閃光玉による目くらましで部屋中がまばゆい光に包まれる中、遮光サングラスを掛けたポルカに腕を引っ張られ、ねねも一緒に大部屋を出る。入るときは認証番号が必要だったようだが、出るときは自動で開いてくれた。
「ぽ、ポルカさん!? 目が! 目が痛いです!」
「ごめんね! 耳打ちしてもあの白衣のやつに聞かれちゃうから、私の判断で閃光玉を使っちゃった! あ、ここから階段あるから気をつけて!」
閃光玉の光にやられてほとんど目が開けないねねの手を取り、階段を上っていく。
最地下である先程の部屋に行くまでにもいくつかフロアがあったのは確認済み。実はポルカは階段を下りている際にとあるフロアの1つの部屋にアタリをつけていた。
「ちっ、やっぱりどこもロックされてるな。ねねちゃん下がってて。ドアに穴を開ける」
ポルカは内ポケットに手を入れると小型の手榴弾を取り出し、ピンを抜くと扉に向けて転がす。
小型とはいえ容易に鍵の掛かった扉を吹き飛ばす。
「うえ!? 何ですか!? 爆弾!?」
ポルカに覆われるようにして身を屈めていたねねは扉の破壊音に驚きながら顔を出すと、扉に穴どころか扉周辺の壁ごと吹き飛ばされていた。
「……ちょっとずつ視力が回復してきました。ここは?」
「たぶん研究室かな?」
2人で中に入ると、そこは様々な薬品が置かれている研究室のような部屋だった。
「ていうか、さっきの爆弾で地上に繋がる入口を破壊すればよかったんじゃ?」
「いや、入ってきたときに確認したけど、あの入口は厚さ的にポルカが今持ってる爆弾では壊せそうになかった」
「……あといくつ持ってるんですか?」
「同規模の爆弾はあと2。さらに威力を抑えたやつは5」
「……どこに?」
「内緒」
初めて会ったときと同じ黒の燕尾服に身を包んだポルカだが、身体のラインに沿った割とピチッとしたサイズでどう見ていくつも爆弾を隠し持っているようには見えない。
「ポルカ達が外に出るにはレックスの力しかない。この薬品の数を見ても間違いなくレックスや捕らえられてた他の生き物達も何かしらの薬品で眠らされてるんだ」
「じゃあここに目を覚まさせる薬品も?」
「毒を作るときは必ず解毒剤も作るものだからね。何かしらの事故で自分や仲間が影響を受けたときにすぐ解毒できるために」
それと同じで仮に睡眠薬を作成しているのなら、眠気覚ましの薬も作っているはずだ。
「ねねちゃんの視界が戻ってきてるなら向こうもそろそろ回復してくるはずだ。獣人は普通の人間よりも五感が優れてることもあってあの白衣と幹部って呼ばれてた女はもう少しかかる可能性もあるけど、どちらにせよ急いで薬品を見つけよう」
互いに頷くと部屋の中で保管されている薬品を調べていく。
それぞれ試験管に入って保管されているのだが、ありがたいことにその試験管に貼られているラベルには専門用語ではなく、「人肌に触れるだけで着火する薬」や「何故か服だけ溶かす薬」など分かりやすく書かれていた。恐らく他の仲間が間違って勝手に触ったりしないようにするためだろう。
「…………何か色々ありますね。睡眠剤みたいな普通な薬品本当にあるんですかね?」
「いや、あったよ」
「えっ、はや!」
ポルカが棚から1本の試験管を取り出す。
そこには「おやすみなさいの薬」というラベルは貼られていた。
「ホントだ。じゃあその辺りに眠気覚ましも……」
「はーい、そこまで。勝手に人の部屋に入ってなーにしてるのかな?」
いきなり聞こえた声に振り返ると部屋の入口に強く擦りすぎたのか目を真っ赤に腫らした博衣こよりが立っていた。
「あーあー、壁を破壊しちゃって何してくれてんのさー」
「うるさい、くらえ『何故か服だけ溶かす薬』!」
「ちょー! 危なっ!!」
ねねが投げた試験管を間一髪で避けるこより。
そんなこよりを見てねねは碌にラベルの確認をせず手当たり次第に近くにあった試験管を次々とこよりに向けて投げつける。ねねの近くにあった薬品の中に眠気覚ましは無かったので問題ない。もしかしたらかなり危ない系の薬品もあったかもしれないが、なんて書いてあったか全部覚えてないのでまあいいだろう。
「くらえくらえー!」
「ちょ、タンマタンマ! マジで危ない! あっつ!! これ『人肌に触れたら着火する薬』!!」
試験管が割れて飛び散った1滴が手に触れただけでマッチ程度の火が指に燃え上がる。
