「見えたよ。あそこがラミィの故郷、エルフの里」
迷いの森という長い森を抜け、ねね達一行は丘の上から小さな湖を中心として広がる里を見下ろしていた。
「迷いの森っていっても、抜けるまでそんなにかかんなかったね」
ねねの一言にラミィは首を横に振る。
「それはラミィが里までの道順を知ってたからで、ラミィがいなかったら下手すると一生出られないんじゃないかな……」
「「「…………」」」
「あの森はどこにいても景色が同じに見えるように、全ての木が同じ形をしているエルフによって意図的に作られた森だから」
ラミィの言葉に特に何も考えずラミィの後を歩いているだけだったねねとポルカはその言葉に冷や汗を流す。
ぼたんは一応景色の違和感には気付いていたが、それがエルフ達によって作られた森だということまでは流石に気付けなかった。
「えーと、それはなにゆえ?」
ポルカの質問にラミィはピッと指を立てる。
「エルフの一族は基本的に外交を行わない。エルフの歴史は他種族からの迫害から来てるからね」
思ったよりディープな話に茶化すような雰囲気ではなくなった。
「ま、それは何千年も昔の話。じゃないとラミィみたいなハーフエルフなんて存在しない訳だし」
確かに、鎖国状態なのにハーフエルフが存在することはありえない。それを思えば里に入っていきなり攻撃されるみたいなことはないだろう。
「あの森はこの里を作った際の名残。この里で自給自足もできるけど、今はラミィみたいに普通に外に出るエルフもいるし、エルフに認められて里に入る商人や普通に暮らしてる他種族もいるよ」
ラミィの説明を聞いている間に里の入口まで到着する。
そこには門兵なのか、弓を手にしたエルフの男性が2人立っていた。
「止まれ……って、ラミィ様!?」
「久しぶり〜」
「久しぶりじゃないですよ! いきなり出て行った時は我々雪の一族を捨てたのかと思いましたよ」
「そんなわけないでしょーが。それにラミィ、先生や先輩にちゃんと伝えたよ?」
「またあの人達ですかー! あの2人、ラミィ様のこと家出したって言ってましたよ!」
「あの人達は……」
門兵とのやり取りでラミィがこの里のお嬢様だということを思い出した。
ただ、彼女が里を出た理由は以前、お嬢様として育てられ世間知らずなところがあるため、社会勉強も兼ねて1人里を出たと聞いていた。ただ、里内で出回ってる情報と差異が出ているようだ。
「ごめん皆。ちょっと先に行くところができた」
ラミィは3人に振り返って一言謝ると、青筋を立てて里の中に入っていく。
ねね達は門兵達に一礼してから、ドンドン進んでいくラミィの背中を追った。
× × ×
「先輩!」
バンっととある家の玄関をいきなり開け、中に向かって大声を上げるラミィ。
ここにラミィが家出をしたというデマを流した張本人が住んでいるらしい。
「うるさいなぁ、誰ぇこんな朝早くに」
「もう昼ですよ! ていうか、先輩何か凄い適当なデマを里中に流したらしいじゃないですか!」
奥から出てきたのは部屋着を身にまとった褐色金髪の女性エルフで、寝起きなのか寝癖を付けた頭をポリポリ搔いていたが、訪ねてきたのが誰なのかが分かった途端、目を見開く。
「ん? 誰かと思ったらラミィじゃん。え、何、帰ってきたの?」
「いや別に帰ってきますよ! 何で驚いてんの!?」
「だって80年ぶりくらいじゃない?」
「「「……え!?」」」
その女性の言葉に驚きを隠しきれずラミィをガン見する3人。たとえ寿命の長いエルフとはいえ、流石にその年月は一族を見捨てたと思われても仕方がないのでは。
「どんな盛り方!? まだ3年も経ってないでしょうが! ほら、うちの子達が誤解しちゃってんだけど!?」
「あっれ~そうだっけ? まあほら、あたし達からしたら80年も3年もそんな変わらんでしょ」
「流石に変わるが!?」
怒涛のボケにツッコミ続けるラミィ。
間違いない。ラミィのツッコミ力はこの里で鍛えられたのだろう。
「はぁ、とりあえず紹介しますね。こちら今一緒に旅をしてる獅白ぼたん、桃鈴ねね、尾丸ポルカです。こっちは不知火フレア先輩。一応魔法の使い方なんかは彼女から教えてもらったんよ」
「初めまして、不知火フレアです。いうてそんなにラミィとは年も離れてないけどね」
「ですね、10歳くらいでしたっけ?」
「そうだね。ただ箱入りのラミィとは違ってあたしは小さい頃から里の外に出てよく狩りをしてたから、ラミィよりは色々と実戦経験があるんだ。年齢が近いからって理由で、ラミィの家庭教師をしてたんよ」
といっても魔法に関してだけだけどね、と付け加え、ウインクをするフレア。
美人な褐色お姉さんにウインクされ、ねね達は一瞬言葉を詰まらせる。
「実際の家庭教師はもう1人いて、今日はその人のところに行こうと思ってたんだよ」
「ラミィ、アキちゃんのとこ行くの?」
「はい」
「じゃああたしも行く。あたしも久しく会ってないし」
「何で同じ里にいるのに久しく会わないなんてことになるんですか」
「いや、実はあたしも昨日まで里の外に出てたんよ、半年くらい」
「え、そうなんですか?」
「そ。で久しぶりに家に帰ってきたしゆっくり寝ようと思ってたら、うるさい後輩は家に押しかけてきたってわけ」
「チクチク言葉やめてくれます!? そもそもはフレア先輩とタル先のくだらないデマのせいですからね!?」
「あ、着替えてくるから皆さん中に上がってゆっくりしてて」
「スルーですかそうですか。もういいです、ほら皆上がって。ちょっと休憩しよう」
取り残される形でフレアが自室に戻ってしまったが、勝手が分かっているのかラミィが先導してリビングへと案内する。
「お茶淹れるから待ってて」
「人の家で勝手にいいの?」
「いいよいいよ、昔あの人ラミィの家に来て勝手にラミィのプリン食べたことあるし」
ねね達をリビングのソファーに座らせ、ラミィはキッチンでお茶を淹れ始める。
里の中をまだちゃんと見てもいないうちに知らない人の家に上がらせてもらうことになった3人はキョロキョロとリビングの中を見渡していた。
「そういえば本来先に行くはずだったっていうところには今から行くの?」
「そう。ラミィとフレア先輩の家庭教師だった人で、歴史や魔法にも詳しい人だからもしかしたらねねのあの不思議な光の力についても何か知ってるかも」
ねねの質問にキッチンから声だけで返答するラミィ。
以前のレックス奪還作戦の際に、地下で起きたことはラミィとぼたんにもちゃんと話していた。光を纏った時の力も、そしてその後の治癒力ももしかしたら関係しているのではないかということも。ただ、あの光の力はまた使えなくなってしまったので、何かしら発動条件があるのではないかと踏んでいる。
「なんて人なん?」
お茶を淹れたラミィがリビングに戻ってくると、それを受け取ったぼたんが尋ねる。
「アキ・ローゼンタール先生。多分この里で最も長く生きていて、最も知識のあるハーフエルフだよ」