記憶は無い。
気が付いたらここにいた。
名前は分かる。
彼女の名前は桃鈴ねね。
でもそれだけ。それ以外の記憶がない。
「大丈夫……じゃないですよね。 生きてますか?」
「…………?」
「ありゃりゃ、これは駄目かもしれないですね」
ねねの目の前に顔を出したのは非常に顔立ちの整った少女。
綺麗な青髪。金色の瞳。よく分からないハート型のアホ毛。白と青を基調とした彼女の衣装は月明かりに照らされてとても映えていた。
「ちょっと待っててください。今貴女が助かるかどうか星の廻りで見てみますから」
「てい」
「いったーい!! ししろん何すんの!?」
「いやいやラミちゃん、多分星の廻りを見てる間にこの子死ぬよ?」
今度は白髪の長身クールビューティが少女の背後から突然現れた。頭から生えたネコ科の獣耳をピクピク動かし、何故か肩には長身のスナイパーライフルを担いでいる。アレで頭を小突かれたのだとしたら、相当痛かっただろう。
「……だれ?」
ねねは閉じそうになる瞼を必死にこらえて、何とか掠れた声を絞り出す。
「あ、ラミィは雪花ラミィといいます」
「獅白ぼたん」
「……これはご丁寧に。ねねは、桃鈴、ねねです」
「うん、どう見ても自己紹介してる場合じゃないね。このままだとマジで死ぬよ?」
ぼたんと名乗る少女が呆れ気味にねねの横にしゃがみ込み、ねねの前髪を優しく掻きあげる。
先程から死ぬ死ぬ言っているのは何のことだろうか。
もしかして、この異様に眠たい状態と何か関係があるのだろうか。
「どうやら自分の状態は分かってないみたいだね」
「見てもらった方が早いかな。ほいー」
「え、いや、ラミちゃん? そんないきなり見せたら――」
どんな魔法を使ったのか、浮き出ている木の根を枕に仰向けに寝ているねねの視界――つまりは空中に突如姿見サイズの氷が出現する。
一切の濁りがなく、鏡と見間違えるほど綺麗な氷。
そしてそこには、反射して写る腹部からおびただしい量の出血をしたねねの姿があった。
「…………―――」
「……流石にショック死するんでね?」
「……これ、ラミィのせい?」
「少なくとも、トドメはラミちゃんってことになるんじゃない?」
「…………」
「…………」
一瞬訪れる沈黙。
「隠蔽! 隠蔽工作を!」
「落ち着いてラミちゃん! よく見たらまだ息はあるっぽいぞ!」
「マジか! じゃあ早く助けて今のをチャラにしてもらわないと!」
慌てふためく2人の声を遠くで聞きながら、ねねの意識はゆっくりと沈んでいった。