ねぽらぼのね   作:夢寺ゆう

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光の子の物語

「…………」

 

「…………」

 

 星詠みの神殿にて、ねねとフレアは石柱にもたれ掛かりながら星詠みの様子を眺めていた。

 

「……変わったなラミィも」

 

「それはいつと比べての話ですか?」

 

 チラリと一瞬だけねねを見て、すぐにまたラミィ達の方へ視線を戻すフレア。

 

「80年前」

 

「また相変わらず桁違いな話を……人間でいったら生まれてからおばあちゃんになるまでの月日ですよ。逆に変わってなかったら怖いよ」

 

「それでも、あたし達エルフは違う。80年前なんてついこの間なんだよ。……80年前の時は、あの子はしばらく塞ぎ込んでた」

 

「その時も今回みたいに誰かの死を見たんですか?」

 

 フレアの話に興味を示すねね。

 自分達の今の状況に似た状況が昔にもあり、フレアはそれを知っているような口ぶりだ。

 

 だが、フレアがその質問に答えることはなかった。

 

「……終わったみたいだよ」

 

 フレアの視線の先を追うと、そこではラミィを励ますようにラミィの肩に手を置いているぼたんとポルカの姿があった。

 

「あの様子だと、ねねの時と同じものを見たみたいですね」

 

「これでより信憑性が増した。一緒にいる君らが3人とも何者かに殺害される未来を見た。恐らく、同タイミングで」

 

「そんでもって、ラミィは自分の事を自分では見ることができないけど、それでもきっとねね達皆同じ未来なら、一緒にいるラミィだって危険度は同じってことだね」

 

 軽々しく言うねねにフレアははっきりとした嫌悪感を表情に出す。

 

「何度も言うけど、ラミィの星詠みは当たるよ」

 

「何度も言いますけど、ねね達が外します」

 

 ノータイムで返すねねにフレアはしばらく目を細めてねねを見つめ返す。

 とんだ無茶を言っているのに、この子からは一切の疑念や不安が見て取れない。

 

 ──その様子が、あの時の彼女と被って仕方がない。

 

 

『ラミィ、また見たんかー? そんな何回も見なくても団長なら大丈夫だって。ラミィが辛くなるだけなんだから、もう見るのはやめな?』

 

 

 ラミィーまた見たんかーと3人に絡みに行くねねの姿をかつての親友と重ね、フレアは思い出したくない過去を振り払うように頭を振る。するとポケットに1冊の本を入れていたことを思い出し、それを取り出す。

 

 そもそもフレアがここに来た理由は、図書館で見つけた本を彼女達に渡すためだった。

 

「そういえばさ、図書館でこんなの見つけたんよ」

 

 フレアの言葉に4人が振り向く。

 

「あーそうだ。ねねがいきなり話し出すからすっかり忘れてたよ。ポルカ達はこれを見せにここに来たんだった」

 

「えー、なになに、何ですか?」

 

 ねねはフレアが手にしていた1冊の本を受け取ると、表紙に書かれたタイトルを読み上げる。

 

「『光の星の勇者』?」

 

 その本は歴史書ではなく、物語調になっている一言で言えば小説だった。

 

「実はあたしは最初にねねちゃんの話を聞いた時からその力についてどこかで聞いたことがあるような気がしてて、でもアキちゃんが何も知らないって言ってたから気のせいかもとも思ってたんだ。でもやっぱり引っかかったから最近図書館に行ってたってわけ。かなり子供の頃に図書館で読んだことがあったような気がして。それにアキちゃんはこっち系を読まないからもしかしてと思って探してたらそれを見つけたってわけ」

 

 フレアによると、フレアがまだ幼い頃に一度だけ読んだことのある小説とのこと。

 内容的を簡潔に説明するとしたら、光の力を持った女の子が世界を救う話なのだとか。

 

「……でも、作り話ですよね?」

 

「そう、作り話。この作り話の主人公は不思議な光を纏い、超人的な力を発揮して、体に付いた傷は立ちどころに癒し、そして世界を救う──別の星からやってきた少女」

 

「──っ!?」

 

 フレアの説明に、ラミィが目を見開いて驚きの表情を見せる。

 先日夜中に現れた百鬼あやめとのやり取りを思い出したからだ。

 

 

 

『ねねが、この世界にいることで……? でも記憶喪失で正確な年齢は分からないけどねねはどう見ても10代後半から20代前半の見た目をしてる。仮に20歳だったとして、じゃあ何で20年ほったらかしで、今更になってそんなことを…………ぁ』

 

『言わなきゃ分かんないほど、君はお馬鹿じゃないでしょ。まぁ、あの子が記憶喪失だって情報は余も今初めて知ったし、それが本当なら同情はするけど。それでも、あの子がこの世界で何かしら結果を残すこと自体が、本来この世界では起こるはずのない事象であって、そういった事でも世界の均衡ってのは簡単に崩れてしまう』

