「いやー、病み上がりでよく食べるね」
目の前に出された大量の料理をねねはどんどん口へ運んで行く。
「はふはんはへはいと、はやふなほははひははへ!」
「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」
「………………んく。たくさん食べないと、早く治らないからね!」
「そ。それじゃあ、野菜も残さず食べな、さい!」
「いやー! 野菜は無理なのーー!!」
器用に皿の隅へ避けていた野菜たちをフォークで刺し、無理やり口元へ押し付けてくるぼたんに必死に抗うねね。
「こらー! 病室では静かにしなさーい!」
そんなねね達の声が廊下にまで響いていたのか、病室の扉が勢い良く開き、買い物帰りの紙袋を抱えたラミィが扉の前に立っていた。
「ラミちゃんが一番うるさいね」
「ホントホント。ラミィちゃん、病院では静かにね」
「はあー!? はあー!? 何なのコイツら!?」
最近のラミィはねねとぼたんのマイペースコンビにいつもこんな感じに振り回されている。
ただラミィもたまに天然が炸裂するのでボケが渋滞することもしばしば。マイペースという点以外ではしっかり者のぼたんも緊急事態以外ではボケというキャラは基本崩さないので、ツッコミ不在という状況でも今みたいにケラケラ笑っている。
「それでラミィちゃんはどこ行ってたの?」
「薬屋の羊飼いさんのところ。ねね今日退院だけど、明日以降も薬は飲んどかないと」
2人と森の中で出会ってから早2週間が経つ。
それより以前の記憶がないねねだが、とりあえず血だらけで倒れていたところをこの2人に助けてもらったことになる。
青髪で金色の瞳をしているお嬢様が雪花ラミィ。
人里離れた雪の一族の令嬢とのこと。確かに初めて会った日も薄れ行く記憶の中、何も無いところから魔法で氷を生み出していた記憶がある。世間知らずなところがあるため、1人里を離れて旅に出たらしい。
白髪長身でケタケタ笑っているのが獅白ぼたん。
猫科の獣耳と尻尾を持ち、壁には彼女のものだというスナイパーライフルが立てかけられている。出身を聞くとギャングタウン地方とのこと。
2人は仲が良さそうに見えるが、昔馴染みという訳ではなく、実は出会ってからそんなに月日は経っていないらしい。
「それで、ねねは記憶はどうなの?」
もぐもぐとお肉を頬張りながらラミィの問いについて考える。
気が付いたら暗い森の中に血だらけで倒れていたねね。何故血だらけだったのか、何故森の中で倒れていたのか、そもそもここはどこなのか。
「…………えーと、ここはシケ村で、2人はラミィちゃんとししろん」
「つまりなにも覚えてないと」
つまりはそういうことである。
2週間より前のことは何も覚えていない。自分がどこからやって来て、どうしてあそこで倒れていたのか。そういった記憶が一切ないのだ。ただ野菜が嫌いだということだけは体が覚えているようだった。全身が拒絶反応を起こした。きっと記憶が無くなるより以前に野菜に対して嫌な思い出でもあったのだろう。知らんけど。
「退院した後はどうするん? うちらと一緒に来るで大丈夫?」
「とりあえず行き先もないし、そうさせて貰えると……」
この話は既に何度かしていた。ただ退院までに何か記憶が戻るかもしれなかったので返事は保留していたのだが、退院が明日に迫った今でもこの調子なので2人の厚意に甘えさせてもらうことにした。
「ラミィは旅先で仲間が増えていくのに憧れてたから大賛成だよ。じゃあこれからは3人で旅をしよう。色んなところを見て回ればねねの記憶もいつか戻るかもしれないし」
「こりゃあラミちゃんの負担が更に増えるねぇ」
「あまりにも酷い時はツッコミ放棄するかんね!?」
「それは職務怠慢だよラミィちゃーん」
「いつからラミィの職務がツッコミになったんだよ!」
そう言いながらもツッコミは欠かさないラミィと、マイペースにケタケタ笑うぼたん。この2人との旅なら確かに楽しそうだ。
当分はねねの記憶を取り戻すという名目で、3人の旅が始まった。