「ねねの力を解明するのを同時進行でやって行こうと思うんだけど、どうだろう?」
ラミィの突然の提案に3人は互いに顔を見合わせる。
「星詠みには対象の人間が必要だからラミィとねねは星詠みを。ししろんとおまるんで魔力を必要としない魔法のような力というのがこの世界のどこにも存在していないのか。歴史書などに記録が残っていないのかを調べる。幸いこの里は人間の国なんかと比べると歴史の古い里だし、それなりの文献も残ってるはず。あとで図書館の場所に案内するよ」
後ろ指で里の奥を指さすラミィ。
「いや、わざわざそこまでしてもらわなくても、何か悪いし……」
「今更だよ。ねねも分かるなら早い方がいいでしょ?」
「確かにそうかもしれないけど……」
ねねは申し訳なさそうにぼたんとポルカに振り返る。
そんなねねに2人は気にしなくていいと小さく首を振る。
「身に覚えのない力があるっていうのは危険なこともあるからね。自分の力はちゃんと把握しておいた方がいい」
「それに、力の事が分かったらそれに紐づいてねねちゃんの過去だったりのヒントも得られるかもしれないし」
そう言ったぼたんとポルカは自分達だけで向かうから場所だけ教えてとラミィから図書館の場所を聞き、2人で図書館へと向かった。
「…………」
「……? ラミィ?」
「……また今度あの2人の星詠みもしようかな」
「あ、いいね楽しそう! やろうやろう!」
面白そうな提案に速攻で乗るねね。せっかくだし皆の未来を見てみるのも面白いかもしれない。
するとねねがそういえばとラミィに向き直る。
「ラミィは自分の事を星詠みで見たことはないの?」
「星詠みは術者の未来を見ることはできないんよ」
「え、そうなの?」
「そう。逆に自分以外なら何でも見れるよ。明日の天気見てみようか?」
「いや、もうそれはいいから」
つまりラミィは今まで自分の未来を見たことがないということだ。
他にも星詠みができるエルフがいればラミィの未来を見てくれたかもしれないが、ラミィより前にエルフの里で星詠みの天才と言われていた人は、100年程前に亡くなったと以前ラミィから聞いたことがあった。今はこの里には数時間、数日程度なら見ることのできるエルフはいるようだが、ラミィやその亡くなったエルフのように年単位で星詠みをすることができる者はラミィ以外にはいないらしい。
「それより、体調はもう大丈夫なの?」
一昨日、星詠み中に一瞬だけ気を失い、ラミィの体調不良ということで星詠みを延期した。
昨日1日休養を取り、ラミィ自身が回復したというので本日再び星詠みをすることになった。
「大丈夫。今日はちゃんと見るから」
「無理はしないでね」
ねねの気遣いに笑みを浮かべながら頷くラミィ。
2人はそのまま星詠みの神殿へと向かった。
× × ×
「ここかー、エルフの里の図書館ってのは」
ぼたんと一緒に移動してきたポルカは宮殿のような大きな建物の前に立ち、それを見上げながら呟いた。
エルフの里で里の中心にある巨大湖と並ぶエルフの里名物──歴史図書館。
平均寿命が普通の人間の10倍から30倍と言われている長寿生物であるエルフ達が世界中から集めてきている書物が保管されている。エルフは他種族よりも知識が豊富と言われいるのだが、それもこの図書館のおかげというのもあるだろう。
「こりゃ1日2日じゃ無理だねししろん」
「ま、それなら二手に別れたのは正解だったということで。早速入ってみようか」
正面入り口から図書館に入るぼたんとポルカ。
中に入ると一面本棚で埋め尽くされていた。
「……なんじゃこりゃ。流石にこれは無理じゃないか?」
「てか、あの上の方の本とかどうやって取るんだろ? いや、そもそも本のタイトルも見えんぞ」
人間よりも視力が優れている獣人の2人でも本棚の上の方にある本の背表紙の文字が見えない。これでは本を取り出すことも、そもそも本を探すことすら手こずりそうだ。
「本を探すのも本を取り出すのもここでやるんよ」
突然背後から2人に声が掛けられる。
「フレアさん」