 

 

 

 この世界に存在するだけで世界の均衡が崩れるとまで言われているにも関わらず、桃鈴ねねは今の年齢になって初めて均衡者である百鬼あやめに認知された。

 そしてそれは、ラミィとぼたんが初めてねねと出会った時と時期を同じくしている。

 

 つまりそれは、あの時期にねねがこの世界にやってきたことにならないだろうか。

 

「それこそねねちゃんが生まれる何百年も昔からある作り話と、実際に今を生きてるねねちゃんのその力がここまで似ることって逆に怪しくないかな? つまり、これは誰かが考えた作り話なんかじゃなくて、昔実際にあった出来事を分かりやすく物語調にして残したんじゃないかって思ったわけさ」

 

「ふむ……なるほど……?」

 

 既に図書館で今の説明を受けていたのかぼたんとポルカは特に反応を見せないが、ねねは顎に手を当ててなるほどと一つ頷く。

 

 ただ、ラミィはそれどころではなかった。

 ねねがそうである可能性が次から次へと増えていくからだ。

 

「あれ? ちょっと待って? じゃあねねも別の星からやってきたってこと?」

 

「「「……さあ?」」」

 

 ぼたんとポルカとフレアは首を傾げてハモる。

 だがその反応は至極真っ当で、当の本人であるねねが記憶を失くしてしまっている以上、それが分かる者など誰一人としていないのだから。

 

「でもさ、もしこの物語が実話なのだとしたら、それこそ歴史や伝承に詳しい人に聞いてみたらいいんじゃない? もしこの本の主人公について知っている人がいたら、何かヒントになるかも」

 

 ぼたんの言葉にフレアが反応する。

 

「この里でアキちゃん以上に歴史に詳しい人はいないよ。それにこの話がいつ頃の話かも分からない。もし実話だとしたら、これほどの出来事をアキちゃんが知らないわけがない。つまりアキちゃんが生まれるよりももっと昔の話の可能性が高い」

 

「アキロゼさんって、結局何歳なんですか?」

 

「さあ? 正確な年齢はあたしも知らないけど、少なくとも1000年前にあったエルフと人間の戦争には参加して英雄と言われていたって教科書には書いてある」

 

「思ってた以上に凄い人だった……」

 

 自分達の何十倍も人生の大先輩だったと知り、ねね達は改めてエルフの寿命の長さにゾッとする。

 

「まずはこの本の作者が誰なのかを探すところからかなぁ……ラミィはどう思う?」

 

 ねねに名前を呼ばれ考え事をしていたラミィはねねに顔を向け、ごめんと首を傾げる。

 

「え、ごめん、なんだっけ」

 

「いや、この本の作者を探すべきかどうかって」

 

「あー、でもそんな昔の話なら、その作者さんが今も生きてるなんて確証なくないかな? 語り継がれている伝承とかならあり得るかもしれないけど、もし当時を見た人が書いたんなら何千年も昔の話でしょ? それこそ、タル先よりも長生きで歴史や伝承にも詳しそうな知り合いなんて……」

 

 そこでラミィとねねとぼたんが同時にハッと顔を上げる。

 

「師匠((ミオさん))!」

 

 以前会った時はあやめの襲撃などであやめに関してばかりになってしまったが、確かあの人はこの世界を創造した神に仕える狛犬だったはずだ。つまり、この世界ができてから生きているということになる。

 

「あー、ミオさんか」

 

「え、誰?」

 

 どうやらフレアもミオのことも知っているようで、唯一ミオを知らないポルカが話に置いていかれるが、ミオならもしかしたら過去にこの物語のようなことが起きていたかどうか知っているかもしれない。もしくはこの物語を知っていたらその作者のことも知っているかもしれない。

 

「確かに、ミオさんのところに行ったときはまだねねちゃんにそんな力があるなんて知らなかった頃だし、その力について何か知ってるかもね」

 

「おお! これは期待大だね!」

 

「ねえ、そのミオさんって誰なん? ポルカにもそろそろ教えて?」

 

 出てきた希望に盛り上がる3人だが、ラミィはやはりどこか浮かない顔をしていた。

 

(でも、だとしたらあの百鬼あやめがねねの力を知らないというのが気にかかる。彼女だって生物の祖と言われている鬼神の娘ということは、師匠並みにこの星で生きているはずなのに……)

 

 謎は深まるばかりだが、ねねに似た力を使う少女が主人公の物語があるというのは大きな発見だろう。ただの偶然と放っておくのは無理がある。

 

 

 再び大神ミオのところへ向かうことにしたねね達は、約1年というタイムリミットもあり、翌日にはエルフの里を出ることに決めた。

 

 

 

 

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