ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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星詠み

 4人は改めて神殿のような建物を見上げる。

 

「ここで星詠みをするの?」

 

「そう。ここは代々エルフの先輩方が星詠みを行ってきた、その名も”星詠みの神殿”」

 

「そのまんますぎんだろ」

 

 あまりにも馬鹿正直な名前についついツッコんでしまうポルカ。

 

「でも、設備は整ってるよ」

 

 ラミィを先頭に中に入ると、そこには直径2メートルはありそうな巨大な天球儀が中心に置かれており、その周りを5つの術式が囲っていた。

 

「でかいね、これは?」

 

 大きな天球儀を見上げながらぐるりと一周回り、中の状態を確かめるようにこんこんと軽く天球儀を叩く。

 

「リアルタイムで星の位置を観測してくれるっていう古代のエルフが作ったマジックアイテム。星詠みの魔法は星の廻りが密接に関係してくるから、これを使うとより精度の高い星詠みをすることができる」

 

 ラミィは術式の中に入り、天球儀に触れるとそのままねねに振り返る。

 

「ねね、もうを始めるけど、準備はいい?」

 

「う、うん。ねねはどうしてたらいい?」

 

「一緒に術式の中に入ってて。逆にししろんとおまるんは術式の中に入らないように」

 

 ラミィの指示にそれぞれ頷き移動する。

 ねねはラミィの横に立ち、ぼたんとポルカは天球儀から離れ、広間の隅で行方を見守る。

 

「術式内なら座ってていいよ。しっかり見るために少し長めにやろうと思うし」

 

「わかった」

 

 ラミィの横で体育座りで腰を下ろすねねを確認すると、ラミィは改めて天球儀へ向き直る。

 

 昨夜、百鬼あやめがラミィの寝室にやってきたことは3人には言っていない。いきなり襲い掛かってくるような奴の話を全て鵜呑みにするつもりはないのだが、彼女も星詠みのような未来を見る力を持っていると言っていた。それもラミィよりも精度が高いと師匠であるミオも認めていた。

 

 そんな彼女が、明日の星詠みを楽しみにしていると言っていた。

 それは暗に、この星詠みによって百鬼あやめが楽しめる何かが起こるということだ。

 

 1つ唾を飲み込む。

 鬼が出るか蛇が出るか。何か少しでもねねの記憶に繋がるようなものが見えれば御の字。

 

 ──大丈夫、今まで自分の星詠みは外れたことがない。自信を持って。きっと何かきっかけが見つかるはず。

 

 小さく息を吐き、静かに目を瞑るラミィ。

 そして天球儀に触れた右の指先から徐々に魔力を流し込んでいく。

 

 ラミィの魔力に応えるように天球儀が光り出し、その光景を術者であるラミィの心の視界に映し出していく。

 

 

 

 今まで、雪花ラミィの星詠みが外れたことはない。

 

 

 

 当然、どうか外れていてくれと思ったことも──、今回が初めてだ。

 

 

 

 

 

「──ィ! ……ミィ!」

 

 耳元で聞き覚えのある声が叫んでいるのが聞こえる。

 

「ラミィ!」

 

「……っ!!」

 

 激しく揺り起こされ、ラミィは正気に戻る。

 隣では心配そうな表情をしたねねがラミィの顔を覗き込んでいた。

 

「おーい! ラミィ、大丈夫?」

 

 ぺちぺちと頬を叩くねねの手を払い、キョロキョロと回りを見渡す。

 

「え、どのくらい寝てた?」

 

「寝てたの!? いや、ほんの数秒だったけど、急に座り込んだから何事かと思ったら……大丈夫? やっぱり早起きし過ぎて寝不足なんじゃない? 星詠みはまた後日でもいいよ?」

 

「いや、星詠みは…………いや、うん。ごめん、そうしようかな……」

 

「うん、それがいいよ」

 

 ラミィを心配するねねの表情を見てしまったら、まだ続けるとは到底言えなかった。

 ねねはラミィが体調悪いみたいだから中止ーとぼたんとポルカに伝える。

 

