「ねえねえ、ラミィの里ってここからどのくらいかかるん?」
「ここからだと、あと1週間くらいかな……おまるん」
動きやすいからなのか今日は例の燕尾服ではなく、イリュージョンショーの時に来ていたカラフルな衣装に身を包んだポルカはニコニコとねね達の前を後ろ歩きで歩きながら、先程からこの調子でねね達に質問を繰り返していた。
「ししろんはさ、その狙撃技術はどこで身につけたの?」
「内緒ー」
「内緒かー!」
謎にテンションの高いポルカに3人はそれぞれ顔を見合わせる。
あの日から3日。
ポルカも街医者の治癒魔法で完全回復し、ちょっとした物資調達のために立ち寄ったこの街を出る日がやってきた。
この街に来た時より何故か1人増えた状態で。
ねねはあの日の夜の会話を思い出していた。
× × ×
「………………………んえっ!?」
今この人なんて言った?
ポルカのそよ風になびく金色の髪に気を取られていたら、耳を疑う発言が聞こえてきたのだが。
「ねねちゃん達そろそろこの街出るんでしょ? それに連れてってよ」
「こ、こんな大所帯無理ですって!」
「違う違う、付いてくのはポルカだけだよ」
足を投げ出し楽しそうに笑うポルカ。先程の覚悟を決めた少女の顔とは打って変わって、まるで子供の様な瞳をしていた。
「ちょ、待ってくださいよ。さっきと言ってること違くないですか?」
「え? そうかな?」
「いや、お父さんを超えるサーカス団を作って、誰もが楽しめるショーを見せたいんじゃなかったんですか?」
「もちろん! 見せたいね!」
「じゃあねね達についてきちゃ駄目じゃないですか!」
「いやいやいや、いいかいねね君。よく聞きたまえ。ポルカが君達についていきたい理由はちゃんとあるんだ」
「理由?」
ポルカはうむと頷くと、人差し指を伸ばす。
「まず1つ。今回の騒動、君達3人がいなかったら間違いなくレックスを取り戻すことはできなかった。ポルカの家族を助けてくれて本当に感謝している。だから次はポルカが君達の手助けをしたい」
「は、はあ……」
別に何かお礼を期待して手を貸したわけではない。ラミィの師匠が言っていた通り、自分が自分で決めたことに従っただけだ。あの時のねねに、レックスやポルカ達を見捨てるという選択肢がなかった。ただそれだけだ。
「んでもって、2つめ。どちらかというとこっちが本命」
ピッっと中指を立ててピースの形を作ると、ポルカはニカっと爽やかな笑みを浮かべる。
「これはポルカの持論なんだけど、人を楽しませたい時はまずは自分が楽しまなきゃ駄目なんだよ。絶対に。ねねちゃんもさ、何かを本当に楽しそうにやる人を見るのって楽しいでしょ?」
「ええ、まぁはい」
「逆にどれだけ凄いことをしててもさ、つまらなさそーにそれをやってたら、何かいまいち楽しめないじゃん」
「それは確かに」
誰かを思い浮かべながら話しているのか、苦虫を嚙み潰したような表情で喜怒哀楽を前面に押し出して話す彼女の話し方はやはりどこか人を惹きつける何かがある。ねねにとっては是非ともそれをショーなどに活かしてほしいのだが。
「だからこそ、ポルカはもっともっと楽しいことを経験しないといけないと思う。人を笑顔にさせようって奴が父親を超えるって言って怖い顔してたら駄目でしょ? 君達と一緒にいれば、たくさんの楽しいを見つけられる気がする。その経験はいずれ、ポルカのショーにも繋がると思うんだ」
無邪気な笑顔を向けられ毒気を抜かれてしまうねね。
尾丸ポルカという少女は、誰よりも”楽しい”に貪欲なのだろう。
そんな彼女を羨ましいとさえ思えてしまう。
「……でも、座員の皆はどうするんですか?」
「将来あいつらを養ってく為にも、武者修行に行ってくるっつったら、あいつらなら分かってくれるさ。ポルカが戻ってくるまでの間に野垂れ死ぬような奴はあの中にはいないし、それに皆を纏められる奴もいる。……そうだろ? ハコス」
