エルフの里を出たねね達は以前ミオとフブキがいた神鏡山、ではなく、そこよりもずっと西に位置する出雲の国を目指していた。
ラミィ曰く、神様がいつどの神社に帰ってきても大丈夫なように、ミオ達は神を祀る世界各地にある神社を定期的に回っているらしい。
その周期からいくと、今は出雲の国にある神社に滞在している可能性が高いのだとか。
「……出雲の国か」
「……? ししろん知ってるの?」
ぼたんの呟きにねねが反応する。
「私の故郷も出雲の国だからね」
「へえー!」
今までぼたんの過去に関してはギャングタウン地方という場所出身ということだけしか聞いていなかったねね。記憶喪失のねねがその地方がどこら辺にあるものなのか知るはずもなく、また、ぼたんも自分から過去を語ろうとしないため、あまり深くは聞いていなかったが、どうやらギャングタウン地方は出雲の国という国にある地方らしい。
「…………」
先日大図書館にてぼたんの心の声を聴いたポルカは、意味ありげなぼたんの呟きに何か思うところがあるのか黙ってぼたんの背中を見つめていた。
「でもギャングタウン地方って聞く限りやばそうな響きだけど、そんなところの近くに神様を祀る神社なんてあるの?」
「いやいや、ギャングタウン地方はあくまでも一地方なだけで、出雲の国には他にも色んな地方があるよ」
ぼたんの呆れたような返事にそれもそっかーとねねは頭を掻く。
それじゃあとラミィに向き直り。
「じゃあその出雲の国のどこに行くの?」
「ししろんには悪いけど、ギャングタウン地方とは真逆の位置にある神社に向かう予定」
「何で悪いのさ。私は今更あんな場所に戻りたかないよ」
かっかっかとおどけたように笑い声を上げるぼたんを見てそれぞれ顔を見合わせる3人。
3人に変に気を使わせていることに気付いたのか、ぼたんはゴホンと1つ咳を入れて話題を変える。
「それよりさ、あの本の作者ってなんて人なん?」
ぼたんの話題転換に乗ることにし、ラミィとねねもポルカの方を見る。
エルフの里にある大図書館から借りてきた小説『光の星の勇者』は失くさないよう、ポルカの収納魔法で保管していた。ポルカは3人の視線を受け魔法で本を取り出すと、表紙を見て、そしてパラパラと中を捲っていく。
「うーん、タイトルは何とか読めるけど、作者のところは掠れてほとんど読めなくなってる。ただ、この物語はいつの話か分からないけど、この本自体は……確かに古いけど、何千年も昔のものとは流石に思えないかな。いっても数百年くらい? 多分製本の形態を保持する保護系の魔法は掛かっているんだろうけど、それでも流石に表紙は掠れちゃってて、……み…? うん、”み”しか読めない」
「え、もしかしてミオさん!?」
何でもかんでもミオに繋げようとしてしまうねねに、ラミィはいやいやと首を横に振る。
「いや、それは流石に……みの付く人なんて何人いると思ってるの。この中でも4人中1人は既についてるわけだし」
確かにと顎に手を添えるねね。
流石に何の手がかりもなしに何百年も昔に書かれた本の作者を当てることは不可能だ。それなら今それを考えるのは実に時間の無駄遣いだろう。
「タル先に聞いてみても分からなかった以上、やっぱりこの本については師匠に聞くのが手っ取り早そうだよね。それならラミィ達は出雲の国に向かう道中、できることをやろう」
そもそも、何故ねねの光の力について調べるのか。
当初はそれがねねの記憶を戻すきっかけになるかもしれないからと始めたことだが、ねねのその力が強力な力であると分かった以上、これから訪れる最悪の出来事に対抗できる術である可能性があるからだ。
だが、ラミィの見た未来ではねねと同じくぼたんやポルカも同じ未来を迎えるという結果が出た。つまりレベルアップはねねだけがすれば良いというわけではなくなった。
少なくとも現時点ではラミィとぼたんは以前戦った風真いろはにタイマンでは敵わないだろう。
ポルカもそうだ。鷹嶺ルイやラプラス・ダークネス相手には到底敵わない。
そして何より、桃鈴ねねは殺害対象であると公言している百鬼あやめは恐らく、そんなholoXの誰よりも強いだろう。
「でも現実問題、強くなるってどうするつもりなの?」
先日の3人の言葉。涙が出るほどに嬉しかったし、出来ることなら何でもしたいし、信じたいと思った。80年前の自分は何もすることが出来なかったから。
だからこそ、明確な修行方法を知りたかった。
「じゃあさ、じゃあさ、4人の必殺技考えようよ!」
「いいねいいね、連携技的な!?」
「じゃあまずは技名からだね」
「…………」
……この3人を信じたのは間違いだったか?
本気で後悔しそうになるのをぐっと堪え、ラミィは3人の頭を叩きながら先頭を歩き出雲の国を目指した。
× × ×
「ふんふんふん~♪」
白とピンクを基調とした巫女装束に身を包み、鼻歌を歌いながら竹箒で境内を掃除している1人の少女。
本日は来客があるため、いつもより気合を入れて境内の掃除に勤しんでいた。
「──お、来たかな?」
しゃらんしゃらんと鈴の音を鳴らしながら階段を上ってくる足音を聞くと、少女は竹箒をその場に捨て、鳥居の前で来客を待つ。
「──ん? お、久しぶりみこち」
「久しぶりー! ミオちゃん、フブさん! 待ってたよー。桜神社へようこそ」
出雲の国にある桜神社の巫女──さくらみこは太陽のような明るい笑顔で両手を広げて2人を出迎える。
「いやー、ここの階段は相変わらず長いねー」
「フブさん、前来た時も同じこと言ってたよ」
「そうだっけ? もう覚えてないや」
「まあ2人は色々行ってるからね。みこはここにしかいないから良く覚えてるよ。2人が初めてこの神社に来た時のこととかも」
「うわ、懐かしい。確か星天戦争の時だっけ?」
「そうそう。一応ここも神様の休憩場所に使ってたからね。フブさん達もここで休んでたんよ」
懐かしいねーとかつての出来事を思い出す3人。
神に仕えている2人とは違い、普通の人間の少女でありながらミオとフブキとほとんど同じ時間を生きているこのさくらみこという少女は、この世界で唯一この2人と過去を好き勝手話せる相手である。
同じ時間を生きたということであれば、それこそあやめの父である鬼神もそれに当てはまりはするが、彼に神の話をしようものなら苛立ちでひっくり返したちゃぶ台でその街が滅びかねない。
「……そういえばあの時はもう1人いたね」
「ミオ、それは言わない約束でしょ」
「いいよいいよ。それこそどれだけ前の話だと思ってんのさ。今更あいつのことを覚えてる奴なんてうちらくらいしかいないんだし。むしろちゃんと覚えておいてあげようよ」
「「だねー」」
昔々の太古の昔。
それこそ、この星が創造されてから。
生物が生まれ、生物に自我が生まれ、言語が生まれ、文明が生まれ、敵が生まれ、憎しみが生まれ、全ての原点となった戦争──星天戦争。
神率いる天界軍と鬼神率いる地上軍がこの星の支配権を賭けて戦った、最初で最後の超大戦。
数百年続いたこの大戦は、1人の少女の登場で終戦することになる。
その少女こそ、彼女達の親友であり、共に戦った戦友であり、この星をたった1人で救った英雄だった。