慌てて反対の手の袖ではたいて消火するが、本当に人肌以外に触れたところからは全く火が上がっていない。ねねがその様子に感心していると、自分の指に着いた火を消したこよりがキッと睨むと白衣の下から1本の試験管を取り出す。
「危ないって言ってるでしょーが! 大人しく──」
「ねねちゃん、伏せて!」
こよりの台詞を掻き消すように呼びかけるポルカの声に従ってねねはその場に屈む。
するとその頭上を炎の柱が通り過ぎ、こよりに直撃する。
「「あっつ!!!」」
「あ、ごめん。ねねちゃんにも火の粉が飛んじゃったね」
何とか顔に直撃する前に両手で炎を防いだこよりだったが、今度は白衣に火が燃え移り、慌てて白衣を脱ぎ捨てる。
「尾丸さん、炎の魔法が使えたんですか?」
「いや、使えないよ。これはただのパフォーマンス。魔法なんて大層なもんじゃないさ」
そう言って着火マン片手に軽く火を吹いて見せるポルカ。
間近で火を吹くパフォーマンスを初めて見たねねはその手際の良さ、格好良さに目を輝かせる。
「すごいすごい! それねねでもできますか!?」
「練習すれば誰でもできるよー」
バンバンと脱ぎ捨てた白衣を踏み付けて消火していたこよりを無視して盛り上がる2人。白衣の裏地に隠し持っていた薬品が今のですべてダメになってしまったこよりは肩を怒りに震わせていた。
「……もう怒った。死んでから後悔してももう遅いから」
そう言ってスカートの中からスイッチを取り出すと躊躇なくスイッチを押す。
しかし数秒待っても特に何かが変化することはなかった。
「……あれ、何で……!」
カチカチと何度もスイッチを押すが何の反応もない様子に動揺を隠しきれないこより。
「あー、ごめんごめん。もしかして、これかな?」
ハッと視線をポルカに向けるとポルカの手には何かの受信機のような四角い箱が握られていた。
「どこでそれを……!」
「いやー、手癖が悪くてごめんね。役職柄こういう受信機みたいなのはよく見るからさ。目的の物を探してる間にたまたま見つけて壊しといた」
こよりの動揺を見るにこよりのスイッチから発信された電波をポルカの持つあの受信機が受信すると何かしらねね達に危険なことが起きていたのだろう。だが、ポルカはこの部屋に入って数分の間に目的の薬品を探しながら受信機の解除まで行っていたらしい。
(いや、それだけじゃない。そもそもあの最地下からこの部屋までも迷うことなく一発でたどり着いたことにしてもそうだ。一度も来たことがない場所でそんな芸当本当にできるのか?)
ポルカと同じように最地下であるあの部屋までずっとこよりの後ろをついていただけのはずだ。途中でどこか寄り道をしたわけでもない。それなのにあの部屋に着くまでに各フロアを一瞬で観察・記憶してありとあらゆる可能性に備えていたということだ。
洞察力、観察力、記憶力、素早さ、器用さ、思考力、情報処理能力、判断力、どれを取っても超人的な能力を見せるポルカ。それに加えて彼女のフェネックの聴力が合わされば、本気になった彼女を戦闘不能にできる者など限られてくるだろう。
レックスや座員を心配する彼女も見てきたねねの中でポルカの評価が180度変わった。
「目的の物も既に見つけた。最初はあんたに吐かせようと思ったけど、その必要もなかったよ」
「なっ……!」
プラプラと1本の試験管を見せ付けるように取り出すポルカ。
既に見つけていたのなら敵にわざわざ教えてやる必要もないのにと思ったねねだったが、ポルカはそんなねねやこよりの何枚も上手を行っていた。
「目は口ほどに物を言う。動揺中に目の前で見せつけられたら、そりゃ確認しちゃうよね」
「おまえ……そこまで予想して……」
ポルカは手に持っていた試験管をねねに渡すと、壁際の一番下にある棚の前にじゃがみ込む。
「お、あったあった。『おはようの薬』、場所を教えてくれてありがとうね」
「え……?」
棚からねね達の目的の薬品を取り出したポルカに今度はねねが驚きの声をあげ、ポルカから渡された試験管に視線を落とす。
『肩凝りが治る薬』
「これって……」
わざわざ別の試験管を見せ付けるようにして目的の物は既に見つけたと言うことで、無意識に目的の薬品が置いてある棚を確認するようこよりの視線を誘導したのだろう。
(この人は……)
やはり怖いな……と180度変化したポルカへの評価がさらに90度ほど変わるねねだった。