「……っ」
肩で息をしながら目の前の2人に対峙するラミィ。
風真いろはの強力な連続攻撃により防戦一方を強いられているこの状況を打破したいのだが、微かな隙を突こうとすると黒いフードを被った沙花叉クロヱが牙を剥いて邪魔をしてくる。
シンプルが故に厄介なコンビネーションだ。
ラミィはあたりに横たわる座員達に視線を向ける。
速度の早い相手には広範囲攻撃が有効なのだが、先にやられて気絶させられてしまった座員達まで巻き込んでしまうためそれもできず二の足を踏む状態になってしまっている。
1人逃げ出す様な子ではないと分かっているため、ねねは恐らくポルカについて地下へと行ってしまったのだろう。
そちらも気になって仕方がないのだが、人の心配をしながら戦える相手でもない。
(ししろんの狙撃を悉く弾いているのが信じられない。普通視認なんてできるはずないのに……)
気配を悟られないように木の上を移動しながら死角に入るとスナイパーで狙撃する。
獣人ならではの動きと正確無比な狙撃で狙った獲物は一撃で仕留める。それが獅白ぼたんという少女なのだが──
チュインッ! という何度目か分からない甲高い音が森に響く。
銃弾と刀がぶつかり合った音だ。
刀を振り抜いた今がチャンスとラミィは鋭い氷柱を何本も出現させ、いろはに向けて一斉に発射する。
しかしいろはは器用にその1本1本を一切の無駄がない動きで避けていき、それでもどうしても避けることのできない氷柱は刀で叩き斬っていく。
氷柱の攻撃が止めば次はこちらの番だとばかりに、一瞬で攻勢へと転じる。
懐に幾度となく入り込まれるが、毎回ギリギリのところで氷壁を展開してその刀を防ぐ。
せめてもの救いはいろはがラミィの防御用の氷壁を破壊する術を持っていないことだろう。もし彼女の刀でこの氷の壁を突破できていたなら、ラミィはとっくに戦闘不能になっていた。
「あはは! いい反応速度でござるな!」
(このままじゃジリ貧だ。何か打開策がないと……)
魔力を一切使わずに己の身一つで動いているいろはと攻防で魔法を使い続けているラミィ。それにぼたんも弾が切れれば大きなあのライフルはただの鉄屑になってしまう。体力的にもまだまだ余裕がありそうないろはだ。持久戦になれば先に倒れるのはラミィ達だろう。そもそも相手を殺す気はないと言っていたいろは達からすると、そもそも時間稼ぎが目的なのだろう。それなら持久戦はむしろ待ってましたのはずだ。
もう一か八か、倒れ伏している座員達に被害が被るのを覚悟で範囲攻撃を仕掛けるか。
ラミィがそう覚悟を決めた時、ポルカ達が入って行った地下への入口からまばゆい光が溢れ出し、ラミィ達を包み込んだ。
× × ×
「……ねね、ちゃん?」
壁に投げ付けられて意識を失っていたポルカが目を覚ました時、そこには目を覆うほど眩しく光を放つねねが視界に入った。
「ラプ!」
「下がれ! 手を出すな!」
今にも何かが暴発しそうなねねの至近距離にいたラプラスを避難させようとルイが翼を広げるが、それを手で制すラプラス。何かを期待するように瞳を輝かせながらねねの様子を見守る。
(さあ! 何が出る!)
