どちらにせよ、しばらくはこっちにいるんでしょ?
アキロゼのその言葉に一同頷き、ねね達はアキロゼの古い知り合いがこの里に来るのを待ちつつ、ラミィが言っていたもう1つの目的というのを果たすことにした。
「とはいえ、今日はもうそろそろ日も暮れるし、それは明日からにしよう」
ねね達は自分の家へ案内すると言って歩くラミィの後を付いていく形で歩いていく。フレアは自分の家の帰路につき、今は4人だけだ。
「ちなみに、もう1つの目的ってなんなの?」
ねねの質問にラミィは顔だけ振り返り、
「星詠み」
とだけ告げた。
星詠み。
星の廻りを読むことで対象者の未来を見ることができる、エルフに伝わる占星術だ。ラミィはエルフの里の中でもその適性に長けており、過去一度も彼女が見た未来が外れたことはないという。
「星詠みかぁ。噂では聞いたことあるけど、実際に見たことはないなー」
「ラミちゃんの星詠みは凄いよ」
頭の後ろで手を組みながら呟くポルカに、ぼたんが自慢気に答える。
「それって、アレでしょ。天気予報やつ」
「そ」
「何それ何それ」
以前ぼたんから教えてもらった、ラミィがぼたんの前で一度だけ披露した星詠み。次の日の異常気象を当てた話だ。
「それただの天気予報士だよ! 多分見たのも星じゃなくて雲なんじゃないの!?」
「ぶはっ! ねねちゃんと全く同じ反応……!」
「いや、誰でもそうなるって……」
「おーい、ラミィの天気予報の話はもういいから、もう着くよ」
「自分で言っちゃったよ!?」
自分で天気予報と認めたラミィに驚きを隠せないポルカ。本当に稀にラミィがボケるときは基本ポルカがツッコミを担当することになる。
だが、そんな驚きも目の前の大きな建造物を見て一瞬で吹き飛んだ。
「お屋敷……」
「お屋敷だ……」
「てかもうお城……」
フレア、アキロゼの家を見た後だと、よりその大きさが際立つ。
彼女が雪の一族族長の娘というのが嫌でも分かり始めてきた。
「旅の疲れもあるだろうし、今日はゆっくりしようか。星詠みは明日からしっかりと準備をしてやりたいし」
そう言って屋敷の門を開けるラミィ。
『おかえりなさいませ、お嬢様』
するとそこにはメイドや執事といった使用人たちが両サイドに並んで出迎えてくれた。
どうやらこの里に入った際にいた門兵がラミィが帰ってきたことを伝えていてくれたらしい。
「ただいま」
3人にとっては異常な光景も、ラミィに取っては日常なのか特に気にすることなく頭を下げる使用人達の間を堂々と歩いていく。
「ポルカおかえりなさいませお嬢様初めて見た。フィクションだけだと思ってた」
「今日の夕飯が楽しみ。よだれが今から止まらん」
「ねね、ここの家の子になる」
「馬鹿なことを言ってないで早く来なさい」
入り口で立ち止まっていた3人に呆れた表情をしながらツッコミを入れるラミィ。
「200年もこんなところに住んでたのに、よく野宿とかできたねラミィ。ふかふかの布団でキングサイズのベッドじゃないと寝られませんわ! くらい言いそうなもんなのに」
「解像度低すぎるだろ! そんなこと言ったことないわ!」
お上りさんよろしくキョロキョロと屋敷を眺めながらラミィの後についていくねね達。一度でもこんなところに住んでしまえば普通の宿にだって泊まりたくないだろうに。野宿なんて以ての外だ。
門から続く長い石畳を抜け、ようやく玄関に到着する。
玄関にもメイドが2人立っていて、何も言わずとも勝手に玄関のドアが開かれる。
「……ラミちゃん、扉くらい自分で開けようよ。そのうちフォークすら持てない非力になっちゃうよ」
「そんなの200年間言い続けたよ。でもその度に『我々の仕事を奪うおつもりですか。つまり我々はもう用済みだと……』とか言われるんよ。今ではもう諦めた」
「あのぅ、ちなみに皆さん月給どのくらいなんです?」
「何聞いてんのおまるん!?」
「いやだって、気になるし……」
「お嬢様のご友人にでしたら問題なくお答えできますが」
「答えなくていいから! 問題大ありだから!」
「はーい! ねねも質問! 皆さんラミィの星詠み見たことありますか?」
大きく挙手して近くにいた使用人達に問いかけるねね。
そんなねねの質問に互いに顔を見合わせると、使用人達は力強く頷く。