「立てる?」

 

 優しく差し伸べられた手を見つめる。

 

「……?」

 

 少し生まれた間を不審に思ったのか、どうしたのと小さく首を傾げるねね。

 そんなねねに何でもないとこちらも小さく首を横に振り、その手を握って立ち上がる。

 

 その温かな手を強く、強く握る。

 

「まだお昼前だし、ラミィはいったん家に戻って休むといいよ。久しぶりに里に戻ってきて気が抜けちゃったんじゃないかな?」

 

「……そうかもね」

 

「うん、きっとそうだよ。ちゃんと体調を戻して、星詠みなんてそれからで全然いいから」

 

 本当に気にしていなさそうなねねの優しさが、ラミィの心により深く傷を付ける。

 

(違うんよ……ねね。ラミィの星詠みは……外れたことが……)

 

 3人の話す声が、ラミィにはひどく遠くに聞こえた。

 

 

        ×  ×  ×

 

 

「どうだったの?」

 

 その日の晩、星詠みの神殿にアキ・ローゼンタールの姿があった。

 

「……言えません」

 

「ふぅん……、あらそう」

 

 前髪で表情は見えないが、どう見ても楽しそうな雰囲気ではないため、アキロゼはそれ以上深く突っ込むことはしなかった。

 

「それよか、昨日の夜あのお馬鹿がアキロゼの家に襲撃してきたんですけど」

 

「知ってます。その前にラミィの寝室にも勝手に入ってきてました」

 

「そう、それ。その時あやめちゃんに聞いたけど、あんたらいつの間に知り合ってたの?」

 

 昨夜何があったのか分からないが、白髪白肌和装角問題児の事を思い出すだけで溜め息を吐いているところを見ると、久しぶりに会ったからだろうか相当面倒だったのだろう。

 

「つい数か月前ですよ。いきなり殺されかけました」

 

「……はい?」

 

「タル先は彼女の正体を知ってるんですか?」

 

「……こりゃ驚いた。そこまで知ってるんだ」

 

 この反応から見るに、アキロゼも百鬼あやめの正体を知っているようだ。

 

「あやめちゃんに殺されかけたって、誰が? ラミィが?」

 

「いや、ラミィじゃなくて、ねねが」

 

「あー、謎の力を持った記憶喪失の桃鈴ねねちゃんか」

 

「……? 何ですか? その説明口調」

 

「別に。でも、あやめちゃんの正体を知っているなら尚更、あの子は何者なのさ」

 

「分かりません。記憶喪失ですから。ラミィにも、ねね本人にも、誰にも分かりません。だからこそ、そんなあの子を殺させるわけにはいかない!」

 

 青髪を振り払い、アキロゼを睨みつけるラミィ。

 

「……実はね、お昼過ぎにねねち達がまたうちに来てね。今日はラミィの体調が悪いみたいだったから星詠みは延期になりましたって知らせに来てくれたの。んで、もう一度聞くけど、どうだったの? 星詠みが延期になったってことが言えないの? それとももっと別の何かが言えないの?」

 

「……今マジでラミィの中のタル先の好感度がどんどん下がっていってます」

 

「いやん、そんな~」

 

 砕けた口調でラミィの腰にイヤイヤとしがみつくアキロゼを強引に引き剝がす。

 正確な年齢は分からないものの、ラミィの何倍も長い時間を生き、経験しているアキロゼを躱すことなど初めからできなかったのだ。

 

「……タル先は、星詠みできないんですか?」

 

「前に言ったと思うけど、アキロゼに適正はないよ。じゃなきゃ、こんなに苦労はしてない」

 

「苦労、ですか? 絶対に外れない未来予知の方が、断然苦労しますよ」

 

「ほう、その心は?」

 

 

 

「絶対に外れないってことは、死を免れることも許されないんですから」

 

 

 

 星詠みで見た光景を思い出し、夜風が触れる頬に、一筋の光が流れ落ちた。

 

 

 

 

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