己を抱くようにして身体を丸めていたねねがいきなり顔を上げると、目の前にあったラプラスの顔を掴み、そのまま地面に叩き付ける。
「ラプラス!!」
あまりにも一瞬の出来事に誰も反応ができない中、無抵抗に地面に叩き付けられたラプラスを見てルイが最高速度でねねに肉薄する。
ラプラスの上から退かすように最高速度のままねねを蹴飛ばして壁に叩き付けると同時に、大きな翼から鋭利な羽を飛ばしてねねを壁に張り付けにする。
腕や足を貫通して壁に張り付けられたねねは前髪を垂らして力無くうなだれる。
「ラプラス! 大丈夫!?」
「……っつー、いってぇー。つかマジで見えなかったんだが。何だ今の動き」
「私も全く反応できなかった。気付いたらラプが叩き付けられてたよ」
「それで、あいつは?」
「危ないから張り付けにしといた」
後ろ指で後方の壁を指差すルイ。
だが、その先に視線を向けるラプラスは疑問に首を傾げる。
「……どこ?」
「……っ!?」
慌てて後ろを振り向くが、そこには飛び散った血痕しか残っておらず、肝心のねねの姿が消えていた。
「どこに……?」
「きゃあっ!」
「「……!!」」
部屋の入口近くにいる2人はその悲鳴に部屋の最奥へ視線を向ける。
すると奥でこよりが地面に倒れており、さらにその奥の壁下で倒れているポルカを起こすねねの姿があった。
「大丈夫ですか? 尾丸さん」
「ねねちゃん? いや、ポルカは平気だけど……それより君の方が大丈夫なの?」
両腕両足にはルイから受けた羽が貫通した跡が痛々しく残っており、そこから血が流れ続けている。
だがそんな傷お構いなしにポルカに肩を貸して起こすと、ねねは近くで鎖に繋がれて眠っているレックスを見る。
「尾丸さん、薬は?」
「ああ……ちゃんと持ってるよ」
そう言って掌を上に向けた状態で手を前に突き出すと、その上にいきなり1本の試験管が出現した。
「……! これは……」
「収納魔法。ポルカが唯一使える魔法。でも、生きてく上でも、ステージの上でもめちゃ便利」
ようやく合点がいった。
いつも何も持っていないように見えるのにいきなり物を出したり消したりしていたが、毎回収納魔法を使用していたらしい。
「ごめんねねちゃん……右足が折れちゃってるみたい。レックスの横まで連れてってくれる?」
「もちろん。お安いご用です」
ねねはポルカに肩を貸しながらレックスの側へと移動する。
「ルイ!」
「させない!」
しかし、彼女達が何をしようとしているのか一目瞭然なため、それを易々と見逃すわけもない。
再び翼を広げ、残像を残しながらポルカ達に肉薄するルイ。
そしてポルカが右手に持つ試験管を奪おうとその右手目掛けて飛びつこうとした時、ポルカの口角が上がるのを確かに見た。
ポルカは試験管のコルクを親指で器用に抜くと、中の薬品を飛び掛かろうとするルイ目掛けてぶちまけた。
(これは……!? こよの……!?)
「Burning」
ポルカの燃えろの掛け声とともに薬品がルイの全身にかかった瞬間、炎が燃え上がる。
「ぐああっ!!」
「敵さんの目の前で簡単に出すわけないでしょうに。お馬鹿さんはそのまま燃えてな」
着火した炎が肌から背中の翼へ燃え移り、全身が炎に包まれるルイ。
それを尻目にねねとポルカはレックスの元へと移動する。
「レックス。さあ、そろそろ起きる時間だ。一緒に地上に戻ろう」
「させるか!」
「ねね! 伏せて!」
部屋の入口の方から2つの声が聞こえた。
1つはポルカ達を邪魔しようとする声。そしてもう1つは、何とも頼りになりそうな声だ。
ねね達とラプラスの間に数百の氷柱が次々と上から降り注がれる。
思わず足を止めたラプラスは後ろを振り向くと、そこには息を切らしたラミィがこちらに向けて手を翳していた。
「ちっ……おいクロヱ。幹部を消火してやれ」
「うおっ! ルイ姉が焼き鳥になっちゃう!」
ラミィよりの前にこの部屋に到着していたクロヱといろははルイとこよりを救出し、ラプラスの元へ戻る。
「おい、ラプラス・ダークネス」
「何だよ獣人」
「お前らが強いのはわかった。お前が何でも欲しがる我が儘な奴だってのも。だが、覚えておけ。欲しいと言えば何でも簡単に手に入る程、この世は甘くねーぞ」
ねねに肩を借りながらもビシッと指を指して言い放つポルカ。
彼女も欲しいものを手に入れるために必死に努力している少女の1人だ。望めば何でも自分の物になると勘違いしている奴にガツンと言ってやりたかったのだろう。
「……誰に向かって説教垂れてんだ? 吾輩は……世界の王、ラプラス・ダークネスだぞ!!」
「そうかい! それはさぞかし凄いんだろうな!」
ラプラスの怒りの圧力に臆することなく鼻で笑うポルカ。
そんなポルカの態度に青筋を立てるラプラスだが、そんなラプラスの肩に手を乗せてルイが制止する。
「……ラプ、ここは撤退しよう。こんな狭いところでラプが本気出したら皆揃って生き埋めになる。それに、どうせアレに暴れられてこの秘密基地は潰されそうだ」
ポルカ達の背後からビリビリとした迫力を感じる。あのステージ上で感じた圧迫感だ。
「ガアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアア!!!!!」
ポルカが飲ませた薬のおかげで目を覚ましたレックスは自分の足に繋がれていた鎖を簡単に引きちぎると、ポルカを加えて自分の背中に放り投げる。
「よっと。んじゃ、レックス。地上まで一気に駆け抜けるぞ!」
「ガアアアアアァァァァァァアア!!!!」
今にでも炎を吐き出すのではと思うほどの咆哮をあげるレックス。
ポルカに引き上げられ、ねねもレックスの背中へ乗ると、レックスは秘密結社holoXの5人へ向かって駆け出した。