「おい幹部、奴らはいたか?」
こよりとルイにねね達を探しに行かせていたラプラスは、最地下の部屋に戻ってきたルイに状況確認を取る。
「いなかった。だからこよりの方に行ったんじゃないかな。彼女達の目的が地龍の奪還なら、眠ってる地龍を起こすのが手っ取り早い。なら、こよりのラボに向かった可能性が高いと思う」
こよりと手分けをして探していたルイだったが、担当したフロアにはいなかったため戻ってきたのだろう。
「いやー、向こうにあんな奴がいるとは思わなかった。元々いた奴か?」
「いや、私も初見。今一応上の様子もモニターしてきたけど、いろは達と遊んでる奴らの中にも知らない顔が2人いた。新入りか助っ人か知らないけどね」
椅子の背もたれに持たれかかりながら目を擦るラプラス。
先程のポルカの閃光玉による目くらましでやられた視力も徐々に回復しつつあった。
「そもそも、あの人間……光を纏ってるんだっけ? 何で私のホークアイでも確認できないのにラプには見えるの?」
「知らんがな。そんなの吾輩が聞きたい。でもあの力は普通じゃない。吾輩がこの星に来てから一度も感じたことがない力だ」
「どんな力なの?」
「知らん」
「なんじゃそりゃ。それなのに欲しいの?」
「ああ欲しい。知らない力は全部欲しい。この星を征服しましたーって言ってるのにその星に自分の知らない力が存在していたら征服したうちにはならんだろ」
「まあ……一理あるか?」
次の標的であるここ惑星ホロアースの世界征服に向けて、この世界で自分の知らない力が存在していることに納得がいかないラプラス。擦って涙目になりながらも先程の金髪の少女のことが頭から離れない様子だ。
「あの地龍はどうするの?」
「どうでもよくなった。あの人間が仲間になるなら返してやってもいい」
「……珍しいね。ラプならどちらも頂くって言うかと思った」
「一体何なんだあの力は……魔力は感じられないから魔法ではないことは確かだし……精霊か? いや、あいつ以外の別の気配は特段無かった。となると……」
「聞いてないし……」
このラプラス、久しぶりに見たとルイは記憶を掘り起こす。
彼女がここまで夢中になったのは実に何年ぶりだろうか。それこそ、初めて世界征服をした時まで遡るのではないだろうか。
「お取り込み中悪いね。失礼するよ」
部屋の入口から聞こえた声にルイが振り返る。
そこにはいなくなっていた3人が立っていたのだが、状況はどう見ても良好ではなかった。
「こよ……油断した?」
「この獣人さん、タイマンだと強いかも」
入口には白衣を脱ぎノースリーブ状態になって両手を頭の高さまで挙げたこよりと、その後ろで30センチほどの長さのステッキをこよりの背中に突きつけているポルカ、そして数本の試験管を持ったねねがいた。
「お、博士ご苦労。その人間をちゃんと連れて来てくれたか」
「ラプちゃーん、ご苦労の前に助けてくれると嬉しいな~」
「知らん。博士の生死はお前らで決めろ」
「ひっど~い。…………え、ホントに助けてくれないの?」
爪を弄りながら適当に答えるラプラスに冷や汗を流すこより。
そんな様子のこよりとラプラスを見て仕方ないなぁとルイがポリポリと頭を掻くと、次の瞬間にはポルカの目の前からこよりが姿を消していた。
「……!? なに!?」
「よっと……あれ? こよ重くなった?」
「なってない! なってないよ!?」
「尾丸さん! 上です!」
2人して天井の高い部屋を見上げると、大きな翼を広げてこよりを抱えながら上空を舞うルイ。今の一瞬でポルカとねねの目の前からこよりを攫ったようだ。
「くっ……こいつら本当に何者なんだ? 何でこんな奴らが今まで何も聞かずに野放しになってる?」
「自己紹介ならしたろ。我等は秘密結社holoX。秘密結社が表だって名を知られているわけないだろ。我等の名が知れ渡る時は、世界を征服した時だ」
「世界征服なら勝手にやっててくれない? それにレックスは関係ないでしょ?」
「世界を征服するんだぞ? この世界のすべてが吾輩に屈服するんだ。貴様のような反抗的な奴がいるのも駄目なんだよ」
「そんな目茶苦茶な……」
呆れたように溜め息をつくポルカだが、ラプラスは冗談を言っているつもりはない。
少なくとも、この星に来る前に征服してきた星々では、彼女が世界のトップに君臨していた。
「だからこそ……貴様も手に入れるんだよ。吾輩がな」
数瞬前まで最奥の椅子に座っていたラプラスが、ねねの目の前に現れる。
目の前に現れた見間違えるはずもない大きな2本の角に動揺し、手に持っていた試験管を落としてしまうねね。しかし、それらが床に届くことはなく、振り払ったラプラスの腕によって壁にたたき付けられる。
後ろの方からああ~こよりの薬品が~という声が聞こえてくるが、そんな声に構っていられる暇はなく、長めの袖に隠れていたラプラスの右手に禍々しい色をした魔力が渦巻いているのに気付く。
「ねねちゃん!」
あの魔力はまずいと判断したポルカはステッキから小刀を抜き、間髪入れずにラプラスへ向けて振り下ろそうとするが、その寸前で手首を捕まれ止められてしまう。
「っ! 離っ……! うわっ!!」
一瞬でポルカの背後に移動したルイがポルカの手首を掴むとそのまま翼を羽ばたかせ上空へ飛び立ち、勢いそのままにねねとラプラスがいる部屋の入口から一番遠い最奥の壁に投げつける。
「がはっ!!」
「悪いけど、ちょっと芸達者なだけでうちらをどうにかしようっていうのが間違いだよ。そんな物で対応できるのはそれこそうちではこよと沙花叉くらいじゃない?」
「あれ? もしかして今こよりdisられた? ていうかクロたんは掃除屋だから戦闘要員だけど、こよりは別に戦闘要員じゃないからね!?」
「尾丸さん!?」
「おい、この状況で他人の心配か? まあいい、勝手に心配してろ。その間に貴様の力、調べさせてもらうぞ」
ハッと己の懐に視線を戻したところでもう遅い。
ラプラスの謎の魔力を纏った右手がねねの鳩尾にねじ込まれる。
「がっ! あ、がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」
鳩尾に入った重く鈍い衝撃から一瞬吐き気を催すが、それをすぐに追い抜く全身を走る激痛。
まるで電撃を食らったかのような衝撃の後、一気に全身の力が抜けていき、やがて重りをつけられた状態で海に沈められたような倦怠感に襲われる。
「これは……なるほど面白い。おい博士、やっぱりこいつは連れていく。こいつの身体は調べがいがあるぞ!」
「ぐっ……」
強い。これだけの力を持っていながら表だって活動していないという所も、彼女達の存在が知れ渡り対策されるのを防ぐためなのだろう。そういうところでも抜かりがないのがまた彼女達の強さを物語っている。
幹部と呼ばれているだけあり、ルイはこよりを弄ぶようにして完封したポルカを赤子の手を捻るかのようにねじ伏せて見せた。
そしてそれらを統べる総帥と呼ばれる小さな少女。
5秒にも満たない短い時間で彼女の強さの一片を全身で感じ、覚悟せざるを得なかった。
薄れゆく意識の中、何もできない歯痒さの先に──小さな光を見つけた。