「我々もエルフ故、長い時間を生きておりますが、お嬢様程正確な星詠みをされる方は見たことがありません」
「過去どんなことを見てきたんですか?」
「日照りが続く時期には次にいつ雨が降るのかを見ていただき、それに合わせて農作物を育てていたことはこの里の者でしたら誰しもが知っているお嬢様の偉業です」
「ねえ、もしかしてねねが間違ってるの? この世界って天気を当てるだけでそんなに持ち上げてもらえるの? もしくはねねが記憶喪失だから世界単位でねねにドッキリを仕掛けようとしてるの?」
誰に聞いてもラミィの星詠みの凄さがいまいち伝わってこない。
ねねが本気で天気予報士を目指そうか悩んでいると、屋敷の奥からラミィによく似た青髪美形のエルフの男性と、この里に入ってから初めて目にする人間の黒髪女性が出てきた。
「帰ってきたのかラミィ」
「ただいま。お父様、お母さま」
玄関先で軽い抱擁を交わす3人。
エルフの耳や青髪は父親似だが、目元なんかは母親の面影がある。こうして並んでいるのを見るとこの2人の遺伝子を受け継いでいることがよく分かった。
「あら、そちらの方々はラミィのお友達?」
「うん、今一緒に旅をしてる仲間だよ。後でゆっくり紹介するね。皆、客室は全然余ってるからメイド達に案内してもらって。ラミィはちょっと着替えてくる」
まずは旅の荷物を降ろしたいしと言って、ラミィは屋敷に上がっていく。
まさか1人1部屋割り当てられると思っていなかったねね達だが、部屋どころかメイドまで1人につき1人付けられた段階で、これ以上驚いていてもキリがないと割り切ることにした。
× × ×
その後、ラミィの両親と一緒に夕飯を食べ、順番にお風呂ももらい、今はアホほど広いリビングで4人夜食のクッキーを頬張りながら集まっていた。
「ラミィって兄妹はいないの?」
もぐもぐとクッキーを頬張りながらポルカが尋ねる
「いるよ。お兄様とお姉さまが」
「え、今この屋敷にいるん? 挨拶しないと」
「ああ、2人とも家を出てるよ。2人ともちょっと放浪癖があって、すぐどこか行っちゃうの。最後に会ったのだって、確か100年くらい前だし。だから次に族長を継ぐのもラミィの予定ってわけ」
「ラミィは自由に外に出たいとかないの?」
「あるから今こうして社会勉強も兼ねて旅をしてるんよ。族長になったら自由に旅なんてできないから、若いうちにやりたいことをやっておきなさいっていうのがお父様の持論」
「エルフの若いうちって、私らの寿命くらいの長さありそう」
それなとぼたんの言葉に笑い合う一同。
「そうだ、星詠みって準備がいるんでしょ? 今日のうちに何かやっておくの?」
「いや、明日で全然間に合うから明日でいいよ。ここ1週間ずっと歩きっぱなしだったし、今日は皆早めに寝ようよ。どっちにしろ、タル先の知り合いが来るまではこの里にいることになるだろうし、最近は色々あったからちょっとゆっくりしよう」
ぼたんと2人で旅をしていた時はそれほど面倒事に巻き込まれることはなかったが、ねねと出会い鬼神の娘から命を狙われたり、ポルカと出会い秘密結社とやり合ったりとここ数か月は中々に大変だった印象だ。主に命のやり取りが多かったせいというのが大半ではあるが。
夜食もそこそこにメイドに淹れてもらった紅茶を飲み干すと、まだ日付が変わる前ではあるが各自割り振られた部屋に戻ってゆっくりすることにした。
ラミィも3年弱ぶりに自分のベッドに身体を投げ出すと、思っていた以上に疲れていたのかすぐに睡魔が襲い掛かってきた。
簡単な星詠みなら別に里の外でもできる。それでもこの里に帰ってきた理由としてはアキロゼの話を聞くためというのも確かにあったが、ここならより精度の高い星詠みをする設備が整っているからだ。
星詠みでは過去を見ることはできない。だからねねの過去を調べることはできない。
だが、ねねの未来を見ることで、何か記憶を取り戻すきっかけが掴めるかもしれない。
そのためにより精度の高い星詠みをしようと思ったのだ。
明日は朝から準備をして、昼過ぎくらいから星詠みを始めようか──
そんなことを考えながらラミィはゆっくりと眠りに落ちていった。
「やあ、雪花ラミィちゃん。元気してたかな?」
それは聞き覚えのある声。見覚えのある白い肌。忘れようがない額に生えた角。
ここにいるはずのないそれが、ラミィの枕元に立っていた。