なんですよね?」
「んえ? ああいや、別に落ち着いてるわけじゃないよ。ただ、襲撃にあったって聞いたからまずは座員が無事かどうかが心配だったからさ。とりあえず一安心ってだけ。それに──」
ねねの疑問に小さく笑みを浮かべ、ポルカは自信満々に言い切る。
「レックスは人に従順なわけじゃない。私に従順なだけさ」
× × ×
「アーハッハッハ! よくやったぞお前達!」
とある地下施設の最下層にて少女のご満悦な笑い声が響く。
とある野営地から連れ去ってきた地龍が鎖に繋がれて眠っており、その様子を3人の少女が見守っていた。
「よくやったぞじゃないでござるよ。誰がここまで運んだと思ってるでござるか」
「うむ、よくやった」
「こいつ斬っていいでござるか」
「まぁまぁまぁ、こよの発明のおかげで米俵ぐらいの重さになったでしょ」
「米俵を女の子1人に持たせるんじゃねーでござるよ」
腰の刀を鞘から抜こうとする侍の格好をした少女を横からまあまあと宥める白衣の少女。
格好や種族がバラバラな彼女達だが、何だかんだ上手くやっている。
「ていうか、この地龍は一体何でござるか? いきなり捕まえて来いって、人に飼われてる地龍なんて初めて見たでござるよ。ていうか人が飼ってる生き物って勝手に連れてきてよかったんだっけ?」
「馬鹿お前、人に飼われてるってことは人の言うことを聞くドラゴンってことだぞ。そんな珍しいドラゴン、吾輩にピッタリだろ。吾輩ドラゴンの背中に乗るの夢だったんだよ」
「でも何かこの子寝てるみたいだよ? まあそのおかげで連れ出すのも簡単だったっていうのもあるんだけど」
3人で丸まって眠っているレックスに近寄り、ぽんぽんと軽く叩いたりしてみるがどうも起きる様子がない。寝息はしているため生きていることは間違いないのだが、かなり眠りが深いようだ。
「博士、お前この地龍の目ぇ覚まさせてくんね?」
「うーん、いいけど、もし暴れたらどうする?」
「その時はいろはが何とかするっしょ。うちの用心棒なんだし」
「無理に決まってるでござるよ。炎を吐く相手に勝てるわけないでござる」
「え、マジ?」
「マジ」
「じゃあどうすんだよ」
「知らないでござるよ! ラプ殿が何とかすればいいでござる」
金色の髪を靡かせながら侍の風真いろはは抗議する。
「……まぁ何とかなるっしょ。ていうか、こいつは人の言うことを聞くドラゴンなんだからそんな心配いらないって」
「さっきからそれ言ってるでござるが、そもそもどこ情報でござるか?」
「昔幹部とサーカスを見に行ったときに、こいつがそこのピエロ? 団長? とにかくそのサーカスを仕切ってた獣人の言うことを聞いてショーをしてたんよ」
「え、何それ。そんな面白そうなサーカス見に行ったなんてこよ聞いてないんですけど」
「風真もでござる」
「うっせーな。今そんなのどうでもいいだろ。吾輩が言いたいのはその時にこのドラゴンはそいつの言うことを聞いてたから多分大丈夫だってこと」
自分達の知らない間にサーカスを見に行っていたという告白をして2人に詰め寄られるが、そんな2人を大きな2本の角で払いのけてラプラス・ダークネスは自信満々に頷く。
「でもそれって、その人がこの子のご主人様だからって可能性はないの?」
「んあ? どゆこと?」
「いやだから、この子は誰の言うことでも聞くわけじゃなくて、そのピエロさん? の言うことしか聞かなかったらどうするの?」
「……そんなことあるかな?」
「全然あるんじゃない? ほらワンちゃんとかでも知らない人が来たら吠えたりするじゃん」
「「…………」」
白衣を来たピンク髪の少女、コヨーテの獣人──博衣こよりの一言に残りの2人が無言になる。
「……とりあえず、起こすのはちゃんと準備してからにしよっか」
「それがいいかな」
「それがいいでござるな」
3人でうんうんと頷いていると、上から続く階段から2人の少女が下りて来る。
先程までポルカ達の野営地を監視していた鷹の獣人・鷹嶺ルイとシャチの獣人・沙花叉クロヱだ。
「ラプ、さっきの野営地の人達が動き出したみたいだよ」
「さっきルイ姉がホークアイで確認したみたい」
「お、そうかそうか。ここの場所がバレてる可能性は?」
「どうだろうか。その地龍には発信機的なものは着いてなかったけど、向こうのリーダーは獣人だからね。見つかるのも時間の問題じゃないかな。早いうちにここから離れた方がいいかも」
「いんや、ここで迎え撃つ」
「ん? 何で?」
「ここで逃げたところでずっと追われつづけることになるだろ。だったら設備も整ってるここで迎え撃って、力の差を見せ付ける。そしてこう言ってやるのさ。この地龍を返してほしくば、吾輩の傘下に降れと。そして吾輩がこの地龍の背中に乗っても大丈夫なようにこの地龍に言えと」
「あ、やっぱりラプちゃん、さっきのでちょっとビビってるんだ」
「はぁ!? ビビってませんけど。ただ奴らサーカス団を吾輩の傘下に降らせるのが目的ですけど!」
「はいはい」
ぽんぽんと頭を撫でて来るこよりの手を払いのけ、ラプラスは手を腰に当てて宣言する。
「先程吾輩達は奴らに完封した。リーダーが戻ったと言えど獣人が1人増えただけ。吾輩達に抜かりはない! さあお前達! 我ら秘密結社holoXの力、見せつけてやろうではないか!!」
アーハッハッハ! という勝ちを確信した笑い声が地下施設に響き渡った。