振り返るとそこには褐色金髪のハーフエルフ、不知火フレアがいた。
フレアは長机の前に立ち、1冊の分厚い書物を手に取って掲げていた。
「ここは魔法に長けたエルフの里の図書館。この図書館も魔法だらけだよ」
見ててと言って近くに寄るぼたんとポルカに分かりやすいようにやって見せるフレア。
「まずはここで”呼び出しの目録”を使って目的の本を探す」
フレアの手元を覗き込む2人。机の上で開かれた呼び出しの目録と呼ばれた書物。そこにはこの図書館に保管されている本のタイトルが浮かび上がっていた。フレアはページの上で指を横にスライドさせるとそれに反応して浮かび上がっている文字も変わる。
「え、ページを捲るんじゃないんですか?」
「この本の数だよ。実際に印刷されてたらこれだけのページに収まるわけないでしょ。この本に記憶された本はこうやってドンドンスライドさせて見ていくんだよ」
「本の形である意味よ」
「ま、そこは図書館だからそれっぽく見せたかったんでしょ」
知らんけど、といい加減に答えながらフレアは適当な本のタイトルをタッチする。
「本を決めたらさらにその本がどういった本なのかの紹介が出てくるから、もう一度タッチすると……」
そう言い、本のタイトルを再度タッチすると、長机に魔法陣が現れそこに1冊の本が出現する。
「こんな感じで召喚魔法を使った図書館ってわけさ。ちなみに検索機能なんかもあるから、キーワード検索をすると探しやすいよ」
「もうなんでもありじゃん」
ポルカが感心を通り越して呆れたようにもう一度館内の本棚を見渡す。
この数の本をすべて探すの現実的ではないと思っていたが、確かにこの検索・召喚機能があるのなら全く関係のない本を省きながら効率よく探すこともできるだろう。
ここで召喚した本はちゃんと読書をするスペースに持って行ってから読むのがルールになっているからと告げてフレアはそちらの席に向かおうとする。
「そういえばフレアさんはここによく来るんですか?」
ぼたんが早速本を探し始める中、ポルカは移動しようとしていたフレアに尋ねる
「いや、あんまり。50年ぶりくらいに来た」
「そうなんですか。また、何で?」
50年という単位に相変わらず時間の感覚がバグりそうになるポルカだが、先程チラッと見えたフレアの選んだ本のタイトルが気になったのだ。
「んー、アキちゃんも知らない知識をあたしが知ってたらマウント取れるかと思ってさー」
それだけ伝えて本をフリフリと振りながら、フレアはその場を後にする。
「……みんな優しいんだね」
呼び出しの目録で本を探しながらぼたんが小さく呟く。
あの2人なら聞こえなかったかもしれない程小さな声だったが、あいにくポルカの獣耳は音を聞き取るという性能に関して長け過ぎている。
「こうやってるししろんも人の事言えないでしょ」
「私は良い人であろうとしてるからね」
「そう」
取り繕うこともなく正直に開き直るぼたん。
ぼたんのその言葉を聞いても特に表情を変えることなく、隣に並んで別の呼び出しの目録を開くポルカ。
そんなポルカを横目に捉え、ぼたんはそのまま小声で口を開く。
「……私が育ったところは人に優しくした人から死んでいく世界だった。人に騙された奴から死んでいく、そんな世界だった。それなのに心の中では誰もが誰かの優しさを求めてて、だけど、この世界で一番警戒しないといけないのは優しさだと、そんな矛盾を教わって生きてきた」
何を聞いてもいつも内緒とはぐらかされてきたポルカは、初めてぼたんの心の声を聞いた気がした。
何故今そんな話をしたのか分からない。きっと先程フレアが選んでいた本のタイトルをぼたんも見たのだろう。そしてそれに何か思うことがあったのだろう。
その何かが何なのかは分からないが。
「この世界には色んな人がいるってことだよ。まぁ、皆が優しいねってのは同意見だけどね。ただ、信じていい優しさってのもある。それは間違いないよ」
「……そうか、それは知らんかった」
小さな小さな心の呟きですら、フェネックの耳はしっかりと聞き取っていた。