「おーい、大丈夫ですかー?」
地上にて地に臥す座員達を順に起こしていくぼたん。
突然目を覆うほどの光が地面から溢れ出したのが数分前の話。その光を確認するや否やいろはとクロヱがぼたん達に背を向け、合言葉で地下へ続く階段を出現させると2人とも地下へと消えていってしまった。
突然の出来事に呆気に取られていたぼたんとラミィだったが、先に正気に戻ったラミィが2人の後を追って階段が元の形に戻っていく前にギリギリで地下に潜ってしまい、ぼたんは1人地上に残されてしまったのだ。
仕方ないので下のことはラミィに任せ、ぼたんは気を失っていた座員達を起こすことにした。ラミィ達が地上に戻ってきた時に皆ですぐに動けるようにしておいた方がいいだろう。
「獅白さん、ご無事ですか?」
「あなたは確か尾丸さんを迎えに来た……」
突然背後から声を掛けてきたのは街にレックスが攫われたことを伝えに来た女座員だった。その後ろには数人の座員もいる。どうやら少し離れたところに倒れていた座員を起こしていたようだ。
「ちょうどよかった。皆を起こしてください。いつでも動けるようにしておきましょう」
「動けるように?」
「はい。きっと次にそこの階段が開いたときはきっとここから去ることになりますよ。それまでに起きてない人はそのまま置いていかれることになっちゃうかも」
ぼたんの言葉に頷くと今起きている座員達で未だ気を失っている座員達を起こし始める。
それを尻目にぼたんはスナイパーに弾を込め、これからやって来るであろう彼女達を守るための準備を始める。
「…………」
あの感覚は、この銃を手にしてから過去にたった一度だけ経験したことがある。
忘れたくても忘れられない感覚。
(まさか、足を洗ってからまたこの感覚に出会うだなんて……やっぱ世界は広いんだな)
閉ざされた世界で真っ赤に染まった過去を頭を振ることで振り払う。
(今は集中だ。あのお侍さんに一発入れないと悔しくて夜しか眠れなくなっちゃうよ)
死角からの狙撃を刀1本で完璧に防ぎきった風真いろは。
彼女の身体能力は間違いなく超人離れしている。恐らく彼女には銃弾は見えていないはずだ。そもそもあの距離のスナイパーの弾丸を視認などできるはずもない。
風真いろはという少女は恐らく、気配を察知する能力、特に危機回避能力、危険察知能力などが群を抜いて優れているのだろう。それは普通の街で暮らす人間には到底理解の及ばない力だ。それこそ野生に生きる被捕食者が身につける能力だ。それに加えてそれらの察知能力に付いて行けるだけの反射神経、動体視力、判断能力、そして身体能力がずば抜けている。
獣人やエルフなどの種族は除く純粋な人間の中では恐らく、彼女の横に並べる者はいないのではないだろうか。それほどの実力が彼女にはあった。
(なんてったって、私の銃弾をあそこまで完璧に防げる奴なんて、たった1人しか知らなかったんだから)
過去に対峙した1人の少女の顔が浮かぶ。
初めて死を覚悟した相手。治安の悪い国で親に捨てられて1人になった時ですら、死というものを感じなかったというのに。そんな獅白ぼたんを死の恐怖へ導いた唯一の少女。
(…………だから、何ですぐそっちに繋げちゃうかな私は。今はこの後のことを考えないと……)
もう一度気合いを入れ直すために頭を振り、スコープで地下へ続く階段があるあたりの地面を覗く。
草陰に寝転がりながらその時を待つ。既に座員達は全員意識を戻し、ぼたん背後に待機している。
スコープを覗いたまま待つこと3分。
スコープから覗く景色が微かに揺れ出した。
「皆備えて。揺れが近づいてきた」
寝転がりスコープを覗くぼたんが初めに。そして徐々に座員達もその揺れに気付き始める。
「……来る」
そっと引き金に指を掛けると、爆発音と共に地面から見覚えのある炎の柱が突き出てきた。
「あれは、レックスのブレス!!」
