エルフの里を出てから約2週間が経ち、出雲の国に到着したねね達一行。
しかし国に入って早々、案の定というか、厄介ごとに巻き込まれていた。
「だから! 無理だって! いいから離してよ! ちょ、力強っ!?」
出雲の国にあるとある街のど真ん中でねねは1人の少女に腕を力強く掴まれて叫び声を上げていた。
「待って待って! お願いだから! ほら! 微かに君の服の繊維からボクのママの皮脂が検出されたよ!」
「ねえ怖い!! この人ホント怖いって! マジで何言ってんの!?」
全身を覆うローブを身に纏っているため体格はよく分からないが、声は間違いなく女性の声をしており、身長もねねより少し小さいくらいであるにもかかわらず、掴まれた腕はビクともしない。
何故このような謎の少女に絡まれているかというと。
街に入ってすぐ、入り口門のところに店を構えている蕎麦屋でそばを啜っていたこの少女にいきなり、「君と君からママの反応がする!」と言ってねねとポルカが絡まれたのだ。
何を言っているか分からないと思うが、当人達も何のこっちゃ分かっていなかった。
「ちょっと、いい加減ねねから離れてくださいよ! こんな往来の真ん中でいきなり何なんですか?」
ラミィが少女をねねから剥がしにかかるが、ねねとラミィの2人がかりでも少女はビクともしない。
(なに、この力……? こんな小さい体のどこからこんな力が……!)
ラミィが少女の後ろから肩を掴んで後方へ引っ張り、ねねはねねで掴まれた腕を剥がそうとラミィとは反対方向へ引っ張る。
最初はビクともしていなかった少女だったが、徐々に体が離れていこうとしたその時。
「あ、やば」
そんな少女の声がしたと思ったら、キュポンという音と共に少女の右腕が二の腕辺りからすっぽ抜けた。
「「「…………」」」
ねねの腕を掴んだまま独立した右腕。
「あ、あー……ねね知ってるよ。だって前おまるんにも同じ手品やられたもん。も、もう騙されないよ」
「だ、だよね。おまるんの時と一緒でこの腕は偽物ですぐそのローブから本当の腕が出てくるんでしょ?」
ダラダラと汗を流すねねとラミィをよそに少女はローブの前をばさりと開くと、正真正銘二の腕から先が無くなった右腕を露わにし、左手でねねの腕を掴んだままになっている右腕を剥がす。
「もーう、無理矢理引っ張るから腕取れちゃったじゃん」
そう言って口を膨らませながら、剥がした右腕を己の二の腕にカチャカチャと嵌め込んでいく。
「え、ぎ、義手?」
いきなりの出来事に混乱するねねだったが、特に血が出ているわけでもないし、外れた腕を嵌め直しグーパーグーパーと手をにぎにぎしているところを見て少女の腕が本物の腕ではないことが分かりホッとする。
「義手? いや、これはれっきとしたボクの腕だよ」
「……? どういうこと?」
首を傾げるねねに少女は黒縁の眼鏡をくいっと持ち上げ、どこか自慢げな表情を見せると、両手を腰に当てて胸を張るようにして答えた。
「──ボク、ロボットだから」
× × ×
「記憶喪失のロボット?」
往来のど真ん中でいい加減目立っていたため近くにあった甘味処に入り、少女の話を聞くことにしたねね達は記憶喪失という単語に反応し、互いに顔を見合わせる。
「ロボットって、あなたが?」
「うん。ほら、腕とか取れるからロケットパンチもできるよ」
自分がロボットであることを証明するように右腕をカポッと外して、その繋目を見せてくる。確かにそこには人間の血肉はなく、素人には到底分からない電子構造となっていた。
「あ、自己紹介が遅れたね。ボクの名前はロボ子。ロボ子さんと呼んでくれたまえ」
言われなければ彼女がロボットだなんて気付くことはできないだろう。それくらい外見は普通の少女と何ら変わりない。
「でも、どうりであんなに力が強かったわけだ。ていうか記憶喪失でも、自分の名前は分かるんですね」
「うん。逆にそれ以外は何も覚えてないけどね」
ロボ子にみたらし団子を食べますか? と勧めているねねと、甘いものは苦手だからと断っているロボ子を見比べて、似たような境遇の2人に何か思うところがあるのか、ラミィはスッと目を細める。
「あれ、でもさっきママがどうのこうのって言ってなかった?」
団子を口に含みながら結構トラウマになってる先程の出来事を思い出し、ねねが問う。
「あ、そうそう。記憶はないんだけど、ボクを作ったママの生体情報は記録されてるみたいでさ。でも名前とか背格好とかの部分が脳内で文字化けしちゃってて、分かるのが本当に女の人っていうことだけなんだよ」
だからママって呼んでるのさ。とズズっとお茶を啜りながら説明するロボ子。
「ママを見つけられれば記憶も戻してもらえるかと思ってママを探す旅に出たんだけど、如何せん情報が性別しかないという難易度インフェルノな旅でさ、どうしたもんかなーと思っていたところに、君達が現れたってわけ!」
ふんすと鼻息を荒くして身を乗り出すロボ子に、ねねは逆に身を引きながら質問する。
「それで、何でねねとおまるんに絡んできたんですか? ねね達はあなたのママじゃないですよ?」
「それは分かってるよ! でもね、君達2人を見た瞬間ボクのセンサーが反応してね、よくよく見てみたら君達の着ている服の繊維からママの皮脂が検出されたんだよ!」
「だからそれ怖いって! 皮脂って何!?」
「君達の着ている服からママの身体の一部が出てきたの!」
「もっと怖いよ!」
ヒィと悲鳴を上げながら服をパンパンと払うねねとは対照的に、ポルカは団子を頬張りながらふむとロボ子の発言について冷静に考える。
「つまりさ、君の製作者とポルカ達が接触したはずと、そう言いたいんでしょ?」
「そう!」
串に付いた最後の1つとなった団子をかじり取ると、ポルカは串をピッとロボ子に向ける。
「ちなみに、ラミィとししろんの服からは出てないの?」
「うーん、そっちの2人からは感知できないんだよね」
「……このロボットさんの言葉を信じるなら、ポルカが3人と出会った以降で、ねねとポルカの服のみに皮脂が付着する可能性があり、そんでもってここまで自我のあるロボットを発明できる人間なんて……ポルカは1人しか思い浮かばん」
「──っ!!」
ポルカに言われ、ねねも1人の顔が思い浮かぶ。
以前ポルカの相棒である地龍のレックスを誘拐した秘密結社holoXの1人。
確かにあの時彼女と一緒に地下に潜ったのはポルカとねねだけだ。
「あ、それとね、君達の服に付着した皮脂を検出した時にバグってた機能の一部が戻ったみたいなんだ」
「機能?」
「そう。ママの居場所が何となくだけど分かるようになったの!」
「「──っ!?」」
ロボ子の言葉にラミィとねねがガタッと席を立つ。
そんな2人をぼたんとポルカがまあ落ち着けと肩に手を置きながら落ち着かせようとする中、ロボ子はお構いなしに言葉を続ける。
「なんとね! 多分なんだけど、ママがこの国にいると思うの! ボクがこの国に来たのはたまたま何だけど、これってもしかして運命的なものに引き寄せられてるのかな!」
自我を持つ自立型ロボットという超文明機器のくせにそんな非科学的なことを信じてるのかなどツッコミどころはたくさんあるのだが──、
如何せん、ねね達にそんな余裕はなかった。