ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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 野営地から離れ、少し森を進んだところに月明かりに照らされた高さ3メートル程の岩があった。

 

 ねねは骨付き肉を片手に、その岩に座り夜空を見上げているポルカを眺めていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 眺めていた。

 

「……ねねちゃん、早く来て。このポーズちょっと恥ずいんだから」

 

「あ、すみません。このまま放置したらどんな反応をするんだろうって気になっちゃって」

 

「変なところが気になるんだね。相場は物思いにふけるポルカのことが気になると思うんだけど」

 

「ねね記憶喪失なので相場とか分からなくて」

 

「嘘だ。一般常識というか、空気読み的なことに記憶喪失とか関係ない」

 

 よいしょよいしょと岩によじ登ると、ねねはポルカの横に座る。

 2人してもぐもぐとお肉を食べながら星空を見上げる。

 

「そうだ尾丸さん、足は大丈夫ですか?」

 

「やっぱ右足折れてた。あと、肋骨にヒビも」

 

「重症じゃないですか……」

 

 先程までキャンプファイヤーの前ではしゃいでいた人の怪我の具合ではない。病院のベッドで寝ててもおかしくない重症さだ。

 

「ポルカよりねねちゃんだよ。両腕両足にあの羽が貫通してたでしょ」

 

 あの痛々しい出血を思い出しただけでも自分の怪我でもないのに痛みが襲ってくるような感覚になる。

 だが、等の本人は何とも微妙な表情をしていた。

 

「え、何? それ何の感情?」

 

「……あの場にいた尾丸さんにだけ見せますけど……」

 

 そう言ってねねは肉を加えたまま、右腕に巻かれた包帯をしゅるしゅると外していく。

 何故食事中にわざわざあのグロテスクな状態の腕を見ないといけないのだと軽く怪訝な表情を浮かべるポルカだが、ねねの何とも言えない表情にやめろとは言えなかった。

 

「うぅ~…………って、え……」

 

 最後まで包帯を外し、ねねの綺麗な腕があらわになる。

 ──そう、傷1つない、綺麗な腕が。

 

「……どういうこと?」

 

 目の前の光景に理解が追いつかない。それもそのはず。ねねの両腕両足に包帯を巻いたのは他の誰でもないポルカなのだ。

 

「分からないんです。ただ、打ち上げを始める頃にはもう……」

 

 普通の人間は腕や足に穴が開いたらちょっとやそっとでは塞がらない。ましてや数時間程度で跡もなく完璧に元通りになるなどまずありえない。

 

「治癒魔法を誰かにかけてもらったりは?」

 

「戻ってきてからは街に行ってませんし、座員さん達もラミィも誰も治癒魔法は使えませんよ」

 

 座員さんのことは尾丸さんの方がわかってるでしょ、と自分の右腕を眺めながら答える。

 ポルカは座員達に無理矢理街の病院に連れていかれたため、その間に誰かに治癒魔法をかけてもらったんだろうと踏んだのだが、確かに座員の中に治癒魔法を使える者はいない。ラミィが使えるのなら、流石にポルカにも使ってくれていたはずだ。

 

 ──と、なると……考えうる可能性は限られてくる。

 

「……あの不思議な力が関係してる?」

 

「分かりません。でも以前ねね、生死に関わるレベルの大怪我を負ったことがあるんですが、その時は治りも普通の人間と一緒でしたよ」

 

 ラミィとぼたんと出会ったあの日。

 ねねは致命傷を負って倒れていたのだ。それを助けたのは間違いなく医者の治療であって、今回ねねの体に起こった不思議な現象ではない。

 

「もう一方の腕や両足も?」

 

「はい。それ以外のかすり傷なんかも綺麗さっぱり」

 

 言っている本人でさえ不思議そうに穴が開いていた場所を星空に翳すように眺めるが、やはりそこに傷痕はない。

 

「今はあの力は使えるの?」

 

 ポルカの問いにねねは小さく首を横に振る。

 感覚は覚えているし、あの光を纏ったときのパワーも間違いなく覚えている。

 だが、その感覚を頼りにしても、今は全くあの力は鳴りを潜めていた。

 

「ま、あのイリュージョンショーの時の光の正体が分かっただけでもポルカは満足だけどね。やっぱりねねちゃんから発せられた光だったんだ」

 

 箱などの不具合でなくてよかったーと安心したように伸びをするポルカ。

 

「まぁ、ねね自身も分かってないことを話しても無意味ですし、この話はここまでにしましょう。それより、尾丸さんはこんな岩の上で格好つけて何をしてたんですか?」

 

「き、君はちょくちょく……はぁ、まあいいや」

 

 少々強引な話題変換に何かを諦めたように溜め息をつくと、綺麗に食べ終えた肉の骨を月明かりに翳しながらポルカは口を開く。

 横で真似をしようとするねねだったが、流石にシリアスな空気を察知してそこは何とか踏み止まった。

 

「レックスいるでしょ? あの子はね、元々私の父親の相棒だったんだ」

 

 全員で命を賭けて救った地龍。基本的には人から怖がられる龍種だが、ポルカはもちろんのこと、座員達からも愛されているのが今回の一件で分かった。

 

「実は私、今家出の最中でさ。父親のサーカス団との方向性の違いで、喧嘩別れみたいな家出の仕方をしてきちゃったんだ」

 

 何でもポルカの父親は超有名な王宮ご用達のサーカス団の団長をしているとのこと。ただ、上流階級に向けたサーカスしかしなくなってしまった父親と、大衆の誰でも笑顔にしたいポルカで意見が対立し、ポルカは破門をくらってしまったのだとか。

 

「多くの座員を抱えるということは、そいつら全員を食わせていかなくちゃいけない。群れのトップを背負うというのはそういうことで、上級階級をターゲット層にすることは確かに間違っちゃいないことだと思う。でもそれは決して、そうではない者達を蔑ろにしていいという訳じゃない」

 

 初対面のねね達に無料でイリュージョンショーの招待券を渡してくれたポルカの姿を思い出す。

 

「私は私のやり方でいずれ絶対にあの父親を超えて見せる。貴族も王族も、平民も奴隷も、エルフも獣人も、誰でも平等に笑顔になれる。そんなショーを私を信じてくれたあいつらと一緒に作り上げてみせる」

 

 必ず叶えてみせる。

 強く誓うポルカの瞳には、紛れも無い信念の炎が燃え上がっていた。

 

 座員達のポルカを慕う様子を見ていてもそれだけで彼女の人となりが分かる。

 元々は父親の相棒だったというレックスがあれだけポルカに懐いているのも、やはりそこに彼女の魅力があるからなのだろう。

 

 きっと彼女は有名になる。そう確信した。

 いつか自分はまだ彼女が名もあまり売れていない頃に、彼女が大失敗を犯したショーで客席から選ばれてステージに立ったことがあると自慢話が出来るほどには。その自慢をするのが待ち遠しく思う。

 

「ポルカさんならなれますよ」

 

「おぉ……初めて名前で読んでくれたね。じゃあその流れでもう1つ──」

 

「……?」

 

 そよ風になびく月明かりに照らされた光り輝くポルカのブロンドの髪につい目線を奪われる。

 綺麗だなぁ。と、のんきにそんな事を考えていたからか──

 

 

 

 

 

「ポルカも、ねねちゃん達と一緒にねねちゃんの記憶を取り戻す旅について行ってもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

「………………………んえっ!?」

 

 一瞬、聞き間違えたと間抜けな声を上げてしまった。

 

 

 

 

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