翌朝、各々自由な時間に目を覚ましリビングへ行くと、既にラミィは屋敷にはいなかった。
「あれ? ラミィは?」
一番最後に起きてきたねねがリビングで朝食をいただいていたぼたんとポルカに尋ねる。
「朝早くから星詠みの準備をしに行ったみたい」
「ポルカ達も朝ご飯食べてたら行こうよ」
ねねも一緒に食卓に着くと、間髪入れずに目の前に朝食が運ばれてくる。
ねねは食事を運んできたメイドに、
「あの、ラミィは朝ご飯ちゃんと食べましたか?」
と尋ねると、メイドは目玉焼きと食パン、シチューが注がれたお皿をねねの前に置きながら首を横に振った。
「いいえ、どうやら我々が起床する前に既にお出かけになられたようで……我々も奥様から教えていただきました」
「ちなみに皆さんの起床時間って?」
「朝の4時半でございます」
「え、ラミィって昔からそんな早起きなんですか?」
「いえ、確かに朝に弱い印象はありませんが、ここまで早起きな印象もございませんでした」
そう告げて一礼するとメイドはキッチンの方へ下がっていった。
「張り切ってんのかね?」
そう言ってパンをシチューに付けながらもぐもぐと頬張るポルカ。確かに昨夜準備は翌日すれば間に合うとは言っていたが、まさかこんなに早くから準備をしているとは思っていなかった。
自分のためにしてもらっているねねからしてみると、申し訳なさがこみ上げてくる。
「まだ朝ご飯食べてないなら、何か差し入れ持って行ってあげようよ」
「それがいいかもね」
ねねの提案に同意するぼたんとポルカ。
じゃあこの朝ご飯を食べたらキッチンを借りよう。互いに頷き合い、3人は朝食を再開させた。
× × ×
「だから! グミだってグミ! ラミィグミ好きだし、作業しながら片手で食べられるじゃん!」
「それはごはんじゃないでしょうが! ていうか一緒にねねが食べたいだけでしょ! ラミィで朝食といったらホットケーキだって!」
「ラーメンでよくない?」
「「それはない!」」
キッチンに入ってきて早々、何を差し入れするか言い合いになる3人。
キッチンを貸してくださいとメイド達に伝えたら完全に貸し切りにしてくれたため、今は広々としたキッチンに3人しかいない。もしメイドや執事がこの場にいてくれたらこんなに揉めなかったかもしれないが。
「てかねねはそれどうやって作るつもりなんよ」
「作らないよ。昨日キッチンの棚を漁ってたら見つけたの。この家にあるってことは多分ラミィも好きなんでしょ」
「人ん家のキッチン勝手に漁るなよ!」
「勝手じゃないもん! ちゃんとメイドさんに許可取って漁ってたもん!」
「ねえ、ラーメン作っていい?」
「「だから駄目だって!」」
言い合いする2人を尻目にマイペースに鍋を準備するぼたんを同時に止めるねねとポルカ。
「確かにししろんのラーメンは美味しいけどさ、どうやって持っていくのさ。持って行った頃には麺伸びちゃうよ!」
「それはほら、おまるんの収納魔法で」
ポルカの収納魔法は生きている生物以外なら何でも異空間に収納することのできる魔法だ。
物の大きさや重量によって必要魔力が変わってくるため、あまりにも大きなものや重たいものは収納することができない。ただ逆に、入れられるものなら収納した時点の鮮度を保ったまま収納することができるのだ。仮に生肉を3年間収納したとしても、腐ることなく収納時と同じ状態で再び取り出すことができる。
「確かにポルカの魔法なら温かいまま運べるけども」
「それにラミちゃんは朝一から何も食べずに色々準備してるんよ? ならお腹が空いてるに決まってる。だとしたらガッツリしたもの食べたいでしょ。ホットケーキとか、ましてやグミなんて……」
フッと鼻で笑うぼたんにカチンと反応するねねとポルカ。
売られた喧嘩は買うのが礼儀。
3人の視線がバチバチと交差する。
「分かってない。分かってないなぁ。今何時? 朝の8時半だよ? 朝からそんな濃いものや甘いお菓子なんて食べたくなるわけないでしょ」
「分かってないのは2人だよ。旅をしてる間のラミィをちゃんと見てないよ。それに引き換えねねはよくラミィとグミを交換したり、一緒に食べたりしてたよ。時間だって普通に朝から食べてたし」
「それは外で歩きながらの話でしょ。街に寄ってるときはちゃんとしたご飯を食べてました。んでもって、朝から濃いものを食べないのは寝起きだからであって、その時の時間は関係ありませーん。しかも今日のラミちゃんは既に起きてから4時間以上経ってる。仮に8時に起きたとして、4時間経ったら12時だよ? お2人さんは8時起床で12時にラーメン食べないんですか? ハイ論破」
ふふんと自信たっぷりの表情で煽りを入れてくるぼたんにぐぬぬと黙り込んでしまうねねとポルカ。
「せ、正解なんてそれこそラミィしか分からないもんね!」
「そうだそうだ!」
「んじゃ、本人に決めてもらおうよ。それぞれこれだと思うものをラミちゃんのところへ持っていこう」
「「望むところよ!」」
× × ×
「ごちそうさまでした。美味しかったよししろん」
「お粗末様でした」
あの後キッチンにやってきたラミィの母親からラミィが星詠みの準備をしている場所を教えてもらい、3人は揃ってその場所へと向かった。
「おまるんもそんなに落ち込まなくても、気持ちだけでも嬉しいよ」
意気揚々と作っていたホットケーキを真っ黒に焦がしてしまい、完全に気落ちしていたポルカを慰めるラミィ。
「それでねねは……」
よしよしとポルカの頭を撫でるラミィは、2人の後ろでずびずびと鼻水を流しながら涙を流すねねに視線を向ける。
「ごべーんラミイィィ……! 2人が作ってるのを待ってる間にグミ全部食べちゃったぁぁ!!」
勝負のステージにも立てなかったねねに困ったような笑顔を見せるラミィ。
──ああ、やっぱりこの3人と一緒にいるのは楽しいな。
ぼたんと出会い1年と少し。ねねと出会って数か月。ポルカと出会って数週間。
200年という長い月日を生きてきたラミィにとって、彼女達との暮らしはほんの一瞬の時間に過ぎない。
それでも心の底からそう思えるくらい、彼女達との暮らしには濃密な時間が詰め込まれていた。
「……ねね、準備できたよ」
ラミィの視線が母親のような温かいものから、鋭い真剣なものへと変わっていた。
「始めようか、星詠み」