誰かがそう声を上げると、炎の柱によって開けられた穴から、地龍レックスに乗ったポルカとねね、そしてねねの腕に捕まったラミィが地下から飛び出してきた。
「お前ら! 無事だったか!」
ポルカとレックスのド派手な登場に座員達が一斉に座長ぉ!! と声を上げながら草陰から飛び出す。
「待てお前ら! まずはここから離れる! 目茶苦茶暴れてきたから多分もうすぐここは崩れる!」
ポルカの言葉に地下へ続く階段に視線を送ると、そこから次々と珍しい生物が飛び出してきた。holoXが捕獲監禁していた希少生物達だろう。脱出の際にちゃんと彼らの鎖も破壊して来たようだ。
ポルカの言う通り足元では何かが次々と崩れて行くような揺れと轟音がしており、その音が徐々に近付いてきているように感じる。
「下手するとここは陥没しかねない! 急いで離れるぞ!」
レックスに跨がるポルカとねねを先頭に次々とその場から駆け足で離脱していく。
「あれ、ししろん!」
「大丈夫。しんがりは任せて。ちゃんと付いてくから」
地下への入口をスコープで覗きながらラミィに返事をするぼたん。まだ、ぼたんの標的が出てきていないのだ。
しかし、その期待も虚しく。
ギリギリまで待機して粘ったものの、地面に亀裂が入り崩落が始まったところでタイムアップ。
崩落の最後まで彼女ら5人は姿は地上に姿を現すことはなかった。
× × ×
「「「かんぱーい!!」」」
その日の晩、無事レックスを奪還した尾丸ポルカ率いるサーカス団は野営地で打ち上げパーティーを開いていた。
「ほらお前ら、食え食え飲め飲めー!! 今日は私の奢りだぁ!」
「よっ! 我等が座長世界一!!」
キャンプファイヤーを囲み、各々酒を飲み、肉をかじり、芸を披露する座員達。色々あったのに元気だなーとねね達は目の前の皿に大量に盛られた肉を摘んでいく。
「ねね、その怪我大丈夫なの? 街の病院に行った方がいいんじゃ……」
ラミィの横では両手両足に包帯をぐるぐる巻きに巻いた痛々しい姿のねねが美味しそうにお肉をかじっている。
「明日行くからダイジョブダイジョブ。それにねねだけ参加できないなんてやだもん」
「それなら尾丸さんに言って打ち上げを明日にしてもらえば」
「そんな水を差すようなことできないよ。え、もしかしてラミィって意外と空気読めないタイプ?」
「こっちは心配して言ってるんですけど!?」
もう知らない! と目の前の肉を貪り始めるラミィ。
その横ではもきゅもきゅとマイペースに皿を空にしていくぼたんの姿があった。
「ししろん。結局最後まであの人達は出てこなかったんだよね?」
「うん。少なくともあの地盤が崩落するまでは誰も出てこなかった」
「もしかして生き埋め?」
「いや、3人の話を聞くに相当広い地下施設だったんでしょ。それなら出入口があそこしかないなんてことはないと思う」
恐らく避難経路のような別の出入口が存在していて、彼女達はそこから脱出したのだろう。
「何はともあれ、皆無事でよかったよ。下での様子は分からないけど、もしあのお侍さんが本気で殺そうとしてきてたら、地上組は全滅しててもおかしくなかった」
「最初にねねに斬りかかってきた人?」
「うん。彼女は強い。顔を覚えられて恨みを買った以上、今後警戒しておかないと」
「何かねね達、色んなところでどんどん敵を増やしてない?」
「それな」
かっかっかと面白おかしく笑うぼたんに、面白とこあったか? と小さく溜め息をつくねね。
折角だしお肉を美味しくいただこうと皿の上のお肉に手を伸ばすと、先程まで座員達の中心にいたはずがいつの間にか野営地から少し離れたところに移動していたポルカと目が合った。
ポルカは小さく笑みを浮かべると、骨付きの肉を持って森の奥へと消えて行った。
「……ねね、ちょっとおしっこ!」
「食事中なんだからもう少し言い方考えなー!」
ラミィのお小言を背中で聞きながら、ねねはポルカの後を追った。