「魔力を使わない魔法?」
アキロゼとフレアの視線がねねに向かう。
ここにいるのはエルフという魔法のエキスパート達だ。特にアキロゼはラミィの先生という立場からラミィよりも知識量だって多いだろう。
「そう、ここにいるねねは魔力が全く感じられないのに魔法のような不思議な力を使うんです」
「……? それを何でアキロゼに?」
「実はねね、記憶喪失みたいで。ラミィ達と出会うより前のことを何も覚えていないんです。だから自分のこの力が何なのか分からなくて」
「へぇ……」
スッと目を細めてねねを捉えるアキロゼ。
「ちなみにその力っていうのは危険なのかな? ここでやっても大丈夫な感じ?」
「それが、ある日を境に使えなくなってしまって……使えた時は全身から光が溢れ出て、物凄い力が出るようになりました。単純な筋力もですし、足も速くなりました。あと、これはその力が実際関係しているか分からないんですけど、治癒力も上がりました。両腕両足に貫通していた穴が数時間で塞がって跡形もなく傷が消えていました」
「貫通した穴がねぇ……」
「う、嘘じゃないですよ。おまるんも実際に見てますから」
「大丈夫。わざわざこんな所まで来て嘘つく意味が無いし、ちゃんと信じてるよ。それに身体強化や治癒魔法だってこの世界には存在する。問題なのは……」
「それを魔力無しで行ったということ」
隣からアキロゼの台詞を奪うフレア。
台詞を奪ったフレアを一瞬睨みながらもアキロゼは続ける。
「フレアの言う通り。確かにねねちから魔力は感じられないし、実際に見てみないことには何とも言えないけど、少なくともアキロゼは魔力を使わない魔法というのは聞いたことがない」
「タル先でもですか? 長生きなタル先なら何か知ってるかもと思ったんですけど……」
「おいおい、アキロゼまだ217歳だから」
「「「え!?」」」
確か以前聞いたラミィの年齢は210歳だったはずた。それにフレアに関してはラミィより10歳くらい年上と言っていた。フレアより年下なのに家庭教師をしていたのだろうか。
「それ、この里に来てからの話ですよね? 何でそんな変な区切り方してるんですか?」
「アキロゼはこの里に来て生まれ変わったの」
「ていうかアキちゃん、歴史の教科書に載ってるじゃん」
「マジあれ無断記載。勘弁してほしいんだけど」
「戦争時、最も攻撃力の高いヒーラーとして名を馳せてたんでしょ。エルフとして生まれてタル先のこと知らない人なんていないよ?」
どうやら先程の217歳というのは冗談のようだが、このアキ・ローゼンタールという女性は歴史の教科書に載るほど生きた伝説となっているらしい。
「……そんなアキロゼさんでも──」
「うん、知らない」
キッパリ言い切るアキロゼにラミィとポルカが大きなリアクションで肩を落とす。ねねはそんな2人を他所に自分の右手を眺める。
「……ねねちゃん、どうしたん?」
「へ?」
「いや、今なんか……笑ってたから」
横に座るぼたんから何かを探るような視線を向けられる。だがねねは、いやーと恥ずかしそうに頭を掻きながら答える。
「いや、そんな凄い人でも知らない力を持ってるなんて、もしかして選ばれし勇者とかだったりして──とか思ってたらついニヤニヤが止まらなくて」
絶対的な力を欲し、そして持っていたラプラス・ダークネスや、長い時を生き、歴史に名を刻む生ける伝説アキ・ローゼンタールすら知らない力。実際その力を纏った時の記憶もしっかりとあり、あの時は誰にも負けないような気さえした。
現に圧倒的な力の差があったラプラス・ダークネスを一瞬ではあるものの力で押さえつけ、そのラプラスとholoXの幹部である鷹嶺ルイが認識できないほどの速度で移動したりもした。
「でもその不思議な力、今は使えないんでしょ? それは何でか分かってるの?」
フレアの問いにねねは首を横に振る。
あの日以降、一度もあの光の力が発動されていない。感覚は何となく残っているのに、出そうと思っても出せずにいた。
「それに関しても、タル先だったら何か知ってると思ったんだけ……」
「なんも知らん」
当てが外れたとラミィは申し訳なさそうにねねを見るが、相変わらずねねはニヤニヤと自分の両手を天井に翳して眺めていた。ねねが特に気にしてなさそうなのは良かったが、それにしても思っていたのとは違った反応でラミィ達も少し戸惑っていた。
「うーん、代わりといっては何だけど、アキロゼの知り合いを呼んでみようか?」
「知り合い、ですか?」
「うん。私よりもずっと長く生きてて、言っては何だけど、この世界についてだったらアキロゼの5億倍くらい詳しい子なんだけど」
「そんなお知り合いがいるんですか!?」
「長く生きてるとね、色んな人と出会うんだわ。むかしむかしのその昔、その子とは切った張ったの殺し合いをしたもんよ」
えっへんと立派な胸を張るアキロゼ。
だが、そんな殺伐とした相手をこんな平和な里に呼んでも大丈夫なのだろうか。
「大丈夫大丈夫。今は結構真面目に働いてるって聞いてるし、30年くらいに久しぶりに会った時も、元気そうにしてたから。多分面白そうなことがあるって言ったら飛んで来ると思うよ」
せっかくだから、その子にも見てもらいなよ。と、アキロゼは何もない空間で指を文字を書くように動かすと、次第にそこには1羽の光の鳥が現れる。
「何これ! 魔法!? アイテッ……!」
ねねが興味津々といった感じで光の鳥に顔を近づけると、本当の鳥よろしく、鼻先をくちばしで突かれる。
「これは伝書鳩魔法。この鳩そのものが手紙になってるの。使用者の魔力が強ければ強いほど、より遠くの場所へより多くの文章量をより早く伝えることができるんだよ」
「すっごーい! おまるんの魔法も便利だけど、アキロゼさんの魔法も凄いですね!」
「まあね」
ふふんと褒め囃すねねに気分が良くなったアキロゼは自信満々にドヤ顔を見せる。
全員が珍しい魔法に興味がそそられている中、フレアだけが思案顔を見せていた。
(アキちゃんの昔ながらの知り合いで、何千年も世界中を旅していたアキちゃんよりもこの世界に詳しい人? そんな人がいるとしたら……)
まず間違いなく、アキロゼと同じ幾千の時を生きている者であることには違いない。
フレアは頭の中の歴史の教科書をザーッとめくっていく。
(いや、アキちゃんと対等に渡り合って尚且つ今も生きている者は歴史上にはいない。だからこそアキちゃんは生きる伝説とまで称されているのだから。つまり、史実には登場しない、もしくは登場しにくい人物……いや、それを人物を括ってしまってはいけないかもしれないな)
フレアはそこで考えることを放棄した。
これ以上憶測で予想したところで何の意味もない。
アキロゼがこの里に呼んだのだから、待っていれば会えるだろう。
アキロゼが──歴史の教科書にまで載っている自分の家庭教師が認めた者。
そんなの、会わずにはいられないだろう。
その人がいつ来るか分からないし、しばらく里の外へ狩りに出るのはやめておこうと1人心に誓ったフレアだった。