ポルカの呼びかけるような声に反応するように、背後の草陰から物音がした。
全く気が付いていなかったねねは驚いた表情を見せながら振り向く。それとは対照的にポルカはちらりとも背後を見ることなく自慢の耳だけをピクピク動かしながら空を見上げている。
ポルカからハコスと呼ばれた少女は草陰からおずおずと出てくると、2人が座っている岩の前まで移動する。
「びっくりしたぁ、いつからいたんですか。ていうか、あなたアレですよね、確かレックスが攫われたことを伝えに来た……」
「自己紹介が遅れまして。ハコス・ベールズ、ネズミの獣人で座員やってます」
ぺこりと小さくお辞儀をする小さな女の子。
「これ、私の右腕。通称ハコ太郎」
「座長がそう呼ぶから最近みんなボクの事ハコ太郎って呼んできやがるんですよ」
ねずみ耳を生やした赤髪の少女──ハコス・ベールズは勘弁してくれと肩を竦めながら溜め息を漏らす。
「んで座長、今の話本当ですか?」
「ホント。だからいったんあいつらはお前に任せる」
一瞬だけ互いに真剣な視線を交わす。どれだけの付き合いかは知らないが、それだけのアイコンタクトで彼女達には十分だったのだろう。
ハコスはねねに向き直ると軽く頭を下げる。
「桃鈴さん。座長は適当な人ですが、意外とやるときはやる奴です。是非こき使ってやってください」
「いやいや、対等に付いてくつもりなんだけどね?」
「荷物持ちでもなんでもやりますんで」
「ハコ太郎さん? 勝手に決めないでくれる?」
「まぁ、それなら……」
「お前のせいでポルカの立場が危うくなったじゃねぇか! どうしてくれんだ!」
「知りませんよ。ボク達を置いてく罰です」
いーっと口の両端を引っ張って歯を見せるハコス。そんなハコスにポルカは妹を見るような柔らかい表情を見せる。
「置いてく訳じゃない。ポルカは成長して戻ってくる。だからそれまでにお前らももっと力つけとけ。何なら私のサーカス団を乗っ取ってもいい」
「……言いましたね?」
「できるものならな」
よく分からんが何かいい感じの2人に置いてけぼりになるねね。
ただ一応空気を読んでここは余計な口を挟むのはやめておいた。
流石、気の利く女だなぁ~と心の中で自画自賛しながら満天の星空を見上げ、ねねは1人優越感に浸っていた。
× × ×
そんなこんなで街を出発したねね達4人は、次の目的地であるラミィの故郷、エルフの里に向けて歩みを進めていた。
「ねねから初め聞いたときは驚いたけど、今からそんなテンションじゃ里まで持たないよ」
「それもそっか」
ラミィに注意されなるほどと理解をしめしたポルカは、歩みの速度を緩めてトボトボと最後尾で猫背になる。
「いや落差よ! テンションジェットコースターじゃん!」
「いいねぇ! そのツッコミ! 2人がボケ倒したくなるはずだ!」
「うちの自慢のツッコミ担当ですから」
「んだんだ」
何故か自分の事のように偉そうに胸を張るねねとぼたん。
2人だけでも手一杯だったのに更にボケが増えたことで先行き不安になるラミィ。
ついでに言うと故郷の里にもボケたがりがいるため、このままだとツッコミストレスで禿げるのではないかと頭皮の心配までしてしまう。
「大丈夫だよラミィ。いざとなったらねねがツッコミに回るから!」
「絶対無理だよ。もうフリにしか聞こえないもん」
「ダイジョブだぁ。私もいるぞラミちゃん」
「一番ボケたがりの癖に何言ってんの」
「ポルカは意外とどっちも行けるタイプだよ?」
「そういう奴に限ってツッコミがいないときだけツッコんで、いるときはボケ倒すんだよなぁ」
しっかり全部拾っていくラミィにおぉ~と拍手する3人。
4人になっても案外相性の良い彼女達はワイワイ騒ぎながらエルフの里へ向けて歩み始めた。