「と、いうわけで、ねねはあと1年程で何者かに殺害されるとの事です!」
唐突に星読みの結果がねねの口から発表される。
その発言を受け、星詠みの神殿にやってきたぼたんとポルカ、そしてたまたま図書館で遭遇したフレアも一緒になってお互い顔を見合わせる。
フレアは何のこっちゃと首を傾げるが、ぼたんとポルカはねねと同じようにどこか納得のいったような表情を見せる。
「なるほどね……」
「ねねちゃん凄いじゃん。大当たり」
「へ?」
ポルカとぼたんの反応に今度はラミィが首を傾げる。
「ぶっちゃけた話さ、一昨日の星詠みの時から見えてたんでしょ。あの時は……まぁ確かにそんなものを見たんだし体調を悪くしたっていうのもあながち間違っちゃいないんだろうけど、あの時はそれどころじゃなかったんでしょ。ラミィ明らかに様子がおかしかったし」
「それで3人で予想してたんよ。実際のところラミちゃんが一体星詠みで何を見てああなったのか」
ポルカとぼたんに言われ、ねねだけでなく2人にもバレていたことにラミィは顔が熱くなるのを感じる。しかも3人はラミィのいないところでその予想会までしていたという。
「……待って、今のラミィの気持ち誰か分かる人いる? いないよね? 分かってる? 相当恥ずかしいよ?」
「「「でしょうね」」」
「…………」
流石のラミィもここでキレ良くツッコめるほどタフではなかった。
「そんでねねちゃんが予想したのが──」
「『ねねが死ぬとこでも見たんでね?』」
「「でしたー」」
セリフを言うねねの両サイドに立ってぼたんとポルカは注目を集めるように手をヒラヒラさせる。
そんな4人のやり取りを見て、フレアはふむと顎に手を添えて考える。
この中で一番ラミィの星詠みのことを知っているのは間違いなく一番付き合いの長いフレアだ。だからこそ、ねね、ぼたん、ポルカの反応には違和感を覚えていた。
ラミィの星詠みの精度を知っていたら、正しい反応はラミィがしている反応のはずなのだ。
(自分が死ぬことを恐れていないのか? それとも本当に馬鹿なのか?)
エルフにとっての人の平均寿命である80年など、瞬きくらいの時間と言っても過言ではない。
少なくともフレアとラミィは人間3人分の人生と同じ時間を既に生きている。アキロゼに関してはさらにその何倍も多くの時間をだ。
寿命という言葉に無頓着なエルフと違い、彼女達はいつでも自分達の死を感じながら生きているのかもしれない。
「それでも、ラミィの星詠みの精度は歴代でも例を見ない。君らは、怖くないの?」
フレアの真剣な表情におふざけモードに入っていた3人はピタリと動きを止める。
「あたし達風の一族は狩猟に出ることが多い。目の前で仲間がモンスターや人に殺されるところを見たこともある。その衝撃は簡単に立ち直れるものじゃない。それが、自分の身に降りかかる未来が確定したんだよ。何でそんな顔をしてられるのさ」
もしかしたらフレアやラミィにはねね達がラミィの星詠みを一切信じていないと思っているという風に見られたのかもしれない。まぁ、そう振舞っているのだから仕方がない。
「……ラミィ。言っとくけど、ラミィの星詠みを信じてないわけじゃないよ。むしろ信じてるよ。言ったでしょ、ありがとうって。自分が誰かに殺される未来がある。それを知っているかいないかでは今後の動きも意識も変わってくる」
フレアが真面目な空気を作るので、ねねも仕方なく真剣にラミィに向き合う。
「はっきり言うね。ラミィが、あとついでにフレアさんも。ねねが誰かに殺される未来を見た。それだけで2人が何でそんなに鬱になっているかが、ねねには分からない」
「……?」
ねねの嘘偽りない目を見て、ラミィは胸の前で握った両手に力を込めてねねの言葉の続きを待つ。
「例えばさ、ラミィが見た未来で世界中に疫病が流行して、治療薬もないまま皆感染して死ぬとかだったら対策も難しかったと思う」
ねねはラミィの目を覗き込むように近づく。
「だけど、ラミィが見た未来はねね達が誰かに殺されるって未来なんでしょ? それなら対策なんて超分かりやすいじゃん」
そんなねねの両端に立ち、同じくラミィと目線を合わせるぼたんとポルカ。
そして3人は口を揃えて言葉を紡ぐ。
「「「誰が敵でも勝てるくらい、強くなればいい」」」
誰かに殺されるということは、敵が存在するということだ。
明確な敵がいるのなら、誰が来ても対応できるようになっておけばいい。それだけだ。
「ほら、簡単でしょ?」
「……簡単に、言うね。誰が敵かも分からない。そんなの相手にたった1年で……」
「確かに大変かもね。でも不可能じゃないじゃん。あ、ごめん、もしかしたらラミィのプライドは傷付くかも。あとこれまでの実績とかも」
「……?」
ラミィの星詠みを信じてきたこの里の人達にも申し訳ないなーと頭をボリボリ掻きながら、一瞬フレアにちらりと視線を向ける。
そして改めてラミィに向き直り、桃鈴ねねは断言する。
「悪いけど、ラミィの星詠みは外れる。約束するよ」
× × ×
不知火フレアは恐らくこの里で一番、雪花ラミィの星詠みの力を信じている。
その力を、確定した未来を、その身で経験しているから。
今から約80年前。
フレアの相棒の死を予言したのは、他でもないラミィの星詠みだった。
その時は、流石のラミィの星詠みでも外れていると思った。やっぱり100パーセントの星詠みなんてありえないんだって。だって、実際に時間軸のズレはそれまでも何度だってあったのだ。だから、ラミィには悪いけど、今回の星詠みは絶対に外れる。
──なにせ、あたしの相棒は、誰よりも堅く、誰にも砕くことのできない、あたしが出会ってきた中で間違いなく最強の人間なのだから。
人間とエルフでは生きられる時間が桁外れで違うというのに、「フレアより長生きすっから」という馬鹿げたセリフも本当かと思わせるほど、彼女は生命力に溢れていた。
……だから、あの綺麗な銀色の髪が血の海に浸かり、赤く染まっていくのを見ても、その事実が信じられなかった。
小さな小さな声で紡がれた最期の「ごめん」という言葉が今でも耳に貼り付いて離れない。
雪花ラミィの星詠みは、確定の未来を映し出す。
それはもう絶対で、確定で、揺るがしようのない事実だ。
これから訪れる未来を知ってもなお前を向く少女達を見て、かつての自分とどうしても重ねてしまう。
自分と同じこと繰り返そうとしている彼女達を苦虫を噛みしめたような表情で見つめ、それでもそれを止めることができない自分に嫌気が指す。
心のどこかでは、望んでいるのだ。
もし、白銀ノエルが生き永らえる未来があったのだとしたら、今からでもそれを知りたい。
それを、彼女達で試そうとしている。
「…………ハッ」
自分の性格の悪さについ笑いが込み上げる。
(ほんと、嫌気が指すよ……別に今さら、あんたが生き返るわけでもないってのに)
不知火フレアはこの里の誰よりも雪花ラミィの星詠みを信じている。
だが、それと同じくらい、誰よりも雪花ラミィの星詠みが外れることを願っている。